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4)成人編8

20年前に書いた初作品、続きを投稿します。


実は神と人類は理解できないほど本質が違っているのかもしれない。盲目の信頼ではいけない。と、考えるアム。

 表には白い長方形の箱が浮上して止まっており、その前後には車輪付きの護衛車が止まっていた。周囲には護衛神が6神ほど直立不動で立っていたが、腰に下げた長剣を見ると、オンデ神とジョイジ神は腰に下げた銃器の上にそっと手を置いた。

 一行の前で立ち止まり、振り返るヨラン神。

「私は先頭の護衛車に乗りますので、ついてきて下さい。言うまでも無い事ですが、高々度飛行はお控え下さい。襲撃と間違えられて、軍に撃墜されては困りますのでね。では、まいりましょう。」

  一行が白い移動機に乗り込もうとすると扉が開き、全員乗り込んですぐに扉が閉まる。外観は僅かに光沢のある白で内部は見えず、2階席もあるような大型車両並みの大きさだが、乗り込んでみると床がかなり高く、壁も厚かった。入って右を見ると運転室と化粧室の扉が有り、左を見ると間隔の開いた3席が4列、進行方向に向けて並んでいるだけだった。その後ろは壁になっており、外観からは想像もできない狭さだった。

 最前列の左右はオンデ神とジョイジ神が座り、2列目の中央は白い神が座った。どこに座ればいいかと迷っていると、白き神が右の席を指差すのでそこに座る。

「何が間違えて、だ。あえて間違えて撃墜する気だろう。若いくせに偉そうなやつだ。」

 緊張が解けたのか、ジョイジ神が文句を言う。

「そう短気を起こしなさんな。外の映像は見ていたけど、やつは黒派としてはまだ礼儀正しいっすよ。もっと酷いのいっぱいっす。」

「慰めにならないよ、エンカン。って、エンカンいたの?」

 運転室の扉から顔を出しているエンカンに驚くアム。

「ん。どこかでそっと降りて、いろいろ調べるためっすよ。だから公式には見なかった事にして欲しいっす、アム。」

「了解。気をつけて、エンカン。」

「ありがとうっす。この機体は自動運転って話にしてるけど、こっそり降りるまでは運転してきますわ。出てった後は、ジョイジよろしく。」

 話しおわるや否や、運転室にひっこむエンカン。完全自動運転では、”仕組まれた事故”を回避しきれない可能性があるからだろう。仮に人員の被害は防げたにしても、白き神専用の乗機を行動不能にされてはまずい。黒派から代替機体を借りる事になったら、何を仕掛けられるか判らないからだ。

「お、出発だ。」

 室内の壁面、天井、床面が全て外の映像に変わり、宙に浮いているように見える。

 天の層といい、神々は宙に浮くのが好きだとしか考えられない。そんな事を考えながらも、アムは回りの景色に魅入られた。道路を走る護衛車よりも視界が高い為、アムの位置からは素晴らしい景色が全周囲にわたって見渡せたからだ。港からの道は緩やかな下り坂で、目の前の都市全体が視界に入った。そう、まさに街ではなく都市だった。天の層に達する建物こそなかったが、巨大な楼閣が立ち並ぶさまは壮観だった。アムがその様に感嘆していると、オンデ神が振り返って後ろに座るアムへ説明をしてくれた。

「衛星都市”緑の輝き”にあるこの摩天楼群は、別名”黒夢都”と呼ばれている。”緑の星”にある星系首都”黒都”を模している。高さは本物より格段に低いが、この威圧感は変わらないな。」

「なるほど。”黒都”もこんな感じなのですね。」

「そうだ。本物はもっと凶凶しいがな・・・。もともと、衛星都市の基礎は白き神が星系統治していた頃に建設されたものだ。居住星系が万一の際は住民脱出にも使えるよう設計されている。長距離恒星間航行となっても住民が心すこやかでいられるよう、わざわざ居住層にこれだけの空間を確保したのだ。

 それを黒派の者達は、巨大な構造物で空間を埋めると言う無粋を行った。これだけの建物を建てるなら壁面や境界層に造って構造強化すれば良いのに。下々への”威圧感”を優先したらしい。愚か者のやる事だ。」

 そう言われればそうだが、恒星間航行用にこれだけ広大な空間を用意する方もどうかしている。そんな風に思っていたのがアムの顔に出たらしい。

「アム。どっちもどっちなんて思ってるだろ?こんな巨大な空間は重力加速制御装置の負荷を増すばかりで、限界を超えれば崩壊しやすいと。大丈夫だ。加減速する際は、ほら、あの天の層から多数の柱が降りてきて構造を補強する仕組みだ。」

