4)成人5
10年前に書いた初作品、続きを投稿します。
運送会社”泥英知得る”・・・。このネーミングセンスは・・・。
翌日昼頃。ようやく起き上がる事ができた。体中が悲鳴を上げ、手足が思うように動かない。なんだか同じ事を繰り返している気がするが、どうしようもならないので考えるのを止める。
午前は旅支度の予定だったが、まるでできなかった。午後は突貫で旅支度を行い、荷物を宇宙港へ送り出さなくては。宇宙船の乗船は今日の午後で申し入れて有る。
白き神を道中護衛される神二人は、すでに宇宙船に詰めている。これが初顔合わせなので、二日酔いを理由に訪問を明日に伸ばすわけにはいかない。
アンナ神が去り際に置いていった栄養剤を飲み、冷たい水で顔を洗うと気力が戻ってきた。怪しい味だったが、効果覿面だった。
「さて、乾燥食品をかじりながら支度を済ませますか!」
人がすっぽり入れるくらいの縦長な輸送箱に衣服や荷物をほうり込む。この際体裁は一切考えない。なにしろ時間が無いのだ。ようやく全て入れおわったが、荷物が溢れ出し蓋が閉まらない。体重をかけて強引に閉めてから施錠をする。
「ふひ~。」
二日酔いでこれは重労働だったが、なんとか輸送業者の予約時刻に間に合った。
輸送箱の浮上機能を起動して地上の荷物用玄関まで持っていくと、丁度業者が表に来ていた。この荷物用玄関は3階の建物裏手にあり、天の層とは無関係を装っていた。アンナ神から信用がおけると紹介があった業者だが、一応の用心だ。
てっきり神が来るかとおもいきや、人類だった。しかも猿の面影が見て取れる、少し前の世代だった。
「毎度。輸送会社”泥英知得る”です。予約の荷物を受け取りに来ました。」
識別情報球を差し出され、情報端末で内容確認する。輸送会社である事、目の前の人類が正式名65321である事が顔写真と生体分析で判る。
「ご苦労様。この荷物を宇宙港に停泊中の”白き船”に届けて下さい。私も今から船に向いますが、万一先についたら警備の者に渡して下さい。」
「お客様・・・人類ですよね?それも最新の。なら、遠慮は無用ですよ、ぜひ当社の輸送車に同乗して下さいな。」
誘拐の危険性もふまえ、このような誘いには応じてはならないとされていただが、誘拐するつもりなら公共機関でも同じだろう。ここは彼を信じる事にした。
「それでは、ご厚意に甘えます。私はアム。宇宙港までよろしく。」
「私は正式名65321、通称エンカンです。これでも初期の人類の中では秀才と言われ、神々御用達の運送会社に勤めているんす。よろしく!」
エンカンが受け取った荷物を輸送車に搭載するのを眺めていると、エンカンから話しかけられる。
「アムさんの使った玄関って、超上級神の場所っすね。いや~そんな凄い神さんのところで働けるって、凄い。アムさんは人類の誇りっすね。」
いきなりの賛辞に困惑するアム。
「いや、私の教育役をしている神が”泥英知得る”なら信用おけると教えてくれたし。その運送会社に勤務している時点で、エンカンさんも凄いですよ。」
「えへへ。じゃ、お互い凄いと言う事で。終ったので乗りましょうか。」
二人は輸送車に乗り込むと、ゆっくりと加速する。やがて車体が軽くなった感じがした。
「エンカンさん、これは・・・」
「お、気付きましたね。この輸送車は衛星の重力場を遮蔽する機能を持っているんす。車輪の動力を地面に伝えるだけの重さは残しますが。」
なるほど。では何故?と疑問を持ったアムにエンカンが答える。
「何故?って顔してますね。アムさんは頭の回転が早い。完全に浮上しない訳はね。空中にびゅんびゅん飛び回ってる乗り物があると、落着かないって神々は言からですよ。それで衛星内では車輪付き、良くてこれくらいまでの浮上。」
膝の高さで手をひらひらするエンカン。
「でもね、アムさん。賢明なアムさんなら、もう真の理由が分かったんじゃないっすか?」
「天の階層に機体を近づけたく無いから、ですか?」
大きな身振りで同意するエンカン。映像資料にあった猿の事をつい思い出す。
「そうです。神々の中でも極一部の上位神しか立ち入れない、聖域を守る為です。おっと、ここで右に曲がらないと。」
大柄な車両をいともた易く操作するエンカンに感心するアム。
「いまどこら辺かな・・・エンカンさん、車載情報板いじっていいですか?」
「ああ。どうぞ。」
座席前の可動式情報板のアームを引き出し、手元に引き寄せるアム。
運転に集中しているエンカンの様子を一瞥した後、音を立てずに猛烈な勢いで情報板を操作する。腰の情報端末に一瞬触れると、情報板に”完了”の文字が出る。車載情報板を元どおりの場所にそっと戻してから笑顔でエンカンに話しかけるアム。
「えっと、商業区の外れまで来たようですね。」
「そっすね。まあまだありますから、世間話でも楽しみましょう。さっきはどこまでいいましたっけ。あ、思い出したっす。で、天の階層の居心地はどんな風ですか?」
アムは胸の鼓動が激しくなった。このエンカンはどこまで知ってる?敵なのか?
