5頁.食事会3
食事と共に会話は続く。
最初、アカネが受け取った報酬について意気投合したかに思えた二人だったが、その内容は正反対だった。
「割に合わないって安いって意味だったんですか?」
「最低でも二千かと思った」
目の前の男子は何を言い出すんだ、とアカネは訝しんだ。
彼女の経験では、魔獣討伐の報酬は危険度にもよるが、その辺にいる小物で五万、アナウンスで注意喚起される危険個体は二百万以上。確かに、大物なら十億や二十億の報酬が支払われたという話もある。が、あの魔獣は発展途上なところもあり、最大で五百万程だと予想していた。なので、アカネは最大値を引いたと思ったのだ。
「小一時間で五百なら儲け物じゃないですか。元手はゼロですし」
アカネは、そう言いながら指でゼロを作って見せる。
実際、猟師と異なりアカネには準備費用の類いは掛からない。魔獣の報酬がそのまま儲けとなる。
チカは、彼女の主張を理解している。が、それはそれとして話を続ける。
「警察組織でも手を焼く相手で、放置したら被害はもっと増えてたでしょ。それこそ、野放しにしてた時の被害総額は五百じゃ全然収まらないし、対魔隊なり特殊部隊を動員するならもっと掛かる。なら、それ相応の報酬じゃないと割に合わないって思っちゃうかな」
チカの主張は、これ以上被害を受けたくないのなら報酬を上げてくれ、じゃないと討伐してあげないよ。と言うものだ。
実際問題、国の中枢である大都市の交通機関が遮断される事態であり、破壊されても不思議はなかった。また、魔獣が湧いた場所も軍隊が出動しにくく、魔獣が逃走しやすい地下。
そう言った状況の重なり具合から見て、報酬を上げることは可能だと判断していた。
「じゃあどうするんですか?」
「俺なら様子見かな。報酬額が上がるまで情報収集に徹する。で、上がったら仕留めに行く」
報酬が上がる。それは魔獣による被害拡大、死傷者の増加を表す。アカネはムッとしながら質問する。
「それ、人命第一じゃありませんよね?」
「そりゃあね。生活掛かってるし、そもそも魔術師って表に出る仕事じゃないから切り捨てられ易い。魔術師が裏の仕事してる理由って、表の仕事がハイリスク・ローリターンだからだし」
アカネは眉を潜めると食事の手を止める。
彼女に少年の考えを否定するつもりは無い。しかし、クラスメイトという身内が亡くなっているにも関わらず、第三者の様な立ち位置で居られる彼の思考から、血も涙もない冷徹さを感じ取ったのだ。
「見返りなんて関係ありませんよ。人を助ける事が出来るなら、報酬なんてオマケだと思います。それに……ってあれ?」
主張を言い終える前に、アカネは発言を切り上げた。
頭の中に響くアラートが、彼女の口を遮ったのだ。
それはチカも同様であり、
「そっちも?」
と言いながら頭を抑える。
「緊急招集?電脳空間IDが送られてきましたけど……」
電脳空間というのは、ネットに意識を送ることで辿り着く場所の事を指す。
現代では、ネットを用いて会議をする際や、身体が動かない患者達が現実のように暮らせる場として使用されるが、電脳空間に意識を送っている最中は現実での身体が無防備になることもあり、一般に普及されている手段ではない。
それだけに、今回の送られたメールは不気味だった。
「やばいヤツだ」
「え?」
アカネはチカを見る。その顔色は、文字通り顔面蒼白だった。先程までの傍観者としての余裕さはなく、焦りと困惑が混ざった表情。
アカネは状況こそ理解出来なかったが、危機感を覚えるのに十分だった。
「先に行ってくる」
チカは部屋の四隅に身体を預けると、そのままメールのIDに触れる。瞬間、チカの肉体は脱力し、最低限の生命維持活動を維持したまま人形の様に動かなくなる。
目の前で我先にログインした少年の姿を見て、慌ててアカネも動き出す。
「ちょっと待って下さいよ!」
アカネはチカに習い、身体を彼に預けてメールのIDに触れた。




