4)成人編13
20年前に書いた初作品、続きを投稿します。
アムは、”偉大なる長老”から大事な事を学ぶ。とても大事な事を・・・。
村人が同行を許されていない村の一番奥にある岩山の麓にたどり着くと、そこには岩で出来た重そうな扉があった。
ヌアンギが小さな声で何か語りかけると、扉が重々しく右に開いていった。
「この奥に長老が住んでおられる。部屋に付くまで明かりは無いので、壁に手をつきながらゆっくり進まれよ。」
そう言うと扉の裏にあった洞窟に入っていくヌアンギ。
洞窟は意外に乾いていて、空気の流れも感じられた。やがて登り坂になり、うっすらと明るくなってきた。
アムは壁面に彫刻されている事に気がついた。巨大な動物と人のような形が戯れているようだった。
大きな部屋の前でヌアンギがふいに立ちどまり、アムはぶつかる寸前でなんとかとどまった。天井の大きな格子窓からは部屋の中央に光が降り注ぎ、大きな机と椅子を照らし出していた。
「”偉大なる長老”よ。客人をお連れしましたぞ。」
ヌアンギの呼びかけからしばらくして、奥の暗闇から軋んだ扉の音が聞こえた。そしてゆっくりと姿勢の良い老人が中央に向かって歩いて来た。
ジョイジは笑顔で挨拶をしたが、アムは驚きのあまり固まってしまった。
老人は、かすれた優しい声で話かける。
「誰かと思ったら、ジョイジ神ではないか。随分遅かったの。間に合わないかと思ったぞ。」
「はい、ようやく”約束を果す”事が可能になりましたので、やってまいりました。心血注いだ種からは芽が出、伸び葉を繁らせております。あの方も、ぜひ”偉大なる長老”にお手伝いいただきたいと申しておりました。」
大きく頷く老人。その拍子に後ろに伸びていた太い尻尾が一瞬浮き上がる。
ジョイジ神がはっとした顔でアムの方を見る。
「紹介が遅れました。ここにいる人類はアムと申します。”白き神”の書生をしており、数百年ぶりに”天の層”へ立ち入る事を許された運の良い者です。」
アムは驚きの余り言葉が出なかったが、深々と礼をする。
老人が微笑んで椅子を示す。
「まあ立ち話もなんだし坐ろう。」
一同が坐ると老人が人類とは明らかに異なる目で、アムを見つめる。まるで見えない何かを見つめるようだった。
「そうか、猿類の血族もここまで達したか。うん、うん。神々は”形にできるもの”を色々教えているようだが、我々の種族は”形にできぬもの”君に伝えようかの。無論君が望めば、だが。」
席に坐ったアムの手に載せられた長老の手は温かかったが、その皮膚は固く、爪は恐ろしく太かった。
アムは直感でこの長老を信じられる気がしたが、長老がここにいる事は信じられなかった。
「その・・・”形にできぬもの”とは、なんでしょうか。理念とかですか?」
人よりも大きな口からは牙を見え隠れさせつつ長老が答える。
「う~ん、解りやすく言うと、心と心の交流かの。それにより、アムとアムの子孫が、我が種族の神層構造を閲覧したり、助言を請えるようになる。」
アムは驚いた。そのような事を繰り返せば、人類の精神活動に影響を受け変わっていってしまうだろう。下手をすれば彼の種族は人類の神層構造に取り込まれて同一化、あるいは消滅してしまう。
「長老の種族は、そのような事を許されるでしょうか?」
寂しげな目をして長老が答える。
「神層構造を通じて上位の存在に移行した仲間達にはもう必要の無い領域だ。生きて地上にある者は両手の指よりも少なく、もう子を育める個体はいない。我が子のように思っている人類に継いでもらえれば、皆嬉しいはずだ。」
アムはもし自分に親がいたなら、このような者ではなかったかと思い始めていた。この恐ろしい外見と慈愛を合わせ持つ種族が、遠からず滅んでしまうなんて耐えられなかった。
