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4)成人編17

20年前に書いた初作品、続きを投稿します。


白き神の、人類への願いを知る、アム。

 ”木目の星”と次の寄港地である”土の星”は丁度近くを通過していた為、移動に要した時間は比較的短かった。

 その航行中の間、ずっと考え事をしていたアム。頭の中はイフの事、イフの笑顔で一杯だった。船の運航を手伝う手際の良さから巡航中の操舵を任されたりするなど、勉強や経験も深まり、実りの多い航海だった。にも係らず、ふっと時間ができれば考えるのはイフの事ばかり。二人の距離が離れていくほど、その気持ちが強まっていくのだった。

 そんな日々も目的地への到着でようやく終わりを告げた。


 この星系で2番目に巨大な星、”土の星”。”木目の星”採取が軌道に乗った後、次に開拓される予定の星。衛星都市は無いが居住可能な海洋衛星”紺曜月”を持ち、その上に小都市”大いなる亀”、通称”大亀”を建造、予備調査の拠点としていた。そこに、ゆっくりと”白き船”が近づいていく。

”紺曜月”面の大気組成は”蒼き星”に近づけられており、呼吸機無しで生存可能であった。活発に活動する核の恩恵で真冬程度の気温は維持できていたが、太陽光が弱い事もあり、”大亀”の外側に草木を植えても人工太陽光を照射しなければ育たなかった。そもそも陸地が極僅かなので、”大亀”のような人口の陸地が無ければ住む事も適わなかったが。その”大亀”上にある、宇宙港に静かに着地する”白き船”。船体下部が開いて大きな斜面が降り、そこから移動機が出てくる。


「ここが”大亀”ですか。」

 アムが興味深げに外を眺めていると、突然10本の巨大な機械腕が動き出し、宇宙船をしっかりと押さえつけていった。

「大変です、船が飛べないように抑え込まれてしまいました!」

 その場にいた一同が皆笑う中、オンデ神が答える。

「アム、それは違うよ。落ちないように固定してるんだ。」

 たしかにこれならひっくり返っても落ちないだろう。しかし嵐を凌ぐにしては、強固に過ぎる。

 アムが納得していないのを察し、ジョイジ神が話す。

「これには意味があるんだ。運が良ければ滞在中に何故か判るよ。」

「そうですか。」

 そう言われるとそれ以上聞くわけにもいかなかった。

 それにしても。ここは都市にしては静か過ぎる。待っても一向に迎えが来る気配が無い。いったい何故だろうかと頭を悩ますアム。ジョイジ神が伸びをしてから、皆に声をかける。

「こんな所で時間をつぶさないで、早く皆に会いに行きましょう。」

 ”白き神”が頷く。

「そうだな。」

 一向は宇宙港に隣接した壁面にある扉に向かって歩き始めた。


 建物の内部は衛星都市のように巨大な空洞になっていた。都市は円形になっていて、中心に行くほど階数が多くなっている。扉のすぐ内側に屋根無しの車両が何台かあった。床にも車両にもうっすらと埃が積もり、久々の訪問客である事が感じられた。聞けば、地上の出入り口はここしかないらしい。納得すると共に、何かがひっかかるアムであった。

 十分な検査の後、一行は1台の車両に乗車して発進した。大通りには商店らしき造りの建物がならんでいるが、どれも使った形跡は無く真新しかった。車両の走る音以外はまったく音が聞こえず、アムは益々混乱した。

「この都市の住人はどこにいるのですか?皆はどこに?」

 同乗していた”白き神”が答える。

「皆にはもうすぐ会える。事前に聞いた話では、街はもう大騒ぎだそうだ。」

 背後では相変わらず静寂が支配している。

「”白き神”、この月には”大亀”の他にも都市があるのですか?」

「いや、”大亀”しかないぞ。」

 アムは益々混乱した。大騒ぎするだけの神や人がいるのにまったく使われた形跡の無い都市。出入り口に積もった塵。ところどころに神々の秘密を予感させる不思議な建造物がかいま見える。もしかしたら、ここは墓などの宗教施設なのかもしれない。だとすると住人は幽霊か?

