5)結婚編2
20年前に書いた初作品、続きを投稿します。
”蒼き星”地上にある技術開発拠点、通称”白技”に戻ったアムは、恐ろしい状態に陥る。
数分後、超高速に打鍵をしていたアムが、ふいに手を止め船長神を見る。
「船長神、例の案を実行する為の準備はできました。ぶっつけ本番になりますが、自信はあります。」
しばらくアムを見つめていた船長神は頷き、その場にいる神々に指示する。
「進路を敵艦船に向けて最大加速を行う。総員着座せよ!敵の無線には一切答えるな!」
船内に警報が響き渡り、操舵室の全員が慌てて着座する。それからまもなく急加速が始まったが、輸送船の重力加減速制御装置では吸収しきれない加速感がアム、イフ、チータンを苦しめる。もともと加減速に耐性ある神々は冷静に操船を続けていた。
「船長神、まもなく軍艦の射程距離に入ります。」
船長神が頷いてからアムの方を向く。
「防御槍展開!」
「了解です。」
アムが何か操作すると、前方の大型表示盤に映った軍艦が背景の星空はそのままに見えなくなる。同時に加速度が強まったように感じられた。
「操舵神、現時点をもって指示あるまで僅かたりとも操舵してはならない。軍艦が転進しても無視だ。」
「了解!」
「輸送船魂を見せてやれ!」
その頃、軍艦の艦橋は騒然としていた。
「奴らおかしくなったのか?まっすぐ突撃してくるぞ。」
「おい、たった今輸送船が黙視出来なくなった。奴らの鼻先に変な場のようなものが出来て無いか?」
「あの輸送船には”重力の倦族”が乗っている。新兵器じゃないのか?」
そんな神々の様子を見てエンカンはいらいらしていた。あれが只の輸送船である事は間者の調査で判っていた。しかし軍神は諜報機関を軽んじる傾向があり、目の前の予期せぬ事態に自分の理由を見つけようとしていた。エンカンは隣の艦長席に坐るヌンイ神に丁寧な口調になるよう注意しながら話し掛ける。
「艦長、事前の調査からあれは只の輸送船と判っております。1発砲撃してやるか、正面からぶつけてやれば抵抗は皆無となるっす。人類の奇策に惑わされてはいけないっす。」
上位神に見えなくも無い貫録十分なヌンイ神はゆっくりとエンカンを見て答える。
「しかし、もし”重力の倦族”が未知の装備を持ち込んでいたらどうだ。砲撃を反射したり、正面から特殊な力場に突撃し、艦が瓦解しないと何故言える。衝突時の衝撃は先端の力場が吸収するのだぞ。」
そんな装備を積み込んでいない事はあり得なかった。しかし、現に目の前には見た事の無い現象が生じている。エンカンもこれ以上の反論ができなかった。エンカンの反論が無い事を確認すると、操舵神を見る艦長。
「やむをえん。進路修正、衝突回避せよ。」
上方の大型表示盤に表示された輸送船推定位置の輝点がすっと左に動いていく。これだけの速度ですれ違うと、転進して追いつくまでにはかなりの時間が必要になる。
歯ぎしりするエンカン。
すれ違いにざまに軍艦から発射された砲撃は当たらず、虚空に吸い込まれていった。悠々と離れていく輸送船。その頃、輸送船の操舵室では大歓声が上がっていた。
船長神に握手を求められて微笑むアム。
「いや~よく撃退できたものだ。あれはどのような原理で?軍艦が逃げていったと言う事は、かなりの脅威だったんでしょうか。」
アムが少しばつがわるそうに答える。
「軍艦が逃げたのは、正体不明の現象を短時間に実害無しと結論出来なかったからでしょう。」
船長神がおや?といった顔をする。
「事前の説明では自信たっぷりに絶大な効果を述べていましたが。では、あれは実際のところ?」
アムが頷く。
「詳細の説明は省きますが、特殊な重力制御により重力レンズを作り、光をねじ曲げただけです。防御槍なんて名ばかりのはったり。いや、あのまま突撃されなくて本当に良かったですよ。」
口をあんぐりと開ける船長神。背後の操舵神が椅子からずり落ちそうになる。
額を押さえて頭を振りながらつぶやくチータン。
「なんて神経太いのかしらぁ、アムさんは。」
すぐ横のイフが何か考えながら答える。
「・・・先を読み準備を怠らなければ、蟻も巨獣を倒す。」
チータンが首を傾ける。
「それは何ですかぁ?」
イフが微笑みながら答える。
「アムの好きな言葉よ。」
アムがあくびをしながら立ち上がり、イフの方へ歩いてくる。
「敵艦が転進して追いつくまでにはだいぶ時間的余裕があるよ。イフ、チータン。食事に行こう。」
立ち上がり操舵室を出る3人。
