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11頁.調査2

 黒刃の車に揺さぶられながら、アカネは周囲を観察する。周辺はおろか遠くの景色にも人影は皆無。まるで街から人が消えてしまった様に見える。


「今更ですが、結構静か……というか、一般人が出歩いていませんね」

「緊急事態だからな。住民は避難所に集まってる」


 今回の事件は襲撃犯との戦闘が予測される。なので、戦闘時に巻き込まれたら何も出来ない一般人は、緊急事態宣言と同時に退避命令が出された。

 つまり、今出歩いているのは魔術師か警察組織、あるいは軍組織のどれかと言うことになる。


「ドンパチして良いってこと?」

「巻き込まれる奴に関してはドンマイだ。保険も適応されるし、強く生きてくれとしか言えん」


 そんな会話をしていると、道路の端に一人の女性が立っていた。彼女は、ブカブカの三角帽子にコートと言うわざとらしい衣装で全身を着飾り、撮影に協力お願いいたします、という看板を抱えていた。

 黒刃は女性の前で車を止める。


「よっす!そっちはどうですか?」

「大魔術師ちゃんさんですか?」


 アカネは、彼女を見ると間に座るチカを押し退け、窓から身体を付き出した。

 大魔術師ちゃんとは、彼女が配信で使用しているペンネームであり、魔術師としての通り名だ。

 彼女は有名な魔術師であり、一般人からも魔術師からも広く知られている。


「そうだよ!大魔術師ちゃんはゴタゴタが苦手でしてな、取り敢えずパトロール中だよ。動画のネタにもなるしね」

「動画って……今回のは公にしたら駄目だろうが」


 今回の事件は報道規制が敷かれているので、真実をそのまま伝えては機密事項漏洩として罰則が飛んでくるのは確実。コードの中でも上位に相当するドラゴン・コードが奪われた事は、政府及び軍組織からすれば秘匿すべき案件。

 しかし、黒刃の言葉を聞いても大魔術師ちゃんは止まらない。


「『実録、封鎖された東京都の実態に迫る!!』『テロリストの正体は!?名探偵大魔術師ちゃんが挑む!!』の大作二本。後は、舞台裏としてそれっぽい動画を前編、中編、後編それぞれ二つずつ用意して六本。撮影中に魔獣探して討伐すれば……合計九本か。動画は編集ちゃんに渡せば良いから、三ヶ月はのんびり出来るね!」

「出来るねって知らんけど」


 チカは、呆れながらも少し感心していた。

 一見グレーにも思える内容だが、ドラゴン・コードに関しては一切触れていない。それに、自分は何も知らない状態から推理しています、と言った内容の動画であるならば、オチは自分の好きなように出来る。

 検閲こそ入るだろうが、問題なく投稿出来るだろう。


「相変わらず駄犬君は冷たいなぁ」


 大魔術師ちゃんは衣装の杖でチカの頬をつつく。その光景を見て、アカネは大魔術師ちゃんと駄犬の顔を交互に見た。


「知り合いなんですか?」

「そうだよ。配信活動を始める前からの知り合い。ただ、視聴者とトラブルがあって今では滅多に逢わないです」


 大魔術師ちゃんは、配信活動を初めて四年目。なので、彼女とチカが知り合ったのは、それよりも昔と言うことになる。


「トラブル?」


 アカネが首を傾げると、チカは頭を掻きながら説明する。


「トラブルって程でもない。コメントで馴れ馴れしいって注意されたから身を退いただけ。リアルでの知り合いだし、同じ魔術師って立場だったから、距離が近く見えたのかもね」

