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7)戦闘編3

20年前に書いた初作品、続きを投稿します。


「アム!幸せに・・・。」

その言葉は酷い雑音で断ち切られ、瞬間に表示が暗転する。女神の最後の言葉が、密かな想いが、アムに苦しいくらいの切なさと悲しみを呼び起こす。

 ”鉱炉の神”が”白き神”を見ながら告げる。

「あいつら、決闘を名目に自分らより上位の神を抹殺して、後に”黒威神”も謀殺し、星系の支配者に収まるつもりじゃないか。その手順なら本国の承認無しに統治権が手に入る。」

 育みの神が肯く。

「あるいは、好き勝手やり終えるまで”黒威神”は寝かしておきたいか。しかし、あれは眠っているんじゃない、意識を奪われてる。仕返しを恐れるなら2度と意識は戻すまいよ。」

 ”白き神”の表情が曇る。

「やはりそうか・・・。決闘の相手に倒されたなら”黒威神”も本望だったろう、しかし決闘を終わらせない為に無理やり生かされているとしたら、なんと残酷な仕打ちか。」

 壁面に表示された白派上位の神々と周囲を見回す”白き神”。

「多くの神々と人類を救う為、降伏する事も考えてみた。しかしあの神格低い神々を上位神に置く事は、この”白き光星系”に地獄を出現させる事になろう。・・・私心ですまぬが、あやつの事も・・・放っておけないのだ。」

 上位の神々は当然の事として肯いたり笑みを浮かべている。アムはその”あやつ”が”黒威神”をさしている事を察したが、何故決闘の相手をそこまで気遣うのかは、理解できなかった。”黒威神”を憎んでいる神々でさえ、理解を示していると言う事は、何か理由があるのかもしれない。

 ”白き神”は異論が出ないのを見て呟く。

「ありがとう。」

 しばらくの沈黙の後、画面に表示された”好加速の神”が陽気に話出す。

「さて、話は決まったし発進の準備を始めるか。駆動系に火を入れるとばれるから、それ以外の準備を済ませよう。皆の者、よいな。」

 肯く神々。


 壁面の大型表示版には、枠が表示された後に次々と小さな顔が表示されていく。膨大な数、壁面一杯に表示され、その全てが神々の顔だった。左右一組つづ青い枠で囲まれ、お互いに通信可能なのか会話している組もあった。アムはその中に先程の”好加速の神”、オンデ神、そしてアンナ神など多くの親しい知神をみつけ、複雑な気持ちになった。ここに映っている神々の何神と、再び生きて会えるだろうか。

 ”白き神”は立体映像の至近にたどり着き、背もたれを完全に起立させ、片手を上げる。その瞬間、映像に映る神々も片手を上げる。

「おはよう、我が親愛なる神々よ。」

 おはようございます、と返す多くの声が聞こえる。

「星を、多くの命を救う為に駆け付けてくれて、ありがとう。”木目の星”以遠の神はまだ移動中のはずだが、残念ながら彼らを待つ時間は残されていない。出発の時刻だ。」

 表示版の神々が肯く。”白き神”が続ける。

「これから”黒派”に降伏勧告への回答をする。私が右手を上げ、振り下したら大型艦の駆動系に点火、順次出発してくれ。よろしいか。」

「は!」

「はい!」

 壁面の神々が一斉に片手を上げ挨拶する。

 ”白き神”が肯くと神々の表示は暗く表示され、上書きされる形で中央に椅子に坐ったカザン神達が表示される。

 3神と裏切り者の人類は、果実酒を飲みながら上機嫌にしていた。中央には先程と変わらぬうつろな目をした”黒威神”が寝かされている。カザン神が”白き神”を見つめて話しかける。

「話はまとまりましたかな。」

 ”白き神”が答えようと口を開けるが、次の言葉がでてこない。目は自然と”黒威神”に行ってしまう。ここで話が終われば2度と生きた”黒威神”を見る事はできない、その事実に気づき、”白き神”はなかなか結論が言い出せないのだった。エフェス神が毒のある微笑をする。

