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間近なる"死"


「まだまだ甘いなぁ! バルディ。予備動作を

見えにくくしろ!」

「ガッデム!」


 絶壁の(はざ)()地帯では、バルディがクレインに

シゴきを受けている。彼に不足している技量を

底上げするのだ。


「ミュール、よーく俺の姿を見ておくんだぞ」

「うん!」


「スゥゥゥゥ…………」


 息を吸って、バーベルを下ろして大臀筋と

大腿四頭筋をストレッチする。


「ぬあああああっっっ!!!」


 バーベルと太股の骨が平行になる直前に、

全力の力を発揮して下降を減速。バーベルと

太股の骨が平行になったタイミングで、緩やか

ながらも加速を開始した。


「スゥゥゥゥ…………ぬあああああっっっ!!!」


 一連の動作を3回、行った。


「ぅおっ…………」

「コーチ!」


 酸欠・その他諸々により、倒れ込もうとした

俺を、ミュールが肩で支えてくれた。


「あっ…………と、悪いね、ミュール」


 いい匂いで意識の回復が早まり、肩から身を

起こして、今回使わなかった脚の筋肉を利用して、

自立を再開した。


「ううん、私に全力の出し方を全力で見せて

くれるコーチだから、私も全力でサポート

したんだよ」


「そっか。だったら忘れない内に、スクワットに

取りかかろう!」


「うん!」


 バルディに対してミュールは、更なる強敵相手

にも自慢の技量を活かすべく、フィジカル向上を

中心に励んでいるのだ。


「よっし、ちょっとクエスト受けてくるねー」


 ひとしきりの特訓を終え、俺は仕事を受けに

向かった。


「マンイートコンドル…………D級の()(もん)モンスター

ですね!」


「はい、ここらで自身の対空能力も把握したいと

思いまして、このクエストを受けることにしました」


 マンイートコンドル。大空を自在に(かっ)()する

2~3mの猛禽類だ。地上に居る自身の2倍までの

動物を捕食対象とし、人間を手頃なオヤツ感覚で

襲撃してくる事から、この名がついた。


「…………本来、複数人での相対(そうたい)が推奨される

モンスターですが、ワイルドさんの実力を

信じて、受注を許可します」


 厄介な点は、機動力と動体視力、そして

賢さだ。近距離物理攻撃等はそもそも届かず、

初心者冒険者には慣れない空中からの襲撃で、

餌場まで持ち帰られてしまう。


 かといって、遠距離攻撃があれば確実に

倒せるかというと、そんなことは一切なく、

鉄球や氷魔法等の低速弾丸は、持ち前の

動体視力で軽く避け、相性有利な筈の銃撃や

雷魔法も、射手の動きから発砲を予測し、

難なく回避してしまうのだ。


 当然、単独で挑もうものなら、死角から両肩を

鷲掴(わしづか)みにされ、高所から落とされて餌にされて

しまう。正に身近な人類の天敵なのだ。


「ありがとうございます。当然、細心の注意を

払って挑みます」


 どんな相手にも、アースヒーロ(  こ い )ーズの外道達( つ ら  )

ような舐め腐った態度を取ると、必ず痛い目を

見る。


 あの時も、そうだった!


~回想・マンイートコンドル討伐クエスト~


「う~む、中々見つからないねぇ~~」


「ショウ、テメェちゃんと探っているんだろうなぁ?」


 この頃から、カルロスのパワハラは激化していたと

思う。


「さ、探してるよ。…………だけど、マンイート

コンドルは羽音を殆ど立てないから、中々

見つかr…ギャッ!!」


 拳が頬に当たり、視界がぶれた。


「言い訳してんじゃねぇぞ!! 役立たずの分際に

発言権なんてねぇんだよ!!」


「ご、ごめんなさい…………」


 些細な事でもこじつけで暴行を加えられる。我ながら、

あのときまで良く耐えられたものだと思う。


「おおー、今回は良くできましたね~、ショウくぅん。

そんなショウ君にはぁ~、アリスちゃんの回復魔法に

(いや)される権利を与えま~す」


「フフフ、自己の非を認めれるショウ君は、いずれ

天界に迎え入れられると思いますわ」


 そして、回復魔法で頬の内出血を直された。


「ありがとうございます。聖アリス様」


 この悪魔(アリス)に至っては、支離滅裂な呼び方を

しなければ、何故か他3人に袋叩きにされて

しまう。


「怪我した時は、いつでも言ってくださいませ」


 この微笑みの1枚内側からは、()(べつ)(けん)()

