5)結婚編3
20年前に書いた初作品、続きを投稿します。
アムとイフの結婚式。
ここ数年で益々結婚をする人類は増える傾向にあったが、結婚式といった派手な催しは皆無で、親しい人類を集めての宴会と宣誓がその全てであった。上司の神が来てくれる場合もあるにはあったが、来ても1神、多くて3神であった。
”蒼き星”に残っていたアムと同じ月生まれの友人、タム達5人は、会場に入って目を丸くした。
「なんじゃ、こりゃ?!」「間違えたか、場所?」
広い宴会場には見渡す限り神々。ところどころに恐縮した人類が散っていた。
「こっちこっち。」
イフに手招きされて会場の一番奥壁際の円卓に向かう5人。見るとアムとイフが仲良く並んでいる。アムの隣には4神が並んで坐っており、5人はイフ側の開いている場所にお祝いの言葉を発しながら坐っていった。
「みんな良く来てくれたね。とても嬉しいよ。」
「ありがとうね。」
アムとイフが微笑みながら礼を言うと、タムが緊張しながらアムに聞く。
「人類なのに、なんで神々がこんなに結婚式に出てるの?一緒に働いているって聞いたけど、それにしても。」
アムが照れながら答える。
「43神はうちの職場と仕事上の関係がある神で。41神は自分の研究室に務める神々なんだ。」
「自分の?」
同席の比較的若い神が補足をする。
「始めまして、”白技”の”重技研”で副室長を務めるミソグ神と申します。アム室長の部下50神のうち”蒼き星”に残っている41神皆が参加したがって。おかげで人類のお友達が14人しかお呼びできませんでした。申し訳無い事です。」
”白技”の近くで最大の100人まで入れる宴会場を抑えたアムであったが、予想を超える神々が押しかけ、このありさまだった。
一緒に来ていたタムの伴侶が驚いて言葉を発する。
「”重力の卷族”が人類であるにもかかわらず神々の上司をしているって噂がありますが、まさか・・・。」
ミソグ神の隣にいる”野の神”が笑いながら隣の神をつつく。
「その呼び名を付けたのはこの”橙の神”だよ。アム室長にいつも助けてもらってる。ゆえに今回もわざわざ”木目の星”から飛んで来たんだ。」
「む、そう言う”野の神”だってアムのおかげで給料が上がったと喜んでたじゃないか。他神の事をとやかく言えるかい。」
タムの伴侶は目を丸くした。二人が呼び合った名は、上位神にしか許されていない呼び名だったからである。そう言えば、神々の特徴である後光も、うっすらとしながらより美しく見える。しかし一生話す事も無いと思っていた上位神が2神もいるとは!
アムの隣にいる年老いた神が、苦笑いをしながら話す。
「まあまあ。アム室長の神々への貢献度からしたら、”黒威神”が飛んで来たっておかしくないぞ。君達が来てもなんらおかしくはないさ。」
”橙の神”が何を言ってるんですか、といった驚いた表情をする。
「冗談は止めて下さいよ、”白き神”。彼は黒派の星系最高位ですよ。そんなあり得ない事が本当に起こったら、本国から持ってきた秘蔵の果実酒を進呈しますよ。」
目の前にいる老神が星系最上位である”白き神”であると知って口をあんぐりとあける人類達。隣の円卓にいたアムの友人達も、聞こえていたのか硬直し固まっていた。
タムが衝撃から立ち直って伴侶を見ると、目を開けたまま気を失っていた。方を揺すられ目覚めたタムの伴侶が、入り口の方を見てまた気を失い今度は椅子に寄りかかる。
「一体何が・・・え?!」
一同は入り口を見て氷付く。予期せぬ来客に気付き、会場はしんと静まり返る。
”黒威神”が、”黒血の3神”であるカザン神、ドオカ神、エフェス神を従えて静かに立っていたのだ。3神を入り口に残し、”黒威神”のみがアムの円卓に近づいてくる。アムは敵地にあってなお凄まじい威圧感を発する神に、畏怖を感じるばかりだった。目の前に来た”黒威神”が”白き神”ら上位神に向かい礼をする。
「ご無沙汰しております、皆様。お元気そうで何よりです。」
”橙の神”が複雑な表情で、”野の神”が冷たい視線で見つめる中、”白き神”が返事を返す。
「”黒威神”、久々に会えて嬉しいよ。今日ももしかしたら来るかもしれないと話していた所だ。」
”白威神”の表情は本当に嬉しそうで、作り笑顔には見えなかった。それを見て”黒威神”の冷い微笑が僅かに緩んだのだった。しかしアムの方を向いた時には、もとの微笑に戻っていた。
