5)結婚編1
20年前に書いた初作品、続きを投稿します。
アムを取り巻く環境は一変。
アムを奪い去るか、抹殺する為に派遣された黒派の軍艦が来訪。
結婚編5ー1
”白き神”との大旅行からもどると、アムを取り巻く環境は一変した。配属された”白き神”直轄の技術開発拠点、通称”白技”では即戦力になる人材として研修期間直後から”重力技術開発室”の重力制御機器改善班を任され、”木目の星”採取船の駆動系改良と採取装置新設計を指揮する事になった。黒派を警戒し、表向きは設計助手としていたが、”木目の星”での活躍談が黒派視察団の人類従者を通じて”緑の星”に知れ渡り、5年後の新型採取船試験航海の頃には黒派の神々にさえも噂されるようになってしまった。
”蒼き星”の”白技”に”重力の卷族”あり、と。黒派から軍への異動するよう圧力がかかったり、誘拐を試みる者が出たりと、個人的にも物騒な状況になり護衛が付くようになった。社会的には白派と黒派過激派の衝突が増加し、政情不安は増すばかりだった。黒派が牛耳る軍は心ある神々の働きもあり衝突の矢面に立つ事を決してしなかったが、大幅な軍備増強は止められなかった。対抗する”蒼き星”治安維持部隊も装備の強化と増強が進められ、軍隊と言っても過言ではない状態になった。もし黒派本体が衝突を始めれば、その時は双方の軍が激突するのは明らかだった。近代まれにみる激しい戦いが始まる、そんな予感に押しつぶされそうな時代。
「いや~どうしてもって言うのでね。二人で住むことにしたんだよ。」
映像通信の先には鼻を伸ばしきったたタムと彼女の姿があった。
アムは親友ののろけ話を延々と聞かされ、閉口しつつも、幸せそうな姿に嬉しくも思った。”蒼き星”人類の間に、永く連れ添う相手を選び同居する習慣が始まっていた。白派の神々もそのような習慣を”結婚”と呼び歓迎した。市街の外れに他人数で住むのに適した家が用意されると、その流れは加速していった。
タムの話は続く。
「でな。1年過ぎたら、子供を縁組してもらおうと思ってる。」
「タム、いきなりか?二人暮らしを満喫しないんだ。」
「俺の仕事場、動物園にいる動物達がな、親子仲睦まじくてとっても幸せそうなんだよ。俺はこいつとの子供が欲しいが、人類は子供が造れないから、新制度を利用するんだ。」
新制度とは、人類の夫婦が幼年期の子供を引き取り育てる制度だった。希望者には相性の良い子供を縁組してくれる。イフと結婚できたなら、同じように子を持ちたい、そんな風に思うアムだった。
「まあ幸せなのは何よりだ。結婚披露宴にはもちろん行かせてもらうよ、タム。」
「ありがとう。俺達の誇りである”重力の卷族”に出てもらえるなんて。最高だ。」
苦笑いするアム。
「そんな皮肉言うなよ。その仇名のせいで一人で外出できなくなった。」
心配そうな顔をするタム。
「そんなに危険なのか?」
笑顔になるアム。
「誘拐されそうになったけど、頭の中身に用があるそうだから、殺される事は無いよ。」
表情を緩めるタム。
「そうか。働き場所がどこになっても、生きてさえいれば、な。」
「ああ。」
でも、戦争が始まったら、兵器の性能を上げかね無い自分は真っ先に暗殺目標となるだろうな。そんな本音はおくびにも見せずに微笑むアム。タムに寄り添う彼女が僅かにタムの横腹をつつくのが見えた。
「あ、そろそろ新居の下見に行く時間だ。悪いな、休日の朝に長話で。」
手を振るアム。
「いいんだ、行って来い。最近は物騒だから、いざとなったら彼女の盾になれよ。」
手を振り返すタムと彼女。
「判っているよ。アムこそ早めにイフと一緒になれ。戦闘に必要な希少物質供給源”木目の星”は、黒派もまっさきに押さえるはずだ。急がなければ2度と会えなくなるぞ。」
真剣な顔で頷くアム。
「判ってる。新型採取船引き渡し前の最終試験は、自分も同行する予定だ。”橙の神”にはその時にイフを連れて帰る許可をもらうつもりだ。」
微笑み片手を上げるアムとタム。
