4)成人編11
20年前に書いた初作品、続きを投稿します。
白派と黒派の対立が描かれます。
それからの数日間は目まぐるしく過ぎた。短縮日程に多くの予定が詰め込まれ、息つく暇も無かった。
危惧された襲撃や危険な事故は皆無で拍子抜けではあったが、最後の市街観光は当初の予定通り辞退する事にした。
それによりアムも予定が1日開いたが、これまでの分析を始めやるべき事は山のように有り、とても出かける時間は取れなかった。
そして滞在最終日、”貴神楼”1階で衛星にいる黒派上位の神々と別れの挨拶を済ませ、玄関前に止まっていた白い移動機に乗り込む。アムは何か忘れているような気がしたが、それが何かはどうしても思い出せなかった。
護衛神の危惧も虚しく、一向はなんの問題も無く港に着いた。
桟橋の前で移動機を降り、ヨラン神と別れの挨拶をする事になった。
「ヨラン神、衛星滞在中は世話になったな。感謝する。」
「いえ、白き神。若輩ゆえ至らない点が多かったかと思います。そのような過分なお言葉私にはもったいなく思います。」
上位神である白き神に対して敬いながらも内面で不敬な黒派は多いが、ヨラン神はまったくそれを感じさせなかった。それゆえの抜擢だったかもしれない。
白き神は微笑みながら手を上げて一同を見渡した後、振り返って白き船に歩み出す。
護衛神は移動機を検査してから船に乗せる為、アムだけ白き神を追って船に向かう。
乗船の際、ふと見ると出入り口横の荷物置き場に人間の入れそうな大きな箱があった。気にせずに通り過ぎようとするとがたがたと動き出した。自動で閉じた扉を背に、顔だけ横向きでアムは固まった。一体 これはなんだ?敵か?
「・・・ぉぃ」
「?」
「開けてくれ・・・」
「!」
念の為にオンデ神とジョイジ神を呼んで一緒に開ける事にした。
「・・・危険物の反応は無い。微かに例の反応がある。」
情報端末をかざしていたジョイジ神が言う。
「それなら大丈夫だろう。今回は箱詰めで戻ったか。早く開けてやれ。」
オンデ神が肩をすくめて言う。
アムは早速開封を始めたが、大量のみやげ物の山から毛深い手が生えていてぎくりとする。その手を引っ張り出すと、それはエンカンだった。
「あぁ。何か足りないと思ったら。」
「アム、おまえ忘れていたんかい!悲しい~っす。」
嘘無きするエンカンの背中をばんばん叩きながら釈明するアム。
「いや~今回は色々あってね。」
ジョイジ神がアムの肩に手を回す。
「そう言えば朝帰りして遅刻しかかった日があったね。休憩室に連行~。」
「え。」
「尋問っす!」
「え~!」
ずるずるとジョイジ神に引きずられていくアム。
追及は、その後”緑の星”に降下するまで続いたのだった。
白き船は緑の星最大の宇宙港、”黒際宇宙港”に着陸した。
一向が扉を出て船から伸びた階段を降り始めると、盛大な演奏が始まった。見渡す限り、規律正しく整列した黒衣の神、神、神。圧倒される一行のなか、白き神だけが堂々としている。
階段を降りて血のように赤い絨毯を進むと、高官と思われる上位神10神を背後に従え、黒威神が歩いてくる。魔法陣のような丸い模様の上で立ちどまると、目の前に来た白き神に礼をする。背後の演奏はぴたりと止んだ。
「ご無沙汰しております、白き神。」
「黒威神も皆も、元気そうで何よりだ。」
目礼を返す白き神。すぐ後ろに並んでいる護衛神とアムも深々と礼をする。
「ま、立ち話もなんですから。迎賓館へご案内しましょう。カイダ神、ここへ。」
「は!」
神々の列から痩せ型で精悍な顔つきの神が歩いてくる。黒威神の左後ろに立ってから礼をする。
「白き神がこの地に滞在している間は、このカイダ神がお世話をします。何かご希望があればなんなりと申しつけください。では、後程。」