「そう言えばジョイジ神はどうしたんだろう?こんな危険な事態なら、操舵室に駆け付けてもおかしくないのに。」
食堂に向かう途中、ふいに思い出したアム。首をかしげるチータン。
「ふだんわ、危ない時は護衛対象から離れるなぁ!と激を飛ばすのに。変ですねぇ。」
イフはどうしてだか知っていたが、あえて黙っていた。
丁度食堂前に到着し、自動扉が音を立てながらがたがたと開く。
「このオンボロ輸送船で良く勝てましたよねって、うわぁ!」
食堂端にある机の上には、大量の酒瓶が散乱していた。
アムが驚きながら近寄っていく。
「これはいったい・・・」
空になった空き瓶の山の奥に、寝息を立てる何かがいた。
イフが小さな声で告げる。
「ジョイジ神ですよ。昨晩、ちょっとだけ私も一緒に飲んだんです。アムの昔話で盛り上がったんですよ。」
チータンがあきれた顔で首を振る。
「師匠。護衛が酔い潰れちゃだめっしょ。」
苦笑するアムとイフ。そっと近づくと、何やら寝言が聞こえてきた。
「・・・も・・・ね、大長老。今日くらいは祝いましょうよ。我々の子らが、結婚するんですから・・・ね・・・。」
寝言は収まり、再び寝息だけが聞こえる。今は亡き大長老と会っている所なのだろう。
「チータン、君がいるから大丈夫と判断したんだろう。今回は大目に見てくれないか?」
アムに言われてにこっと笑うチータン。
「はぃ。」
それからしばらくの後、”蒼き星”の守備隊3隻が救援に到着し、追尾接近中の軍艦は諦めて転進した。アムの機転が時を稼ぎ、輸送船を救う事となった。皮肉な事に、この出来事が益々アムの自由を奪う結果へと繋がっていくのだった
”蒼き星”地上にある技術開発拠点、通称”白技”に戻ったアムは、恐ろしい状態に陥った。昇進は予め予想していたが、言い渡されたのは”重力制御技術開発室”の最上位、室長だった。人類を市民として扱う”蒼き星圏”でさえ過去人類を役職につけた事は無く、あくまで神々の指揮だった。それがいきなり数百神を配下に持つ室長になったのである。アムには”白派”の神々がやけになったか、黒派への当て付けに思えた。
「失礼します」
室長拝命の辞令を受け取りに来るように言われ、新しい上司の部屋へ入るアム。
”白き神”直轄の”白技”は、統括室長である上位神”野の神”が属する統括室を頂点に、各技術毎の研究室が設けられていた。その”野の神”が目の前の机にいる。外から差し込む夕暮れの日差しが、広い額に反射して光っていた。初めて会うその神からは、働き盛りの若々しさと威厳が両立した不思議な印象を感じた。視線を机からアムに向けた”野の神”に対し、慌てて挨拶をする。
「始めまして、”野の神”。辞令授受のご指示に基づいて参りましたが、僭越ながら先に相談したき事があります。」
こう言う時は、話に流されないように先制しておくに限る。
嫌な顔をされるかと思ったが、意に反して”野の神”は楽しげだった。
「どうぞ。」
軽く咳をしてから話し始めるアム。
「まず、今回の過分な辞令を与えて下さった事、人類を代表してお礼申し上げたいと思います。人類の脳の働きが生み出す独特の技術に一定の評価をいただけたゆえの昇進である事も理解しています。しかし、室長は過分過ぎないでしょうか?」
アムはしばらく返答を待ったが、何も返答が無いので話しだす。
「黒派を刺激してはまずい状況下でもあります。また、人類ごときの指示を、部下の神々が受け入れるでしょうか?私など、神々の下で技術だけ良いように活かしていただければ本望です。」
しばらく流れる沈黙の時。気付くと日は暮れており、窓の外には月が光っていた。”野の神”が机の上で組んでいた手をほどき、ゆっくり立ち上がって窓辺に立った。
「神々は自らの種に誇りを持っている。同格の知性種を滅ぼしこの銀河を制覇、生物層の頂点に立った。不毛の惑星を命満ちあふれる惑星に改造する事も出来れば、星系丸ごと消滅させる事もできる。半永久的な寿命を持ち、誰もが際立った知性を持つ。全てを極めたがゆえに万物を司る存在、”神”を自称する。」
アムに目線を向けた後、”野の神”は続ける。
「そのような段階に達した”神々”は、原因は不明だがほとんど子供が生まれなくなった。それは神々が銀河に満ちた時期と一致する。さらに、寿命を迎えたり、”次の段階”へ進む者が徐々に増え、個体数は減っていくのに相変わらず子供が生まれない。何故だと思う?」
アムは判らず首を振り、話の続きを即した。
