表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/52

12話 正ヒロインがいた件

 教室での午前中のもろもろが終わった。

 

 内容は、学園の規則や年間の行事予定など。

 

 担任の教師は、俺が魔法を使えないと知って、露骨に無視を決め込んでいた。

 

 非常に居心地がいい。

 

 このまま卒業まで透明人間として過ごしたい。

 

 「さて、メシだ」

 

 俺は席を立った。

 

 学園都市の中央には、巨大な学生食堂がある。

 

 ここは貴族校舎と平民校舎の生徒が唯一、一堂に会する場所だ。

 

 「身分の差を超えて、次世代を担う若者が交流を深める場」というのが建前らしい。

 

 実際は、カースト制度を再確認する地獄のような場所だが。

 

 俺は食堂の大きな扉を開けた。

 

 中は、サッカー場がいくつか入りそうなほど広い。

 

 内装は、やはり豪華だ。

 

 だが、見事に住み分けがされていた。

 

 高い場所にあるテラス席や、白いテーブルクロスが敷かれたエリアは貴族用。

 

 硬そうな椅子と、がたつくテーブル並ぶエリアは平民用。


 ちなみに平民エリアはガラガラである。


 授業終わるのが遅いのかな?

 

 俺は平民用のカウンターに向かった。

 

 だって、平民としてここにきたんだもの。


 貴族校舎?


 あれは事故。


 今日のメニューを確認する。

 

 「黒パンと野菜くずのスープ」

 

 ……。

 

 いいもん。


 栄養素高そうだし。


 実際白パンよりも黒パンの方が体に良いし。

 

 貴族用のメニューを見ると、「最高級のサイコロステーキ」とか書いてある。

 

 あっちの方が美味そうだな。

 

 まあ、余計なトラブルは避けるべきだ。

 

 俺はトレイを持って、スープを皿によそおうとした。

 

 

 「あら、昨日の恥知らずな平民じゃない。何をしてるの?」

 

 背後から、聞き覚えのある高い声がした。

 

 振り返ると、シャルロッテがいた。

 

 昨日泣かせて逃げ出したはずなのに、もう立ち直ったのか。

 

 取り巻きが増えている。

 

 「なんだよ。俺、ここでランチを食べるんだけど。またおねしょの話が聞きたいのか?」

 

 俺が小声で言うと、シャルロッテは顔を真っ赤にした。

 

 「なっ……!あ、あれは、その、もう済んだことよ!」

 

 「ほう、では別の話をしてやろう。お前は…」

 

 「わあああー!!やめて!わかったわよ!」

 

 シャルロッテが地団駄を踏む。

 

 「いい?ここは高貴な人間が集まる場所よ。食堂で食事をとるなんて、マナー違反だわ!外で食事をとりなさい!」

 

 なるほどね。


 だから、平民スペースには人がいないんだ。


 「学園の規則では、どこで食べても自由なはずだが?」

 

 「規則よりも、暗黙の了解が優先されるのよ!この世界にはね!」

 

 シャルロッテが扇子をこちらに向ける。

 

 すると、周りの貴族生徒たちも集まってきた。

 

 「そうだそうだ!身の程を知れ!」

 

 「特待生だからって調子乗ってんのか!」

 

 ヤジが飛んでくる。

 

 『マスター。不愉快です。非常に不愉快です』

 

 通信リングから、ヴァントの声が聞こえる。

 

 『マスター。許可をください。食堂の魔導スプリンクラーをハッキングし、彼らの頭上にだけ水を降らせます』

 

 「やめろ!そんなテロみたいなこと」

 

 「さっきから何を右手と話してんのよ!気色悪い!」


 ………。


 確かに。


 周りから見たらそう見えるのか。

 

 相当前のお袋の様子を考えると、ヴァントの声自身は他の人にも聞こえるはずだ。


 「俺の右手には大精霊がいてな。それと話してる。ほら、挨拶を」


 俺は右手を叩く。


 『こんにちは。大精霊です』


 「右手に大精霊ですって?平民のくせに?」


 厨二病で誤魔化しがいくかなと思ったんだけど、もっとややこしいことになった気がする。


 「もう知らないわ!ふん!」


 と言って、シャルロッテ一向はぱっぱと今日の昼食をとって行った。


 『マスター。貸し1ですよ?』


 「はい」




 俺はトレイを運び、平民エリアのガタつくテーブルに腰を下ろした。

 

 目の前には、薄い茶色の液体に申し訳程度の野菜が浮いたスープ。

 

