ダンデリオED
薄暗い内部を古風なランプや蝋燭がぼんやり照らしている。
こんないかにもな部屋、見るのは映画以来だ。
全ての部屋の廊下を見ていくと、一番大きく、ピンクの扉の部屋に、場違いな札が下げられている。
なにが書いてあるのか近づいて読んでみるとqueenとだけ書いてある。
「クイーン?」
「彼女の話をすると長くなるんだが」
「気になるから言って」
「名も無き教団に、昔は73のデビルという名がありました」
ダンデリオは本を読みながら話始めた。
「教団なのに悪魔…」
仮にも神父ごっこをしておいて悪魔…。
「はるか昔、女神マスヴェイユは秘かに我々の住むカミュレットの世界にある悪魔を模造した」
なんで女神が悪魔を作るの。
「その悪魔の住まう世界で、新しく魔王となったのは先の魔王の娘で、優しき少女エビル」
悪魔でも優しい人がいるんだ。
「デビルクイーンは、悪魔を封印せし者から、封印を奪い、その身に73の悪魔を取り込む。」
「優しいのは仲間思いの意味で?」
仲間でも悪魔の封印を解いたらだめだろう。
「凶悪な悪魔も三食昼寝つきで満足したのもつかの間、クイーンは突如消滅する」
「悪魔はどうなったの?」
「時を経て、いまもなおクイーンに焦がれさまよっている」
ダンデリオは本を閉じた。
「…で?」
「約×00年前、クイーンを失ってから名も消え、主も消えたわけで、
そこへ他所から来たキャルフェという怪しげな男が、どういうわけかトップの座を手にした」
「つまり今、偉い相手がキャルフェ?」
「そうなる…のかな」
これで一つわかった。
あのとき、薬の入手はキャルフェの命令だったから、やっぱり乗り気じゃなかったんだ。
「キャルフェのところに私を連れていくの?」
「そうですけど…」
「さっきから煮えきらない返事ばかり、それと敬語を使ったり使わなかったり混乱するからできるなら統一してほしい」
私は偉い人ではないので敬語を使われても困る。
「わかった。はっきり言うとキャルフェを嫌悪してはいないが尊敬はしていない
どちらかと言えば君を連れて行きたくもない、とも思う」
「尊敬はしないならなぜキャルフェに従うの?
辞められない理由があるの?」
身内を人質にとられているとか、どうしようもない理由があるのかもしれない。
「意地…かな」
「…意地?」
「ここに所属した日、周りには兄や、オレと仲がよかった同期の奴がいた
だが、一つ上の兄が失踪した時、ソイツはここから去った。
その日、オレだけでもここで兄の帰還を待とうと決めた」
彼の兄が彼の周りの世界を作っていて、けど彼の兄はいなくなってしまって、そして友人までいなくなって、ダンデリオは空虚になってしまったようだ。
「家族はいない…ここから去ればオレに居場所なんてないからだ」
兄に居場所を作られた彼のように、私も自分から進んで輪を作らない。
すでに作られたもの、与えられたものに身を委ねるしかないのだ。
「早くキャルフェの所にいこう」
「え?」
「クビになりたくないでしょう?」
「別に大した様じゃないだろうし
そんなことで追放されないが…」
キャルフェのいる部屋に入る。
カーテンに顔が隠れ、見えないがスーツの男の胴体は見える。
「君が妖精の遺伝子を持つ少女か」
妖精?
なぜそんなメルヘンチックなことを言い出すのだろう。
「君には生け贄になってもらいたい」
なぜ生け贄がいるのか、なぜ私なのか、頭がついていかない。
「植物…生命の加護を受ける君の魂と器によって私の愛する妻を蘇らせる」
私にそんなすごい力が、あるわけない。
「妻って悪魔を取り込んだクイーンナントカ?」
先ほどダンデリオの話していた急に居なくなったクイーンのことかと思い、尋ねてみた。
「なんのことかね、悪魔のことは知らないよ…」
どうやら違ったようだ。
…そもそも時代が違ったようだ。
一応この人はカルト集団に入り込んだ時点で変だけど人間だろうし。
「馬鹿馬鹿しい華…いこう」
「うん」
「待ちたまえ、私は最近、君臨したから詳しくは知らないがその男には悪魔が憑いているそうだよ皆彼を畏怖している」
「だから?」
「…華」
それで孤立していたのか、とは思ったが、悪魔が実在するかなんて関係ない。
「居場所を…このカルトを去るのかね?」
さすがに丸腰の人間が、悪魔憑きと言われているのを信じている相手に挑むことはないようだ。
「余所者が…知った口を聞くな!」
ダンデリオは私の手をひいて駆け出した。
「お前達!二人を捕まえろ!」
「だれがお前の命令など聞くものか」
「ここまでくれば大丈夫か」
「ダンデリオ、向こうに綺麗なタンポポが咲いている」
私は向こうに見える黄色い花を指差す。
「私はタンポポが好き」
「タンポポを英語でなんて言うか、わかるか華」
「…ダンデリオも好きかもね」