「それがいい。がんばれよ、アム。」
「ありがとう。タム達もな。」
「さようなら、アムさん。」
消えた画面を見つめながらつぶやくアム。
「そうは言ったけど、”橙の神”は応じて下さるだろうか。何より、イフは同意してくれるだうか・・・。」
不安な気持ちになるアム。
アムの部屋の扉に寄りかかりつつ、吸盤のような物を付けている男。その顔はま深にかぶられたつばの広い帽子に隠されて見え無いが、口元はにやりと笑っていた。
「おまえの夢。打ち砕いてやる。」
そう小さく呟くと、吸盤を懐にしまって扉からそっと離れる。
廊下の向うからアムの護衛チータンが歩いてくる。毛深いが比較的アムの世代に近い人類だった。男はすれ違おうと端によるが、チータンは男の不振な挙動を見逃さなかった。
「ちょっといいですかぁ。今そこの扉に張り付いていませんでしたかぁ。」
帽子で顔を隠したまま、何もしゃべらずに顔を左右に振る男。しゃがれた小さな声で話し掛ける。
「いや、年のせいで疲れやすくて休んでただけっす。」
はっとするチータン。
「っす?まさか!」
「しまった、口癖が!」
突然チータンに正拳突きを入れる男。とっさに避けながら蹴り上げるチータン。そこから激しい打突の攻防が始まる。目にも止まらぬ速さで応酬する二人。とうとう男が押され帽子が吹き飛ぶ。男が反撃の拳をチータンの顔に叩き込もうとするその瞬間。男は相手が誰なのか気付いた。
「チータン・・・おまえか!」
顔面の手前で止まった手を避け男の溝落ちに拳を叩き込むチータン。
「そうよ、エンカン。貴方の元恋人よぅ。このど阿呆!」
ひるむエンカンの首に手刀を叩き込むチータン。そのまま首に手を回して抑え込む。苦しそうにしながらも声を絞りだすエンカン。
「つ、強くなったな。格闘で俺が押される日が来るとは思わなかった。」
少し涙ぐむチータン。
「何故これだけ強くなったか想像できて?エンカン。もう貴方を越えたわ!」
口元を歪めるエンカン。
「一つ教えてやる。相手の意識を奪い拘束するか、殺すかするまでは油断するな。お前は強いが人が良すぎる、護衛なんか向いて無いからヤメロ。」
怒りに顔を紅潮させるチータン。首を絞めていっきに落とそうする。その時エンカンの胸元から転がり落ちた玉が、猛烈な勢いで煙を噴出させた。呼吸を乱され一瞬ひるんでしまったチータンから首を外して無げ飛ばすエンカン。受け身が間に合わず壁に激突し倒れこむチータン。
「ぐ!」
「白派から去れ。あの男と共にいるなら・・・お前も、殺す!」
後ずさりの後、走り去るエンカン。煙にむせながら壁に手をつき立ち上がるチータン。右足を挫いており、膝から崩れ落ちる。
「きぃ!」
気合を入れ立ち上がると、袖に仕込んである通信端末を深く押す。背後で侵入者警報が鳴り響くなか、仁王立ちするチータン。
「エンカン、許さないぃ!」
誰もいない廊下を見つめるその目は、りりしい声とは裏腹に悲しげだった。
宇宙を高速で飛翔する青い水滴があった。後に、白軍主力戦艦の原型となる新型採取船”水滴”。推進機構、希少物質採取機構、重力慣性制御機構の小型化と安定化により、旧型採取船と”同等”の性能を発揮しながらも体積半分以下の小型化に成功。それもわざわざ”同等”になるように出力上限を抑えてあり、緊急事態のみ船長がその真の能力を解放できた。今はその能力も封印され、本来不要の星間輸送用補助機関3機をわざわざ取り付け航行していた。
それだけの能力を持つ新造船を黒派占領下になり得る”木目の輝き”に送り出す事は白派上層部でも意見が割れた。そこで、解析妨害装備、分解時自壊装置、船長権限で稼働する自爆装置が組み込まれる事になった。