 アムは目を凝らしてみるが、天の層は空に張った透明の幕の様に見えて、柱が降りて来る仕組みは見分けられなかった。しかし、大丈夫だと言ったオンデ神もおやっという顔をしている。

「あそこから折りたたまれた足が垂れ下がってあの辺に降りる設計じゃ・・・あれ?」

 目を閉じて会話を聞いていた白き神が、アム達の方を向いて教えてくれた。

「あの摩天楼が邪魔になって、もう補強構造は使えんよ。重力加速制御装置は変わっていないから、衛星都市を移動するだけで過負荷のはず。摩天楼が根元から折れて転げまわるだろう。この衛星に住む者は、星系に大異変が生じないよう祈るしか無いな。」

 黒派が都市建造する際には忠告したが、無視されこうなったそうだ。

 アムとオンデ神は、ここが赴任地でなくて良かったと思わずにはいられなかった。


 やがて、一行は”黒夢都”の最外周に到着した。巨大で真っ黒な摩天楼が立ち並ぶ中、中央道路はどこまでも真っ直ぐに続いていた。その道路終端の前には、一際巨大な摩天楼が立っており、その高さは周囲と比較しても倍以上あるように見えた。

 その根元は帯状の発光体が端から端まで赤く光っており、他の摩天楼とは違う事を訴えかけていた。その光の直下に大きな窪みがあり、そこが出入り口のようだった。

 停車すると同時に

「到着しちゃいましたね~」ジョイジ神が立ち上がりながら皆に言う。

「エンカンはどうやら降りるのに相応しい場所が見付からなかったみたいですね。まあ暗くなってから勝手に出てくでしょうから、我々は部屋に行って一息つきましょう。」

 ジョイジ神が言いおわるや否や、運転席から悔しそうなうめき声が聞こえる。

「しょうがないな。降りましょう。」とオンデ神。

 白き神の一行が機体から降りると、乗る前と同じくヨラン神と護衛神達が待ち構えていた。

「移動お疲れ様でした。どうぞ、こちらへ。今夜はこの”貴神楼”にお泊りいただきます。過去神々以外は宿泊を許された事はありませんが、今回は特別に白き神の下僕もお泊りいただけます。アムとやら、大いなる黒威神に感謝するように。」

 アムは素直に礼をしたが、白き神はヨラン神の誤りを正してくれた。

「ヨラン神よ、アムは下僕では無い。私の書生だ。それ相応の待遇を求む。」

「こ、これは失礼しました。”緑の星”では下僕か労働者と相場が決まっているものですから。」

 恐縮するヨラン神。物言いは黒派そのものだが、白き神に対して含む所はないらしい。黒派の神々も、全てが反白派では無い事を実感するアムだった。

 建物に入ると、そこは大理石でできた広い空間で、天井は模様が見えない程高かった。部屋の奥、壁際には美しい古木の彫刻がなされた門が有り、その奥に上層への移動装置がある様だった。縦長の宝石のような形をした輝く箱があり、ヨラン神が近づくと入り口が開いた。

「こちらです。」

 ヨラン神に導かれて一行が装置に乗ると、音も無く上に動き出す。壁面は透過しており、外部の輝きが若干見えながらも外を観察できる。壁面が物凄い速度で下降しており、上昇速度の速さを物語っていた。

「これだけの速度を出しながら、まったくの無音とはすごい技術ですね。振動も風きり音も無く。」

 アムのつぶやきにヨラン神は少し嬉しそうな顔をした。

「人類にもこの技術の凄さが解りますか。神々と言うのは長年生きられるせいか、完璧主義者もいつしか細かい部分にこだわらなくなるものです。しかしこの移動装置を設計した神は、中位に達してなお完成度に妥協なく、このようなものを生み出しました。」

 どのような技術神なのかとても興味が沸いたアムは問い掛けてみる。

「その神のお名前は?」

「私の学んだ教育機関の先輩で、ソレス神と言います。」

 ヨランはすっかりアムに心を許した様子で、オンデ神やジョイジ神は口を開けてぽかんと見ていた。黒派の神で人類と対等に会話するのを始めて見たからだ。

 そんな回りの様子も気付かず、ヨラン神は続ける。

「技術者としても優れていますが、神柄も良く大変尊敬できる方です。」

「そうですか。いつかお会いして、これだけの高加速をどうやって御しているのか、ぜひお話をお聞きしたいものです。」

「それは良い。今は衛星”赤き輝き”で整備神を統括する整備指揮をしているところです。白き神と共に彼の地に行ったら会えるよう、紹介状をかきましょう。」

 ヨラン神は手元の情報端末を操作してから、アムの端末に近づけて書状を転送した。

「これで良いでしょう。ソレス神にお会いしたら、よろしくお伝え下さい。」

 言いおわったところで扉が開き、その瞬間にヨラン神の顔から笑顔が消え、黒派特有の冷徹な表情に戻った。

「ありがとう・・・ございます。」

 アムの礼は聞こえていないかのようだった。

 ヨラン神の露骨な変貌はアムに寂しさを感じさせたが、あのまま親しげに話していては、外にいる他の黒派が上に何を報告するか解らないのだろう。そう推測はできても心は晴れなかった。

