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10話 やっとラザフォード学園に行く件

 マート星がマジノ星系から忽然と姿を消してから、十年の歳月が流れた。


 消したのは俺らだけどね!

 

 不毛な岩石の塊だったマート星の内部は、今やヴァントの農業プラントと環境維持装置によって、地上よりも遥かに豊かで快適な楽園へと変貌していた。

 

 お袋は、8万年前の全自動美容ポッドのおかげで、10年前よりも若々しく、艶やかな美貌を保っている。


 そして、あのル○バをを引き連れ、優雅な隠居生活を満喫していた。

 

 一方、俺、エルンスト・フォン・ヴィッテルスバッハは。

 

 「……はぁ、はぁ……っ!ヴァント、重力……5倍だ!」

 

 『了解しました。マスター、現在のあなたの筋繊維密度は、もはや生物の限界を超えています。おめでとうございます。マスターは化け物の仲間入りです』

 

 「うるせぇ……!学園が……始まるんだよ……!」


 『まだ試験に合格してないのに?』


 「マジでうるさい!」


 この10年、俺は一日たりとも鍛錬を欠かさなかった。


 魔法が使えないという致命的な欠陥を補うため、ヴァントに重力を調整できるトレーニングルームを作ってもらい、そこで体を鍛え、剣の練習をしていた。

 

 すべては、「メモメモ」のメイン舞台、ラザフォード学園に入学するためだ。


 ちなみに、貴族校舎に入るつもりはない。


 平民校舎から、どのような乙女ゲーの世界が始まるのかを見守りたかった。

 

 

 学園の入学試験前日。


 俺は王国の首都星、デウロへと向かっていた。

 

 「さて、問題はどうやって入国するか、だ。俺もお袋も、書類上は『10年前の惑星消滅と共に死亡した行方不明者』だからな」

 

 『お任せください、マスター。普通なら入国管理局の魔導スキャナに引っかかりますが、私にかかればザルも同然です』

 

 現在、デウロの上空1万km。


 マート星から出ていた戦艦ヴァントは「光学迷彩」および「魔力遮断シールド」を展開し、王国の誇る防衛艦隊の目の前を悠々と通り過ぎていた。

 

 「お母さん、行ってくるよ。すぐ終わるから」

 

 「気をつけてね、エルンスト。あまり……その、建物を壊したりしちゃダメよ?」

 

 「善処する」

 

 俺は10年使い倒した愛機、「ティン・タイラント」に乗り込んだ。

 

 ヴァントのカタパルトから射出されたバルは、大気圏を強引に突破。


 夜の帳に紛れ、デウロの辺境にある海へと着水した。

 

 「……ふぅ。さて、まずは駐車スペースの確保だ」

 

 海岸近くにある場末の個人格納庫。


 眠そうに出てきた管理人のオヤジに、俺はヴァントの農業プラントで作った「レトルトカレー」の詰め合わせを差し出した。

 

 「……あん?なんだこの匂いは……っ!う、うめぇ!なんだこれ、スパイスの王様か!?」

 

 「賄賂だ。このバル、一週間預かってくれ。あと、入国記録は適当に誤魔化しておいてくれ」

 

 「おうよ!こんな美味いもんくれるなら、神様の名にかけて秘密は守るぜ!」

 

 カレーの威力、恐るべし。

 

 そこから民間人がひしめき合う低速の魔導船に揺られ、ぐったりしながら学園都市に到着した頃には、試験開始の1時間前だった。

 

 「疲れた……。戦艦ヴァントでそのまま突っ込んだ方が楽だったな……」

 


 ラザフォード学園、入試会場。


 俺はヴィッテルスバッハの姓を捨て、単なる平民「エルン」として願書を出した。

 

 会場には、着飾った貴族のガキどもが鼻持ちならないオーラを放っている。

 

 「……ん? あいつ」

 

 視界の端に、「メモメモで見覚えのある顔」が次々と現れる。

 

 自信満々に周囲を威圧する、金髪の第一王子レオン。


 その背後で冷静沈着に手帳をめくる、眼鏡の第二王子ニック。


 取り巻きを引き連れて高笑いする公爵家の子息や、扇子で口元を隠す公爵令嬢。

 

 「うわ、本物だ。CGで見たまんまだな」

 

 だが、今の俺に彼らと関わるつもりはない。


 さっさと試験を終わらせて、平民寮で静かに暮らすのが目的だ。

 

 まずは筆記試験。


 最初の問題を見た俺は、思わず吹き出しそうになった。

 

 『ファイヤアローの魔法陣を描きなさい』

 

 ヴァントから8万年前の魔法理論を叩き込まれた俺からすれば、小学生の計算ドリルより簡単だ。


 叩き込まれても使えないんだけどね。

 

 俺はスラスラと、満点以上の解答を書き上げた。


 多分。

 

 次は実技試験。


 魔力測定器に手をかざすが、当然ながら針はピクリとも動かない。

 

 「……魔力ゼロ?おい、平民。お前、冷やかしなら帰れよ」

 

 試験官の魔導騎士が、鼻で笑いながら言った。

 

 「剣術の試験があるって聞いたんですけど」

 

 「はっ!魔法も使えない奴が剣を振って何になる。いいだろう、俺が相手をしてやる。一撃でも耐えられたら……」

 

 バキィッ!!!