「白派の人工出産技術を使えば、長老の遺伝子を継ぐ子孫が残せるじゃないですか。」
黙って聞いていたジョイジ神が優しく口を挟む。
「アム。長老の種族は神層構造との結びつきが強すぎて、同族からの自然出産以外は受け付けないんだ。」
アムは悲しみを抑えようと机上の手を握りしめた。
その上に手を置いて長老が続ける。
「我が種族を思いやってくれるのか。ありがとう。でも心配は無用だ。我々の宗教で一番重視されるのはこんな考え方だから。」
アムの目をじっと見つめながら、長老が唱えるように語りかける。
「『我々が目指すは、唯一。遠い未来に成熟した子孫を、より多く残す事。だが間違えるな、それは血族にあらず。魂の継承者なり。』・・・すなわち我が子のように思えれば、心の親と思ってもらえれば種族の違いなぞ関係無い事なのだ。魂とは心や大事な事、無形の何かだ。」
アムは理解した。この種族は”蒼き星”の命の系譜を守るために滅びの道を選んだ。唯一の心残りが、魂の継承者をこの物質世界に残す事なのだろう。
「判りました。長老の種族が1番大事にしてきた想いを守る役目、引き受けさせていただきます。我々人類にとっても、成熟し尊敬できる者を目指す事がこの世界に対しての最大の恩返しであろうと思いますので。」
目を細める長老。
「うんうん。まあ心を通わせて納得行かなければ途中で終わる事もできる。終わっても繰り返し我が神層領域に近づかなければ、参照も融合もおこらぬから。アムが人類の為になると判断できたらで良いよ。」
少し心配になるアム。
「そのような大事な判断を・・・私のような未熟者が行って良いのでしょうか。」
頷く長老。
「その是非は本来人類自身が判断すべきなのだが、我が種族と白派の神々はアムを適任者と判断しておる。その判断を信頼してもらえぬかな。」
そっとジョイジが口を挟む。
「神が継承者にふさわしいと思う人類を、連れて来てほしいと依頼されたんだ。白き神と相談し、その結果アムが選ばれた。だから自分の判断を信用してほしい。」
笑顔で頷くアム。
「判りました。」
長老も笑顔で頷き返し、そして目を閉じる。
アムも目を閉じる。ジョイジ神とヌアンギはそっと席を立ち部屋から出て行ったが、アムはそれに気づかなかった。
「始めるぞ。」と長老。
聞き取れない小さな声で呪文のような何かを唱えだす。長老からは後光が漏れ出し、あたりに光の乱舞が始まった。
神聖な雰囲気があたりに満ち始め、やがて圧迫感を感じるまでになった。
長老が詠唱を止めるとふいにそれが収まった。
「結界を張り清浄化しておいた。次は、心を重ねよう。」
アムは体が温かくなり、やがて宙に浮かんでいるような感じになった。目を閉じているのに、目の前に長老がいるのがはっきり解る。
温かい何かが近づいたと同時に、目の前に”蒼き星”の地上が広がる。生物が様々に変化し、やがて高い知性を持った種族が文明を築いていくのが見える。長老の種族だった。時は加速していったが、喜び、悲しみ、苦しみ、立派な事、愚かな事などが体験しているがごとくに解った。やがて紡ぎだされる種族の夢と願い。そして滅びの時。僅かに生き残った種族が目指している事、今に至り無し得た事が理解できた。ひとしきり喜びと悲しみと感じた後、そこからは言語化できない様々な何かが感じられた。
一段と意識を深い領域に置き、集中する。
「・・・い。・・おい。起きれるか。」
ゆさゆさと体をゆすられて目を覚ますアム。
「あ。ジョイジおはよう。」
長老とのやりとりはいつのまにか終わっており、布団に寝かされていた。まだ寝ぼけていたが、ジョイジ神の厳しい表情に気づきいっきに目が冷める。