「都市中心部についたぞ。ここからは徒歩だ。」

 同じく同乗していたオンデ神に即されて、降りる一行。

 アムは中央の一番大きな建物が防音の大宴会場と予想したが、入ってみると静寂が支配する何も無い伽藍堂だった。建物の壁面上方には色とりどりの透明な窓がはまっており、寂しげな空間を僅かに華やかにしていた。

「しばしお待ち下さい。」

 そう言うとオンデ神が部屋の中央に進み、携帯式の情報端末で何やら操作している。すると、床から四角い棒がせりあがってきた。どうやら何かの制御装置らしい。

「お待たせしました。”責任者”からは危険無い事が確認済みなので早く来て欲しい、と事付けがありましたよ。」

 うなづく”白き神”。

「もう待ちくたびれて、飲み始めているだろうな。行こう!」

 そう言うと笑顔で中央へ進み出る”白き神”。続くジョイジ神とアム。全員が中央に集まった瞬間、すっと床が下がり始める。

 そして、昇降機が下層に達して全てが明らかになった。

 歓声。ばしゃばしゃと水の跳ねる音。装置類が置かれた陸地にが点在する大池とそれらを繋ぐ河。池に浸かった群衆全員が上から降りてくるアム達をみつめている。

 皆、裸と間違えるような薄手で密着した服を着ている。

「あれ?」

 最初は人類かと思ったが、近づくにつれ明らかな違いがある事に気付いた。顎の左右に細い穴が空いていて、手足の指には水掻きがついている。男達の皮膚は硬い鱗のように見えた。

