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11話 寮が戸建てだった件

 学園の門を潜り、シャルロッテを泣かせて追い払った俺。

 

 幸先がいいのか悪いのか。


 これからシャルロッテからちょっかいをかけられないと考えれば幸先がいい。


 何事も、ポジティブに考えることって大切だよね!

 

 とりあえず、入学手続きを済ませるために事務室へと向かう。

 

 事務室は、いかにも「貴族のための学園」といった感じの豪華な内装だった。

 

 天井にはシャンデリア。

 

 床にはふかふかの絨毯。

 

 窓口に座っている事務員は、俺の格好……ボロい私服を見て、露骨に嫌そうな顔をした。

 

 「……エルン様ですね。特待生として、制服一式と身分証をお渡しします」

 

 事務員が差し出してきたのは、金糸の刺繍が施された紺色の制服。

 

 ラザフォード学園の貴族校舎用制服だ。

 

 「サンキュー。これ、サイズ合ってるか?」

 

 「提出されたデータに基づいております。それと……エルン様。学園内では礼儀を重んじるよう、学園長からも仰せつかっております」

 

 遠回しに「平民臭い喋り方をやめろ」と言われた。

 

 「善処するわ」

 

 適当に返して、制服の詰まった袋をひったくるように受け取る。

 

 『マスター。その制服の繊維、少し特殊ですね。微弱な魔法障壁のコーティングがされています。まあ、今のマスターなら一瞬で破壊できるでしょうが』

 

 通信リングからヴァントの毒舌が聞こえる。

 

 「制服に防御性能とか、いかにも物騒な学園だな」

 

 俺は肩をすくめた。

 

 

 次に案内されたのは、学生寮だ。

 

 特待生という枠組みは面白い。

 

 授業料はタダ。

 

 食費もタダ。

 

 そして何より、貴族用の寮に無料で入れる。

 

 案内図を見ながら歩いていくと、そこにはもはや「寮」とは呼べない巨大な施設が並んでいた。

 

 一戸建てである。

 

 庭付き、二階建て。

 

 しかも、一軒一軒の裏手に、巨大なシャッター付きの建物がある。

 

 「……これ、何だ?」

 

 俺は事務員から渡されたマニュアルを開く。

 

 「貴族寮各戸には、個人用の宇宙船格納庫を完備。登校や演習の際、自家用機を使用することが可能です」

 

 「はぁ? 宇宙船で登校?」

 

 いかれてる。

 

 金持ちの贅沢もここまできたか。

 

 前世で言うところの「大学生がブ○ッティで通学」みたいなものか。

 

 いや、戦闘機で通学に近いか。

 

 『いいじゃないですか、マスター。これでティンタイラントの隠し場所に困らずに済みますね。野晒しにして、その辺の浮浪者に部品を盗まれる心配もありません』

 

 「………あんなクソ重いもの、盗めるやついるのか?」

 

 

 数分後。

 

 学園の指定された空域から、一台のボロい球がフラフラと降りてきた。


 操縦しているのはもちろん俺ではない。


 ヴァントが遠隔操作している。

 

 「おい……あれを見ろよ」

 

 「なんだあのゴミは? 骨董品屋から盗んできたのか?」

 

 周囲の貴族学生たちが、指を差して笑っている。

 

 彼らが乗っているのは、ピカピカの宇宙船。

 

 流線型のフォルム。

 

 美しい装飾。

 

 対して、俺のバル。

 

 つぎはぎだらけに見える偽装の装甲。

 

 くすんだ灰色。

 

 腕が二本生えた、ただの丸い球。

 

 俺は周囲の嘲笑を無視して、自分の寮の格納庫のシャッターを開けた。

 

 バルがズズンと着陸する。

 

 「よし。おやすみ、ティン・タイラント」

 

 ガコン、とシャッターを閉める。

 

 これで完璧だ。

 

 

 さて、荷解きでもするか。

 

 そう思って寮の玄関に向かおうとした時。

 

 「……止まれ、平民」

 