司令室は費用を抑える為に旧型船の基本設計を流用してあり、見た目は変わらなかった。唯一変わったのは補助制御装置席である。船体心臓部の実質開発者であるアムを回りの神々は主制御装置席に坐らせようとしたが、アムはそれを固辞しつづけた。あくまで主制御は神が行うべきであるとして、開発中も試験中もアムは一貫して補助制御装置席に坐った。しかし技術神よりも速く適切に膨大な処理を機械に指示できるので、神々が徐々に補助席を強化し、いつしか主制御装置よりも高度な物になっていってしまった。安そうな椅子がなければ、誰もが補助制御装置席の方を主制御装置と思っただろう。そんな座席に、眼つきが鋭い不機嫌そうなアムが坐っている。”白き神”の指示で同乗したジョイジ神が近づいてくると、かろうじて笑顔になったアム。
「おはようございます、ジョイジ神」
にやっと笑うジョイジ神。
「なにぶっちょうずらしてるんだ。回りの神々が困ってるぞ。」
はっとして回りを見回すアム。目があった同僚の若い技術神がびくっとして無理に笑顔を作る。アムも無理に笑顔を作ると、ジョイジ神に顔を向ける。判ったか、といった顔のジョイジ神。アムは常に神々を上位者として接するが、若い神々の中にはアムを師と仰ぐ者まででてきた。若いと言っても生きてきた年月は比較にならない程長い。人類を対等以上に見てもらえる時代の訪れを喜びながら、そんな状態を絶対に許さない黒派の暗躍を思い出し、複雑な心境だった。ジョイジが言葉を続ける。
「まあ気持ちは判る。あれは酷かった。」
先日、黒派再三の誘いにも中立姿勢を崩さない”木目の輝き”に対し、恫喝目的で人類宿舎一角が爆破されたのだ。黒派からの誘いを断った当日夜に起こった事件で、かつ入手の難しい新型爆薬が使われた事から、犯人はおのずと絞られた。
「映像や残留物から、犯人と思われる男は毛深い人類だったそうです。同じ人類が、多数の同朋を爆殺するなんて・・・。」
その時、ジョイジ神ははっと気付いた。
「まさか・・・」
「はい、まだ生存が確認できていません。イフは行方不明です。」
「そうか・・・心配だな。」
「はい。」
アムの心は荒れ狂いそうだった。愛しい人が爆殺されたかもしれないのに平静でいられるはずもなかった。しかし、人類の地位向上に直接繋がる役割を確保した者の責務として、取り乱す訳にはいかない。深呼吸を何度か繰り返すと、見た目はいつも通りののほほんとしたアムに戻った。
それを見ていたジョイジは、頷いてからアムの肩に手をおく。
「そうだ。指揮系統の下位者は、上位者から言葉と言葉以外の何かを常に読み取ろうとする。上位者が一番してはならない事は、不機嫌を態度に出す事だ。それを続ければ、皆病んでしまう。物事に動じない精神を、常なる平常心を獲得するよう努力するんだ。」
アムは反論しようとジョイジに向き合うが、それを制してジョイジ神が続ける。
「判ってる、神々の下人類は平等、上位も下位も無いと言うんだろう?しかし時代は変わりつつある。俺が命がけで守ってやるから、目指してみな。そのような立場を。」
いつになく真面目な顔で話すジョイジ神に何も言えなくなるアム。まだこの航海限定で護衛を務めていたジョイジ神は、この時すでにアムを護る事を己の使命と決めていたのだろう。後に人類を護る初の護衛神になるジョイジ神を知らないアムは、只複雑な想いで見つめるしかなかった。
”木目の輝き”に到着したのはその夜、現地時間で夜中だったが”橙の神”は港へ出迎えに来ていた。いつも通り余裕を感じさせる表情だったが、話し始めると何か得体の知れない圧力を感じさせた。
「やあ、アム。良く来てくれたな。そして・・・すまなかった。俺が不甲斐ないばっかりに多くの人類を死なせてしまった。」
首を振って答えるアム。
「いえ、貴方がどれだけ優秀でも、過激派の攻撃を完全に防ぐ事は困難でしょう。彼らは攻撃と暗殺を生業としているといって過言ではありません。」
床に目をやって答える”橙の神”。
「それでも、断り続ければいつかこうなる事は予測できたはずだ。甘かったんだ。もう、あいつらとは2度と会えないって言うのに。」
横で聞いていたジョイジ神が呟く。
「衛星の人類で一番優秀な、”橙の神”が直接教育していた者達の宿舎が狙われたんだ。8名が死亡し。1名が意識不明の重体、1名が行方不明になった。」
