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4)成人編15

20年前に書いた初作品、続きを投稿します。


アムと、”木目の輝”にいる神々、優秀な人類技術者との交流。

「やあ、元気でしたか”白き神”。」

 採掘船の港で会うや否や、”白き神”の手を握ってぶんぶんと振る”橙の神”。筋肉質でごつい顔だったが、その表情と行動を見る限りではジョイジ神と気が会いそうだった。

「”橙の神”も元気そうで何より。」

 ”橙の神”は一行を見渡してから頷く。

「皆よく来てくれた。いろいろ楽しんでいって欲しい。まあ景色以外に面白い物もないがな。」

 そう言って笑う”橙の神”。ふっと真顔になる。

「そう言えば出迎え遅れてしまって申し訳無い。最近事故が多くてね、作業中の現場を監督しに行っていたんだ。」

 ”白き神”が問う。

「以前大きな事故があって採掘船1隻失ったな。あれの再発防止策はまだ見いだせていないのか?」

「そうだ、”白き神”。採掘場所である地表は高重力、高圧力の地獄。さらに落ちてくる小天体と重力変動。不安定の中に安定を生む、神技的な制御が必要さ。」

 ”白き神”はある疑問を持った。

「その制御は技量に長けた神が行っているのか?」

 首を振る”橙の神”。

「違う。その手の制御は何故か人類に際立ったやつが出やすい。長い時間をかけて育てたあいつも。後継者になれるとまで思わせたあいつも。死んじまった。鈍重で気まぐれな採掘船のせいで、な。」

 そう言うと天を仰ぐ”橙の神”。しばし流れる沈黙。

「大丈夫です。」

 その沈黙を破ったのは、なんとアムだった。死んでいった人類を心から悼む神の姿に、話し掛けずにはいられなかった。

「自分の研究してきた”場”制御理論を用いる事で、機体の機動性を高めると共に、高重力下での採取作業をより安全にする事が可能です!」

 はっとした顔をして、アムを見る”橙の神”。

「まさか、おまえさんは論文『高重力下での革新的制御機構』を書いたアムなのか?」

 頷くアム。破顔した”橙の神”が”白き神”の背中をばんばんたたく。

「白、やるじゃねえか。」

 星系最上位神に対しての、そのあまりの気楽さに引いてしまう一同。”橙の神”は星系第3位ではあるけれど、”白き神”と同じ位に達するには膨大な努力と実績、そして運が必要だ。それだけの高みにいる凄い神に、あのように接する事ができるなんて。なんて豪胆なんだろう、アムはそう思わずにはいられなかった。

 ”橙の神”が携帯端末を取り出して、どこかと会話を始めている。凄い技術者を確保したから、至急責任者達を集めろと激を飛ばしているようだ。え、何を確保したって?

「”白き神”。夜に歓迎会を予定しているので、それまで宿舎で寛いでもらおうと思う。それでいいですかい?」

「ああ。」

 ”白き神”が頷く。

「よし。イフ、一行を案内してくれ。さ、善は急げだ。俺は大会議室へ向かう。」

 そう言うやいなや、速足で扉へ向かう”橙の神”。

「いそがしい神っすね」

「そうだね。」

 そんなふうにエンカンとアムが呟くと扉のところで”橙の神”がばっと振り向く。

「主役が行かずして何をする。ほら、早く。”白き神”、借りるよ。」

 アムの左右から護衛神とエンカンが離れても”橙の神”の視線はこちらを向いたままだ。どうやら自分の事らしい。

「はい、今行きます!」

 唖然とする一行。


 それから三日三晩、アムは解放されなかった。

 ”木目の輝”にいる神々と人類の技術者は優秀で、アムが採掘船の問題点を次々と明らかにし、解決策を提示していくとその数時間後には船の改造が終わる程であった。アムがぐったりと仕事場の机につっぷしていると、”橙の神”が部屋に入ってきた。

