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4)成人6

10年前に書いた初作品、続きを投稿します。

女神との別れ。

 室内がうっすらと明るくなり、朝が来た事が解る。なんだか頭が痛い。昨日の事は飲みすぎて突っ伏した所から記憶が無い。

 「う~ん。」

 何やらとなりから可愛い声が聞こえる。右腕の上に何か柔らかいものがのっている。顔をなんとか右に倒すと、目の前に美しい女性の顔があった。

 「あ、起きたのね。アム。」

 なんだか、またやってしまったらしい。左手で頭をかかえるアム。

 「あら、二日酔い?」

 「そうでなく。自分は酔ったあげくにまた?」

 「したわよ。激しかったわ。」

 恥ずかしげに眼を伏せるアンナ神。なんだか別の意味で頭が痛くなった。

 「アンナは何故、自分を・・・」

 指で口を塞がれるアム。

 「アム、それは野暮と言うものよ。そして、旅に出たら私の事は忘れて。帰ってきた時、貴方の傍らに私がいる事はできないから。」

 「そんな・・・何か悪い病気にでもかかっているとか?」

 「違うわ。」

 「もう自分を飽きてしまったから?」

 「違うわよ。」

 上半身を起こし、笑顔で首を振るアンナ神。

 「その理由は戻る頃には貴方自身が理解している。でもついでに言うと、それらは神々が仕組んだ事では無いの。貴方自身が自ら切り開く道。」

 アムも上半身を起こして問い掛ける。

 「もしかして・・・アンナ神は神層構造に深く繋がる力をお持ちなのですか?」

 高位階の神々は能力、神格、神望、全てに秀でているが、接続可能な神層構造の深さだけは伴っているとは言い難かった。何か別の基準で優れた神だけが、位階に関わらず深い接続を可能としているのだった。そしてその深さが、神々にとっても重要な何かを意味するらしい。アンナ神がその能力に秀でているとしたら・・・そう思うと、自然に畏敬の念が沸き無自覚で敬語になっていた。

 「さあどうかしら。そんなたいそうなものでなく、女神や女が普通に持つ、女神の感ってやつかも?」

 考え込むアム。確かに、これまでにも女の直感、その鋭さに追いつめられた事が多々あった。考えすぎだろうか?

 「なんにせよ、この衛星で私と仲良くなった事に縛られないでって事。まじめなアムは、気にしてしまうでしょうからね。」

 尻軽な女神に見せつつも、単なる戯れで無い好意がそこにあると気付き始めていたアム。それに答えるべきではないかと思いはじめていたが、イフへの想いを容易に忘れる事もできなかった。迷う間に増えていく逢瀬が、徐々にアンナ神への情を深めていく事を止められなかった。あと数ヶ月ここにいたら、自分は果たしてどうなっていただろうか?

 「お別れ・・・ですか?自分はアンナの事を段々好きになってきたのに。」

 まるで苦しいように胸を押さえるアンナ神。

 「ありがとう。でもそれは・・・いえ、ありがとう。」

 微笑むアンナ神。ここで本当の事を言う必要は無い。せめて今はそうなのだとも思いたい。足を揃えて寝具から降りるアンナ神。

 「この旅で一回りも二回りも大きくなってきなさい、アム。」

 アムの額にキスをして、そのまま扉に向うアンナ神。扉が開いたところで振り返りアムに微笑みかける。

 「さようなら、アム」

 別れの言葉が喉から出てこないまま扉が閉まり、一人残されるアム。

 笑顔のまま閉まった扉に寄りかかるアンナ。笑顔のまま、涙が流れ落ちる。

 自らに都合の良い流れを作る事は可能だったろう。しかし、アンナ神には白派 の一員としての矜持もあった。人類の未来を何より優先したいと考え、常に最善を尽くさなければならない。だから、これで良かったのだ。

