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14頁.調査5

 アカネが開けた風穴を、二人で駆け抜けて危険地帯から退却する。

 アカネの魔弾には、属性と呼ばれるものが設定されていない。炎で焼き尽くす訳でも、水圧で切断している訳ではなく、ただ魔力の塊を撃ち出している。そのため、火災や洪水と言った二次被害は発生しない。


「これだけ離れれば大丈夫そうですね」


 彼女が自信満々にそう口にすると、チカは破壊跡を一別して彼女に恐怖した。もし、万が一にも自宅で怯えて避難出来ていない一般人が居たり、射線上に人が居たらどうするつもりだったのだ、と。

 彼女には魔力探知があるが、絶対ではない。元々魔力量の少ない人は見落とすし、近くで戦闘が起きているとなると、息を潜める魔術師が居てもおかしくはない。

 チカは戦々恐々としながら、提案する。


「ろ、ログを確認するよ」

「はい、先ずは改めて現場の監視カメラです。あの、映写をお願いして貰っても?」


 喜んで、と心の中で怯えながら、チカは「『上映開始』」と一音節唱える。映し出されたのは、最初に確認した監視カメラの映像だった。

 事件現場の全体像を唯一確認出来る映像なのだが、襲撃直後は煙幕で何が起きてるか判らない。ただ、それは捉え方を逆転みるのであれば、事件での出来事が全て煙幕の中で完結しているとも取れる。


「次、コンビニの監視カメラ」


 コンビニには店員と客がしっかりと映っており、中には少し前に逢った医師とその娘も居る。


「お医者さんの所も写ってますね」


 コンビニの良くある風景、商品棚を整理する店員や煙草を購入する客、お菓子の前で悩む子供の日常が、突如突っ込んできた車と共に破壊される。

 店員は棚の後ろに隠れ、レジ打ちをしていた別の店員は咄嗟に客をレジの内側に引きずり込んで守る。医師は、娘を抱き締めてその身で庇っていた。

 その後、襲撃犯が放った煙幕がコンビニ内にまで入り込み、何も映らなくなる。


「ここも煙幕で最後は見えないか」


 コンビニは事件現場ではあるが避難しに来た一般人が多く、その悲鳴で外部の音が掻き消されて状況は判らない。


「最後、コインランドリーの監視カメラをお願いします」


 指示されるまま、チカは次の映像を映写した。

 事件の後、護衛を任された女性が居たのがコインランドリーである。そこには辛うじて煙幕は届いておらず、護衛は魔力弾を放って応戦する。

 魔力弾は魔力を固めて放つ技法であり、言ってしまえば魔弾の下位互換。これに術式を込めることで、魔力弾は魔弾に昇華する。

 戦闘用と言うより、護身寄りのこの技には殺傷性能が乏しい。しかし、彼女は煙幕の中にいる襲撃犯を的確に狙い撃つ事で牽制している。


「こんな状態でよく当てる……」


 現代戦闘において、煙幕は魔力探知阻害としての役割も含まれている。

 夕方、アカネは透明化能力を持つ魔獣が索敵出来なかったのは、死体から漂う魔力の影響で魔獣の魔力を探知出来なかったからだ。

 魔術で煙幕を発生させる場合、それと同様の事が起きる様に煙に込める魔力量を多くする。すると、魔力探知を行っても煙の魔力まで拾ってしまい、中に居る人の魔力まで探知出来なくなってしまう。

 なので、護衛である彼女は魔力探知無しで煙幕の中を射貫いていると言うことになる。


「あれ?」


 アカネは、小首を傾げながら映像に顔を近付ける。


「どうかした?」

「足音、聞いててください」


 チカの映写魔術は、監視カメラの情報を正確に再現する。監視カメラには録音機能がある。なので、彼の魔術は現場の音も再現していた。

 アカネが注目したのは煙幕を張った直後。車のドアが勢い良く開き、飛び出した襲撃犯をアスファルトが受け止める。その着地音をアカネは指折り数える


「車から飛び下りた音が六。運転手がそれぞれの車に一人ずつ残ってる様なので当然ですけど、でも」


 次に注目したのは、車が発進する直前の軋む音。つまり、乗車音。それをアカネは先程同様、指折り数えて確認する。


「輸送車に乗り込んだ音が五人分。一人分少ないです」


 現場で襲撃犯を捕らえたと言う情報はない。

 煙幕が晴れた際に襲撃犯は車で逃走しており、人影が無いのは確認済みだ。となると、魔術を使用して透明化したのが候補となるが、透明化魔術は肉眼を誤魔化すことは出来てもカメラまでは誤魔化せない。ステッカーと同様、監視カメラにはノイズとして映ってしまう。

