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4)成人編12

20年前に書いた初作品、続きを投稿します。


”青き星”が”蒼き星”に変わった経緯をアムは知る事になる。

 鈍い銀色の4人乗り反重力移動機の前で端末を操作するカイダ神。見た目は10人くらい余裕で乗れそうな箱だが、その体積のほとんどは反重力装置と安全装置で占められ、座席周りも窮屈な構造だった。

「いま登録できました。これで地下で焼かれる事はありません。」

「助かりました。」

 ジョイジ神が大げさに礼をする。

 白き神の一同は昇降機に乗り込んでカイダ神に挨拶をする。

 カイダ神が深く礼を取ると、そのまま扉が締まり昇降機が登り始める。

 すぐに扉が開き一同が外に出ると、そこは衛星で泊まった宿泊施設とほぼ同じ造りであった。

 今回は、行き先が同じ白き神とオンデ神が同室となり、ジョイジ神とアムが護衛神用の部屋に泊まるが、まずは中央の応接室に全員集まって相談する事になった。

 座椅子に坐ってからも沈黙する一同。

「困った事になりましたね。」と、まずはジョイジ神が口火を切った。どんなに追い詰められても明るさを失わないジョイジ神が、深刻な表情をしているのを見てアムは事態の深刻さを再認識した。

 再び沈黙する一同に思い切ってアムは問いかける。

「いったい何が起こったのでしょうか?」

 白き神がアムに向き直り説明を始める。

「黒派は上意下達を大前提とする階層組織だが、若手の不満が臨界点に達しつつあり、一部で制御不能に陥っているらしい。」

「それは、いろいろな意味で白派にとって良い傾向では?」

 うなづく白き神。

「その通りだ。問題なのは、その矛先だよ。」

 オンデ神が頭を掻きながら言葉を挟む。

「黒派の若手は、白派への不満を暴発させようとしているんだ。黒派の上層部は生ぬるい、とね。」

 ジョイジ神が続ける。

「黒威神は、黒派の分裂を避ける為に、過激派の行動を容認する腹をくくったらしい。また、今回の会談で、蒼き星の主権を黒派に譲る事を要求してきた。それが過激派を抑えるのに必要だと。」

 オンデ神が続ける。

「それが結果的に衝突を防ぐ最善の方法だと。そんな話受け入れられる訳が無いのを判っていて。くそ!」

 しばらくしてから白き神が続ける。

「本国星系からこの星系に同道してきた白派の神々は、緑の星からも追いやられ、蒼き星をよりどころとしている。」

 頷く一同を見て続ける白き神。

「もともと白派の理念が政治闘争に向かないとはいえ、ここまでの事態を生んでしまったのは私の不徳。白派の居場所を、”白派の子供達”の居場所を消滅させる訳にはいかない。それによってどんなに自らを汚す事になっても。」

