4)成人2
10年前に書いた初作品、続きを投稿します。
神々の秘密に関する施設には、特別な理由無く神々以外の知性体を入れる事は無い。そこに招かれた、理由とは?
それにしても、この部屋の広さはなんだろう。壁と天井が真っ白に輝き、透明の床下は青空の高みを見下ろしているような景色だった。床に注意をとられていると、神々が説明してくれた。
「ここは天の層にある、私の執務室だよ。”蒼き星”を運営する位階の神々が生活している層だ。床下の景色は本物だが、床はかなりの厚みを持った透明で頑丈な物質だから、落ちる心配は無いよ。」
白き神が椅子に座り、アンナ神とアムにも座るよう即す。
座ってからアンナ神が話しはじめる。
「惑星運営の実務を行う神々は、都市層と地上都市を行き来しながら働いているの。だから人類どころか神々もこの層に来る事は少ないわ。ちなみに、人類がこの層に最後に来たのは50年程前。貴方で3人目かしら?」
人類に良くして下さっている白き神でさえこの層に人類を入れないなら、何か理由があるはずだった。アムは思いきって聞いてみる。
「そんなに少ないのですか。何か理由があるのですか?」
「それはね、神々の秘密に関する施設が多数ある層だからだよ。そのよううな層には、特別な理由無く神々以外の知性体を入れる事は無い。」
「それでは、何故・・・」
「何故アムがここに入る事を許されたか、だね?それは、ある理由からアムに神々を学んで欲しいからだよ。盲目的にではなく、自らの考えに基づいて。そして、新世代の人類に伝えていって欲しいのだ。」
「白き神も、神々の秘密を直接明かす事はできないの。そんな事をしたら、本国から懲罰艦隊が到来し、秘密を明かした知性体を星系ごと焼却、断種されてしまうから。でも、書生として一緒に行動すれば、間接的に神々を理解する事ができるはず。」
「なるほど、それが50年ぶりに人類をこの層へ入れる事にした理由なのですね。私を選んだのは、たまたま10万番台の1番目だったから・・ではないですよね?」
微笑みながら女神が答える。
「それにはいくつか理由があるわ。白派暗殺を目的とした無差別同時破壊計画が存在する事を、我々に伝えたのはアムの組織よね?」
「そうです。」
「あの計画に使われた爆薬は、高感度検知器でも検地できない最新のものだったの。それも10個所以上にしかけられ、予定通り実行されたなら間違いなく白派と人類が大量虐殺されかねなかった。あれだけの仕掛けを、白き神の信用を得て懐に潜り込む為に使うとは思えない。爆破した方が遥かに黒派に有利だったから。」
このアンナ神は単なる秘書のはずだが、どうやらそれは儀装らしい。
アンナ神は続ける。
「そのようなわけで、アムは少なくとも信用に足ると判断できるの。」
「なるほど。しかしそれだけでは、私を選んだ理由としては足りない気がします。」
「それは・・・」
アンナ神が口篭もると、白き神が身を乗り出して手を組み、話を引き継ぐ。
「最終決定したのはアムの生き方、研究開発実績など見た上で行ったが、真の理由は今明かす事ができない。しいて言うなら・・・自分の若い頃に似ていたから、かな。」
そう言うと白き神はいたずらっ子のような微笑を浮かべて口を閉じた。
「それは、光栄です。私を誘って良かったと思われるよう、努力します。努力が真の理由を満たすものかは解りませんが。」
「よい。向上心はアムをさらなる高みへと導くだろう。ただ、それにとらわれて自らを追いつめてはならんぞ。」
「はい。」
真の理由とはなんだろうか?今は明かせないと言う事は、いつか教えて下さる日もあるだろう。今は待つしかないか。
白き神はうなずき、アンナ神に続きを即す。
「アムには、1ヶ月程この都市で過ごしてもらい、神々との暮らしに馴れてもらいます。旅の準備はその間に済ませる様に。」
「はい。」
「その後、白き神と視察旅行に出ていただきます。同行者は後程紹介する護衛2名とアムです。訪問先それぞれで現地の担当官と護衛が合流します。」
「星系移動の際は護衛が極めて少ないですが、危険は無いのでしょうか?」
「船には機械化された護衛機が多数搭載されていますし、超高速で移動するので移動中白兵戦に持ち込まれる可能性は低いと判断しました。」