「アム、何者かが各地で無差別爆破を行った。事態がどう推移するか解らない。白き神のところへ戻るぞ!」
「はい!」
長老の部屋に向かおうと崖の扉を開くと、丁度長老が洞窟を下って来る所だった。
村長が驚いて長老を支えに行く。
「長老、もっとお体をいたわって下さい。我々が部屋まで伺いましたものを。」
長老が片手を上げて制する。
「時間がもったいなかろう。ジョイジとアムは一刻も早く戻らねばならぬ。」
ジョイジ神とアムは深々と挨拶をする。
「”偉大なる長老”、色々とありがとうございました。神々を代表してお礼申し上げます。貴方の事は一同決して忘れません。」
アムは最後の別れをあうるようなジョイジ神の物言いに引っ掛かりを感じながら、それが何かは解らなかった。
「”偉大なる長老”、我々人類に対する大きな贈り物をありがとうございました。ご恩は決して忘れません。」
長老が微笑みながら答える。
「こちらこそありがとう。我が系譜を継ぐ者、アムよ。」
お互いの想いを伝えるのにもう言葉はいらなかった。
ただ、一つだけ確認したい事が残っていた。
「最後に一つだけお聞きしたい事があります・・・
”偉大なる長老”のお名前を教えていただけませんか。」
頭を掻きながら長老が答える。
「言うと年がばれるから伏せていたのだが。まあいい。竜人類教育機関のノバシアだ。」
移動機が村を出てまもなく。アムはようやく茫然とした状態が溶けた。ジョイジが笑いながらアムをこずく。
「アム、心を通わせてもお名前は解らなかったんだな。」
頭を掻きながらアムが答える。
「文字化できる情報の中には長老個人の話は無かったですからね。人柄や想いはいろいろ感じとりましたけど。」
「そっか。」
徐々に小さくなっていく村を故郷を見る思いで見つめるアム。
「ん?!」
火を吹く柱のような物が空を横切り村に近寄っていくのが見えた。
「あぁ!!」
「え、アムどうした」
次の瞬間、村が激しい光と炎につつまれる。
「あ・・・ぁ・・・」
衝撃波が移動機に達し、激しく上下に揺さぶられる。斜めに横滑りしながらもなんとか横転せずに停止した移動機。
移動機の扉を開けて外に飛び出すジョイジ神とアム。
「・・・」
「・・・」
アムの心のどこかにあった長老の名残が、急速に薄れて行くのが感じられた。
「ジョイジ、戻ろう。今すぐ戻れば何人か助けられるかもしれない!」
「・・・だめだ。戻らない。」
アムは自らの感情が抑えられなかった。
「ジョイジはなんとも思わないのか!種族が違うから・・・」
ジョイジがアムの胸ぐらを掴んで移動機の機体に押し付ける。
「俺もあの方を心の父と思っていたんだ、平常心ではいられない。けれど村の中心であれだけの爆発を起こされたら、何も残らない。怪我人さえ残らないんだ。」
アムが冷静さを取り戻したと見たのか、ジョイジ神の手が離れていく。
「それにな、保護観察処分、はっきり言うと人質だった長老を村人もろとも消し去ったのは何故だと思う?もう生ぬるい手を使っていく段階は過ぎたって事だ。今すぐこの星から白き神を出発させないとやばいぞ。」
アムは自らの職務、やるべき事に思い至った。
「ジョイジ、お時間をとらせてすみませんでした。すぐ宇宙港へ戻りましょう。」
言うや否や移動機に乗り込むアム。
後を追って乗り込むジョイジ神。
今、悲しみで歩みを止める事は長老も望まないだろう。前に進もう、自分のなすべき事をしよう。そう、アムは自らに言い聞かせた。
「ジョイジ、アム!よく戻ったな!そのまま荷物搬入口に入ってくれ。上昇しながら防疫処置を行う。」
宇宙船から無線でオンデ神の指示が来た。