 背後から、傲慢さを煮詰めて煮こごりにしたような声が響いた。

 

 振り返ると、そこには豪華な取り巻きを引き連れた金髪の少年が立っていた。

 

 第一王子、レオン=フォン=ラザフォード。

 

 乙女ゲー「メモメモ」のメイン攻略対象であり、性格の悪さでもトップクラスのキャラだ。

 

 「……何か?」

 

 俺は、できるだけ無表情に答える。

 

 「貴様が、試験で試験官を負かしたという平民か。名を何という」

 

 「エルンです」

 

 「エルン……。フン、卑しいものだ。貴様のような魔法も使えぬ欠陥品が、なぜ貴族寮に顔を出している。ここは、選ばれし血統が住まう場所だ。間違えて迷い込んだなら、今すぐ平民寮の馬小屋にでも行け」

 

 レオンが鼻で笑う。

 

 背後にいる取り巻きたちも、これ幸いと同調する。

 

 「そうですとも、レオン殿下。あんなボロいバルに乗る者が、この高貴な空気を汚すなど許されません」

 

 「きっと、事務方のミスでしょう。平民は平民らしく、地面を這っていればいいのです」

 

 ……。

 

 めんどくせぇ。

 

 マジでめんどくせぇ。

 

 こいつら、自分の命が危ういってことに気づいてないんだろうな。

 

 いま、俺のポッケにある通信リングからは、ヴァントの殺気が漏れている。

 

 ここで王子をぶっ飛ばすのは簡単だ。

 

 今の俺の筋力なら、デコピン一発で王子の頭をスイカのように割れる。

 

 だが、それをやったらどうなる?

 

 王国軍に追われる。

 

 平和な学園生活が終了する。

 

 お袋が悲しむ。

 

 そして何より、戦艦ヴァントを持ち出して戦争を始めることになってしまう。

 

 「……失礼しました。事務室に確認しに行きます」

 

 俺は、深々と頭を下げた。

 

 フリだ。

 

 ただのポーズだ。

 

 「……フン。物分かりだけはいいようだな。二度とその汚い顔を私の前に見せるなよ」

 

 レオンは満足げに鼻を鳴らし、踵を返した。

 

 取り巻きたちも、勝ち誇ったような笑みを浮かべて去っていく。

 

 嵐が去った。

 

 俺は、寮の鍵をポケットから取り出し、ドアをの鍵を開けた。

 

 当然、俺の寮だ。


 事務室のミスでもなんでもない。

 

 『マスター。屈辱ではないのですか? あのようなゴミ虫に頭を下げるなど』

 

 ヴァントの声が、心なしか震えている。


 怒りで。

 

 「あいつら、ただの子供だろ。中身34歳の俺が、15歳のガキの挑発に乗ってどうする」

 

 俺はふかふかのベッドに大の字になった。

 

 「反撃したら、あいつら死ぬんだぞ。加減が一番難しいんだよ、今の俺には」

 

 俺は立ち上がり、備え付けのキッチンへ向かった。

 

 マート星から持ってきた、最高級の茶葉がある。

 

 

 翌日。

 

 学園の初日だ。

 

 俺は慣れない貴族制服に身を包み、鏡を見た。

 

 「……案外、似合ってるな。お袋が泣きそうだわ」

 

 『マスター。右腰の角度、0.5度ズレています。修正してください。完璧な着こなしこそ、私のマスターに相応しい』

 

 「細けぇよ」

 

 俺は苦笑いしながら、寮を出た。

 

 校舎の廊下を歩いていると、昨日とは別の学生たちがこちらを伺っている。

 

 「おい、あいつだろ。特待生のエルン」

 

 「昨日の王子殿下とのやり取り、見たか? 腰抜けだったな」

 

 「やっぱり平民なんてあんなものよ。腕力が強くても、心根が卑しいのね」

 

 ……。

 

 噂が回るのが早い。

 

 「腰抜け」か。

 

 最高の褒め言葉だ。

 

 目立たないためには、弱そうに見えるのが一番だからな!

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