 そして、石のように硬い黒パン。


 スープを啜る。


 「うすっ」


 めちゃくちゃ薄い。 

 

 「……。よし、味変あじへんだ」

 

 俺は周囲を素早く警戒する。

 

 誰も見ていない。

 

 俺はポケットから、小さな小瓶を取り出した。


 その中身は、入れれば基本的になんでも美味しくできる魔法の粉。


 そう、カレー粉である。


 ヴァントに作ってもらってたんだよね。

 

 それを入れると、一瞬で、香りが変わった。

 

 安っぽい野菜の匂いが消え、重厚なスパイスの香りが立ち上る。

 

 「……いただきます」

 

 スプーンでかき混ぜ、一口運ぶ。

 

 「……お、案外いけるな」

 

 スープの水分でカレーが少し薄まり、スープカレーのような味わいになった。

 

 味のなかった野菜くずが、スパイスをまとって一級品の具材に化ける。

 

 黒パンをちぎり、そのカレーに浸して口に放り込む。

 

 硬かったパンが水分を吸って柔らかくなり、噛むたびに旨みが溢れた。

 

 「あの、隣、いいですか?」

 

 頭の上から声がする。

 

 顔を上げると、そこにはピンク色の髪を揺らす美少女が立っていた。

 

 ルリア。

 

 「メモメモ」の正ヒロイン。


 こいつも平民なのに、食堂内でご飯を食べてる俺に声をかけるとか、度胸があるね。


 運が悪いと、目えつけられるよ。

 

 本来なら、彼女が特待生として入学し、王子の目に留まるはずの存在だ。


 本音を言おう。

 

 正直会いたくなかった。


 俺は、王子の性格も、伯爵令嬢の弱みも、国王の隠し子の人数なんかも覚えている。


 ゲームプレイに必要あるからだ。


 一方で、こいつはどうだ。


 「メモメモ」が、マイクを用いた会話形式であるのを踏まえると、プレイヤーの数だけ性格が違う。


 よって、どのような性格の人間なのかが不明瞭なのだ。

 

 「……ああ、どうぞ」

 

 ルリアは俺の向かいに座り、じっと俺の顔を見つめてきた。

 

 「あなたが、特待生のエルンさんですか?」

 

 「……そうだけど」

 

 「やっぱり。私も特待生を狙っていたんですけどね。負けちゃいました」

 

 ルリアは少しだけ寂しそうに、でも清々しい笑顔で言った。


 なりたくて特待生になったんじゃないよ……って言ったら、さすがに泣かれそうなのでやめておいた。

 

 「試験官を倒しちゃうなんて、平民の間ではもう有名人ですよ?」

 

 「運が良かっただけだ。試験官が寝不足だったんだろ」

 

 「ふふっ。そんなわけないじゃないですか」

 

 ルリアはクスクスと笑う。

 

 その笑顔には、シャルロッテのような……いや、あいつ笑ってなかったわ。


 王子のような傲慢さもない。


 こいつの性格は、聖女のように優しい……いや、聖女でもやばいやつはいるな。


 とても優しいか、猫かぶりかのどちらかである。

 

 

 

 「……。あの、それ、何ですか?」

 

 ルリアが俺のスープの器を指差した。

 

 「すごく、いい匂いがします。平民メニューのスープ……ではないですよね?」

 

 「ああ。これは、その……実家から持ってきた『大精霊の粉』を入れたんだ」

 

 「大精霊の粉?」

 

 ルリアが目を丸くする。

 

 「さっきのシャルロッテ様との話、本当だったんですね!本当に大精霊様と契約しているんですか?」

 

 「まあ、そんな感じだ。一口、食うか?」

 

 俺は咄嗟にスプーンを差し出した。


 「ふえええ?」


 ルリアは顔を赤くする。


 なぜ?


 ……。


 ああわかった。


 スプーンだ。


 「おっと、失礼。こっちのスプーンでどうぞ」

 

 「いいんですか!?じゃあ、いただきます」

 

 ルリアは躊躇なく、俺のスプーンからカレーを一口食べた。

 

 俺が使ったスプーンの抑止力を痛感した。


 「……っ!?」

 

 一瞬、彼女の動きが止まる。

 

 大きな瞳がさらに見開かれた。

 

 「……おいしい。なにこれ、すっごく温かくて……力が湧いてくるみたい」

 

 「だろ」

 

 「エルンさんって、不思議な人ですね!良い人そうですし、これから仲良くしていただけると嬉しいです!」

 

 ルリアは顔を少し赤らめながら、俺のそばを離れていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