19話 学園長室の場所がわからない件
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気絶してる間にボコボコにされたとはいえ、レオンが王位継承権を失うとは思わなかった。
無罪放免だと思っていた。
何かあっても厳重注意だろうと思っていた。
悪いのはレオンたちである。
しかし、あいつは王子。
彼が「メモメモ」内で王位継承権を剥奪されたことはなかった。
「ストックはなんでお咎め無しなんだ?」
「え?師匠。罰せられて欲しかったのか?」
皆がこちらを見る。
みんな、酷いよ。
何でそんな目で見るんだよ。
「そうじゃなくてさ、ストックがブッ飛ばしたの、王子だよ?」
「ははは!そんなことか!あいつ、病院内で『王族が平民を蹴って何が悪い!卑しい平民を叩き潰せるのは王族の権利だ!』って大声で叫んだらしい。もちろん病院は平民も使うだろ?大勢がいる中で自国の王子がそんなことを言って無罪放免なら、確実に王家の求心力が落ちる」
「殿下………」
エリカの顔は、失望に溢れている。
なるほどなるほど。
で?
それはレオンが王位継承権を失った理由だろ?
ストックがお咎め無しの理由にはならないだろ?
「俺は、あいつが王になって王国が滅ぶのを阻止したっていう理由で、逆に陛下から感謝状をもらうことになっている」
確かに、レオンが王になったらこのラザフォード王国は滅ぶだろう。
こいつは、傲慢すぎるのだ。
「ああ、そう言えば。師匠が目を覚ましたら、学園長室に連れて来いって言われてたんだった」
「はあ?」
今呼ばないでくれ。
全身痣だらけで、立つのもキツいから。
☆
「痛い痛い!お前ら俺に恨みでもあんのか!って、ハンス!そんな揺らすな!」
俺は今、学園長室に行っている。
……。
修正しよう。
俺は今、学園長室に連れていかれている。
俺とともに学園長室に向かっているのは保健室に来たメンバー全員。
大所帯である。
上級貴族どもが俺らを見て笑っているが、しょうがない。
こんなの誰でも笑うに決まってる。
「学園長室って、どこにあるんですか?」
そう聞くルリア。
俺も知らない。
「メモメモ」で学園長室に連れていかれる時は、瞬間移動。
校舎のどこにあるのかを示す描写はなかったのである。
「え?私も知らないけど?」
「ああ、私もだ」
「ハンス、俺らも知らないよなあ」
「うん」
「すまない。俺もわからない。この中の誰か知ってると思って皆に合わせてたんだが」
………。
ふざけんなよ?
じゃあ、俺は今どこに向かってるんだよ。
「学園長室に行く人なんて滅多にいないからね。呼び出しがかかる生徒は多くて年に2人とかだよ」
少なっ。
滅多に出現しないレアダンジョンかな?
「あそこに人がいるわ!聞いてみましょう!そこの男!」
「なんだ……ってシャルロッテ様!エリカ様にストック様も!」
男は驚いた様子である。
当たり前だ。
有名人3人とその他が、ある1人の男を運んでいるのだ。
運ばれている男はどんだけ高貴なんだ、って思われる。
実は、この中で同率で1番身分が低いんだよね。
「あなた、名乗ることを許すわ!」
本当にこいつは何様なんだろうね。
まあ「後ろ盾が強いお嬢様」だな。
「は、はい。私は4年生のアルブレヒト=フォン=ヴィッテルスバッハです」
………。
お分かりいただけるだろうか。
4年生、つまり俺より3歳年上で、姓がヴィッテルスバッハ。
つまり、俺が5歳の時に剣で瞬殺した兄である。
お前もここの学校だったのかよ。
「ヴィッテルスバッハということは、マート星の?」
おい、エリカ。
俺もいるんだぞ?
保健室では「エルンs」まで言いかけて「エルン」って言い直してくれただろ!
ほんの少し見直してたのに。
「はい……。天体観測用の魔導水晶から反応が消えて……。って、信じられませんよね。他の皆にもこの話をしたんですけど、ホラ話って決めつけられて……。」
安心しろ。
他の誰かが信じてなくても、俺だけは信じてやる。
だって、マート星を移動させたの俺だもん。
「え?あれってホラ話でしょ!惑星が勝手にどっかに行くわけないじゃない!」
本当にシャルロッテ、お前、少し言い止まるってことを覚えた方がいいと思う。
「確か、弟が巻き込まれたそうだな」
エリカが俺の方を見ながら言う。
まじてお前許さん。
半分遊んでるだろ。
「エルンストのことですか。あいつには魔力がなかったのですが、2歳の時から剣をしていて、5歳の時、あの事件の直前に剣で勝負をして私は負けたんです。あいつは長男のテオドリックとも試合をして、引き分けました。信じられますか?5歳の子供が18歳と引き分けたんですよ?」
何だその5歳児って一瞬考えてしまった。
それ、俺だった。
そんなこともあったねえ。
「私は負けたのが悔しくて、負けたその日から剣に熱中しました」
すごい真面目だな、この兄。
「……あの愚弟が、エルンストが生きていたら本当に、本当に優秀な騎士になっていたと思います」
……。
ちょっと照れるな。
「すまない、嫌なことを思い出させてしまった」
「いえ……。むしろ感謝しています。エルンストのことを思い出す機会を与えて下さったのですから……」
こいつ、すごくいい奴じゃん。
あのフレデリックの息子とは思えない。
「いつまでそんなホラ話を話してるのよ!エリカ!あなたもあんな話を信じる必要ないわ!」
まじでさ、お前さ。
俺まで少し目が潤ってたのにさ。
なにぶち壊してくれてんの?
「そんな言い方はないだろう!」
そう、シャルロッテに怒鳴ったのはストック。
いいぞ。
このクソ生意気なお嬢様にガツンと言ってやれ!
「5歳で18歳の兄と引き分け?そんな優秀な人材を失ったのなら、悲しむのも当然だ!俺も悲しい!生きていたら、俺と同じ年齢のはず!手合わせをしてみたかった!」
………。
これだから剣術バカは。
「まあまあ、落ち着いて」
間に入ったのはハンス。
すごい度胸してるね。
「先輩、俺たちは今から学園長室に行かなければならないのですが、どこにあるか知っていますか?」
「うん、知ってるよ?私も行ったことあるから」
ありがたい。
「d棟の4階の階段下の部屋だよ」
「分かりました!ありがとうございます!」
助かったぜ、ハンス。
このまま持ち続けられてたら、俺の腰が保たなかった。
「セ、先輩」
何だ、ルリア。
お前は何を聞きたいんだ?
「何ですか?」
「なぜ先輩は学園長室に行ったのですか?」
「マート星のこと」
そう言い、彼は静かにこの場を離れていった。