「なるほど。秘書としてアンナ神は同行されないのですか?」
「私はこの拠点でやるべき事がいろいろあります。」
少し残念な顔をする、アム。
「あらあら、残念かしら?女神にそんな表情を見せるなんて、人類も変わって来たと実感できるわね。昔の人類は恐縮してばかりでつまらなかったのに。それはさておき。」
手振りで空間に日程表と星系図を表示させてから、アンナ神が続ける。
「今回の視察旅行の目的は各惑星都市を視察する事です。アム君の役割は白き神の身の回りのお世話、随行中の各種記録、情報収集、現地人類との人脈開拓、他、盛りだくさんよ。役割の詳細は、後日説明します。」
アンナ神が手を大きく振って日程表を拡大する。
「では行き先と日程について説明します。この星系には都市と呼べる規模の神人口密集地を持つ惑星が5つあります。
”蒼き星”、”火の星”、”緑の星”、”木目の星”、”土の星”。
他の惑星にも街と呼ばれる神人口密集地はありますが、星系の神人口比率からすればごく僅かと言えます。今回は、都市を持つ惑星5個所を訪問する予定です。」
星々を次々と拡大しながら説明を続ける。
「星により若干異なりますが、概ね衛星都市、星の首都、地方都市の順に周っていただく事になります。移動は基本的に白き神の専用船、”白き船”で行い、短距離の移動は船搭載の移動機を利用します。アム君単独の移動は現地の移動機、列車を利用しても良いし搭載移動機を利用しても良いですが、神が現地の移動機に乗る事は無いようにします。」
アムはその理由に気付いてアンナ神を見る。
「それは、爆発物、毒物などをしかけられる危険を避ける為ですね?」
「そうです。事故に見せ掛けるには移動中が最も適しているでしょう。搭載移動機は防弾装備だけでなく、高度な搭乗者保護機能があり、大型移動機に全速で衝突されても問題ありません。それらは黒派の知らない最新技術が含まれますから、敵対勢力に内部から解体されると関連部品が溶解するようになっています。くれぐれも、床下の装置を覗こうなどといった事がないように。」
「了解しました。」
「いい子ね。話を戻します。最後の訪問先、”土の星”を出発した後は、星系外苑の”神々の庭”境界に向かい、境界を視察してから、”蒼き星”への帰路につきます。各地での滞在、移動、帰還後の休養を含めても、約半年で終る予定です。なお、帰還後のアム君の配属先は、休養期間終了後に改めてお知らせします。細かい部分や行ってもらう事は日を改めて説明しますが、ここまでで何か質問は?」
「今はありません。」
「よろしいですわ。では、これを持ち帰り、時間のある時に読んでみて下さい。後日説明する以外で、アム君に役立ちそうな情報を集めた記憶球です。」
「ありがとうございます。」
親指くらいの情報球を受け取り、礼をする。
「貴方の賃金を一部先払いしておおきますので、衛星都市を探検する際に使ってね。」
アンナ神が手渡しで通貨球をくれた。この通貨球は非接触支払いが可能な情報球だが、登録してある利用者本人の同意が無ければ通貨を引き出す事はできない。
「アム君、右手の人差し指で空中に好きな記号を描いて頂戴。それが支払いの同意を現す記号として登録できるから。本人確認は非公開の方法で別途行われているし、万一不正に利用されても復元はしてくれるから、安心していいわ。」
「解りました。」
返事をしてから、アムは予め決めていた家紋を空中に描く。
「変わった形ね。」
「はい、これは機会があれば使おうと思っていた印です。もし・・・私が生きているうちに、人類に人工的な遺伝子継承が許されたなら、家紋として使っていこうかと。」
それまで目を閉じて椅子にくつろいでいた白き神が、ふいにアムを見る。
白き神は何も語らなかったが、その目は何かを物語っていた。アムの考え方を強く肯定しているようだった。
アンナ神は白き神に一瞥を投げてから、アムに話し掛ける。
「アム。法的にはもはや人類は奴隷では無いけれど、まだ奴隷の如く使役する神も多いの。そのような神は人類の遺伝子継承を絶対に認めないとも考えている。だから、あなたが本当に信用出来る神以外には、人工的にしろ生物的にしろ、遺伝子継承を目指している事は話してはいけないわ。黒派に聞かれたら、その場で殺害されかねない。」