「着きました。ここが一般用昇降機の終点です。ここから上は、上位神と従者しか上がる事ができません。皆様だけでその白色の昇降機で上がってください。」

 その階は広い部屋に12色の昇降機があり、他には何もなかった。

 一行は昇降機に乗り、ヨラン神が扉の外に留まった。

「どこかへご案内する際は、ここへお迎えに参ります。今晩の宴席も同様です。随行者無く表に出られた時は安全を保証できませんので、お出かけの際には必ずお声をおかけください。では。」

 ヨラン神が言い、深々と礼をすると、目の前で扉が閉まった。扉はすぐに開いたが、外は待合室だった。

 待合室とは言っても豪華なもので、薄緑色の石床以外は全て、緑の星産出の最高級木材で内装されており、光沢のある焦げ茶色だった。

 待合室からは間接照明された廊下が三方へ伸びており、

 その天井近くの空間には名前が表示されていた。

 オンデ神がそれを見てから振り返る。

「我々護衛は左の部屋に入れと書いてある。白き神と人類の小姓・・・。白き神とアムは正面の部屋へお入り下さい。あ、出かける前には我々護衛が扉前まで行きます、合図があるまで出てこない様にして下さい。」

 白き神が頷いてからアムを見る。

「行こうか。」「はい。」

 白き神とアムが部屋に入るのを見届けると、オンデ神達も部屋に入っていった。


 どこまでも広い部屋には窓からの自然光が入り、半透明の壁を美しく照らし出していた。身長の倍はあろうかという高い天井には、円の中に美しい文様が描かれ、ここが黒派の本拠地の一つである事を忘れさせた。寝台に坐る白き神を見てはっと我に帰ったアムは、護衛神達の代わりに部屋中を探査する約束を思い出した。あわてて端末を向けて部屋を調べるアムの後ろから、声がかかる。

「アム、この部屋内で私が死んだら、黒派もさすがにまずかろう。おそらく何もないであろうから、焦らずとも良いよ。」

「はい。」

 もっともな予測ではあるが、それでしなくていい事にはならない。小部屋や風呂など全ての部屋を調べ、最初の大部屋に戻ったところで白き神から声がかかった。

「お茶を入れたので、一緒に飲まないかな?」

 見ると、部屋の端にある4人掛けの机に二つの湯飲みが置いてある。

 茶器を持った白き神がその席の一つに坐り、茶を注いでいる。

「そのような雑事は私がしましたものを。」

 茶器から湯が注がれるのを見たまま白き神が答える。

「なんでも人任せでは、体の動かし方を忘れてしまうよ。それに。」

 席に坐ったアムの目を見ながら白き神が言った一言は、アムが一生忘れることができないものだった。

「君には、私と対等の立場で友人になって欲しいんだ。」

 アムが言葉に詰まっていると、白き神が言葉を続けた。

「さすがにどこでもそれでは君の命が危ない。私達だけの時を除けば態度には出さない方が良いが。」

 しばしお茶を見つめてから、思い切って答えるアム。

「大変ありがたいご提案です。しかし、種族の歴史、私の実年齢ともに若輩であります。神柄や能力の差も大きく、尊敬する事はできても対等などと・・・」

 白き神は頷きながら答える。

「自分より長く生き経験を積んだ者、他者の個性を尊重する気持ちは大事だと思う。しかし、この宇宙に同じく生を受けた者。その事、生命の大事を重く見るならば、相手を自分より上と見るのは愚かな事とわかるであろう。」

 頷くアム。

「ならば、対等の友となり、お互いの正きを見守り、誤りを正す関係になってはもらえぬだろうか。」

白き神の言わんとすることが解り、微笑むアム。

「解りました。神とは異なる、人ならばこその考え方や倫理観も提示できるでしょう、臆する事無く意見させていただきます。ただ、真に対等と思えるまでには、世代を超えた永い時が必要になるでしょう。自らの力で生きていける、賢くあれる、そんなふうに思えなければ・・・」

 白き神が頷く。

「そうだな。保護された立場で対等と思うのは難しい。でも、大丈夫だ。対等であろうと背伸びしつつ、内実が伴うように努力を続ければ。いつか必ず、人類は”今の我々”の水準に達する事ができる。」