しばらくの沈黙の後、”橙の神”が目線を船に向けて言葉を続ける。無理やり気分を切り替えたのか、話しぶりはいつも通りに戻った。
「これがアムの造ってくれた新採取船か。随分小さくなったが美しい形だ。気に入った、ありがとう。」
笑顔で礼を言う”橙の神”に照れるアム。
「いや、自分が関与したのは一部分で。ほとんどは優秀な神々と働き者の同朋が成した仕事ですよ。」
「何を言うか。その革新的な一部が無かったらこの船は無かったと聞くぞ。謙遜は無しだ、”重力の倦族”よ。」
そう言うと大声で笑いながらアムの背中をばんばん叩く”橙の神”。アムがはぁとため息をついて”橙の神”を見ると、穏やかな笑顔で頷いた。
「そう言えば大事な事を言い忘れた。」
白く長い廊下を走るアム。すれ違いの看護婦に注意され謝りつつも走り続けるアム。個室707と書かれた自動扉の前で転びそうになりながら急停止して、扉を開ける。
室内の寝台には上半身を起こし壁に寄りかかる少女がいた。肩には上着をかけ、両腕には痛々しい包帯が巻かれていたが、頬は赤く元気そうだった。
「あ、アム?!」
駆け寄ってそっと抱きしめるアム。
「良かった、イフ。良かった・・・。」
思わず涙を流すアムを、包帯でうまく曲がらない両腕で抱きしめるイフ。頬はそれまで以上に赤くなった。
「アム。また会えてとっても嬉しいわ。」
「僕もだ、イフ。大好きな君にもう会えないかと思った。」
「心配してくれてありがとう、アム。でもね。」
「でも?」
「できたら、冷静に回りを見回して欲しいの。」
はっとして回りを見回すアム。医療神と看護婦、扉の外からはイフの友達と思われる女性3名がぽかんとした顔で自分達を見ているのに気付く。顔が真っ赤になるアム。
「こ、これは失礼しました。」
ごほんと咳ばらいして医療神が話す。
「・・・続けて良いかな?大きな怪我は無いようだが、瓦礫の下に埋もれていたんだ。精神的な負荷も軽視できん。しばらく入院して様子を見たまえ。私からは以上だ。」
「ありがとうございました。」
礼をするイフとアム。
医療神と共に表に出て行く看護婦が、面会謝絶の札をアム達にちらっとみせてから片目を閉じる。扉が閉じる間際に手を振る友人達の姿が一瞬だけ見えた。イフの方に振り返るアム。
「どうやらイフは面会謝絶の重病人になったみたいだね。」
両肩を上げて同意するイフ。ふたたびそっと抱きしめてから口づけするアム。
「きっと生きてると信じていたけど、生きた心地がしなかったよ。」
アムを抱きしめかえそうとしても両手が思うように曲がらず、諦めて両手で挟みこむイフ。
「私は助けられる直前までずっと意識が無かったからましだったわ。でも、寮の皆は大丈夫かしら?」
一瞬辛そうな表情になったが、その顔はイフからは見えなかった。抱きしめた手を緩めてイフに向き直るアム。
「えっと・・・さっき衛星に到着したばかりで、詳しくないんだ。」
イフの表情が一瞬陰ったが、すぐに寛いだ表情に戻った。勘の鋭いイフはアムの僅かな躊躇から真意を読み取ってしまったが、怪我人に知らせまいとする気持ちを無駄にはしたくなかった。
「そう・・・。ところで、新採取船はどんななの?私も中身を見せてもらえるかしら。」
笑顔で頷くアム。
「大丈夫だよ。自分も真面目な仕事ぶりが認められて、神々に評価してもらっているんだ。お願いすれば許してくれるよ、きっと。」
微笑むイフ。続けるアム。
「そして・・・もう一つ”橙の神”にお願いしようと思っている事があるんだ。それはイフに関係がある。」
首をかしげるイフ。
「それは何?」
「・・・イフの勤務地を”蒼き星”に変えてもらうのさ。」
緊張しながらもイフの両手を包み込むアム。
「一緒に”蒼き星”へ帰ろう。そして、結婚しよう。」
しばらく唖然としたあとに、満面の笑顔になるイフ。
「うん。」
「やった!」
「おめでとう!許可しよう!」
大喜びでイフと抱き合うアム。しかし今祝福してくれたのは誰だ?