 オンデ神がはっとした表情で白き神を見つめた。

 白き神の表情には覚悟した者のすがすがしい笑顔があった。

 ジョイジ神が続ける。

「黒派の過激派は、白派の”蒼き星”主権放棄を要求している。それが通らねば武力によりどちらが正しいか白黒つけるべしと。」

 神々の武力衝突。人知を超えた技術と技術がぶつかる光景を想像し、アムは悪寒を感じてしまった。

 オンデ神がふっと溜息をついた。

「この旅の目的も変わらざるを得ませんね。黒派上層部が態度を保留していたうちならともかく、もう覚悟を決めてしまった後では・・・。」

 白き神も小さな声を漏らす。

「あやつは頑固だからな・・・」

 ジョイジ神が無理に明るく話す。

「こうなったら1日も早くこの星を切り上げて、火の星と木目の星の親分を口説きましょうよ。あそこが我々につけば、緑の星は補給線を絶たれたも同じですよ!」

 オンデ神が眉間に皺を寄せながら答える。

「どちらも黒派の軍を差し向けられたら、抵抗のしようが無い。この星系で軍に太刀打ちできるのは蒼き星の警備隊だけだろうからな。」

 オンデ神は白き神に向き直って続ける。

「しかし、ジョイジの言う事も一理有ります。白派と共に戦ってくれなくとも、中立でいてくれれば少しは楽になるでしょう。双方を仲介する立場になるかもしれない。」

 白き神が答える。

「判った。緑の星は最低限の期間で切り上げ、次の星に出発しよう。」

 頷く一同。

 立ち上がる白き神。

「それでもあと3日間は最低限必要だ。ジョイジ、アムの事を頼むぞ。探索中のエンカンも3日目に拾って来てくれ。」

 ジョイジ神が答える。

「おまかせ下さい。」

 頷く白き神。

「私は奥で休んでいる。何かあれば呼んでくれ。」

 一同を見渡してから部屋を出て行く白き神。

 その後ろ姿は何故か寂しげに見えた。


 翌日早朝。白き神達の出発予定時刻よりかなり早く出発したジョイジ神とアム。

 先日登録した小型移動機の狭い運転席で大あくびをするアム。昨日聞いた話に驚きすぎて、よく眠れなかったのだ。運転席にはジョイジ神がいて、ご機嫌鼻歌まじりな状態だった。

「ジョイジは金剛石の心臓を持っていると言われませんか?」とアム。

「何を言ってるんだ。不安な事ができた時、自分を見失うのは修業が足りない証拠。おまえと俺の違いは神か人かじゃない。覚悟が有るか無いかだよん」

 満面の笑顔をしたまま鋭く返してくるジョイジ。

「・・・ジョイジさんてただの遊び人じゃ無かったんですね。」

「お。いまさらだがようやく判ったか。アムも精進して俺ぐらいもてるようになれよ。」

「はいはい。」

 実際にはジョイジ以上に女性に縁があるのだが、アムは自ら宣伝してまわるつもりがまったく無かった。

「ところで、今日は正装してどこに行くんですか?このままでは大都市を抜けてしまいますが・・・」

「今日は黒派の上位神に会いたくない気分なんだ。大自然満喫といこう」

「判りました。でもなんで大自然に正装?」

 アムは飾りのついた立派な礼服の袖を眺めながら怪訝な顔をした。


 市街地を出てまもなく、深い森が始まった。

 空気を入れようと移動機の窓を開けた途端、鳥の声が聞こえてきた。森林の心地よい風と香りが、心を落ち着かせるのがわかった。

「アム、いい感じだろ。”緑の星”の名前の由来は、この大森林が惑星中に広がっている為に星が深緑色に見えるところから付けたんだ。食べ物が豊富なせいか、危険な獣はほとんどいなかった。入植した当時は白き神も黒威神も”緑の星”で派閥を超えて協力していた。」

 アムが頷くとジョイジ神は続けた。

「”蒼き星”が”青き星”だった頃、海はあれど雨が少なく植物に勢いがなかった。森には凶暴な肉食竜がいて危険、野菜や果物は大型草食竜に食べらるなど、住むのは大変だった。」

 竜人類がいた頃だろか、などと思ったがアムは口に出さずに頷くに留めた。

「それでも白き神は青き星を気に入っていた。そこに住んでいた土着生物達を、ね。それらの生き物に白き神が傾倒すると共に、黒威神と白き神は言い争うようになった。白派と黒派も反目する機会が増えた。」

 ジョイジはそれまでの明るい表情を曇らせて続けた。

「けれどある日、取り返しのつかない出来事が起こった。徐々に解凍し放出する事が決まっていた白曜月全質量の大半を占める”氷核”を、黒派は無断で一瞬に溶かしてしまった。」

 アムはまさかと思いつつも聞いてみる。

「それは・・・その大量の水はどこへ・・・」

「”青き星”に降り注ぎ、その大陸全てを覆った。土着の陸上生物はそのほとんどが溺れ死んだ。星の色は深くなり、その名を”蒼き星”と変えた。」

 アムは絶句した。

 ジョイジ神は静かな口調で話を続けた。

「白き神は引き止める黒威神に別れを告げ、緑の星を出た。青き星の衛星都市に移り住み、地上の復興に全精力を向けたんだ。」

 アムは、ふと話のつじつまが合っていない事に気づいてしまった。

「でもジョイジ。陸上生物のほとんどが死滅したとしたら、今の”蒼き星”にいる生物や我々のご先祖はどこから来たのですか?」

「・・・実は、その大水害を予測して備えていた者がいたんだ。名をノバシアと言うね。材木を神々の技術で繋ぎあわせた巨大な密閉構造の浮遊避難所を造り、様々な動植物と、遺伝情報を乗せたんだ。人類の祖先である猿もね。」

 窓の外には薄い緑色の湖が湖面を輝かせていた。

 アムはある事に気付いた。例え低位の神でも重力制御技術の使用は許されている、神ならば宇宙空間に避難させる事が可能だったはずだ。人類はまだ存在せず猿の段階で、その猿も乗せられる状態だった。とすると、その木で出来た避難所を用意したのは、一体誰だったのか?