 「親子揃って私に辛い想いをさせるなんて。悪い子。」

 手で涙を拭くと、自室の方向へ歩き去っていくアンナ神。


 誰もいなくなったはずの廊下では、僅かな息遣いが聞こえた。

 十字路の倉庫へ向う方面は照明が落とされており、その影に潜む形で何者かがいるようだった。神か人類か、暗がりの中で判別は難しかったが、体系からすると男のようであった。

 「アンナ神はアムと深い関係だったのか。く・・・」

 低い声で怒りをにじませる。その者は、心の中に薄暗い嫉妬の炎が燃え上がっていくのが止められなかった。

 「しかし、親子とはいったい・・・」

 人類は子供を作る機能が制限されており、親も子もいるはずが無かった。

 製造上の親を意味するのか?保護者を意味するのか?いったい誰なのか。

 そこで再び、アンナ神の事が思い出される。怒りと嫉妬心が止められない。

 アムの部屋を睨みながら壁を一撃した後、歩き去っていく謎の者。

 

 そして出発の日の朝。

 ”蒼き輝きの管理神”を始めとする白派の神と人10名が、出発する白き神を見送りに港へ来ていた。久方ぶりの”蒼き星”圏外の旅ではあったが、星系外へ行くわけでも無いので、見送りも控えめなものだった。しかし、初めての太陽系旅行に、アムの胸は期待で張り裂けんばかりだった。

 「エンカク、出発が待ち遠しいな。」アムの声も自然と弾んでしまっていた。

 「あらら。君はお子様ですかぃ?まあ初めての”蒼き星”圏外旅行、気持ちは判るっすが。」

 エンカクにからかわれても気にならず、ただただ出発が待ち遠しかった。

 アムとエンカンは白き船の展望窓から桟橋入り口を眺め、会談の内容は情報端末経由で聞いている。オンデ神とジョイジ神は出入り口の扉の裏で待機している。この処置は、随行者の情報を極力隠蔽する為であった。


 「では、そのようにいたします。くれぐれも旅路はお気をつけて。」

 蒼き輝きの管理神が最後の挨拶を行った。

 「ありがとう。不在中はいろいろ頼む。では、行ってくる!」

 いつも落ち着いていると評判の白き神も、この日はどこか楽しげだった。

 白き神が見送る側のアンナ神を見ると、丁度展望窓を見ているところだった。

 外からはアムの姿が見えないはずだが、まるでそこにいる事が分かっている様だった。

 ふいに白き神に見つめられている事に気付き、頬を染めてお辞儀をするアンナ神。

 わかっている、皆で無事に帰ってくる、と心で答えてからうなずく白き神。

 踵を返して船に向う白き神に、”蒼き輝き”の現地警備員が2神が随行する。

 無事桟橋の突端、白き船の入り口に到着すると白き神だけが乗船し、振り返って手を振るとそれに呼応するように扉が動きはじめる。

 「見送り完了!」

 一声上げてから警備員が桟橋の入り口に戻ってくる。それと同時に、全員港の内側である気密室へ移動を始める。

 

 「皆気密室へ入ったっす。いよいよ発進~。」

 どこかで鈍い振動が生じたと同時に、船体が浮上を始める。完全に水上に浮いた時、ペキパキと甲高い音が始まった。

 「あ、水面が凍りはじめた!エンカン、凍ってるよ。」

 「アムはこれ見るの始めてか。水を抜くのが面倒で凍らせるっていうものぐさな発想っす。」

 「なるほど。あ、今度は粉雪が猛烈に舞いはじめた!」

 「空気を抜いてるだけっす。」

 エンカンの説明は的を得ているけど、感動の腰を折るな。そんな事を思いながらも、美しい目の前の景色にしばし見とれた。やがて完全に視界が開けると、宇宙船正面の扉がゆっくり開き始めた。