「で、この大魔術師ちゃんがその事を配信でうっかり話しちゃったら、今度は駄犬君を注意した子が来れなくなっちゃって、結果的に全員が損しちゃったって話ですよ」


 チカの話を大魔術師ちゃんが補足する。

 そんな事があったのか、と黒刃とアカネは同情する様な視線を向ける。

 魔術師は、命に関わる仕事が多い。配信活動に重きを置く大魔術師ちゃんでも、魔獣討伐依頼に駆り出される事がある。なので、魔術師は身内同士に仲間意識が芽生える。

 チカと大魔術師ちゃんの場合は本人が自覚していない仲間意識が出てしまい、それがトラブルに繋がったのだ。

 とは言え、注意した視聴者も異常だったわけではない。自分の推しが一人の視聴者に執心していれば、嫉妬心が有ろうと無かろうとちょっと待ってとなるだろう。視聴者目線では、配信者と他の視聴者の関係性は見えないのだから。


「そりゃ、自分の発言のせいで推しと友達の仲を引き裂いたってなったら罪悪感が……」


 アカネは、同じ立場として視聴者を哀れに思った。

 少し空気が暗くなりかけたのを察知して、大魔術師ちゃんは手を軽く叩いて話を変える。


「まぁ、こう見えてそれなりに調査もしてるのでぇ」

「例えば?」


 チカが話しに乗るのを眺めながら、アカネは大魔術師ちゃんの行動に既視感を覚えていた。彼女は、その正体をすぐに理解する。チカがラーメン屋で話題を変える際に同じことをしていたのだ。

 アカネは、大魔術師ちゃんとチカが元々かなり仲が良かったのではと思い至りモヤモヤする。


「あそこに被害者が搬送された病院があるんだけどね。夜雀夜行とかアルゴノートの人が入るのを見て、流石にベテラン組は足が早いって思った訳ですよ。そしたら、皆さんが来た方向に向かったと思ったら、また病院に行ってどっか行っちゃいました」

「何?」


 反応を示したのは黒刃だった。

 夜雀夜行とアルゴノートは有力なクラン。こう言った事件で毎回の様に招集される。つまり、場馴れしている。

 その二つのクランが同じ場所に向かっているとなるとその地点、病院と襲撃現場に重要な情報があると考えるのが自然。だが、チカ達は現場で犯人に関する重要な情報を得れなかった。


「な~んか、何かですよ?ちょっと匂うなぁって。こう言うのって、色んなところに行くのがセオリーだから、二ヶ所往復を繰り返すのが不自然で。もしかしたら、犯人達と繋がってて缶けりみたいに証拠守ってるか、証拠を隠滅してるのかも、みたいな?」

「なるほどな」


 犯人は現場に戻るとは良く言う。しかし、今回の事件は強盗。銀行強盗が犯行に及んだその日の内に現場に戻ろうとするのは些か考えにくい。出来るだけ遠くに逃げたいのが人情。であるならば、事件現場に犯人が居るとは考えにくい。

 今回の依頼内容は、強奪されたドラゴン・コードの回収なので、犯人が居る確率が低い場所を探しても成果は低い。それをやるなら、監視カメラの履歴を手当たり次第見て強盗犯の車を追った方が犯人を探すのに手っ取り早そうに思える。

 そう言った事から、大魔術師ちゃんは有力クランのどちらか、あるいは両方が犯人と繋がっており、犯人が逃げている間に調査と称して証拠を押収しているのでは、と予測していた。


「まぁ、ぶっちゃけるとこれ以上変に足突っ込んで目を付けられるのが嫌なんですよ~。大魔術師ちゃん、戦闘力は下の中くらいなので」


 チカは、そんなわけ無いだろ、と心の中で突っ込む。

 大魔術師ちゃんの配信活動は政府公認。魔術師を身近な存在だと人々に認識させるための広報として認められており、替えの効かない重要人物に位置する為、軍用コードの移植を許可されている。

 そんな彼女が下の中である筈がない。最低でも中の下はある。


「じゃ、パトロールに戻りますね!頑張ってね!」


 大魔術師ちゃんがそう言いながら元気良く送り出すと、アカネは手を振る。


「はーい!」


 車が発進するとチカは呟いた。


「思いの外、気になる情報だったね」

「配信者だから視聴者から情報得てると思ったら自分の足でしたね」


 途中、モヤモヤしたアカネだったが今となってはそんな感覚すら忘れ、獲得した情報を確認していた。

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