「お~う、ご苦労さん。」

「あ・・・おはようございます。」

 アムが机からなんとか顔を持ち上げて挨拶をした。目の下に隈ができている。

「聞いたよ、もう事故の対策が終わったって。たいしたもんだ。」

 背もたれに寄りかかりながら、アムが答える。

「単に同じ事故が起きないようにしただけで。時間のかかる根本的な改良はまだ・・・」

 アムの背中をばんばんと叩きながら笑う”橙の神”。

「何言ってるんだ、十分だよ。これ以上手を入れるなら心臓部含めて新造した方が良い。それは、アムが”蒼き星”に帰ってからやってくれるんだろ。」

「はい。」

「ならいい。せっかく来たんだ。後は旧交を暖め直したらいい。週末の採取船試験航海は欠席しないで欲しいが。」

 頷くアム。

「改造した部分の実用試験も兼ねてますから、それは必ず。」

 頷く”橙の神”。

「よし。では居住区中央公園の噴水前に行くんだ。今すぐだぞ。」

「は、はい。」

 何故行き先を指示されたか判らなかったが、寝ぼけた頭で考えても無駄と割り切り、挨拶をして部屋を出るアム。


 下層列車を乗り継いで中央公園に到着したアムは、居住層に出て驚いた。”緑の星”と見間違うような、自然溢れる公園がそこにあった。ちょっとした丘陵地帯になっていて、樹が生い茂っている。色々な動物の鳴き声も聞こえ、公園と言うよりは森だった。

 入り口と思われる木で出来た門の横には、派手な看板が立っていた。

「ん?何が書いてあるのかな。『この公園は”自由”に使って言い。しかし”自由”の意味が判っていない使い方をした奴は、殺す。”橙の神”』・・・」

 ぶるっときた。人類でも、どんな使い方でも、許す、しかし周りに迷惑をかけたり、自然を粗末にしたら思い罰を与える。そんな意味だろう。

「・・・ここでは良い子にします。ほんとに。」

 誰かに聞かせるようにぼそっと呟いてから、アムは入り口に向かった。


 土を固めただけの素朴な小道がしばらく続いた後、十字路にさしかかる。どうやら噴水はこの先をまっすぐに行ったところらしい。足早に先に進んで行くアム。小道が上りきったところで森が無くなり、あたり一面芝生の広場になっていた。よく見ると、至る所に敷布を広げて寛ぐ人々がいた。なかには神と人類が祝宴をあげているところも。その砕けた雰囲気は、神人の壁が際立って薄いと言われる”蒼き星”以上だった。

