10頁.調査1
灯京都、襲撃現場――2020年12月3日、午後8時台。犬塚チカ。
二人は、資料に記載された地点に到着する。
現場は交差点の手前。細い脇道が幾つかあり、その内の一つから現れた車両が輸送車を襲撃したと言う情報だ。
そこは、ニュースで良く見る様なバリケードテープで封鎖されていることもなく、普通に出入りが出来る。
辺りには現場保存のための警察官が滞在し、後は会議で見た顔が数人状況確認に勤しんでいる。その中には、会議で二人の前列に座っていた柄の悪い男もいた。
男は二人を見るなり、わざとらしくため息を吐き捨てる。
「何だ、お前らまで来たのか」
「どうも」
「よろしくです」
チカとアカネは軽く会釈を行うと、男は目を細める。
「可愛げの無ぇガキ共だな。まぁいい、一応名乗っとくか。俺は黒刃だ」
「駄犬」
「アカネです。あ!こういう時は通り名を言うんでしたっけ!?」
慌てふためくアカネを他所に、チカと黒刃は呆れ果てる。
「コイツ、大丈夫か?」
魔術師社会において、個人情報は命に等しい。親しい間柄ならさておき、一度や二度顔を合わせた程度の相手に本名を名乗るのは、警戒心が皆無なのか自分の誤情報を流布したいかのどちらか。アカネの慌てっぷりが演技ではないことは一目で判る。
これ以上アカネを掘り下げても意味がないと思い、チカは単刀直入に今回の事件について聞く。
「で、強盗は実際にあった?」
「あった。被害は近くのコンビニも受けてるし、そこの監視カメラからログ取れるぞ」
黒刃が指差したのは、交差点近くのコンビニと信号機に取り付けられた監視カメラだった。通常、監視カメラの履歴はセキュリティロックが掛かっているが、今は調査のために閲覧が可能と成っている。
チカは、監視カメラに自身の魔力を注いで接続させると、一音節だけ口にする。
「『上映開始』」
途端、チカの魔力は可視化されて色味を帯びる。それは、周辺の景色をそっくりそのまま、立体的な映像として写し出していた。
映像を補完し、立体映像として出力する映写魔術であり、日常魔術の一つである。
「あら便利」
映写魔術は情報を入力し、それを魔力に色を付ける事で再現する単純なもの。とは言え、映写をリアルに出力する為には映像を補完する為の準備時間を必要とする。
犬塚チカは、その準備時間が極端に短い。監視カメラの映像を受信するのとほぼ同時に立体化、映像化して出力していた。
「ここの交差点でいきなり強盗の車が護送車を跳ね退け輸送車の前に現れ、進路を塞ぐ。後方も同じだ。その後は煙幕で見えないが人影もあるし、強盗はあったとみて良いだろう」
黒刃は映像を指差しながら確認する。
映像の内容は、黒刃の説明した通りだった。輸送車一台と護送車一台。護送車は輸送車の前を進んでおり、脇道から弾丸のように加速した車両に衝突、護送車はコンビニまで弾き飛ばされた。そして、立ち往生した輸送車の後ろを塞ぐようにもう一台が陣取る。
襲撃犯の車両から突如として煙幕が放たれ、その後に発砲音と魔術の発射音が響き渡り、煙幕が晴れると同時に襲撃犯の車両二台が逃走。
護送車を弾き飛ばした車両は傷一つなく、衝突する際の速度も異常だった。魔術で強化が施されているのは明白。
映写魔術は、監視カメラの映像を再現している。監視カメラには煙幕を晴らしたり、その中を見通す様な魔術的な機能は無い為、煙幕内で何が起きているのかは判らない。
「強盗に使われた車両は?」
「消えちまったが、まぁ監視カメラに写った車両をそのまま使う馬鹿はいない。適当に投棄したか、足がつくの嫌って『格納』したか」
格納は、物を一時的にミニチュアサイズに変更する魔術だ。ミニチュア化出来る物は、生物以外かつ魔力を帯びていないものに限定される。複雑な物程ミニチュア化が失敗しやすく、失敗すると部品の一部だけ圧縮出来ずに破損したり、あるいは圧縮したまま戻らなくなるので、基本的に複雑な機械には使用しない。
ただ、今回の場合で言えば車両という証拠を隠滅する為に魔が使用されるので、別に失敗しても困らないだろう。
「ナンバーも擬装っぽいですね」
襲撃犯の車両はナンバープレートが映写魔術により擬装されている。カメラは肉眼では認識できない赤外線や一部の魔力を撮影出来る為、監視カメラの映像ではナンバープレートが点滅したりノイズ掛かっている。
チカは、会議で今回の事件が自作自演なのではないかと疑われているのを思い出した。
「これが演技の可能性は?」
「それは無い。民間人にまで被害が出てる。擬装なら内々で済ませる筈。こんなに被害者を出す筈がない」
黒刃は、被害を受けたコンビニを指差す。護送車は既に撤去されている。コンビニのガラスは突き破られており、中には血痕も確認できる。
「被害者達がどの病院に送られたとかは?」
「軍病院、普通の病院より色々と処理しやすいんだろ。来るか」
黒刃はポケットから格納魔術でミニチュア化させた車両を投げると、魔術を解除させ元のサイズに戻してみせる。襲撃犯が車両の始末に格納を使用したと予測したのは、彼が日常的に使用しているからである。
チカとアカネはお互いに視線を送り、異論無しと判断すると頭を下げた。
「お願いします」