「おめでとう?」
入り口の方に振り向く二人は唖然とした。いつの間にか扉が開いており、”橙の神”、ジョイジ神、イフの友人達が中を覗き込んでいた。慌てる二人。
「い、いつから聞いていたのですか?」
「な、な、何故神々が?!」
”橙の神”が笑いをこらえながら答える。。
「勤務地を変える・・・あたりからかな。イフが面会謝絶な訳無いが、寝てるといかんのでそっと扉をあけたら・・・」
ジョイジ神が続ける。
「二人の世界に漬かりきって我々など眼中に無い、君達がいたって訳さ。」
イフが照れを隠した怒り顔で言う。
「神々が盗み聞きなんて。恥ずかしくないんですか?」
”橙の神”が頭を掻いて困っている。
「それはすまなかった。まあ、採取船見学も、”蒼き星”へ引っ越す件も許可するから、大目に見てもらえないか?話が早く済んで良かっただろ?」
アムとイフは両手を取り合って喜んだ。そこでふとイフは気付いてしまった。
「採取船の話って・・・勤務地の話より前じゃないですか。いったいいつから聞いていたんですか?」
ジョイジ神の後ろにいたイフの友達が、隣の友達に小さな声で呟いた。
「扉を閉めた直後から、壁に張り付いてたよね。」
その一言をイフは聞き逃さなかった。イフの表情が恐ろしい形相に変わる。じりじりと後ずさりしてから、廊下に走り去る神々。
「すまん。」「お大事にな~」
扉がゆっくり締まり、唖然とするアム。
「神々の威厳はいったいどこへ・・・」
くすりと笑うイフ。
「男神も男も、いつまでも子供っぽさを残すのは一緒なのね。」
イフを見て苦笑いするアム。
その後、厳戒体制で行われた新採取船最終試験航海も無事に終わり、アムの仕事は全て終わった。イフの送別会にも同席したが、神々までおしかけて結局最初の結婚披露宴と化してしまった。現地の男達から多くの祝福を溝落ちにいただき、イフの人気を体感するアム。その日は、同じ部屋に住む権利を始めて行使したが、二日酔いで倒れたアムを元気なイフが世話するだけに終わった。
翌日、多くの神々と人々に見送られ、”蒼き星”行きの輸送船に乗船したアムとイフ。汚いがそこそこの広さを持つ部屋で、蜜月小旅行を楽しむはずだった。しかし、その部屋には不満顔で寝転ぶイフだけがいた。
「まったくもう、婚約者を放置して何やっているのかしら。」
神々は結婚しない為、結婚という制度は手探りで作り出されている最中だった。この時点では、新郎新婦が雇用主から直接了承を得る事が、夫婦と認められる唯一の条件だった。”白き神”にはイフを呼び寄せる了承をもらうも、結婚の了承はまだだった為、アムとイフはまだ夫婦では無かった。
「よいしょっと。」
寝台からそっとおりて、挑発的な透き通った寝巻を椅子に引っ掛けると、足元の旅行鞄から服を出して着替えるイフ。鏡を見て衣服の乱れを整え、軽い足取りで部屋を出ていく。
輸送船の操舵室を開けると、予想通りアムがいた。
採取船と同じく補助制御席に陣取り、近くに立つ船長と雑談しつつ制御盤に制御言語を入力している所だった。
笑う船長に何か言おうと振り返った時イフの存在に気付いて、微笑みながら手を振るアム。
「やあ、イフ。」
イフに挨拶すると、自席に戻っていく船長神。
挨拶を返すと所在無げにアムの近くに歩いていくイフ。
「乗客がこんなところへ来ていいの?」
操作盤を叩く手を止めてイフに向き直るアム。