「お~い。」

「アム~。」

「こっちだよ~」

 広場の真ん中にある大きな噴水の方にぴょんぴょんと飛び跳ねる人影がいた。イフ、キタン、カズヒだった。

 アムは思わず駆け出していた。3人に抱きつこうとしたが、先にイフに抱きつかれて尻餅をつく。キタンが笑う。

「あはは。相変わらずイフには勝てないんだな、アムは。」

 イフを片手で抱えながら起き上がるアム。芝生の斜面まで移動して坐る一同。

「そのようだ。キタン、本当に久しぶり。イフ経由で元気な事は知っていたけど。」

 キタンがやれやれといった顔で答える。

「男には厳しいな、アム。2回しか便りをよこさなかったな。」

 アムが苦笑いをする。

「ごめんごめん。でも、キタンの返事を待っていたら年月が経ってしまったんだよ。」

「むむ。出したつもりでいた。すまん。」

 笑うキタン。ガズヒがそこに口を挟む。

「こっちには1回も連絡が来なかったぞ。本当に男には冷たいやつだ。」

 アムは怪訝に思った。

「はて。カズヒには3回ほど便りを出したぞ。”緑の星”にある重機設計拠点に。」

 カズヒが苦笑いした。

「上司の神と険悪になっていた所を、”橙の神”が拾って下さったんだ。あの時、”橙の神”が拠点に来て下さらなかったら・・・今頃生きてはいないだろうな。」

 アムがまじめな顔で問う。

「まさか。」

 カズヒが天を仰ぎながら答える。

「当時の同僚は皆行方不明だ。丁度その時期、人類の焼死体が廃棄場で見つかっている。」

 アムが同じく天を見上げる。

「そうか・・・」

 しばし沈黙が訪れた後、カズヒが再び笑顔になってアムの肩を叩く。

「それはそうと。おまえ活躍してるなあ。採取船の技術神が興奮してたぞ。アムの案を導入する事で格段に安全性が高まると。」

 アムの表情もようやくほころぶ。

「そっか。喜んでもらえているようで良かった。でもな、改造後の実験採掘には同乗しろって。失敗したら船もろとも沈んじまうぞって。」

 イフが笑う。

「その実験には”橙の神”も同乗するのよ。沈むと思っていたら乗らないわ。でも責任重大ね。」

 アムが驚いた顔をする。

「”橙の神”も?う~ん。結構いじっちゃったから、本当に危険なのに。」

 キタンが答える。

「大丈夫だ。ここの技術陣は優秀だから、今頃機能解析して問題点を潰してるんじゃないかな。」

 アムが頷く。

「そうだね。あの鋭い”橙の神”が僕らに時間をくれたのも、目途が立ったからだろうしね。ふ、ふぁ~。」

 キタンが問いかける。

「アム、おまえ眠いのか?」

 目をこするアム。

「すまない、せっかくの再会なのに。」

 カズヒが答える。

「いいんだ。元気な顔が見れただけでも意味がある。アムの事だから、滞在期間中に片づけようと徹夜したんだろ、何日も。」

 キタンも同意する。

「すこし眠るといい。ここは気持ち良く眠れるぞ。」

 さすが古くからの友人達、アムの事はお見通しだ。

「じゃ、少しだけ寝させてね・・・」

 そう言って芝生に積みあがった皆の鞄につっぷして寝てしまうアム。


 体は風で冷えるのに、頬から肩にかけて温かく柔らかい。

 一体これは・・・そこで意識が戻ったアム。

 目を開けるとあたりは真っ暗で、人工の月がぼんやりと辺りを照らしている。頭の辺りにある柔らかいものがなんなのか、手探りで確かめる。

「きゃ!えっち。」

 真上から声がした。するとこれはひざ枕?!あわてて飛び起きるアム。

「イフ!」

「目が醒めたのね、アム。」

 周りを見回すと、他には誰もいなかった。

 虫の音が涼しげに鳴り響く芝生の上にぽつんと二人がいるだけだった。月明かりにうっすらとと浮かび上がったイフは、とても美しく見えた。

「二人は用事があるからと、帰ったわ。」

 すらりと伸びた肌触りの良い生足に、花と、イフの香り。

「明日の夜は飲もうっていってたわ。」

 アムは幼馴染みが立派な女性に育っている事に気付いてどきどきとした。自分の気持ちをごまかすように、あわてて話すアム。

「どうしてイフは帰らなかったんだい?こんなに暗くなる前に、おいて行ったり起こしても良かったのに。」

 暗がりの中でもイフが頬を染めているのが判った。

「ここはね。人類が愛を語らう名所なの。私が残ったら迷惑?」

 手をぶんぶんと振って否定するアム。

「そんな事は無い。世界で一番大事な幼馴染みだし。」

 女性には縁のあるアムも、幼馴染みの豹変ぶりには混乱するばかりだった。そっとにじり寄るイフ。

「ただの幼馴染み?」

 どきどきで腰が抜けたアム。

「いや、その・・・」

 アムの目の前に顔を寄せるイフ。

「一番好き?」

 棒読みするアム。

「一番好き。」

 アムの首に手を回してキスをするイフ。あまりの積極性に頭が真っ白に。しかし、なにか違う。違和感の所在に注意を向けてみると、それはイフの回した手の震えだった。その時、イフの気持ちが判ると共に、自らの中に確固たる何かが芽生えた。イフをぎゅっと抱きしめ、そっと芝生に押し倒す。

「イフ、世界で一番好きだよ。」

 そう言ってイフの上に多い被さる。イフは涙を流しながら答える。

「私も一番好きよ。ずっと、この時を待っていたわ。」

 空には美しい月と星々が輝き、地には世界で一番幸せな二人があった。


 朝焼けの中、裸でまどろむ二人。アムははっと起き上がって周りを見回し胸を撫で下ろす。

「イフ、起きて。イフ。」

 目をこすりながら上半身を起こすイフ。

「きゃっ。こんなに明るいのに裸?!」

 慌てて服を着る二人。ようやく身なりが整い、坐って一息をつく。

「危なかった。朝の散歩で良い物をみれた、なんて衛星中の噂になったら大変だ。」

「そうね。”白き神”が目を回すわ。」

 その時、アムのお腹が音を立てる。

「う~ん、朝ご飯でも食べに行こうか。」

「いきましょ。」

 立ち上がって公園の外に向かう二人。


 結局昼間はイフと一緒にいる事となった。

 衛星都市の都市層は”蒼き輝き”に近い構成で、違いと言えば至る所に森が造られている点だった。これは、近場に居住可能惑星が無い影響であろう。また、巨大隕石を回避する頻度が高い為か、構造補強用の柱が何本か降りたままになっていた。そのような微妙な違いを記憶に収めつつ、衛星中を見学して回った。