「降伏を認めるなんて、最上位の神にはあり得ない事ですものね。解りますわ。」

 ドオカ神が珍しく口を開く。

「”黒・・・威神”を愛してるんだな。」

 エンカンがぎくっとする。

「え。男色っすか?」

 その一言に白派の神々は一気に怒気をはらむ。人類達は不愉快だったが、神々の怒りは理解できなかった。

 ”白き神”はそれでも怒る事無く”黒威神”をみつめる。

「我々白派は・・・。」

「どうしました、さあ。」

「決闘を・・・」

「さあ。」

 口を開けたまま、黙る”白き神”。

 侮辱した笑い声を響かせるカザン神。

 その時、驚くべき事が起こった。

 ”黒威神”が目を開き腕を振り上げ、そして前に向かって振り下す。

「迷う無かれ、我が愛する父よ!誇りを忘れるなかれ!」

 言い終わると口を閉じるが、その隙間からどす黒い血が溢れだす。”白き神”が右手を上げて、即座に応じる。

「決闘続行を希望する。我らの誇りと、我が愛する子らの為に!」

 振り下される右手、次々と大型艦が稼働を始め突撃を開始する。

 命が惜しければ降伏以外あり得ない、そう予想していたカザン神達は驚き愕然としている。エンカンの手元からは果実酒の器が滑り落ちて床で砕け散る。

 アムが”黒威神”をみると、血を流しながらにやりと笑っていた。その姿は壮絶であったが、とても嬉しそうに見えた。

 そして目を閉じゆっくりと寝台に倒れ込む。直後に通信は切られ、司令室は猛烈な勢いで活動を始めた。”白き神”が天を仰いだ理由は、皆痛いほど解ったのだった。


 白派艦隊大型艦が隠すように小型艦を引き連れ、南北の極から予定の距離に達する頃。”黒曜月”の自動迎撃装置が攻撃を開始した。全艦で同時に到達、火力を分散するまでは良かったが、その火力は予想以上に強力で、力場にかかる圧力は艦隊の進撃速度を鈍らせた。それぞれに到達した攻撃の量はばらつきがあり、それがやがて進撃の深さにばらつきを生んだ。そして、それは予定の距離に達する前に起こった。

 一番先頭の大型艦が突如として爆散したのだ。司令部に満たされた白い輝きは瞬時に減光され、最新状況が立体映像装置に表示される。壁際の通信神が振り返って報告する。

「北極の大型艦”大気”爆散。背後の小型艦3割が巻き込まれましたが、残りは突入。南極の”積乱雲”からも小型艦離脱、南北挟撃を開始しました!」

 アムは思わず呟く。

「早い、早すぎる!」

 しばらくは何も起こらなかったが、やがて力尽きるように壁面表示版の一角で表示が消え始め、”大気”と”積乱雲”の所属だった小型艦操縦者は全て消滅した。通信神が声をわずかに震わせて報告する。

「残念ながら距離の調整以前に破壊されました。」

 ”白き神”が答える。

「大型艦の高度ばらつきをなんとか抑えよ。突出すると限界を超える可能性が高い。」

「は!」

 それからは突出をおさえつつ、計画上の距離まで接近する事ができた。

 映像の一つ、”好加速の神”から声があがる。

「この辺でいいな。じゃ、行ってくるぜ!」

「行きます!」

「行くわ!」

 ”白き神”が即座に答える。

「頼む!」

 次々に出発する神々。壁面の顔を囲んでいる枠が明るくなり、全艦稼働状態に入った事を表していた。

「ぐ。アム、後の事はた・・・。」

 ふいにオンデ神の声が聞こえ、アムは驚いて顔を上げる。

「はい、オンデ・・・神。」

 返事が終える前に、オンデ神の健在を表す表示が暗くなっている事に気づき、愕然とする。”黒曜月”の至近距離で音信不通になったと言う事は、2度と会えない所へ行ってしまったと考えるべきだろう。

「アム!幸せに・・・。」

 不意に自分への言葉が通信に流れ驚くアム。

 その言葉は酷い雑音で断ち切られ、瞬間にアンナ神の表示が暗転する。女神の最後の言葉が、密かな想いが、アムに苦しいくらいの切なさと悲しみを呼び起こしてきた。

 しかし悲しむのは全てが終わってからだ、そう自分に言い聞かせ、次の作業に移るアム。

 時間とともに、壁面の表示は次々と暗くなって行った。

 最悪でも、残り100艦で成功する目論見であったが、表示されているのはあと60艦であった。そのなかにはアムのよく知った神が残っていた。


「くそ、しつこい男は嫌われるぞ~。」

 周りに神がいたら脱力しそうなぼやきを響かせながら、ジョイジ神は小型艦を操る。北極側の大型艦”入道雲”が壊れずに深い位置に達してくれた為、他の小型艦よりは移動距離が短かったが、その分多くの自動防御装置に狙われる事となった。南極側の対になっているのは”好加速の神”で、すでに所定の位置につき攻撃から逃げ回っているところだった。その”好加速の神”の声が通信機から響いてくる。

「まだこんのか?待ちくたびれたぞ。」

「すみません、いま出たところです。」

「おまえは食堂の出前か!」

 そんなやりとりをしつつ、じりじりと距離を詰めて行く。激しい振動が時折小型艦を揺さぶるなか、人間には耐えられない挙動で艦を上下左右に回避させる。激しい横方向の加速で顔を歪めながらも、時折冗談を言って”好加速の神”を笑わせる。笑いながらも攻撃を凌ぐ操艦技術はさすがだった。