 

 試験官が言い終わる前に、俺の振った木刀が彼の持っていた魔導強化済みの銀剣を真っ二つに叩き折った。

 

 あ。


 いかん。

 

 やりすぎた。

 

 試験官は、折れた剣を握ったまま、衝撃波だけで後方の壁まで吹き飛んだ。

 

 「……お、おい。今の、魔力反応はなかったぞ!?」

 

 「ただの素振りです。腕力がちょっと強いだけで」

 

 「ちょっとのレベルじゃねぇだろ!」

 

 周囲が静まり返る。


 王子のレオンたちが、怪訝そうな顔でこちらを見ていた。


 

 2日後。


 合格発表を見に行った俺は、自分の名前を探した。

 

 「あったあった。……ん?」

 

  そこには、俺が予想していた「平民クラス」の欄ではなく、一番上の金文字でこう書かれていた。

 

 『特待生:エルン。所属:貴族校舎』

 

 「……はぁぁぁ!?」

 

 最悪だ。


 めんどくさい。

 

 貴族の校舎なんて、ろくなことがない。


 だって、貴族にとって学園って社交場みたいなもんだろう?


 『マスター。マスター』


 俺の右手の通信リングから声が聞こえる。


 俺は、それを耳に近づける。

 

 『おめでとうございます、マスター。予定通り……いえ、予定以上の注目度ですね(笑)』

 

 「笑いごとじゃねぇ!貴族校舎なんて行ったら、あいつらと毎日顔を合わせるハメになるだろ!」

 

 俺の脳裏に、凄惨な学園生活のビジョンが浮かぶ。


 ヒロインを巡る王子の決闘、令嬢たちの嫌がらせ、そして世界滅亡のカウントダウン。


 ん?


 ヒロイン?


 ヒロインのルリアって特待生じゃなかったか?


 あれ?


 やばいやばい。


 ヒロインの立ち位置奪ってしまった。


 ルリアは、特待生ではなくなってしまった。


 シナリオが捻じ曲がった。


 もとより決まったシナリオなんかなかったが。


 「メモメモ」の設定自体がひん曲がってしまった。

 

 「……帰っていいか?戦艦ヴァントに」

 

 『ダメです。お母様が「エルンの制服姿を見るまで死ねない」と仰って、戦艦ヴァント内のル○バたちと応援旗を作っていますから』


 「え?ル○バって手ついてたっけ?」


 『………』


 「おい!」

 

 逃げ場はない。

 

 俺は、重い足取りで学園の正門を潜った。


 その瞬間、何かが俺の背中にぶつかって来た。


 別にぶつかられたからって、こけたりするわけではないのだが。


 「ちょっと?そこの平民?伯爵家の私にぶつかって謝罪もなし?」


 「あー面倒くさ」


 と声が出たのに気づき、必死で口元を抑えた。


 「まあ!面倒くさいですって!?」


 だって面倒なんだもん。


 この金髪ロールはシャルロッテ=フォン=ガーランド。


 それと、周りに取り巻きが2人


 彼女はガーランド伯爵家の長女。


 「メモメモ」でも、主人公のルリアにちょっかいをかけて来た。


 ガーランド伯爵家は軍事力が高い。


 ラザフォード王国第二位の軍事力を誇る。


 「メモメモ」通りなら、700m級魔導戦艦45隻、500m級魔導重巡洋艦270隻、400m級魔道軽巡洋艦400隻、200m級魔導駆逐艦1300隻、150m級魔導フリゲート2500隻、ミャーチ70000機。


 その軍事力を盾にすることで、ちょっかいをかけても反撃されない。


 こいつからちょっかいをかけられないようにする方法で一番簡単なのが「こいつの弱みを握る」ことである。


 ちなみに2番目は、「ガーランド伯爵家のドックに忍び込み、魔導戦艦に爆弾を大量に仕掛け、戦力を削る」ことである。


 どちらにせよ、主人公とは思えない行動だよね。


 俺は、「メモメモ」でどちらも経験した。


 そのため……


 「お前は12歳になっても花火の音に驚きおねしょをした」


 「!!!!」


 「お前は、4歳まで乳離れができなかった」


 「ちょ、ちょっと!」


 「お前は今でもお前の父と風呂に入るのが大好き」


 「あー!あーー!きーこえーないー!!!」


 ガキかな?


 「お前は…」


 「わかった、私が悪かったから!!」


 そう言って、金髪ロールは涙目で走り去っていく。


 それを、取り巻きたちが追いかける。


 『マスター。マスター。最低ですね(笑)』


 「俺もそう思う」

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