「なぜか。それは我々神々にも判らない。けれど減りゆく神々の穴埋めに知性種が必要となった。各星系に散った神々は、見込みのある動物を知性化して奴隷とし、その穴を埋めていった。皮肉な事に、我々は滅びの時を実感して初めて”新しい種族”を育てる事に目覚めたのだ。」
アムはある事に気付き、問うてみた。
「もしかしたら、黒派が人類に冷徹なのは?」
”野の神”が答える。
「人類には素晴らしい可能性がある。今はまだ未熟で未完成な存在だが、実子で血脈を継いでいき、文化で心を継いでいけば、神々の全てが”次の段階”に至る前に、人類の中から”次の段階”に至る者が出始めるだろう。残念ながら、誇りの持ち方を誤れば、後輩の昇進を素直に喜べないのだ。」
アムはようやく”野の神”が言いたい事を理解した。
「白派の神々は自己保身を超えた視点から、銀河を継ぐ者を育てたいと思っている。”正しい誇り”を持ち続けたい。そうなのですね?」
頷く”野の神”。
「そうだ。だからこそ、自らより優れた資質を持つ者を適職につける。それがかつて自らが知性を与えた猿だったとしても、上司にする。長く生きている者への敬意さえ忘れなければ、アムは立派に役目を果たせるだろう。」
アムは人類の後進を今まで自分のいた場所に引き入れ、第2、第3のアムを育てる、人類の地位向上を図れる立場に立てるのだ。しかしそれは、諸刃の剣だった。黒派の逆鱗に触れ、戦争のきっかけに自分がなるかもしれない。
そんなアムの戸惑いを察した”野の神”は、言葉を続ける。
「神々は自らの種に誇りを持っている。それは黒派も同じだ。猿を上司にしていると感じれば、彼らは決して全人類の存命を許さない。しかし、その存在が神々の不足を補う隣人だと気付いたら?」
確かにそれは大きな変化をもたらすだろう。しかしそれは本国の懲罰艦隊をも動かす危険性をはらんでいた。
「人類の能力は、それほどの危険に賭ける価値があると?」
首を振る”野の神”。
「それは違う。人類の能力に、ではない。人類に価値があるのだ。」
アムは首を傾げる。万能にも見える神々が、いったい何に価値を見つけたのだろう。
「それはいったい?」
にやっとしてから、”野の神”が話を続ける。
「当事者を前にして、子細は明かすまい。ただ、派閥を問わず人類の価値が認められつつある事は、先の事件からも明らかだ。そこで、この機会に黒派の良識派に人類を認めさせようと思うのだ。」
アムは、比較的受け身で穏健派が多い白派にしては、強引で積極的なこの案に大きな違和感を感じた。それは、この賭けに負けても何もしない場合と同じ、すなわち事態が最悪の方向に向かっていると言う事を示唆している。
ならば、ここは期待に答えるのが最善で、全力で事にあたるしかないだろう。
「判りました。謹んで拝命させていただきます。」
深々と礼をするアムに微笑む”野の神”。立ち上がってアムの近くへ行き、肩に片手をおく。
「期待している、頼むぞ。そう言えばアムは”結婚”するのだろう?奥さんの為にもがんばらなきゃな。」
僅かに赤面して頷くアム。
「はい。護衛の必要性から自分の助手として行動を共にするので、共にがんばります。」
頷く”野の神”。
「よし。明日は受付で自分の部屋が判るように手配しておく。今日は帰宅していいぞ。」
「判りました。今日はいろいろご説明ありがとうございました。では、失礼します。」
「あ、アム。今日の話は秘密だよ。漏れたら星系が無くなっちゃう。」
青い顔をしながら礼をして、部屋を出ていくアム。
扉が締まってから呟いた”野の神”の一言が、誰も聞く者がいない部屋に響き渡る。
「うまくやれよ、後継者よ。」
翌日、チータンの運転する移動機で”白技”に向かうアムとイフ。浮上式移動機を人類に支給するだけでも驚くべき事なのに、なんと護衛機が1機、後ろを随走していた。
「運転自体は得意ですが、後ろに神々の乗る護衛機がいるのは落ち着かないですねぇ。」
後部座席のアムが頷く。
「そうだね。人類を神々が護衛する時代が、自分が生きてるうちに来るなんて想像もできなかったよ。」
イフが笑いながら答える。
「まあ、好意は素直に受け入れましょう。じたばたしてもしょうがないです。」
イフの度胸がここまで坐っているとは。あの可愛かったイフはどこへ?そんな事をアムが考えているうちに、移動機が建物の前に停車した。後部座席を振り返ってチータンが即す。
「さあ、降りて下さぃ。移動機は自動で駐機場に行きますからぁ。」
そう言うやいなやチータンが飛び降りて、安全を確認している。チータンの合図に合わせて表へ出るアムとイフ。