「アム君、今日はご結婚おめでとう。黒派からの再三の招待にも応じていただけないので、今日は私の方から会いに来ましたよ。」
勢い良く立ち上がり礼をするアム。
「ご訪問ありがとうございます。」
会場からざわめきが聞こえてきた。神々にとっても、人類に会いに”黒威神”が来るのは衝撃的だったらしい。
”黒威神”は続ける。
「私は星系第2位ですが、本国への報告は私が担当しています。ですので本国を代表して日頃の神々への貢献にお礼を申し上げます。」
黒派にはこの技術を流していないが、一体何で貢献したと言うのか?そんな事を考えているアムに、”黒威神”が続きを話す。
「”木目の星”で希少物質の採掘効率が上がったのはアム君の技術によるそうじゃないですか。誰に聞いても絶賛でしたよ。本国への定期便で献上できる希少物質が増やせて、この星系も評価が上がる。」
”黒威神”が右手を軽く上げ、エフェス神を呼び寄せる。
真紅の衣装に身を包み、しゃなり、しゃなりと進むエフェス神。その手には盆があり、黄金の延べ棒が積まれていた。
この星の通貨は現物ではなく”仮想通貨”だが、このような貴金属も通貨と同様の価値を持っており、かなりの額だった。エフェス神はアムの近くまで来て、わざと体を摺りつけながら円卓の上に盆を置いた。去り際にも熱い視線を寄せられ赤くなっているアムに、イフの刺さるような視線が注がれる。それはあえて気付かない事にして、アムは疑問を呈する。
「過分なお言葉をいただき、感謝します。ただあの成果は優秀な神々によって実現された事なのです。私の貢献は僅か。このような高価な品を私がいただく訳には・・・。」
”黒威神”がやれやれといった調子で首を降りながら答える。
「では、”結婚祝い”として受取りたまえ。祝いの品を拒否する無礼はまさかあるまいな。」
アムもこの金塊を受け取る事は納得いかなかったが、”黒威神”の顔をここで潰す事は大変危険な事だと理解していた。
「判りました。ありがたく頂戴します。人類の傷病者補助基金にまわしても?」
満足げに頷く”黒威神”。
「もうアム君に進呈した物だ。好きなように使うが良い。
では、私はこれで失礼するよ。」
上位神に礼をしてから入り口に向かう”黒威神”。入り口の所で不意に振り返る。
「そうそう、次にやってくる本国圏往還船には、人類の貢献をしたためた報告書を載せるつもりだ。まだずっと先だが、それまでに我々の元に来ておいた方が良いぞ、アム君。」
そう言うと片手を上げて挨拶し、部屋の外へ出て行った。
扉が締まると同時に、一斉に騒ぎだす神々。驚く神、怒りを露わにする神、恐れる神と反応は様々だった。
ミソグ神が、アムに向き直る。
「あれは、黒派の所にこないと、人類にとって有害な報告書を送るとの恫喝です。だが、屈する必要はありません。白派が全力で人類を守りますから。そうですよね?」
そう言われた上位神3神は難しい顔をして黙っている。
このような場で明言する事は、両派の対立を決定的な段階へ進める恐れがあった。その事に気付くミソグ神。
「あ・・・すみません。考えが足りませんでした。」
”白き神”が穏やかな表情をする
「ありがとう。」
行間に、発する事のできない多くの意味を込めながら言われたその言葉は、その場にいる神々と人類を一つにしたようだった。しばらくして、ミソグ神が立ち上がる。
「さて、気分を一新して。アム室長とイフさんの結婚式を始めましょう!」
そうして始まった宴会は大いに盛り上がり、3次会で幕を閉じた。多数の神々が参加した事により、人類の地位向上が本物である事を星系中に知らしめる政治的な効果が予想されたが。しかし、この二人の結婚が星間戦争の引き金に繋がっていたとは、この時点で予想できていた者は誰もいなかった。
時は流れ10年後。アムの開発室は順調に成果を出し続け、65神と37人、合わせて100を超える開発者が働くようになった。黒派の一部では人類の地位を見直そうとする穏健派も現れ、白派内ではアムのように人類の管理職が増えつつあった。アムとイフの夫婦生活も順調で、アムを取り巻く環境は順風万帆のように見えた。
そんなある日、突然”白技”統括室に呼ばれるアムとイフ。部屋に入ると、”白き神”、”野の神”、ジョイジ神がいた。”白き神”が唐突に切り出す。