 あむの怪訝な顔を見て、”白き神”が説明をしてくれた。

「彼らは亜人類、海人魚と海人だよ。初期に造られた腰から下が魚の形になっている者が海人魚、後期に造られた人類と同じ足なのが海人だ。」

 横からオンデ神が補足する。

「ちなみに彼らは人と呼ばれるのを好まない。海人魚は”深海の民”、海人は”浅瀬の民”と呼ばれたがる。間違えるなよ。」


 高い天井から島に降りた昇降機を、取り囲む海人と海人魚達。皆とても嬉しそうだ。そのなかから、特に背の高い

 海人が歩み出て深々と礼をする。

「ようこそおこし下さいました、白き神。私が海の民を、取りまとめている”責任者”、ノジュールでございます。ハイドロールの、孫でございます。」

 白き神が懐かしそうに目を細め頷く。

「そうか、ハイドロールも立派な子孫を残したようだな。それは何よりだ。」

 それを聞いてアムはぎょっとする。神々がまったくいないこの月で、どうやって世代交代しているのか。そんなふうに思っていると、ハイドロールがまさに知りたい事を告げる。

「数百年ぶりの神々に、歓待の宴を用意しては、おりますけれど、まずは、連絡があってから、今日までに生み落とされた、子供達に名前を、付けていただけませんか。」

 頷く”白き神”。

「判った。その砂浜に親子で並ぶようにしなさい。」

 ハイドロールが独特の言葉で指示すると、砂浜に父と母、その子が一列にならんだ。白き神は前に出て、端から順に名前を付けていく。アムは思わずオンデ神に問いかける。

「どうして・・・彼らは自然出産できるのですか?あれだけの知能を持っていたら、黒派から断種の圧力があってもおかしくは無いのでは。」

 オンデ神がアムに向き直ってから答える。

「かれらは公式には存命しているはずはない種なのだ。」

 アムが黙っているとオンデ神は続きを話した。

「この月は、将来の”土の星”開発拠点であると共に、神々の保養地になる予定だった。その目玉として創り出されたのが海の民だ。水の都の観光資源であり奴隷だったのだ。」

 頷くアム。続けるオンデ神。

「しかし、星系開発が思うようにはかどらなかった為、優先順位が下げられたこの地は開発途上で放置され、海の民は海に捨て置かれた。」

 ふいに、真後ろから聞きなれない声がかかる。

「その我々に、自力で生き延びる為の技術援助と、”遺伝子設計の誤り”をもたらしたのが謎の神々なのです。誤りによって偶然、自然出産の機能がもたらされたのです。

我々は、その謎の神々に心から感謝していますよ。」

 アムが振り返ると、そこにはハイドロールが立っていた。

「ハイドロールさん、始めまして。アムと申します。」

「アムさん始めまして。この地が放置されてから、人類が訪れたのは初めてですよ。よく来て下さいました。」

 そう言ってアムの両手を水掻きのある手で包み込みハイドロール。濡れた手は冷えていたが、不思議と暖かな気がした。

 オンデ神が微笑む。

「ハイドロール、元気そうだな。すでに気付いているな。」

 頷くハイドロール。

「オンデ神もお元気そうでなによりです。気付いてますよ、我が一族の未来がかかった事ですから。しかし、そこまで認められた事が、それを紹介しておく必要を感じた事が、喜びと不安を感じさせますよ。」

 一人なんの話か判らず戸惑うアム。ハイドロールが微笑みながらアムの肩に手を置く。

「我々は自力で航行する術を持ちません。黒派に見つかったら断種されるか、よくて出産機能を止められ人工出産に切り替えられるか、です。自然災害として月が破壊されたら、助けが来るまでこの都市に避難し浮遊するしかありません。」

 頷くアム。しかしハイドロールは何がいいたいのだろうか?

 ハイドロールが続ける。

「我々海の民は自然と共に生きる民。良くも悪くも科学技術を多用しません。いや、できないのです。事ある時は、地上を歩く者の保護が必要なのですよ。」

 そこまで聞いて、アムは愕然とした。

「神々は、海の民の保護を人類が担う日が来るかもしれないと思っているのですか。」

 アムは命名を続けている”白き神”に目がいってしまう。それはどのような意味なのでしょうか?神々が面倒を見れなくなる事態を想定しているのでしょうか。オンデ神がアムの背中を叩きながら笑う。

「ありえるだろ、神々の下で仕事として海の民を助けるとか。あまり申告に考えなさんな。」

 苦笑いするアム。


 それからまもなく歓迎の宴が始まったが、海人も海人魚も飲み始めるとすぐに酔っぱらい出した。ジョイジ神は海人魚の女性を口説くのに一生懸命だった。海の民はずっと自分達だけで過ごしているせいか、神々の言う事を絶対とは思っていない。それゆえに容易には口説けないし、一方的な命令にならないのでジョイジも安心して口説けるのだった。アムは逆に、海の民に言い寄られて大変だった。

「いや、自分は他の星に大切な人が・・・」

「そんな事関係無いわ。」

「旅の恥はかき捨てって言うじゃない。」

「ほら、あそこの岩場に行きましょう。」

 ”白き神”は海の民と酒を酌み交わして大いに笑っていた。

 オンデ神はハイドロールとその部下達になにやら秘策を授けているようだった。真剣な男達がいっせいに頷づいている。アムは誰も自分に注意を向けていない事に気付き、さりとて声を上げるにもいかず、海人の女性達に引っ張られていった。


 明け方。ほとんどの者は酔い潰れ、寝ている。ジョイジ神はうまくいったのか、幸せそうな顔で美しい海人魚と抱きしめあって寝ている。”白き神”もうなだれるように寝ており、オンデ神だけがその近くで坐って周囲を警戒していた。

「ジョイジめ、次の寝ずの番はおまえだからな。」

 そう言ってから、うつらうつらし始めるオンデ神。

 この月では自転と”土の星”との位置関係で、明るさを1日の基準にはできなかった。海中では村ごとに設置した海中の”時計太陽”の明るさで生活していた。この”大亀”下層も天井にある”時計太陽”で昼夜が創り出されている。くしくも内外共に明け方であったその時。下層の巨大な空間に警報が響き渡る。