「ジョイジ、その浮遊避難所を造ったノバシアさんは一体・・・」

「アムももう気づいているんじゃないか?星系博物館で見たのではないか?」

 アムの脳裏に高波に飲み込まれる直前の堂々とした黒い影が浮かぶ。突如その怒りの表情がはっきり見える。

「竜人類?!」

 ジョイジ神が答える。

「そうだ。ノバシアの一族が行動を起こさなければ、蒼き星の地上生物は一掃されたはずだ。今の人類もなかったろうね。」

 竜人類が人類の恩人だったとは。

 ジョイジ神が話を続ける。

「黒派が抹殺しようとした竜人類上層部は、どのような方法で滅ぼされるか予測していたんだ。そして、地上の生物が巻き添えに滅ぼされる事も。」

 アムの脳裏に、今度は中むつまじい竜人類の家族が抱き合って波に飲まれる姿が浮かんだ。

 ジョイジ神が話を続ける。

「竜人類政府は、神々の多数派が恐竜や竜人類をいつか滅ぼしたいと考えている事を知っていた。神々と真っ向から争っても勝ち目が無く、多くの仲間を生き残らせようとするとかえって周到な虐殺に走られ”青き星”全生物が死滅すると危惧した。その為に、教育機関最高位のノバシアとその一族だけを浮遊避難所で逃がす事にした。動植物と共に。」

 アムの脳裏に波のどここから竜人類の怒りと悲しみの叫びがとどろく。

 ジョイジはしばし黙ってから話はじめた。

「水没した大地が再び姿を表した時、浮遊避難所もその姿を表した。”緑の星”を引き払い”蒼き星”に到着した白き神は、浮遊避難所を出て来たノバシアに尋ねた。このような事態を予想していたなら、何故白派に保護を求めなかったのか、と。」

 アムもその理由を知りたかった。

「何故ですか?ジョイジ。」

 アムの方を見ながら答えるジョイジ神。

「アム、君達の為だったんだ。」

「!」

 再び進行方向に目線を戻すジョイジ神。

「竜人類ノバシアと白き神はもともと親友だった。だが、何故か白き神に助けを請う事は無かったらしい。白き神が後に問うと、ノバシアはこう答えたそうだ。『我々は折れる事がどうしても出来ない。それゆえに一時助かっても、いつか必ず滅ぼされる。その時この星を母とする生物達を巻き添えにしかねない。ならば、素直で素質あるこの子達が生き長らえ、青き星の命脈を、遺志を継ぐ可能性を選択したいのです。』と。胸元に一対の猿の子供を抱きながら。」

 アムは竜人類が人類の恩人で有り、白き神がその想いを継いできた事を知った。そしてその恩人の子孫がどこにもいない事を思い出し、アムの目からは、一筋の涙が流れた。


 太陽が天長に達した頃、沈黙していたジョイジが再び話はじめた。

「まもなく、人類の村につく。年老いた者、手足を事故で失った者が寄り添って生きる村だ。神はいないが、神である自分が訪れてもとても親しくしてくれる。実は、ある事件で投げやりになっていた自分を救ってくれた恩師が住んでいるんだ。」