「はい。」

 微笑む白き神。

「よし。夕方の宴席まではまだ時間があるので、この衛星でお互いにすべき事を確認しておこう。それが終わったら、自由にしてもいい。」

「はい。」

 詳細は予め説明を受けていたので、話のほとんどは短縮された滞在期間に応じて何をどう削るかについてだった。話が終わり、アムは自分用の個室で休む事にした。どうにも落ち着かないので、白き神の同意を得てから、全ての部屋の壁は非透過状態に変更した。

「ふぅ」と一息つくと、寝台に横になるアム。


 突然鳴った部屋の呼び出し音で目が覚めたアム。

「はい」

「宴席の時間だ。身なりを整えて出発しよう。」

 部屋の外から白き神が声をかけてきた。

「はい!」

 寝台から飛び降り、大急ぎで正装に着替えると表へ飛び出すアム。

「すみません、いつの間にか寝てしまったようで・・・」

 机に坐った白き神がお茶を飲みながら答える。

「そんな事ではないかと予想し、少し余裕を持って声をかけた。髪を整えたら、お茶でものんで落ち着こう。」

 時計を見ると確かに余裕があった。部屋に戻って身なりを整え、情報端末を確認してから部屋を出るアム。

 席に坐ってお茶を飲むとすっかり目が覚めた。

「白き神、そろそろ行きますか。時間です。」

「そうだな。」

 情報端末で部屋を出る事を護衛神に伝えると、すでに待合室で待機していた。

 白き神にその事を伝え、席を立つアム。

「では、行きましょう!黒派の待ち構える宴席へ!」

 白き神も微笑みながら頷き、席を立つ。


 表に出ると、オンデ神とジョイジ神が正装をして待っていた。濃紺の縦長帽に制服を着て、腰には鞘に入った長剣を下げている。その引き締まった表情はりりしいとさえ言える。

 アムは驚いてつい本音を漏らしてしまう。

「か、格好良い。良すぎる。普段の締りの無さはどこへ?」

 ジョイジにポカリと頭をはたかれるアム。

「年中気を張り詰めていたら、いざって時に持たなくなるだろ。それに締りが無い、は言いすぎダ。」

「す、すみません」

 苦笑いしながら頭を下げるアムにしょうがねえなと笑うジョイジ。

「では乗りましょう。黒派にしては珍しく親切なヨラン神を遅くなって困らせない様に。」

 オンデに即され、昇降機に乗り込む一同。


 待ち合わせの階で降りると、ヨラン神が待っていた。

 深々と頭を下げて挨拶をする。

「今晩は宴席にご参加いただきありがとうございます。」

 一同軽く挨拶をする。

 ヨラン神は緑色の昇降機を指さして続ける。

「ささ、この昇降機にお乗り下さい。皆席で待っておりますので。なお、天の層もここから行けます。明日は護衛神、書生の方、ここまでしか同行できませんのであらかじめ了承下さい。」

 一同で緑色の昇降機に乗り込むと、僅かに上昇して止まった。

「こちらです。」

 アムは昇降機から降りようとして愕然とした。目の前から人がすれ違うのもぎりぎりな道がまっすぐ伸びており、その先に円形の広場がある。それらはなんら異常も無いただの道だ。問題はその外側が空である事だ。道の下を覗きこむと遥か下方に摩天楼が並んでおり、風が下から吹いてくる事実はそれらが映像では無い事を示していた。

 平気で道を歩き始めた一同の後ろを歩きながら、アムは恐怖を感じた。

「神は空を飛ぶような感じが好きだからそのような部屋をつくるんじゃない。その恐怖が心地よいからそうするんじゃないか?」

と、おもわず呟いてしまう。

「なにか?」

 振り返って問いかけるヨラン神にぶるぶると首を振るアム。

 アムは永い間、神と人類が外観も精神もそっくりだと感じていた。しかし。実は神と人類は理解でき無いほど本質が違っているのかもしれない。そしてその違いを神々は解っているとすれば、異質なものを廃棄するにやぶさかではないだろう。人類だって、動物よりは魚、魚よりは草木の方が殺して食べやすい。

白派が黒派による人類の根絶やしを危惧するのは、実はそれがなんらためらい無く行える事だから、なのかもしれない。それは、白派も完全に安全ではない事を意味する。信用はしよう。しかし、盲目の信頼ではいけない。神をよく理解した上で、だ。依存心は捨て人類自らが自立する。その上でともに歩まねば、白派の元でも人類は滅んでしまうだろう。そんな事を考えているうちに、円形の広場に到着した。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

誤字ご指摘/感想は読ませていただきます。お返事はしませんが、ご容赦を。

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