 海人の女性2人に抱きつかれ、一人に足を抱え込まれたアムは、はっとして体を起こそうとするが失敗して倒れこむ。

 今度はまとわりついた手を解いて、ようやく起き上がる。

「”白き神”、オンデ神、ジョイジ神、大丈夫ですか?」

 神々は起きて集まっていた。黙っておいでおいでをするジョイジ神。近くにアムが来るのを待って説明する。

「情報端末によれば、高速で飛翔する物体が月に近づいています。巨大隕石と思われ、落下予測地点は”大亀”中心部。着弾まであまり時間もありません。」

 ”白き神”が平静に答える。

「急だな。」

 背後では海人も海人魚ものろのろと起き上がって水の中に入っていく。オンデ神が両手をぱんと叩いてから話す。

「時間も無いし、手近な装置にしっかりと掴まりましょう。」

 頷く”白き神”とジョイジ神。きょとんとするアムを置いておのおの装置や制御盤にしがみつく。

「くるぞ!」

 誰かがそう叫んだと同時に、もの凄い勢いで動き始める”大亀”。アムは加速に耐え切れず、反対方向に転がっていく。

「うあ”~」

 ざぶんと池に落ち、ようやく止まるアム。水中で周りを見回すと、そこは巨大な水槽だった。海との出入り口と思われる大きな扉は全て閉まっており、沢山の水中用移動機が床部分にとめてあった。自然を模した小山が何カ所もあり、使い方の判らない機械や建物が至る所にあった。

 その壁面や小山には、楽しそうに掴まっている海の民でいっぱいだった。皆の余裕顔からすれば、どうやら高加速中は水中にいるほうが楽らしい。なんとか壁に取りつき、水面へ顔を出すアム。

「ふぅ~。」

 ようやく息が吸えほっとするが、加速が急に減速に入るとも限らないので、そのまま様子を見る事にした。


 加速は徐々に収まり、やがて感じられなくなった。

 手元の情報掲示板を見ると、”大亀”が月の反対側に逃げ出している事が判った。

「こんなでかい都市を動かして、隕石を避けるのか・・・。」

 そんな発想にあきれるアム。後で聞いて判るのだが、巨大惑星には巨大隕石が引き寄せられ易く、しかもいくつかある月の影響で軌道がよみずらいのだった。その為迎撃が大変難しく、逃げ回る設計にしたらしい。

 やがて減速を始めた”大亀”。相変わらずの急減速で、先程とは逆方向に投げ出されそうになるアム。なんとか壁にしがみついて難を逃れる。


 ようやく停止し、岸壁に座り込むアム。

 しかし、海の民は誰も上がってこない。神々もじっと掴まったままだ。背後に流れる別種の警報音。

「そうか!」

 気付いた時には遅く、猛烈な勢いで空中に投げ出されるアム。

「うわ~」

 運良く水中に落ち、怪我を逃れる事ができたアム。

 今度は周りが沈み込む感じがして、その後上昇、沈下を繰り返す。呼吸ができないアムを海人魚の男性が抱きとめ、壁に掴まらせてくれた。再び波打つ水面に顔を出すアム。

「うっぷ。うぷぷ。」

 やがて落ち着く水面。神々が立ち上がった。神々が立ち上がったと言う事は、もう動いたり揺れたりしない。そう判断したアムは、神々に近づいていく。

 ”白き神”がアムをみつけて声をかける。

「大丈夫だったか?アム。」

 こわばった笑顔で答えるアム。

「なんとか生きてますが・・・先に教えて欲しかったですよ。」

 すまなそうな顔をする”白き神”。

「すまん。言い忘れた。」

 がっくりとうなだれるアム。ジョイジ神がばんばんと背中を叩く。

「貴重な経験を、新鮮な気持ちで迎えることができた。良い事じゃないか。」

 笑いを押し殺しながら話すオンデ神。

「そうだな。く。く。」

 アムはわざと教えなかったのではないか?と一瞬疑問に思った。

 ”白き神”は周りを見回し、ハイドロールを見つけると手招きして呼び寄せる。

「お呼びですか?”白き神”。」

「忙しい所すまんが。状況は?」

 頷くハイドロール。

「はい。怪我人、設備の損害はありません。離れた場所ににいて”大いなる亀”に戻れなかった者達も、各自で無事避難できたそうです。隕石は水蒸気爆発により飛散、宇宙空間に放たれた水は僅かで環境変動も無しです。」