 昔から陽気に生きてきたように見えるジョイジ神も、

 挫折を経験してきた事が解り正直意外に思ってしまったアム。

「それは楽しみですね。村の皆さんもジョイジ神の訪問を喜ぶでしょう。」

 アムが微笑むとジョイジ神も微笑んだ。

「ああ。でもな、アムの方が・・・」

「え、自分が?」

 雑草の生い茂る未舗装の道を減速しながら村らしき集落に接近していく移動機。音に気づいた住民達が 次々と家から出てきた。

「話は終わりだ。師匠に失礼の無いように頼むぞ。」

「はい。」

 地上に降りた移動機を取り囲むのは猿人そっくりの老人、右手と右目を失っている若者、焦点の合わぬ目でぼんやりと眺める女性、車椅子の子供達。

 全員清潔だが擦り切れた服を着ていた。

 移動機を降りるジョイジ神に深々と礼をする人々。

 ”緑の星”で神に捨てられ居場所を無くした人類でも、神を敬う気持ちは失っていないように見えた。

 続いてアムが降りた時も深々と礼をしたが、怪訝な顔をする人々。

「その礼服が派手すぎたんで無いの?アムを見た村人達が変な顔をしてるぞ。」

 確かに村人達が自分を見て何やら相談していた。

「・・・あれってまさか」

「いや、あんな立派な服装を着れる訳が・・・」

「しかし神では・・・」

 さらにアムを指さして驚いている者も。

「変って、ジョイジがこの服を進めたんじゃないですか。」

「お、俺のせいか?」

 村人がそれを聞いて動揺する。走り回る者も出る始末。

「・・ありえ無い!?」

「やっぱり変な神じゃ」

「殺されるぞ!」

 村人がそっとアムに近づいてくる。アムは圧倒されて一歩下がる。

「あの・・なんでしょうか?」

 村人の中から猿顔の老人が出てきて礼をする。

「この村の村長でヌアンギと申します。

お、お尋ねしてよろしいか。おぬしは・・神ですか?うっすらと後光が出ている様子も無いのじゃが。」

「私は人類のアムと申します。あちらはジョイジ神です。」

 村人がどよめく。

「か、神で無いのに何故こんな立派な服装を許されているんじゃ。何故神を呼び捨てにできる。この星でそんな無体な事をしたら殺されるぞ。」

 この星の人類に対する厳しさにに驚きつつも、アムは答える。

「驚かせてすみません。自分達の来た”蒼き星”では神々と人類はそれほど厳しい関係に無く、つい・・・」

 ジョイジ神が笑顔で補足する。

「アムは自分の友人なんでね。ただこいつが書生として仕えているのが上位神なものだから、天狗になってるってのはある。」

 アムが苦い顔をしてジョイジを見る。

「ひどいな、ジョイジ・・・、神。」

 それを聞いて村人達が大歓声を上げたり泣き出したり。車椅子の子供達は猛烈な勢いで走り回る。

 アムは訳が解らず問いかける。

「い、いったいどうしたんですか。」

 ヌアンギが感無量といった面持ちでアムに答える。

「今おぬしが申した事は、我々には夢のような話ばかりだ。そのような立場に人類が至るとは。く・・・」

 男泣きするヌアンギにどうして良いか判らないアム。

 ジョイジ神に目線で問いかけると、肩をすくめて一歩前に出る。

「ヌアンギ、”蒼き星”では人類を名ばかりではない本当の市民として扱う神が多い。人類を友とする神も少なくない。が、アムはそれだけでは無い。”長老の親友が一番力を入れて教育している者”なんだ。」

 ヌアンギがふいに泣きやんだ。

「それは・・・本当ですか。」

 ジョイジが笑顔で答える。

「本当だよ。我々を”偉大なる長老”に取り次いでもらえないか。ジョイジ神が約束を果たしに帰ってきた、と。」

 ヌアンギが探るように問いかける。

「”偉大なる長老”とは?」

 ジョイジが手を胸の前に置きながら答える。

「”蒼き星”の守護神にして”命を繋ぎし者”。我が恩師。これは以前お会いした時に賜った石。」

 懐から黒い小さな石を取り出ししばし見つめるジョイジ。やがて淡く輝き出した石をヌアンギに差し出す。

 差し出された石をヌアンギが受け取り、同じように見つめると、さらに輝きが強くなった。大きく頷いてからジョイジに石を返すヌアンギ。

「この石を持ち、そして光らせる事が出来るということは”偉大なる長老”の・・・いいでしょう、すぐに案内します。こちらへどうぞ。」

 ジョイジ神はアムに手振りで同行を則す。アムは同意し、ヌアンギの後をついていく。

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

誤字ご指摘/感想は読ませていただきます。お返事はしませんが、ご容赦を。

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