「アム、イフ。二人の赤ちゃんが欲しくないかね?」
「は?」
「ほぇ?」
あっけにとられる二人に、”白き神”が続ける。
「実は、人類の自己増殖能力を”解放”しようと思っている。良かったら、君達にその第1世代を担って欲しいと思っている。」
「”解放”と言う事は、もともと出産能力があったのですか?」
頷く”白き神”。
「黒派の反応を危惧し、”鍵”が無ければ機能しないようにしてあった。この”鍵”は一度使えばその子孫に限りもう制限を受ける事は無くなる。」
”野の神”が補足する。
「数世代前の人類で極秘の解放実験は成功している。安全性は保証できるよ。」
人類の、アムの夢が叶うその提案に、即飛びつきたかったが、一番知りたい事をまず聞く事にした。
「しかし、良好だった黒派との関係を損ないかねない賭けを、何故この段階で行おうとするのですか?」
それまで黙って壁に寄りかかっていたジョイジ神が、アム達に近づいてきた。
「それは自分から説明しよう。」
久しぶりに会ったジョイジ神は相変わらずの余裕顔だったが、どこか無理をしているようにアムには思えた。ジョイジ神が説明を始める。
「アムは最近黒派でも評判なんだ。アムの遺伝的複製を造って黒派にもくれ、と提案が来るくらいだ。重力制御の技能は遺伝子に入ってると考えてるらしい。まったく。」
アムは自分の複製10体が研究したり喧嘩している姿を創造して、げんなりした。ジョイジ神が机に手をついて続ける。
「そこでだ。人類は猿と同じく血縁を大事にする。技能もしっかりと継がせるよう、本能的に働きかける。そこで有能な人類が自己増殖能力によって子孫を残すようにした。と、伝えるわけだ。」
アムは納得いかない顔をする。
「でも、何故今なんです?」
「それは、黒派の間者に、”真の人類設計図”の1部分を盗まれてしまったからだよ。」
気付くと他の神々も深刻な顔をしていた。
ジョイジ神が話を続ける。
「先日、人類製造と育成を行う人類保育施設に賊が侵入した。幸い、機密端末侵入直後に発見遮断され、漏洩した情報は一つだけだった。しかしその情報は絶対に外部へ出てはいけないものだった。」
アムはようやく全体像が把握できた。
「黒派が長年危惧し反対してきた、人類の子孫継承が予め設計に盛り込まれていて、”鍵”を使うだけで即機能する事ですね。そして、それが黒派の間者から伝えられる前に、白派から”黒威神”に伝えると。」
頷くジョイジ神。
「その通り。過激派が怒りながら情報を上げては事態が悪くなるばかりだ。黒派の星系最上位者から冷静に、可能なら好意的に下してもらう必要がある。明後日までは”蒼き輝き”に”黒威神”が来ているので、直接話もできる。」
アムがイフを見ると、静かに頷いてくれた。アムは覚悟を決めて神々を見る。
「判りました。ぜひお願いします。」
嬉しそうに頷く”白き神”。
「同意してくれて良かった。では、早速まいろう、”鍵”のある場所へ。」
懐かしの人類保育施設に到着した一同は、幼児時代の主な遊び場であった室内遊技場にやってきた。中央には円筒状の透明な壁があり、ちょっとした林になっていた。
お昼寝の時間らしく、子供達は誰もいない。イフが嬉しそうに室内を走り回る。
「懐かしいわ、この果物の木を見ながらこで遊んだわね。いつも、アムが私を追いかけまわしていたわね。」
「逆じゃなかったかな?」
アムがちいさな声でぼそっと呟くと、イフが睨みつけてきた。
そんな時、思わぬ助け船が入る。
「いつもかは判らないが、私が見学に来た時はアムの後ろをイフがついて回っていたな。」
困った顔のイフと勝ち誇るアムに”白き神”が笑いかける。
「ただし、やんちゃ過ぎてすぐ怪我をするアムを看護するのがイフの役目だったがな。」
頭を掻くアムに胸を張るイフ。透明の壁に向かって歩く一同。
「そういえば不思議だったな。どこからも入れないこの場所に、何故果樹園があるのか。」
アムの言葉にイフも続ける。
「そうね。人からは守られているのに、天井は無いから、鳥が木の実食べ放題だったし。」
「真っ赤で美味しそうな木の実。食べて見たかったな・・・。」
拳の倍くらいはある赤い木の実を見上げるアムとイフ。