すでに上昇を始めている宇宙船の解放された入り口に機体を突入させるジョイジ神。
荷物倉庫に入ると同時に、宇宙服を着た数人の防疫班が液体を噴霧してきた。
無線機からはオンデ神の指示が聞こえてくる。
「よし、機体の方は終わった。中身の方は係員の指示に従ってくれ。仮設の装置を別室に用意してある。」
ジョイジ神が扉を開く操作をしてから立ち上がる。
「今日はいつもより厳重だな。ま、早く寛げるようにやる事やってしまおう。」
「はい。」
扉からは防疫班が入って来るのが見えた。アムも座席の固定帯を外して急いで立ち上がる。
必要な処置が終わって艦橋にたどり着くと、”緑の星”はすでに小さくなっていた。出発に際して強引だった余波か、まだ騒然とした雰囲気が残っていた。船長が操船神達に追撃だけでなく周囲にも注意するよう指示を出している。
船長の近くに座っていた白き神がジョイジ神とアムに気付き立ち上がる。
「・・・ジョイジにアム。よく無事だったな。お前達が無事だっただけでも良しとしなければな。」
寂しげに微笑みながら、白き神が続ける。
「我が友”偉大なる長老”の村だけでなく、”緑の星”にある白派の拠点楼も攻撃された。防御装置が働いたが、神と人類に多くの犠牲が出た。」
壁際に立っていたオンデ神が怒りを抑えながら言う。
「今回の被害は把握できていないが、10神の神と数百人の人類が犠牲になったようだ。治安維持機構の発表では時限爆弾が使われたとあるが、楼閣の壊れ方が適合しない。」
頷くジョイジ神。
「村から離れている最中、村に向かって飛んでいく飛翔体をアムが目撃しています。」
頷くアム。
「確かに見ました。その直後に村が光と炎に包まれたので、関連があるのでは。」
天井を見上げながらオンデ神が呟く。
「これではっきりしたな。2カ所の攻撃に使われたのは自立型長距離誘導弾だ。そしてそのような規模の攻撃はある程度の規模を持つ組織にしか無し得ない。」
一同に重い沈黙が訪れる。オンデ神が白き神に向かって言う。
「表向きには犯罪組織がでっち上げられるでしょうが、黒派の過激派が活動開始したと見て間違い無いでしょう。そして派閥制御不能を公言できない黒派の本流も、巻き込まれていきます。」
白き神が自らの握った手を見ながら答える。
「戦いは避けられないのか・・・。」
オンデ神が答える。
「回避する努力は続けましょう。しかし準備せざるをえないのでは。」
白き神は頷く。
「そうだな。」
オンデ神がジョイジ神とアムに向き直って言う。
「と、基本方針が見えたところで。ジョイジ達は部屋で休んでいてくれ、脱出で疲れたろう。”赤き星”でどうするかは、到着の直前に相談すればいい。」
頷くジョイジ神とアム。
「判りました。」「はい。」
扉を出て行くジョイジ神とアム。
それからは何事もなく、白き神の船は”赤き星”の衛星”灰曜月”近くを通過し、衛星軌道に到着した。1周して地表の様子を観察した後、”赤き星”最大の都市”鉱都”に向けて降下を開始する。
実はこの”赤き星”近くにも、衛星都市”赤き輝き”が建設されていた。しかし”赤き星”住民にはここに都市を建設する人的・経済的余力は無く、住みたがる神々もいない為、その内部空間は手つかずのまま放置されていた。
港湾部は唯一稼働していたが、地表から送られて来る資材を集積し出荷する機械化港が稼働するに留まっていた。そのような状況から、衛星都市が白き神の視察対象にはならず、直接地表に降下する事になったのだ。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
誤字ご指摘/感想は読ませていただきます。お返事はしませんが、ご容赦を。