「うん、船長神の許可を得てこの船の制御機構を手直ししているんだ。この形式の輸送船は10年に1回程大事故を起こしているんだけど、原因は制御機構にあると以前か思っていて。」
イフは一番の疑問をぶつけてみる事にした。
「それは、私と居るよりも大事な事?」
口を開けたまま固まるアム。
「そ。それはもちろんイフが一番大事だよ。この船が事故を起こさないようにするのは君の為でもあるんだ。それに・・・」
「それに?」
「自分の予想が確かなら、もう一つ備えておかなきゃならない。」
イフは怪訝な顔をする。
「それはいったい?」
「今はいえないんだ。それも、あと少しで終わるから、そしたら一緒に昼食をとろう。」
そう言うとアムは再び操作盤に言語を入力しはじめる。やがて興が載ってきたのか、打ち込みの速度が早くなる。イフは一息ため息をついてから、部屋へ戻ろうと操舵室の出口に向かう。その時。航路を観測していた操舵神が大きな声で報告を始めた。
「船長神、前方に識別信号無しの高速艇を発見。本船の至近距離を通過する航路で接近中。」
船長神は一瞬だけ怪訝な顔をしたが、次の瞬間大声を出してアムを見る。
「まさかあれが?」
アムは制御盤から一瞬だけ目を離して船長神に告げる。
「識別信号も可視光標識も無い。間違い無いでしょう。白派拠点への支援要請を行い、後は段取り通りに。」
アムはそう言うやいなや、いままでも十分高速だった入力速度を、目に止まらないほどの速度に上げた。
頷いてから船長神が操舵室の神々に次々と指示を飛ばし始める。
噂では聞いていたが、実際にアムの見解で判断を決める神を見て、目を丸くするイフ。
「いったいあれは・・・」
呟きが聞こえた船長神は一瞬だけイフの方を見る。
「あれは、アムを奪い去るか、抹殺する為に派遣された黒派の軍艦だろう。」
丸い目をますます丸くするイフ。たった一人の人類を手に入する為に、高価な軍艦と燃料を使うなんて。何かの間違いとしか思えなかった。
船体の隔壁を閉じていた副操舵神が片手で耳を押さえながら振り返る。
「船長神、正体不明の艦船より入電。”輸送船につぐ。直ちに停船し、搭乗している人類と積み荷を引き渡せ。神々の安全は保証する。指示に従わない場合は機関部を破壊させていただく。”と。変な訛りのある話し方でした。」
まさか、といった顔でアムが問いかける。
「言葉の語尾に”何々っす”。そんな訛りじゃなかったですか?」
副操舵神が驚いた顔で答える。
「その通りです。」
ため息をついて肩を落とすアム。その時うしろで何やら呟き声が聞こえてきた。
「エンカンの野郎メ!」
アムが振り返らずに答える。
「チータン、女の子がそんな言い方だめだよ。」
アムの後ろには、いつのまにか護衛のチータンが立っていた。
「アムさん、やっちゃって下さい!」
アムはしょうがないと言わんばかりに答える。
「判ってる。彼は黒派の犯罪を隠蔽する為に人類の大犯罪者として前面に出されている。人類の為に、彼の為に・・・叩きのめす!」
珍しく感情的なアムに驚きながらも、イフが問いかける。
「アム、小型とはいえ軍艦よ。輸送船の障害物除去用火器で損害与えられるの?」
「傷も付かないね・・・。」
イフには、操舵室には無言の危機感がひしめいているように思えた。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
誤字ご指摘/感想は読ませていただきます。お返事はしませんが、ご容赦を。