 状況的に、犯人が自分の足で逃げたのは間違いない。しかし、交差点のカメラには犯人が逃げた記録はない。


「もしかして」


 チカはコンビニの監視カメラを選び、煙幕が晴れた後の映像を映し出す。怪我人の中に腹部を抑えた男が混じっており、その傷口はまるでモザイク修正みたいにノイズが入っている。

 護衛が放った魔力弾の痕跡が、ノイズとして残されていたのだ。


「テロリスト連中、負傷した仲間を捨てたんだ。それで、その仲間は被害者のふりをしてコンビニの中に」


 そうなると、襲撃犯の一人が病院に潜伏していると言うことになる。アカネは慌てて提案する。


「病院に戻りましょう!」



 灯京都(とうきょうと)、軍病院――2020年12月3日、午後11時台。犬塚チカ。


 二人は、軍病院に逆戻りする。負傷者の輸送が進んでいるのか、廊下に居た怪我人は数を減らしており、今ではポツリポツリとしか出歩いている人は居ない。

 アカネは、巡回していた軍人に話し掛ける。


「あの!運ばれた怪我人の点呼を取りたいんですけど!」

「何だお嬢ちゃん、アルゴノートの人と同じことを言うね」

「え?」


 アカネが息を切らせていると、話を聞き付けた看護婦が説明に入る。


「一人、アルゴノートに連れてかれましたよ。アレは確か……八時頃でしたか」


 八時は、二人が病院に到着する一時間前。襲撃現場の情報を集めるのに必死になっていた二人は、その時間病院で何があったのか知らない。

 大魔術師ちゃんの話からして、アルゴノートは現場の調査を終えて病院に来ている。ならば、アルゴノートのメンバーが連行した人物は怪我人に紛れた犯人だと考えるのが自然だ。


「連行の理由は何か言ってませんでしたか?」

「腕輪持ちだからじゃなかったか?まぁ、怪しいとは思ってたが……」


 軍人は、装着しているヘルメットの顎紐を撫でながらそう口にした。

 アカネは、その言葉に違和感を持った。腕輪は、会議に参加していない魔術師に表れる。だから、犯人候補として疑われる理由としては十分。しかし、ここには同じく腕輪が浮き出ている医者が居た。

 カメラを確認したであろうアルゴノートが怪我人を疑うならまだしも、軍人が疑う理由は判らなかった。


「でも、怪我人なら腕輪になっても変じゃないですよね」


 医者と同じ状況に居た怪我人なら、彼と同様腕輪が浮き出てもおかしくはない。そう考えたアカネだったが、軍人は眉を潜める。


「何でだ?ドクターと違って、怪我人は呼び出しに応じると思うが」

「それは、何でですか?」

「だって、ドクターは会合に参加してる最中は治療行為が出来ないけど、怪我人はどうせ寝るしか出来ないんだ。会合に参加しない理由がないだろ」

「なるほど!」


 アカネは軍人の説明に納得した。

 そもそも、医者に腕輪が表れたのは治療行為の最中にメールが届き、それを無視したからである。

 コードを介した緊急招集のメールは、脳内にアラートが鳴る特殊なものであり見落としは無い。だから、メールに気が付かなかったは有り得ない。ならば、怪我人は自分の判断でメールを無視したと言うことになる。

 メールに応じて意識を電脳空間に飛ばせば、肉体は昏睡状態。その間、怪我人は傷の痛みに悩まされる事はない。

 事情を説明すれば、電脳空間で遊ぶ事も読書で時間を潰す事も出来のだ。寧ろ、治療を待つよりと有意義とも言える。


「チカちゃん、どうします?」


 アカネが呼び掛けると、チカは呟いた。


「確認したいことがある」

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