いや、このカマのかけ方は大胆すぎる。諜報員と察してしまう危険をおかして
このような聞き方をするのか?アムは内心の葛藤が顔に出ないよう細心の注意をはらって答える。
「天海草の食べごこち?わからないけど、苦くて硬そうだね~。」
一瞬の沈黙、そして爆笑するエンカン。
「はっはっはっ。それは苦いし硬い。そして口も堅い。アムさん、貴方は出世しまっせ。」
それから宇宙港までは、他愛の無い世間話だけになった。アムはエンカンの人柄を好ましく思うようになったが、彼が敵の諜報員である可能性が残っているうちは胸襟を開くわけにはいかないと決めた。
やがて宇宙港の車両出入り口を通過し、港に到着する。
”白き船”の停泊している港は衛星内にあり、宇宙服を着なくても宇宙船を整備できる。高位神の所有船ならではの待遇だ。港には桟橋があり、なんと海が満ちている。どんな機能があるのか、アムは首をかしげた。
「アムさん、着きましたよ。お、警備の方が手招きしてる。」
港の桟橋手前にいる天井無しの軽車両に、警備らしき者座っていた。背は低くお腹も出ているので、おやじ体系の人類に見える。しかし顔の美しさと極僅かに発する後光から、この者が神だと判る。その神が、神の良さそうなのんびりとした声で声をかけてきた。
「お~い。運送屋だね、ご苦労さん。悪いがここからは入れないんだ。荷物を降ろして、この検査門を通して運んでくれ~。」
「判りやした~。」
と、大声で返事をしてから指定の位置に輸送車を止める。
「アムさん、先におりてあの方が白き船の関係者か確認して下さい。あっしは挨拶したら荷物を運びます。」
うなずいてから外に出るアム。
「えっと、始めまして、アムです。明日の出港でこの船に乗船する者です。本人確認を願います。一緒に、失礼ですが本神確認もさせていただけますか?」
気さくな感じでよろしくと応じる神。
「いいね。アム君は慎重だ。良い同伴者になるよ。お互いの情報板で確認しよう・・・確かに君はアム君だ。そこにいる人は運送屋のエンカンさんだね。」
そのまま情報板を輸送車に向けてしばらく動きを止める。黒い筒のような構造物が飛び出ているので、様々な検査が行える警備仕様の情報板なのだろう。
「ほう。」
何がほうなのか言わぬまま、エンカンに搬送の指示を始める。エンカンはアムに一瞥をくれたあと、荷物と一緒に検査門を通過していった。宇宙船の搬入口には、別の神が1神待機しエンカンから荷物を受け取る段取りの様だ。
エンカクを見ていた目の前の神が、アムに目線を戻して話し掛ける。
「おっと、自己紹介が遅れて申し訳ない。そちらの情報板に表示済みと思うけど。私がオンデ神。白き神の道中を一緒に旅する護衛です。」
よろしくと握手を求めるオンデ神に応じるアム。
「あちらで丁度荷物を受け取っているのがジョイジ神、もう一人の護衛です。」
オンデ神が片手を向けると気付いたようで、ジョイジ神が手を振る。
アムも手を振って答える。
「話は変わりますけれど。あのエンカンさん、ただ者でないですね。乗ってきた輸送車も危険物は無かったが、重力遮蔽機構が軍用の物だった。緊急時はかなりの高度で高速飛行ができる。アムさんは何か知っていますか?」
驚いて答えるアム。
「いいえ、知りません。アンナ神から信用のおける運送会社と紹介されたので頼んだ業者です。」
「そうですか・・・まあ危険は無いと思いますが、一応気を抜かないようにお願いしますね。あと、表情を変えて異常に気付いたと気取られぬように。」
笑顔でうなずくアム。
「いいね。その表情なら雑談しているようにしか見えない。」
丁度そこへ荷物を運びおわったエンカンがやってくる。
「お届け完了でっす。よろしければ、この端末に受領の印を見せてやってください」
オンデ神が手振りで印を描くと、情報板が”確認”の文字を表示する。
「確認できました。当社をご利用いただきありがとうございました。またのご利用をよろしく!アムさんも、がんばって~」
笑顔で手を振りながらのんびりと輸送車に乗り込むエンカン。しかし。扉を閉める瞬間に、眼が獰猛な光を一瞬おびたのをアムは気付いた。
「オンデ神!」
アムが叫ぶのと同時に宇宙船の搬入口が閃光を発し、皆の注意が宇宙船に向いた瞬間輸送車が走り出した。飛び退いてのがれたオンデ神の至近距離を猛烈な加速で宇宙船に突撃する輸送車。やはりエンカンは敵の破壊工作員だったのか?!