そう言うや否や、近くに止めてあった大型の移動機に向かって歩み去る黒威神。この場にいる全ての黒派神がいっせいに足を踏み鳴らした後挙手をする。その完璧に揃った動きを見て、益々圧倒され体が硬直するアム。
「行こう。」
白き神がはっきりと通る声で移動を即すと、呪縛が解かれたように体が自由になる。白き神とカイダ神の後ろを歩く護衛神に追いついたが、黒派の神々の中にはアムを睨みつける者もいて、一向に安心はできなかった。
「私は前の護衛機に乗ります。その後をついて着て下さい。」
そう言い残すとさっさと護衛機に乗り込んでしまうカイダ神。
「どいつもこいつもさっぱりしてるな~。」とジョイジ。
オンデ神が白き神の移動機に片手を着きながら答える。
「こっちの機に同乗したいと言われても困るぞ。断らなければいけないからな。ま、乗りましょう、白き神。」
「そうだな。」
扉を開けて乗り込む一向。
迎賓館に到着した一向はその外観の美しさに驚いた。
「美しい装飾付の金の柱に真っ黒な木の壁。お金かかってそうですね。」とジョイジが感想を漏らす。
「平凡かつ辺境に位置するこの星域に、本国から来賓が来る事はまず無い。であれば、もっと質素な
造りで良いのにな。」と答える白き神。
何か言おうとしたオンデ神は、カイダ神が近づいて来るのを見て口を閉ざす。
「お待たせしました。こちらへお入り下さい。」
入り口を指示すカイダ神に対し、白き神が念を押す。
「緑の星に滞在中は、基本的に護衛神だけでなく、人類の書生を連れて回る。神々の秘密に触れる場所を除いてな。」
カイダ神が小さくうなづく。
「衛星から連絡が有り、了解しています。」
白き神もうなづき、一行と共に入り口に入って行く。
内装は外装以上に豪奢だった。壁と天井、家具は黒木。床は黒石で統一されており、所々に宝石と金の装飾がはめ込まれていた。
応接室に入ると、坐っていた黒威神が起立して挨拶を述べた。
「遠路ご足労いただき恐縮です、白き神。」
白き神が苦笑いで答える。
「星系を駆けめぐる我々にとっては隣の星など遠路とは言わぬだろう。それとも、皮肉か?」
黒威神が肯定とも否定とも取れるしばしの沈黙をおいた後、座席を指示す。
「まあ、お坐り下さい。」
白き神が坐り、護衛神達は左右で三歩下がった位置に直立する。黒威神の威厳のようなものに圧倒されたアムも、慌ててジョイジ神の外側に並ぶ。しばらく白き神を見つめた後、落ち着いた口調で話し始める黒威神。
「白き神がこの星にこられたのは、何百年ぶりでしょうか。私は何度か蒼き星にお伺いしましたが、貴方は一向に来て下さらなかった。」
白き神は沈黙で答える。
「この地を追い出した者が何を言うか、とでもお考えですか?それは違います。今でも、貴方にこの星系の頂点をお任せしたいと言う気持ちは変わっておりませんよ。」
その言葉にアムは驚いた。黒威神達黒派は白き神より下層に位置しながら、実質はその指揮系統に入るのを拒んでいたからだ。秩序を重んじる黒派が上位の白き神に失礼を働く事はなかったが、階層が下に位置する白派の神には明らかに敵対していた。
「神々だけを自らの子とし、市民とし、厳密な秩序ある世界を築く。それ以外の知的生物は家畜で有り使い捨ての道具。そのような事には同意できんよ。」と白き神。
「何故それがいけないのですか?道具だからといって乱暴に打ち捨てるわけでもない。乳の良く出る家畜は肉になどしない。逆に家畜を大事にしすぎて家畜たるを忘れさせれば、かえって家畜にとって不幸なのではないですか?」と黒威神。
白き神が身を乗り出して言う。
「知性を持ち自力で発展するだけの力を持ったら、それはもう同じ銀河に住まう仲間だ。まだ至らぬ事が多ければ、種族の親として、先に生まれた兄として教え導いていくべきなのだ。」
黒威神も身を乗り出して言う。
