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番外編①

編①


 お袋がその「黒い円盤」に懐いたのは、移住して三日目のことだった。


 「見てエルンスト! ル○バちゃん、私が落としたパン屑を一生懸命追いかけてるわ!」


 お袋が楽しそうに声を弾ませる。


 視線の先では、ヴァントが「OSを弄った」という掃除用機械が、凄まじい挙動を見せていた。


 お袋がわざと落とした小さなパン屑に対し、ル○バは静止状態から一瞬でトップスピードに到達。


 ギュンッ! という空気を切り裂くような音と共にパン屑を吸引すると、その勢いのまま壁に激突……するかと思いきや、直角に折れ曲がって壁面を走行し始めた。


 「……なぁ、ヴァント。掃除機ってあんなに機敏な必要あるか?」


 俺の問いに、ホログラムのヴァントが鼻を高くして答える。


 『マスター。本施設の清掃面積は広大です。21世紀の家庭用のような、のろのろした動きでは一万年経っても終わりません。ゆえに、このルンバには小型の慣性制御ユニットと、高出力の吸引モーターを搭載しました。最高速度は時速300kmです』


 「高速道路かよ」


 「ちなみに、本施設に2300台、戦艦ヴァントに100台あります。これでも、施設内を掃除するのに三週間ほどかかります」


 しかも、こいつはただ速いだけじゃない。


 お袋が「あ、あそこの隅っこに埃が」と指差した瞬間、ルンバは床から跳躍。


 空中で一回転しながら天井にへばりつき、四次元ポケットでもあるのかと思うほどの吸引力で汚れを根こそぎ奪っていく。


 『さらに、自己学習型AIを搭載したことで、ベアトリス様の行動パターンを解析。先回りして掃除を行うだけでなく、彼女が寂しそうな時は足元で「ゴロゴロ」とモーター音を鳴らして喉を鳴らす猫の擬似体験機能も追加しました』


 「やりすぎだろ」



 翌朝。


 食堂へ行くと、お袋がお袋の部屋専用のル○バにリボンを付けていた。


 「エルンスト、見て。ル○バちゃんに似合うでしょう?」


 時速100km超で天井を這いずる掃除機にピンクのリボン。


 シュールすぎて言葉が出ない。


 ル○バはリボンをなびかせながら、誇らしげに「ピポッ」と音を鳴らし、そのまま垂直の壁を駆け上がって換気扇の掃除に向かった。


 「……お袋がいいなら、それでいいや」


 マート星の平和は、この黒い閃光によって守られている(衛生的に)。


 俺はそう自分に言い聞かせ、ピザの残りを口に運んだ。


 その直後、足元を影が通り過ぎ、俺がこぼした一粒のバジルが、どこかに消えていった。

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