 夕方になり、アム、イフ、カズヒ、キタンで飲みに行く事にした。場所は中央公園を一望できる、都市層一背の高い摩天楼の最上部、”展望食堂”。お洒落とは程遠い名前に反して、その景観は素晴らしかった。

「おお、アムを置き去りにした芝生があそこに。」

 キタンが窓の外を指さして皆の注意を引く。アムとイフはそこで起こった出来事を思い出してぼっと赤くなる。

「ん?二人ともなんで赤くなる?」

 カズヒの指摘を反らすように手をばたばたと振るイフ。

「あ、こんな窓際に立ってると迷惑だから坐りましょう!」

 窓から離れて席に坐る4人。

 丁度運ばれて来たお通しの果実酒4つを手に取り、高く掲げる。

「友との再会を祝して。」

 そう言って軽くぶつけあう。

 宴は盛り上がりに盛り上がり、次々と運ばれてくる果実酒。深夜になりお客もアム達以外は帰ってしまった頃。

 おかわりの果実酒を持ってくる女性が、誰かに似ている事にアムは気付いた。突然酔いが醒め立ち上がる。

「ちょっと手洗いに行ってくる~ぅ。」

 給仕の男が清算機の所で眠そうにしている。他に人影が無い事を確認してから、手洗い所の隣にある従業員休憩室の扉を開ける。あ、間違えました、とでも小声で言うつもりが、首を抱え込まれて部屋にひきづりこまれる。締まる扉。