「この銀河に複数の神族は必要無い。強大な神族が並び立てば、それはいつか衝突し、銀河の破滅を招きます。我々神々の管理下で、命を繋げば良いのです。」
白い神は小さく溜息をはく。
「おまえ達黒派は、この神々の世界が続く事をこそ最上と考えているようだが。肉体の進化が終わってしまった神々は、もはや魂の進化を進めるのみだ。
そして、魂の進化を極めた先は肉体が不要になる。我々が去った後に何億年も知性体が不在になっては、星々の、銀河の保守は誰が行う?銀河が荒れるに任せれば、宇宙の終わりも早まる。宇宙が終われば、神層構造も浅い所が消え去り・・・」
はっと白き神が言葉を止める。黒威神がアムを見つめながら続ける。
「惜しい。あと一言で重罪確定でしたな。確定せずとも、ここまで神々の秘密を話した事が本国の査問委員会に伝われば、貴方の立場は相当苦し事になる。この生きた証拠を処分なさいますか?」
白き神もアムを見つめながら答える。
「人類には十分な知性と可能性が有る。育てるべき種族だよ。自らの保身と子を引き換えにするような者は、”階段を登る資格が無い”。」
そこまで冷静に見えた黒威神が、突然感情的を爆発させた。
「貴方の子は我々下位の神々のみだ。人類は貴方の子ではない!」
黒威神は怒りの表情をしていたが、アムはその仮面の下に別の感情が隠れているような気がした。
水を打ったように静まりかえる応接室。
苦い表情で黒威神を見つめていた白き神が、声なき声で何かつぶやいた。
長い息を吐いてから、黒威神が冷静な口調に戻って続ける。
「いや申し訳無い。私もまだまだ未熟なのかもしれませんな。このような失態が流布されては困る。ここはお互い忘れる事にしましょう。」
「そうだな。」と頷く白き神。
アムは安堵の溜息をそっと出した。しかし。
黒威神は何故これほどまでに怒ったのか?まさか下位の神々が皆、実際に”白き神の子”ではないだろうし。最上位の神が、神々以外を慈しむ事が許せないのかもしれない。
「話しは変わりますが。この星は残念ながら白派の神々にとっては安全ではない状況です。過激な若者を抑えきれないのは私の不徳のいたすところですが。」と黒威神。
「それは、公式行事以外は出歩くな、と言うことだな。判った、記憶に止め置く。」と白き神。
頷いてから黒威神が扉に向かって片手を上げる。
扉が開くと、食事を満載した台車が人類の女給達に押されて動き出す。
「さ、固い話はこれまでにして。歓迎の宴を始めましょう。護衛神もお坐り下さい。書生の方にも食事は用意してありますので、別室へどうぞ。」
これ以上神々の秘密を聞かされてはたまらないと、礼をしてから急ぎ部屋を出て行くアム。
表で待っていた人類の女給につれられて、別室に入ると、そこは狭い荷物部屋だった。
無口な女給が去って行くのを見送ってから、机に置かれた粗末な食事に向かってつぶやく。
「これは過分なご配慮だ。坐って食べれるなんて。」
黙々と食事をするアムであった。
お茶をすすってのんびり待っていると、先ほどの無口な女給が扉を開けて入って来る。右手で扉の外を指してアムをじっと見つめる。
「白き神のところへ戻っていいんだね?」
うなずく女給。
「ありがとう。同じ人類だし、話し掛けてもいいんだよ?」
首を振る女給。主人から無駄口をたたかないように指示されているのかもしれない。
「そっか。まあ無理強いはしないけど。」
立ち上がって部屋を出て行くアム。
応接室の扉を開けると、丁度神々が立ち上がって別れのあいさつをしているところだった。
「・・・滞在中お会いできるのは今日だけで申し訳無く思いますが。次回訪問の際もぜひお会いしましょう。」
頷く白い神。
「では、失礼する。」
挨拶をしてから応接室を出る白い神一行。
カイダ神と共に表に待つ移動機に向かう道すがら、固い表情で誰も口を開こうとしない事がアムはとても気になった。いったい何が話し合われたのだろうか?