止める術も無く呆然と見送るしかないはずのアムは、その瞬間腰の情報端末を取り出していた。冷静な顔をしたアムに驚くオンデ神は、次の瞬間さらに驚く事になった。アムが端末の画面を手のひら全体で2回叩くと、瞬間輸送車が急に推力を失ったのである。迫りくる輸送車を避けようとしていたジョイジ神は、緩やかに左折しながら海に落ちていく輸送車を見ていた。
「なんてこった!」
ジョイジ神はまるで友を救うが如くに大急ぎで海に飛び込んでいく。オンデ神も真っ青な顔で桟橋に走っていく。
「・・・あれ?」
神々の様子がなんだかおかしい。破壊工作員を心配しているようだ。
アムも遅れ馳せながら桟橋に走っていく。と、丁度海から救い出されたエンカンと、ささえて浮かび上がるジョイジ神。
「ぷっは~ぁ、死ぬかと思った~」
「エンカンやばかったな~」
オンデ神がほっとした顔で首をふっている。
「だからこんな試験は止めようっていったんだよ。エンよ~」
「え?」
こんどこそ呆然とするアムに、笑いながら説明するエンカン。
「いやね。これってアムさんの試験だったんですよ。白き神の見込んだ人類がどれだけのものか、我々現場が知る為の。白き神には内緒でね。」
愕然とするアムに続けるエンカン。
「知って間も無いやつの輸送車にほいほい乗ってくる時点で大幅減点、宇宙船に突っ込む輸送車を呆然と見送って落第点、ってな感じでね。乗ってこなかったら別の課題だったんっすけど。」
ジョイジが嬉しそうな顔で、アムの肩に手を置きながら話し掛ける。
「そうそう。それがまあ、輸送車の制御を瞬間的に奪って落とすなんて。すっごい新人が入ってきた。」
「そうだ。いったいどうやったんだい?」
「もしかして、車内で情報板を覗き込んだあの一瞬で仕掛けたんすか?神業~っす。」
ようやく事体が飲み込めて安心したアム。
「皆さん、やりすぎですよ。・・・はぁ。」
げんなりした顔で肩を落とすアム。
「まあ続きは船の中でな。」
ジョイジ神に肩を叩かれながら船に乗り込むアム。
船内の休憩室には、アンナ神が立っていた。顔は笑っていたが、左の眉毛がぴくぴくと 引きつっている。
「皆さん・・・。お遊びは済みまして?車両の損壊と引き上げ依頼、港の損害補償、他。半分は白き神が負担下さるそうです、良かったですね。残りは皆さんの”貢献度”に応じてお給料から天引きさせていただきます。」
「げげ。白き神に伝わっちゃったのか~。」ジョイジ神が額を押さえてうめく。
アンナ神がきりっとした目線で答える。
「当然です。事前のお話の通り、車両が急減速して止まったなら門の修理程度、私もうまく処理できましたけれど。黒派の襲撃並みに過激な歓迎会とあっては、報告しないわけにはまいりません。」
一同肩を落とす。「はぁ~。」
「すみません。この事件の裏まで読み切れたら、車を海に落とさずに対処したのですが。止めた途端に皆が銃撃を受けないように・・・」
「海に落としたと言うのか。くう。そこまでアム君が切れるなら、裏も読んで欲しかったな。いや、ろくな経験も無くあの瞬間にここまで出来たのは、凄い部類だよ。アム君、我々実務者の試験は合格だ。これからもよろしく!」
オンデ神に背中をバンバン叩かれながらも、嬉しそうなアム。
「そそ、大歓迎、即仲間っす。酸いも甘いも共有っす。早速だけど、今日の負担金も共有っす」
「エンカンさん、そりゃないですよ~」
苦い顔をしながらも、苦楽を共にできそうな仲間を得てアムの内心は嬉しさに満たされていた。
「さて。いつまでも女神を放っておいてはいけない。アンナ神、ささ、こちらへ。」
ジョイジ神に即されて椅子に座るアンナ神。
「ほら、皆も座った、座った。これからアム君の歓迎会、酒宴を行います。異議のある者は?いないね?いてもきかないけどね。」
「ジョイジ神は強引っすね。さすが宴席の神の名を得ると噂されるだけはある。」