憐憫(れんびん)の気配が、これでもかというほど

感じられる。


「っ、後方から来る!」


「…………物音1つk…」


 (わず)かな羽音を察知し、報告した俺に対し、羽音を

聞き取れなかったローズは奇異(きい)の眼差しを向けた。


「キャアアアアッッ!!」


 直後、アリスの悲鳴が上がる。


「ヤベェ! アリスが(さら)われた!」


「今助けるわよ! 氷結(アイス)・…」


 飛ぶ斬撃をまだ習得していないカルロスは何も

出来ず、ローズが氷の槍を生成し始めた。…………しかし


「ダメだ! アリスを貫いてしまうよ!」


 コンドルは賢く、ここから氷槍を放つとアリスに

刺さるような角度に、掴んだアリスを動かしたのだ。


「今の発言は重罪だz…」

「そんなこと言っている場合じゃないだろ!!

(ミドル)召喚(ゲート)


 状況の深刻さを理解していないアーロンの説教を

(さえぎ)り、先日習得した、対象の移動に対応して動く

召喚の門を開けた。


「足手まといに何が出来るのかねぇ?」


 アーロンが、俺を(あざけ)りながら隼のような速度の

跳躍で、コンドルとアリスに迫り出した。そっくり

そのまま返したい、その程度の速度で空中モンスター

相手に何が出来るの?


落石(フォールストン)!!」


 対する俺の落石は、コンドルの1m上から重力に

従った自然な速度で落下する。故に、存在を(さと)り辛い

重量物が、1秒にも満たない時間で命中するのだ。


「グギャアッ!!」

「キャアッ!!」


 岩が命中したコンドルは、アリスを捨てて

そのまま墜落(ついらく)していった。当然、アリスは

なす術なく落下していく。


「ッカルロス!」


 空中で速度が出過ぎたアーロンは、しばらく自由に

動けないので、カルロスに出動させた。


「兄貴の頼みは俺の誇りぃ!」

氷結(アイス)(ランス)!」


 カルロスがアリスの救助を、ローズがコンドルの

とどめを分担した。


「良かった! 無事だったんd…」


 俺は、無事に救助されたアリスに安堵の声を

上げたのだが…………


「はーーーーあ、最ッッ悪! アンタが余計な

マネをしたせいで、アーロン様の腕に抱かれる

ことが出来なかったじゃないの。2人とも、この

(あわ)れな羊に(ちょう)(ばつ)を与えてくれるかしら?」


「ええ」

「ああ」


 突如、(いわ)れの無い罵倒と罰を言い渡され、

他2人も同調した。


「え、いやいや!? どう考えてもアーロンじゃ

コンドルを倒s…」

「兄貴を侮辱してんじゃねぇぞゴルゥアアーーー

ーーーーー!!!」

『ドガ!! バギ!! ボゴガゴガガガガガガ…………!!!』


(……………………何…………で…………助けたのに…………

殴られなきゃ…………ダメなの……………………??)