 「宇宙港扉開口を確認。障害物無し。当船はこれより発進します。」

 「お、船長の声っす」

 案内が船内に鳴り響いたと同時に、外の景色がゆっくりと動きはじめる。

 衛星の下に”蒼い星”が見える。直下は丁度朝を迎えたあたりで、すぐ近くに夜の領域が見えた。

 「当船は衛星からの安全距離を取った後、内宇宙機関により加速を始めます。

 重力制御により加速感は緩和されるはずですが、人類はまれに目眩を起す場合があります。次回連絡があるまで、安全な場所で待機下さい。」

 「アム、我々人類は談話室で座ってましょ。」

 「そうだね。」

 エンカンの提案通り談話室に移動すると、オンデ神、ジョイジ神も来ていた。

 「おお、エンカンにアム。」

 「オンデ神、ジョイジ神も来ていたのですね。」

 「おいおい、飲んでる時と我々だけの時は他人行儀は止めるって決めたろ?アム。」とジョイジ神。

 「え、あれは酔っ払いの戯言では・・・いや、本気だったんですね。ジョイジ。」

 「まだ敬語を使ってる。まあ我々よりも若いからしょうがないか。」

 「そうだぞ、ジョイジ。素面で神と言う尊称を抜きにするのは大変違和感あるらしいぞ、人類には。まあここに1名無神経な例外もいるが。」

 「ひどいっすね~」

 エンカクの膨れっ面に皆笑ってしまう。

 「只今より当船は加速を始めます。只今より・・」

 「お、始まるぞ」と、オンデ神。

 船体が僅かに振動を始めたその瞬間、エンカンとアムの平衡感覚が狂い倒れ込んでしまう。

 「なんじゃこりゃ!」「うぁ~」

 それを平然と眺める神々。

 「おまえ達。鍛えかたがたらんぞ。」

 「そんな問題じゃな~い。」

 窓の外を見ると物凄い勢いで周囲の天体が場所を変えていく。

 「距離感の薄い宇宙でこんなに変化を感じるって。加速しすぎだろ!」

 振動が消え、加速感も消えるとようやく一息つく人類二人。

 「はぁ~。」

 「前に乗った旅客船はこんなひでー加速なかったっす。」

 あいかわらず平然とした神々。

 「神々が高加速や高重力に強いってほんとだったんですね。人類に合わせて設計していたら、もっと控えめな加速になってたはず。」

 「何を言ってるんだい、アム。重力加速制御技術が無かった時代は半端じゃなくきつかったんだぞ。それに比べたらこんなの軽い、軽い~。」

 「何言ってるんすか、ジョイジ。神々が宇宙に広がった頃には重力制御技術がすでにあったって話じゃないっすか。そんなに長生きしてるんすか?」

 指を振り子のように振るジョイジ神。

 「ちっちっちっ。違うんだな~。重力制御技術が生まれたのはそこそこ前だけど、宇宙船に搭載できるくらいの大きさに出来、一般の宇宙船にも搭載されるようになったのは”星系12083”へ向けて神々が出発する直前なんだよ。」 

 「”星系12083”って、”辺境の白き光星系”と言われるこの星系じゃないっすか。」

 驚いた顔をしたエンカンにジョイジ神が答える。

 「そうだよ。だからこの星に来ている神々は、重力制御技術が無い時代の宇宙船に乗っていた。白き神も、この船の船長である”好加速の神”もね。だから放っておくと制御下でも加速が感じられるくらい加速してしまう。」