 笑顔になる”白き神”。

「被害がまったく出なかったのも良かったが、これだけの短時間で現状調査も済ませている。”責任者”が立派に責務を果たしているのは間違い無いな。」

 少し頬を赤らめてお辞儀をするオンデロール。

「おほめいただきありがとうございます。されど、この結果は海の民達が優秀かつ努力を怠らない為にもたらされた事です。私などまだまだでございます。」

 微笑む”白き神”。

「これで安心して出立できる。黒派との対立が深刻な段階に達した為、次回はいつになるか判らない。物資を多めに置いていくので大事に使ってくれ。」

 表情が陰るオンデロール。

「もう・・・行ってしまわれるのですか。」

 頷き答える”白き神”。

「ここには自動退避に使う希少物質を補充する建前で来ている。滞在が長引けばいらぬ詮索を受けてしまう。許せ。」

 頷くオンデロール。

「判りました。そう言う事なら短期滞在でもいたし方無いですね。」

「判ってくれたか。」

「はい。盛大な宴を行って送り出したいと思います。」

 オンデ神、ジョイジ神、アムが声を揃えて突っ込む。

「まだ宴会やるのかい!」


 宇宙を航行している”白き船”。その船室には二日酔いで苦しむアムがいた。出発から1週間が経とうとしていたが、ようやく動けるくらいに回復した。一人寝台で寝込んでいるアムはつぶやく。

「あの酒、絶対変なものが混ざってた。」

 送別の宴は歓迎の宴以上に盛り上がり、海藻入りの果実種なる地酒を飲まされまくってしまった。海人と海人魚の女性にもみくちゃにされたところで記憶を失い、朝目覚めると、体中の生命力が抜かれたような虚脱感でいっぱいだった。一体酔って何をした(された)のだろうか?二日酔いがなかなか抜けないのも、限界まで酷使された体が回復力を失っていたからかもしれない。ぶるぶると顔を振って忘れようとするアム。