「あんたはいったい何してるんだい。イフがここを宴会場に選んだ理由も、変装した私にも、気付いて無かったなんて言わないだろうねぇ。」

 ふかふかで長い椅子の上に押し倒されているアム。

 上には妙齢の女性給仕が覆い被さっている。

「いや、従業員が減る時間帯を待った方が良いかと・・・」

 本当は楽しくてすっかり失念していたので、きつい視線にどぎまぎする。女性給仕がふぅと溜息をつく。

「まったく。まあ良いわ。この部屋は盗聴妨害装置があるから、本題に入って良いわよ。」

 起き上がろうとすると、またイナフに抑え込まれる。

「動かないで。誰か入ってきた時に、酔っぱらっているのを良い事に誘惑されてるって言い訳する為よ。」

「イナフ。それ無理、無いか?」

「いいのよ。」

 イナフは心の中で舌を出した。狙い通りなら、この後面白い事になるだろう。そんな考えはさておき、まじめな顔をするイナフ。

「で、本題。各地を回った感想はどうでした?」

 アムは服に隠してあった情報球をイナフの服にある隠し袋にしまい、そこにあった情報球を代わりに取り出す。

「やはり自分の目で見ると違うね。新しい発見の連続だったよ。各地に”組織”の根を張る事にも成功した。詳しくはそれを読んで欲しい。」

 頷くイナフ。

「判ったわ。ふふ。ちゃんと”組織の長”らしい事してるはね。」

「・・・そんな事、組織の者がいる時は言わないでくれよ。右腕に頭が子供扱いされてると知ったら、皆呆れて頭を挿げ替えたくなるよ。」

 イナフが苦笑いをする。

「そんなつもりはないわ。それに皆今の頭を気に入っているから大丈夫よ。」

「ならいいけど。」

 イナフが微笑む。

「相変わらずね。そんなアムの元気そうな顔を見れて今日は良かったわ。」

 怪訝な顔をするアム。

「せっかく数年ぶりに会ったのに、早いな。」

「秘密組織の1番と2番が長時間密会ってあり得ないわ。それに・・・」

 イナフがいたずらっ子のように笑う。

「そろそろ来るはず。」

「え?!」

 イナフが突っ張っていた腕をゆるめて、完全にアムに多い被さってしまう。離そうとして背中を掴もうとするアム。

「アム~」

「おい、よせ。イナフは同性が好きなんだろ。」

「そうだけど~」

 その時。扉を叩く音がしてから、すぐに扉が開いてイフが顔を出した。

「アムがこちらに来ていませんか・・・あ。」

 アムが女給と抱き合っているのを見て固まるイフ。

 巧みな変装でその女給が知り合いとは気付かず、徐々に目付きが厳しくなるイフ。

「アム。お盛んね。昨日の愛の語らいはそんなに軽いものだったのね!」

「いや、違うんだ。イフ!」

 この場でイナフの正体をばらす訳にはいかず、慌てふためくアム。イナフを横に置いてイフに手を伸ばす。

「もう知らない!」

 ばたんと扉が閉まり、背後にはくくくとイナフの笑いを堪える声が響く。

「組織の長も、動揺する事があるのね。くく。」

 アムがげんなりした顔で答える。

「イフの機嫌を取らなきゃ行けないから、行くよ。」

 イナフが笑顔で手を振る。

「了解。気をつけて”蒼き星”に帰ってね~。」

 アムも苦笑いで答える。

「イフに刺されない事を祈ってくれ。じゃ、元気で!」

 扉を出ていくアムを優しげな瞳で見送るイナフ。

「想いの深さを早く自覚するには、波風が必要よ。幸せにね、アム、イフ。」


 宿舎への帰り道、カズヒとキタンは気を効かせたのか、男二人で2次会へと向かった。アムは怒りの収まらないイフを家まで送る事になった。道中刺々しい会話が続く中、イフの頭は徐々に冷えてく。友人を連れた飲み会を抜け出して、あのような事をする人で無い事は判っていた。ただただ怒りが収まらなかった。そうこうするうちにイフの宿舎に到着する。

「着いたわ。お茶でも飲んでいくかしら?」

「ああ。」


 その部屋は狭かったが、女性らしい装飾や小物で一杯だった。

 薄い肌色の壁には花の模様が描かれ、床には草を模した敷布が敷いてあった。木製家具は安そうな外観を覆すような手彫りの蔦が彫ってあった。机の上に目をやると、人類育成機関にいた頃の仲間達で撮った写真と、たまたまアムと二人でいる時に撮られた、幼児だった頃の写真が飾ってあった。調理台の方からお茶を持って戻ってきたイフが声をかける。

「懐かしいわね。私とアム、キタン、タムも写ってる。」

「だね。タムもどこかで元気にしていると良いけど・・・」

 タムは、のんびりした雰囲気でいて芯のしっかりした、良い人類だった。しかし”緑の星”が騒乱状態になった時から行方が判らなくなっている。神々の奴隷として秘匿されているか、すでにこの世にはいないか、どちらかだろう。それでも、”組織”にも知られていない人類の隠れ里があると信じたかった。

「はい、お茶。」

 寝台に腰かけてお茶を受け取るアム。

「ありがとう。」

 横に坐るイフ。

「この衛星には人類を奴隷と思っている神はいないけど、まだ道具として接した時代の名残があって。自尊心を傷つけられた事もあったわ。でも、同じ月生まれの仲間達の事を思い出したら乗り切れた。特にアムは心の支えだったのに・・・」

 懐かしく暖かな雰囲気が、だんだんおかしくなってきた。イフが下を向いて小さく震え始めている。アムは導火線に火がついたのをおろおろと見守るしかなかった。

「アムの、ばか~!」

「うわ~!」

 ぽこぽこと物凄い勢いでぶたれるアム。両手で受け止めていると、ふいに壁面に画像が表示される。何事かと手を止めて画面を見る二人。録音(音声のみ)と表示されている。

「イフお帰り、イナフです。家についたらこの録音が再生されるようにしてます。今も彼と喧嘩してるとしたら、それはイフの誤解よ。ごめんね。いっしっし。」

 ぷつっと画面が消えても、しばらく黙っている二人。

 イフがふぅっと溜息をつく。

「やったわね、イナフ。」

 賢明なイフは、この内容から全てを悟ったのだった。

 アムは苦笑いする。しかし、盗聴の危険に気付いていた二人は、口に出さず目で会話した。

「(アム、そうならそうと言えばいいのに。)」

「(いや、あそこでイナフの正体をばらす訳にはいかないし。)」

「(ほんとはイナフに迫られて喜んでいたんじゃないの?)」

 激しくぶるぶると首を振るアム。小さく溜息をつくアム。これだけの内容を目だけで正確に伝える人類の男女は他にはいなかった。凄い絆である。

「判ったわ。もう何も言わないから・・・。」

 イフがすすっとアムに寄りかかる。アムの額から小さな汗が流れ落ちる。見つめられて無理に笑うアム。

「今夜も、ね。」

 そう言うやいなや、押し倒されるアム。

 アムは心の中でそっと呟く。たまにはぐっすりと寝たい~、と。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

誤字ご指摘/感想は読ませていただきます。お返事はしませんが、ご容赦を。

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