 確かにそうだとアムもうなづく。

 「それにしても船長のお名前。どんな神か安易に想像できるっすね。若い頃は暴走族でもやってたんすかね・・・え?」

 そこまで言って、エンカンは目の前にいるジョイジ神が青い顔をしている事に気付いた。

 「それは、こんな神だったかな?」

 エンカンの後ろから怒りを含んだ野太い声が聞こえてきて、全身の血の気が引く。振り返ると、そこには筋骨隆々で大柄な神が立っていた。

 全身の毛を逆立ててエンカンが驚く。

 「エンカン君、君にはぜひ搭載艇での遊覧飛行につきあってもらおう。」

 「ひ~~~」

 オンデ神が大笑いをしながら好加速の神に近づく。

 「まあまあ、若造をいじめるのはそのくらいにして。お久しぶりです、好加速の神。」

 「おぉ、ひさしぶりだな。オンデよ。」

 恐ろしい形相が楽しげな表情に変わり、エンカンもほっと胸をなで下ろす。

 「この者達をご紹介します。彼が私と共に白き神を護衛するジョイジ神、この失礼な人類が特殊任務を受け持つエンカン、この若者が書生のアムです。」

 それぞれに手を差し出して握手を求める好加速の神が、一瞬静止する。

 「・・・君がアム君か。そうか、そうか。」

 うなずきながらアムと握手する好加速の神。どんな事前情報を持っているのかアムは気になったが、ひとまずは気にしない事にした。

 「私の名は好加速の神だが、船内では船長と呼んでくれた方が嬉しい。基本的には乗客である君達を大事にするが、船に対して破壊行為を働いたらそのままの恰好で宇宙遊泳してもらうので、注意するように。」

 エンカンとアムは顔を見合わせて苦笑いする。

 「ところで船長。お願いがあるのですが。」

 「なんだね、オンデ。」

 「出発時の加速と到着時の減速についてです。」

 「あれじゃ生ぬるいとでも言うのかね?いや、いっそ重力加速制御を切って欲しいのか?若者は刺激や激しさを好むからの。」

 エンカンとアムは顔を振って否定する。

 笑顔でオンデ神が答える。

 「いやいや、逆ですよ。惑星暮しの長かった人類は、我々よりも加速耐性が低いのです。彼らにとっては満杯の果実酒が一滴も零れないような加減速が好ましい。でも・・・可能ですか?」

 船長の顔が凄みの有る顔に変わる。

 「それは、船の能力について疑いがあると?いや、我々船員への挑戦か?」

 「なんだコノ」「丘の野郎に何が判る」「く~」

 壁面の情報端末がいつのまにか2画面起動しており、艦橋と機関室の船員が野次を飛ばしていた。

 エンカクとアムは激しく顔を振って否定する。

 船長の顔が活き活きとしたものに変わる。

 「いいだろう、その挑戦、受けた。一滴もこぼさぬから、到着前には満杯の果実酒を用意しておくようにな。」

 「そだ~」「いくぜ!」「お~」

 背後の野次が気合の入った意欲の表明に変わる。

 エンカンとアムは肯いて肯定する。 

 「面白くなってきましたね~」と、ジョイジ神も事体を楽しんでいる

 「では、船の旅をごゆるりと満喫ください。失礼する。」

 壁面の映像も消え、船長の大柄な体が扉に消えるとエンカンとアムは長い溜息をもらす。

 「は~。いや~心臓止まるかと思ったっす。」

 「ほんとに。」

 「これで判ったろ。船に載せてもらっている間、回りに誰かいようがいまいが変な事は言わないこった。うっかり聞かれたら、宇宙服無しで船外清掃に送り出されるぞ。」

 オンデ神の忠告を素直に聞きたいと思う二人であった。

 話が途切れたのを機会に、ジョイジ神が席を立つ。

 「エンカン、アム。朝昼は自由だけど、毎日夕食は中央の食堂で皆と食べる事になっている。遅刻するなよ。」

 「了解っす。」「了解です。」

 「じゃ、自分は部屋に戻りますよ、オンデ。皆もごゆっくり。」

 手を振りながら談話室を出て行くジョイジ神。

 「さて。我々も一旦解散だな。」

 「そっすね。」「はい。」

 オンデ神とエンカンがそれぞれ別の扉から出て行くのを見送った後、談話室の唯一の窓に近寄るアム。目の前には美しい宇宙の輝きが広がっている。海上船が波を掻き分けて進むような音がどこからか聞こえてくる。

 内惑星航行用の主機関が発する音のようだが、知らなければ自分が夜の海を疾走していると誤解したかもしれない。

 一人になって、ようやく自分の旅が始まった事を実感したアム。一人、いつまでも美しい宇宙を眺め続けていた。

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