 寝台をゆっくりと起き上がり、服に着替えて室外へ出る。

 最新の状況を知る為、操舵室に向うアム。


「航路異常無し。”神々の庭”に到達まであと・・・」

「重力加速制御正常。」

 室内に入ると神々が忙しそうに働いている姿が目に入った。丁度”白き神”が司令席から室内の神々へ指示を出している。

「まもなく目視距離に入る”神々の門番”の重力場を利用し、楕円軌道で”蒼き星”への帰路につけ。漆黒で識別しずらい。近づきすぎるな。」

「了解!」

 ジョイジ神がアムに気付いて手招きする。

「こっちこっち。」

 壁際の来賓席にはオンデ神とジョイジ神が坐っている。その隣に坐るアム。

「おはようございます・・・」

 オンデ神があきれた顔をする。

「アム、まだ二日酔いが直っていないのか。神々もあれにはまいったが、医療装置で楽になるはずだぞ。」

 アムはかぶりを振る。

「お酒の酔いを醒ますのに機械を頼るなんて。自分の体で解決しないと男が廃ります。」

 オンデ神はため息をつく。

「・・・何故そこで意地を張る。まあいい。この場所を訪れたのはアム、おまえにここを見せる為だぞ。しっかり目を醒ませ。」

 頷く”白き神”。

「ここから外が”神々の庭”、外宇宙だ。いつか、人類には自力でここまで来れるようになって欲しい。巣立ち、外宇宙を駆け回って欲しい。」

 神妙な面持ちのアム。

「”白き神”・・・。」

 ”白き神”は続ける。

「私の夢だ。アムの世代でそのような状況になる可能性は低い。しかし、目指してさえいてくれたら、子孫がいつかは叶えてくれるだろう。」

 はっとするアム。

「新たに製造された新世代ではないのですか?子孫ですか?」

 ”白き神”は微笑する。

「・・・。ともかく、人類の目標としてくれたら嬉しい。」

 そう言うと、目線を外に向けて黙ってしまう”白き神”。アムも黙って外を見る。希少物質がある限り、神々の撤退は無いであろう。そしてそれは、何万年かかるか判らない。

 ”白き神”の夢が叶う可能性は極めて少なく思えた。しかし、人類の未来を夢と言ってくれる神の願いを、アムは忘れないよう心に誓った。


「まもなく”神々の門番”に最接近します。重力加速制御正常。限界重力場突入開始!」

 背後から船長の声が鳴り響き、室内には緊張が走る。アムはそれまで”神々の門番”が見えてはいなかったが、進行方向に星が見えない領域があるのに気付いた。おそらくそこに漆黒の”神々の門番”があるのだろう。


 限界重力場を越えてしばらくすると、司令室には何か息の抜けたような雰囲気が漂い始めた。船長が操舵を行っていた神の肩に腕を回して楽しそうに会話している。おそらく、”神々の門番”通過後はまっすぐ本拠地の”蒼き星”に帰るからだろう。船旅が好きな船乗りも、自分の家に帰るのは嬉しいらしい。そんな雰囲気の中、”白き神”がアムに話し掛ける。

「総数は”神々の秘密”ゆえ話せないが、これと同じ物が星系全周囲を覆い、異物の通過や侵略を防いでくれる。これは一度配置を決めると、中央の恒星が破壊されない限り動かす事ができない。関与できる事は只一つ、通過時に攻撃機能を一時停止できるだけだ。」

 頷くアム。

「我々も黒派も共に、攻撃兵器に用いる事はできないわけですね。」

「そうだ。神々の本国はこれが反乱に使われるのを恐れ、そのような仕様にした。」

 アムは続ける。

「仮に、人類だけが残される事態が生じても、神々以外の知性体から守られる代わりに、星系を逃げ出す事もできない。そうですね?」

 ”白き神”が答える。

「そうだ。今この船が発信している攻撃停止命令は一定期間で無効になる為、将来の役には立たない。私の持つ星系最上位権限のみが永続的な効力を持つのだ。」

「そうですか。神々がいようといまいと、我々は籠の鳥なのですね・・・。」

 アムが諦めの表情を浮かべると、”白き神”が珍しくにやっと笑う。

「しかし、一つ覚えていて欲しい事がある。”神々の門番”は狭間を通過しようとする物は重力を増加する事で捕縛、破壊する。耐重力性のある浮遊星や人口物は破壊されるまで追走する。しかし外へ向かう物体の追跡は、一定距離で諦めるように造られている。駆動力、密度、防御区域の欠損など、様々な理由でな。」

 アムは考える。もし神々が不可能と思えるほどの高性能重力制御機構が用意できれば、”神々の門番”の追走と重力攻撃に耐え、外へ逃げ切る事ができるかもしれない!はっとして顔を上げるとオンデ神が一歩アムに近づいてかぶりを振る。

「何も言ってはならない。”白き神”は”神々の秘密”ぎりぎりの話をしているのだ。アムの返事によってそれが確定してはいけない。今思いついた事は、人類の胸の内に秘めるんだ。」

 端の席でジョイジも頷いている。人類が何を目指せば良いのか示唆してくれた神々に、アムは黙って深い礼をする。遠い将来人類が神々に捨てられても、片道切符ではあるが、外宇宙へ旅立てる希望ができたのだ。新しい世代を作り出す技術が伝授されなければ滅んでしまうのだが、それを抜きにすれば、太陽と共に絶滅するを宿命と考えなくても良くなったのだ。これはなんとしても後々まで伝えねばならない情報だった。

「期待しているぞ。」

「がんばれ。」

「がんばれな。」

 そう言って司令室を出ていく”白き神”とオンデ神、ジョイジ神。忙しそうに船体の制御を続けている神々と一人景色を眺めるアム。その目線の先には、小さくも希望に輝いている若々しい太陽があった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

誤字ご指摘/感想は読ませていただきます。お返事はしませんが、ご容赦を。

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