 ジョイジがようやく予定の位置に到着した頃には、仲間は消滅しており、攻撃が自分に集中していた。

「お待たせしま・・・した。重力波打ち・・込みましょうか。」

「おぅ!」


 司令室の壁面は徐々に暗くなり7組、6組、4組と徐々に生き残っている神々は減っていった。周囲には絶望的な空気が流れ始め、外宇宙への逃避を進言する者もでていた。しかしアムは諦めていなかった。 星系最高の操舵技術を持つ”好加速の神”と、頼りになる兄貴分、ジョイジ神がまだ残っていたからだ。

「かっこ良く世界を救って下さい、頼みます!」


「くそ、外したか!」

「落ち着け、ジョイジ。」

 どんな時でも楽天家を崩さなかったジョイジ神が叫び声を上げる。小型艦が短期間に放出できる重力波は3発のみ。平均0.5発で沈められた中では2発撃てただけでも立派なものだったが、自分らの後に後続は無く、次の一発が白派の、人類の未来を決める事態にジョイジ神は追い詰められていた。小型艦の操作も切れが無くなり損害も増えていった。破壊の衝撃に体が言う事を聞かなくなり、心が悲鳴を上げ始める。一瞬意識を失う場面も増え、”好加速の神”の励ましの声も遠くなる。

 ”偉大なる長老”ノバシアよ、もうすぐ貴方の下に旅立ちます。貴方の愛する人類を守りきれずに申し訳ありません。でも、貴方は許してくださるでしょうか、それが気掛かりです。そんな事を考えながら限界に屈しようとしたその時。

 時間の流れが急速に遅くなり、意識が膨張する感覚に満たされた。

「バカモノ!」

 目の前には怒りの表情を浮かべたノバシアが立ち、ジョイジ神を睨んでいた。それ以上何も言わず睨むノバシアを見てジョイジは理解した。試練の意味、自らが背負ったものの重さ、真の愛。私はやり遂げなければならない。成功を引き寄せるのだ!

 時計を覗くとしばらく意識を失っていたようだったが、その間も操作は続けていたのか被害が拡大した様子はなかった。

「大丈夫か?わしもそろそろ限界じゃ!」

 ”好加速の神”が初めて発した泣き事ににやっとするジョイジ神。

「ちょっと師匠に渇を入れてもらいました、もう大丈夫です。では、数えますよ。3発目発射~。」

 ジョイジ神は心を落ち着け、無心の境地になる。想像の中で、中心部で二つの収束重力波が重なり干渉し合い、”空間を構成する構造”を割る事で巨大な力が生まれ・・・。来た。

「3、2、1、け!」

 収束重力波が放出された直後。役割を終えた二つの小型艦は、その結果を見る事無く爆散した。


 寝台で苦しそうに息をする”黒威神”が、何かに気づき息を止める。やがて満面の笑みを浮かべて天井を見上げる。

 別の部屋では映像を皆がら果実酒を飲む3神とエンカン。

「また、こりずに訳のわからん攻撃、して来てるっすね。」

 エフェス神が色っぽくカザン神にしなだれかかりながら答える。

「私はこの度重なる揺れで気持ち悪くなったわ。降伏しちゃおうかしら。」

 ドオカ神がご機嫌な赤い顔で答える。

「策敵装置によるとあと4・・2機で最後だ。我慢しろ。」

「ひどいわ。カザン神、何か言ってよ。」

 そう言ってエフェス神がカザン神を見ると、何か考え事をしているようだった。

「どうしたの?カザン神。」

 眉間に皺を寄せたカザン神。

「やつらは何故こんな下らない嫌がらせに命をかけるのだ。いったい何故?」

 その瞬間、カザン神は始めて神層構造に繋がった。本来は段階を経て至るべき深い層にいきなり繋がった事で、多くの事が理解できてしまった。自分がどのような役割を持って生まれ、果たしてきたのか。その愚かさと尊さを。この出来事は、死んでいった神々の憎しみと思いやりが生んだ奇跡であったのかもしれない。

「お、俺はなんと言う・・・。」

 カザン神、ドオカ神、エンカンが怪訝な顔で涙を流すカザン神をみつめる。そして、次の瞬間。彼らのいた部屋で時空が裂け、戻った時には全てが素粒子に分解されていた。


 ”白曜月”の司令室では、小型艦の全滅を確認すると同時に莫大な量の素粒子放出を観測した。そして、目の前の”黒曜月が”孵化した光の鳥を生み出すように、割れ、砕け散る様を皆でみつめた。

 一つの時代が、終わったのだった。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。


誤字ご指摘/感想は読ませていただきます。お返事はしませんが、ご容赦を。

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