「解りました・・・が、何故そこまで人類の遺伝子継承を嫌うのですか?」
「遺伝子は自らの複写を物理的に行うけれど、実は物質の上位階層・・・実態としては存在していないある媒体、”神層”に接続しているの。そこに遺伝子によって造られる”神層構造”は、実は遺伝的に近い者、遺伝子継承者が引き継ぐ事ができる。そうして代々継承していくと、”神層構造”は練られていき、我々に等しい存在になっていく。」
「新たな神々が生まれてしまうのですね、それも元奴隷階層から。それが許せないのですか?」
「それもあるでしょう。しかし一番の問題は、人類が神々に似すぎている事なの。神々と人類では遺伝子の仕組みがまるで違い、本来は魚と鳥以上に異質な関係になると思われていた。何しろ猿の脳を僅かに知性化し、外見だけ神に似せただけだったから。ところが、人類はあらゆる点で神にそっくりだったの。」
アムが自分を指差すと、アンナ神は肯定してから続ける。
「その原因はいまだに解明されておらず、学者は神々が長い時をかけて練った”神の神層構造”を人類に寄生し変質される、あるいはすぐ脇にできた”人の神層構造”から悪影響を受ける可能性がある、と言っている。
神々の中には、それこそが行き詰まった神の遺伝子に変革をもたらす貴重な方法、少なくとも宇宙に新しい神を育む事ができる、と考える神もいるけれど。現在の有り方が最高であり完璧とする神にとっては絶対に許せない行為。」
アムはおもいきって自分の考えを述べてみた。
「人類が変革に繋がると考えているのは白派で、それを許せないのが黒派なのですね。」
「その通りよ。1世代では深く接続できる可能性が極めて低い。神の遺伝子を移植されていれば話は違うかもしれないけど、構造が違いすぎてできないはず。」
その時、白き神の表情が変わったのをアムは見逃さなかった。それが妙に記憶に残ったが、その意味を理解するのはずっとずっと先の話だった。
アンナ神は続ける。
「しかし、知性が高い生物が子孫を残し、継続的に”神層構造”へ接続していくと、”神層構造”は練られていき、より深い接続が可能となっていく。”神の神層構造”に悪影響を及ぼさないにしても、”人の神層構造”は巨大な力と英知を発揮するようになる。物理的な脅威を与える存在になりかねず、対等な存在となる。常に頂点でいたい神にとっては耐え難い屈辱でしょう。」
アムが同意すると、白き神が身を乗り出してアムに語り掛ける。
「黒派が何故人類を虐げるのか、その一番の理由は理解できたと思う。
これまで他の星系で知性化した生物で、このような事例は一つもなかった。
知性化が軌道にのり”量産”可能な段階に入ると、現住生物に子孫を残す機能を戻すのが通例。人類の特殊性から、この星系にいる黒派が子孫を残す機能付与を認めていないのが現状だ。そのような中、私は人類知性化をさらに継続している”過激派”として排除対象1位であるらしい。」
黙ってアムを見つめる白き神に変わって、アンナ神が続ける。
「”神々の秘密”に該当するかもしれない危険な情報、”深層構造”について何故アムに話したか。それは人類自身が将来を考える上で欠かせないから。そして、今回の旅が危険に満ちているから。これだけ説明してきたけど、白き神はここで、アム君自身の意志で、選択して欲しいと思っています。白き神直属の仕事も旅の事も忘れて、製造施設などに配属を希望しますか?安全な道を選択しても、決してアム君に不利益が生じない事を約束します。」
わずかに間を空け、アムの反応を見てからアンナ神が続ける。
「それとも、危険と棘の道を覚悟で、今回の申し入れを受けますか?」
人類の命は消耗品。道具。奴隷。そんな時代から抜けきっていない昨今、人類にこれだけ重要な情報を伝えるのは、余程の覚悟と目指すべき目標があるに違いない。そしてそのような考え方をする白き神を守る事は、人類と言う種族を守に等しいだろう。たとえその為に自分の命が失われようとも、後悔は無い。アムはしっかり覚悟を決め、答える。
「はい、今回の申し入れを受けさせていただきます。命を賭しても守ります。未来を。」
笑顔でうなずく白き神と、満面の笑みを浮かべるアンナ神。
自然と笑顔になるアム。この日の気持ちを、アムは死ぬまで忘れないと誓った。
そして、それは守られた。