「あれ?」
”重力技術開発室”と思って入ったが、どうやら間違ったようだ。自分が責任者となるのは5神くらいの小規模な開発室のはずで、こんな大きな部屋ではない。
そんなふうに考えながら一旦自動扉を出て表札を見る。しかし”重力技術開発室”と書いてある。今一度中に入って聞いてみる事にした。目の前には50神が坐れる座席が並び、その7割で神々が静かに仕事をしていた。その一番奥の中央にいた神がアム達に近づいてくる。
「アム室長とイフ、チータンですね?副室長のミソグ神です。ようこそ”重技室”へ。」
握手を求め手を差し出し、微笑むミソグ神。その表情からは、人類の下に就く嫌悪感などはまったく感じられなかった。アムは平常心を取り戻し、微笑みながら握手をする。
「アムです。ミソグ神、よろしくお願いいたします。」
後ろでイフとチータンが礼をする。ミソグ神が手振りで最奥の個室を指示し、歩き出す。途中、いく神かの神々と目が合うと、皆揃って笑顔になる。予想では、反感を持って睨みつける神もいると思っていたが、まったくいなかった。
ミソグ神が扉を開け入っていったのに気付き、歩みを早めて中に入っていく。
「ここは・・・」
「ここが室長の執務室です。50神を束ねる割に、狭くて恐縮ですが。」
アムは別の意味で恐縮した。
「いや、個室が与えられるなんて想像もしていなかったですよ。そもそも自分のような者は小規模な開発室から始まると思っていたのですが。」
ミソグ神が意外な顔をする。
「何故に?”重力の卷族”が成し得た高精度、高効率、小型の新重力制御装置は驚くべき物でした。私達技術神が室長に望むのは管理能力ではありません。己よりも数段上の技術力。成果の点でアム室長に不足はありませんよ?」
あっけにとられたアムは、一番知りたい質問をして見る事にした。
「では、誰が組織を管理するのですか?これだけの神々が好きな方向を向いては大きな事はできませんが。」
何かに気付いたように、ミソグ神が手のひらを拳で叩く。
「ああ、いきなりで多数の神々を統括できるか危惧しているのですね。大丈夫です。そう言う仕事は管理の専門家である私、副室長に任せて下さい。」
ミソグ神はアムの背中を押して室長席に坐らせると、机に片手を置いて話を続ける。
「技術と管理職の両方に長けた神は、いるにはいますが大抵能力は平凡な域をでませんし、両方に優れた神は僅か過ぎて足りません。ですが、片方に優れた神は大量にいるのです。そのなかから、目的に一番適した神材を頭に据えるのが、一番効率が良いのです。」
「なるほど。」
アムの府に落ちた顔を見て続けるミソグ神。
「今回は、神材限定だったのを人材も含めただけで、それ以外はなんら変わりがありません。種族差別を肯定する神はそもそも白派にならないので、”白技”にはいません。アム室長が注意すべきは他にあります。」
「それは?」
「それは、大きくは3つ。人格者であろうとする努力を忘れない事。重力制御技術で負けない事。地位に固執しない事。」
アムはなるほどと頷く。
「部下をまとめる求心力、技術の先を読む力が重要。より適する者がいれば自らの地位を譲る。ですね?」
ミソグ神が笑いながら答える。
「説明を受ける室長からより解り易い説明をされては、私の立場はありませんね。まあその通りです。」
アムはこの説明を聞いて、初めて大きな開発室の室長を担えると思った。
「そう言う事でしたらかえって気が楽ですよ。私が基本としている生き方ですから。簡単に置き換えられないよう努力し、少しでも長くお役に立ちたいとは思いますが。」
頷くミソグ神。
「結構です。では、現状をまず説明したいと思います。秘書のイフは一緒に聞いておいて下さい。チータンは扉の外で警備をお願いします。」
「はい。」
「はいぃ。」
こうして始まったアムの新しい生活は、5年の間順調に続いた。黒派の介入は一度もなく、黒派過激派も成りをひそめ、それがかえって不気味に感じられた。アムの人類組織は徐々に勢力を拡大していったが、人類を締め出している黒派中枢の情報はいまだ掴めないままだった。しかし、安定した時期であるのも確かで、仕事も軌道に乗った事もあり、アムは人生の一大イベントを決行する決心をした。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
誤字ご指摘/感想は読ませていただきます。お返事はしませんが、ご容赦を。