「誰が宴席の神だ。美を司る神といいなさ~い。」
笑いながら酒をついでいくジョイジ神。酒が行き渡ったのを確認してから、オンデ神が杯をかかげる。
「では、ここからは無礼講。敬称言ったやつは杯を干してもらうぞ。では、アムの配属と皆の安全を祝って、乾杯!」
次々と乾杯の声を上げては酒を飲む神と人。料理が次々と移動台にのって運ばれて来る。宇宙船内は自動化が一段と進んでいるようだ。
「どうした?アム。料理が勝手に運ばれて来るのが珍しいかい?本来は上位神の為の設備だが、宇宙船内では誰でも使っていい事になっている。」
「へえ。便利ですね、ジョイジし、さん。」
オンデ神と話していたエンカンがアムに振り返ってニヤリとした。
「アム、この席では神とか人とか位階は関係無し。様もさんもだめっす。では、杯開けるっす!」
「うぉ~いけ~」「アム、いって~」
盛り上がる場に苦笑いしながら杯を空けていくアム。
「ぷっは~」
「おぉ、いい飲みっぷり」「ほれぼれしちゃう。」「もっとゆっくり空けるのが普通だけど。まあいっか」「あむ最高っす!」
酒宴は盛り上がりに盛り上がり、神も人も等しく酔い楽しむ。
「いや~この果物酒は美味しいですね~ぇ。くっ。でしょ、エンカン!」
ばしっとアムに背中を叩かれ少し吹き出すエンカク。
「うひゃ、アムすげ~酔ってる。」
「何言ってるのお猿っち。私のアムちゃんを苛めるのは許さないわよ。」
「ちゃんづけも敬称、敬称っす!アンナ、杯空け~ぃ」
「く~。負けないわ。ん、ん、ん。はぁ~。ジョイジ、次ついで!」
「了解です、姫」
お酒への耐性は神も人も大差無かったが、若く、周りに敬称で呼ぶべき者が大半のアムは不利だった。周りの倍飲まされて、いち早く酔い潰れてしまう。
「おい、おいアム。このオンデの酒が飲めないって言うのか。ういっ。」
「あれ。アム寝てるっすね。起きれ、アム。こんなとこで寝ると風邪ひくぞ。」
台に覆い被さるように酔いつぶれているアムを揺するエンカン。
「う~。もう飲めないですよ~。」
その様子を見て目がきら~んと光るアンナ神。
「それはいけないわ。私が部屋に案内して寝かして来る。さっアム。立って頂戴。」
なんとか立ち上がったところをアンナ神に支えられ、部屋を退出する。
「おぉ、女神に寝かしつけてもらえるなんて果報者!」
「アムずるいっす。」
「あ、今、神っていった。敬称、敬称~」
扉が閉まり、喧騒が嘘のように静まった廊下を進むアンナ神とアム。
「ここね。ついたわよ、アム。」
個室の扉を空けて、中に入るアンナ神。
「狭い部屋ね。寝具も一人寝用で狭いわ。ほら、アム、ここに横になって。」
人類の感覚では決して狭くはない部屋も、神にとっては不満のようだった。
「う~ん、アンナ、ありがとう。もう目が回ってなんだか・・・」
「いいのよ、ちょっと待ってね。お水を持ってくるわ。」
振り返って部屋の隅に行き、貯蔵庫から水を汲むアンナ神。
「今飲ませてあげるは、アム。体を起こして。」
なんとか上半身だけ起き上がると、突然喉に甘露な水が流れ込んでくる。
その感覚に陶然としながら眼を空けると、目の前にアンナ神がいた。
「どう?目が覚めた?」
「え、今どうやって・・・」
「そんな事はいいのよ。それよりもう横になって休んだ方がいいわ。」
やさしく押し倒すアンナに眼を点にしながら驚くアム。
「アンナ、まさか?」
「そうよ。ダメなの?私が嫌い?」
「そんな事は・・・」
「じゃ、いいわね。」
「あ、あ~~~」
その頃、宴会場では。
「ん~?皆静かになってどうした~。」
オンデ神が杯から顔を上げて見回すと、椅子にのけぞっているエンカンと、台に覆い被さるように酔いつぶれているジョイジ神が眼に入った。
「もうつぶれっちまったのか。あれ?誰か足りないような・・・ま、いっか。」
にこにこしながら杯に酒をつぎ、ちびちびと飲むオンデであった。