 一頻(ひとしき)り、カルロスに暴行を加えられ、ローズの

氷魔法で低温火傷を負わされ、目の前でマンイート

コンドルの死体を(ほふ)(さま)を見せつけられた。死体を

屠る3人の内、特にアリスの純粋な嗜虐心から来る

笑みが、俺の(ぞう)()をかき乱していた。




 …………助けなきゃ良かった。




 この時思った事は、ひたすらにこれだった。

何故って? この時、この悪魔(アリス)をコンドルの餌に

しておけば、その後何百という生物が苦痛に

(もだ)えて死ぬことが、無かったからだ。


 ただ、それだけだ。


~回想終了~


「…………だけど、今は違う」


 既に食人被害が3件上がっているコンドルの

動きを、俺は空気の揺らぎと羽音から、見ずとも

的確に把握していた。


「初対面の君に恨みは無い。だけど、俺が人間として

生きる以上は、環境調査員の男性1人、E級、C級の

冒険者男女それぞれ1人、計3名を食い殺した君を

生かしておく事は出来ないんだ」

「!!」


 俺の独り言といって差し支えない呟きの意味は、

流石に理解していないと思う。だがコンドルは、

その呟きを自分に向けて言っているとは理解した

らしく、そこから、自分の姿を把握されている

ことを察したようだ。


「グギャアッ!!」


 そのため、俺を鷲掴みにしようと降下していた

のを中断し、上昇を開始した。


「逃がさないよ。(ミドル)召喚(ゲート)(ヘキサ)海水(オーシャン)(ピラー)!」


 コンドルが俺の真上にさしかかろうとした瞬間、

俺を中心とした半径2mの円周に、6つの回廊を

生成し、そこから海水の柱を真上へ突き上げた。


「グギャアアアッッ!?」


 あまりに非日常な出来事に、コンドルは動揺して

速度を激減させた。


『バババババッッ!!』

「命、頂くよ」


 その隙に、俺は柱を足場に上昇していき、コンドル

の背後を取って鉄槌(てっつい)を振り落とした。


「…………即死。彼に落とされた3人も、せめて痛みの

無い最期であったことを願うしかないな」


 このマンイートコンドルも、彼に殺された3人も、

俺はいずれの内面を欠片も知らない。だからこそ、

この倒し方が最適だったのかは、分からない。


「さて、遺品、あるよね」


 コンドルの胃から、調査員のものと思われる指輪

と、冒険者達のものと思われる衣類が見つかった。


「…………あそこか」


 内、衣類からは、共通の臭いを感知し、それは

1つの場所を示していた。


「…………残っているものなんだな」


 俺は、綺麗に肉と骨髄を食べられ、バラバラに

残された2人の骨を、臭いを元に2人に分け、

遺された備品と合わせて2つに分別した。


~冒険者ギルド~


「…………と言うわけで、鑑定の後に、遺族の方へ

委ねられないでしょうか?」

「…………分かりました。ギルドが責任を持って

お預かりします。依頼内容以上のお仕事をして

いただき、ありがとうございます」


 リズは、深々と頭を下げてきた。


「あ、いや…………その、出来ることをしただけ

なので、頭を下げられるのは…………」


「…………この2人は、3日前まで私とも仲良く

話していました。本当に中の良い先輩後輩関係

だったと思います…………ですので、私としても

(あだ)()ちをしてくれた気分になってしまい…………」


 仕事中故に、抑えていた感情が溢れつつある。


「…………だったら、やはり出来ることを全て行って

正解でした。ずっとリズさんに塞がれていたら、

俺達の出発前のモチベーションにも悪影響ですし、

何より俺の数少ない知人が悲しみ続けているのは、

見ていて辛いです」


 熊獣人リズの、小熊のような笑みは、多くの

冒険者達の出発前・帰還時の癒しとなっている。


 俺もよく、外道(アーロン)達に心を折られそうになっていた

時に、救われたものだ。


「…………なんだかスッキリしました。お礼に、

今度ランチでも(おご)らせて下さい」


「あー、そういうことでしたら、ちょっと

言いづらいのですが…………」


 ギルド長に、カルロスの被害男性との面会許可を

得る為の説得時に、力添えをして欲しい趣旨を伝えた。


「…………取り付ける保証は出来ませんが…………それでも

やるという事であれば、全力でサポートいたします!」


「!、ありがとうございます!」


 こうして、俺はリズの後に続いてギルド長の部屋

へと足を運んだ。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

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