いつのまにか背後に立っていた、人類保育施設の長”育みの神”が慈しむような面持ちで二人に声をかける。
「じゃあ、食べさせてあげよう。その為に来たんだろう?」
怪訝な表情をする二人。”白き神”を見ると頷いているので、手元の端末に指示を出す”育みの神”。
「さあ、一つだけ選んで、二人でお食べ。」
透明な壁の一角が突然開き、そこから心地よい風邪が噴き出してきた。ほのかに果実の香りがしたが、何故か体の深いところを揺さぶられるようだった。二人は思わず喉を鳴らす。
果樹園と言うには小さな林に手を繋いで入ると、アムはめまいがするような官能的な気持ちになった。隣にいるイフを見ると目がうっとりと閉じられている。神々にはなんの変化も無いところを見ると、どうやら人類だけに作用する香りのようだ。やがて目を開けたイフに手を引かれ中央にたどり着くアム。一回り大きな樹に、大きな赤い実が実っていた。
イフが背伸びをして一番大きな実に手をかけ、もぎ取る。
アムに先を譲ろうか一瞬迷った後、もう我慢できないといった風情でかじりつくイフ。
「あ、甘い・・・。」
しゃくしゃくと食べると、白く輝く果肉がかいま見えた。
うっとりとした表情で租借するイフから実を手渡され、かじりつくアム。租借して飲み込むと、体全体がほてりとしびれるような快感に襲われる。自らの体に何か得体の知れない事が起こっているようだが、その快感にあらがって食べるのを止める事はできなかった。
イフと順番にかじりっていくと、やがてその感覚は収まり、食べ終わる頃にはただの果物となんら変わらない味に変わった。ようやく我に帰り、イフの手を引いて神々のところへ戻るアム。
「これは、もしかして・・・」
「そうだ。しかしここでそれを語るのは止めておこう。」
そう言って自らの口に指をあてる”白き神”。”白き神”の中核施設であるこの場所でも、盗聴される危険があると言う事だ。
直接の答えはなかったが、この果樹園になる赤い実が”鍵”である事は間違い無いだろう。そして、この瞬間、すでに二人は我が子を授かる事ができるのだ。そんな思いでイフを見つめていると、イフにも伝わったのか満面の笑みになった。
「ごほん。」
同行してきたジョイジ神がわざとらしく咳こむ。
「君達。愛を確かめあいたくなった、その気持ちは判るが。それは家に帰ってからにしてくれ。」
照れるアムとイフに笑う一同。
「ふう。やっぱり家が一番だね。」
イフが大きな袋を下しながら言う。神々と話している間は外を警備していたチータンが怪訝な顔をしている。
「確かに特別支給の一軒屋は快適ですぅ。でも、二人とも顔がにやけているのは、別の理由ですよねぇ。」
外套をしまっていたアムの動きが止まる。
「な、なんの事かな?」
チータンがにやっと笑う。
「こんな小さいなりだけど、チータンはちみたちより長く生きてるんですよ。磁石でくっつくような二人の態度で、わからいでか、ですぅ。」
ふっと壁にかけてあった自分の鞄を取ると、玄関に向かうチータン。
「あ、急用で今晩は友達の家にいかねばなりません。表の警備塔によろしく言っておきますが、チータンが戻るまで外出は控えて下さいね。じゃ、ごゆっくり。」
言うだけ言って外へ出ていくチータン。イフがふっと息を漏らす。
「こう言う事には鋭いんだから、もう。」
「まあ気遣いを無駄にする事はない。早速子作りに励みますか。」
近寄って手を取り合い、そして見つめあう二人。
胸が高鳴り、口付けしようと顔を近ずけたその時。
がちゃっと扉が開く。
「チータンが表に出たら、保安装置を警戒状態にしておくのを忘れないでくださぃ。熱中しすぎて侵入者に気付かなかったら事ですからぁ。」
真っ赤になってしばし固まった後、動き出す二人。
閉じた玄関が開かないようイフが内鍵をしっかり閉め、アムが近くの保安装置を警戒状態に変更する。 それが終わると同時に、引き付けあう磁石のように抱き合う二人。そしてそのまま倒れこむ。
「アム!」「イフ!」
二人の第1子が後に”玄関の王子”と愛称付けられると知っていたら、場所を寝台に移しただろうが、この時の二人は知る由もなかった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
誤字ご指摘/感想は読ませていただきます。お返事はしませんが、ご容赦を。