宿泊施設に向かう移動機内でも会話が無く、ずっと静かだった。
ようやく白き神が口を開いた。
「あれが星系首都、”黒都”だ。」
前方の壁面に表示された映像を見て、アムは驚いた。真っ黒な摩天楼が山脈のように数百本建ち並んでいる。ふもとを移動している車や移動機が針の先くらいの大きさで動き回っており、摩天楼の一本でさえも蒼き星の摩天楼数本分はあるようだった。
なかでも中央の一本は入道雲を突き抜けており、
すでに画面には収まっていなかった。
オンデ神が補足する。
「衛星の”黒夢都”が手本にした都市だが、桁が違いすぎる。格好だけの無駄に大きな都市なんか造るから、中身が空っぽの摩天楼もかなりあるらしい。もっとも最近は無人工場で埋めつつあると聞いたが。」
「なんでそんな巨大な都市を造ったんでしょう。全ての市民を管理下に置きたかったからでしょうか。」とアム。
「その通り、これなら漏れ無く管理下に置けるだろう。この星には他に都市は無く、人類の村と神々の保養所が数カ所有るだけだ。おかげで、この星の豊富な森と自然が害される事無く残るといった良い点もあるがな。」
肩をすくめるオンデ神。
かなりの距離を走って都市の外郭に到着した一向。護衛機の案内で上級神の宿泊所があると言う中央摩天楼に機体に乗ったまま入り、そのまま大型昇降機で上層階へ。上昇してからかなり待たされた後、数十機は駐機できそうな駐機場に着くと、機体を止める。天井も壁も外装と同じく黒色で、床だけは濃い灰色だった。
機体を一同が降りた時には、すでにカイダ神が待っていた。
「ようこそ、黒都へ。白き神ご一行には、黒都で一番高層の、黒威楼宿泊施設にお泊まりいただきます。黒威神執務室の下ではありますが、ほぼ最上層ゆえご容赦を。」
白き神が頷いてから答える。
「宿泊所の手配、感謝する。ところで明日以降の日程だが・・・」
「はい、衛星から連絡が来ています。あまり予定を固めて欲しくは無いそうですね。自由に回っていただく事も可能ですが、その場合は安全確保の為に常に装甲陸戦隊を4機分引き連れていただく事になります。それでもよろしければ。」とカイダ神。
軽い溜息の後、白き神が答える。
「・・・予定の通りで良い。ジョイジ神?」
「はい、なんでしょう。」
「この星で回る場所は、人類の立ち入りが禁じられている所が多いし、行っても面白みが無いだろう。休暇をやるので、アムと好きに回るが良い。」
ジョイジ神がうなづく。
白き神に見つめられてカイダ神がジョイジ神に問う。
「自由に回っていただいて結構ですが。護衛機をつけて欲しいですか?」
「遠慮します。好きに回らせて下さい。」間を置かず即答するジョイジ神。
「判りました。」うなづいてから、白き神に向き直るカイダ神。
「白き神、明日以降の待ち合わせ場所はこちらでお願いします。宿泊施設へはこちらの昇降機をお使い下さい。」
カイダ神が近くの壁面にある昇降機を指さすと、扉が開いた。
「カイダ神。明日以降自分が使う小型機は登録などしておいた方が良いですか?」
カイダ神がはっとした顔で答える。
「ジョイジ神、その質問をしていただいて本当に良かった。登録の無い機体が大型昇降機に入ると、地下の治安維持室に送られて、事と次第によっては上機ごと数1000度で焼かれるところでした。」
震えあがったジョイジ神は乗ってきた大型の白い移動機に向かって歩き出す。
「いま、小型機を降ろしますから、すぐ登録しちゃって下さい。うっかり焼かれたらたまらんので。」
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
誤字ご指摘や感想は読ませていただきますが、お返事はしません、ご容赦を。




