↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
廃洋館で笑う女  作者: 平ミノル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/10

第9話 決死の逃亡


マサルは、変わり果てた姿の賢治を見た。牛の顔となった賢治は、虚ろな瞳でマサルを見て来る。


「俺を殺す気か、賢治!」


すると賢治は黄色い歯を剥き出して笑った。


「牛頭馬頭様の命令だからな!」


「なぜだ。なぜそんなことが出来るんだ!ついさっきまで一緒に遊んでた友達じゃないか!」


「じゃあ! お前が俺の立場だったら出来るのか!」


賢治は近くにあった椅子を蹴飛ばす。


「俺の命がかかってんだ! どうして自分の命を犠牲にしてお前を助けるんだ!」


牛男は黄色い歯を剥いた。


「お前と俺とは、ただの友達だろ?」


「賢治、貴様!」


「それにな、今は足を洗ったつもりでも、お前が過去に犯した罪が消えるわけじゃあない。……お前は受け子として働いた経歴があるからな」


「それじゃ、美希だけでも逃してくれ! 美希は何も悪いことをしていないだろう!」


「それを決めるのは俺たちじゃない。牛頭馬頭様が決めることだ」


「話のわからない奴め!」


マサルは振り返って美希を見た。


「逃げろ、美希!」


「駄目よ! マサルを置いて行けない!」


「馬鹿なことを言うな美希!」


マサルは息を荒げながら叫んだ。


「ここは、地獄の門と繋がっているんだぞ!」


美希の頬に涙が伝った。美希の顔が悲しみで崩れる。


「頼む……逃げてくれ美希……こんな化け物から俺……お前を守れる自信がねえ……」


すると美希が悲しみを押し殺してマサルに背を向けた。走り出すその小さな背中を、マサルは静かに見送った。


「どこ見てんだ、マサルぅ!」


「うおおっ!」


賢治が斧で斬りかかって来た。


マサルは飛び退いてそれを躱すと、数歩後ろへ下がった。


賢治が喉をかきむしり、獣の咆哮を上げた。


「ハハハハハ! マサル! 大人しく俺に捕まれ!」


「賢治!お前人の心を捨てたのか!」


だが、牛男と化した賢治は、そんな言葉など届かない。手に握った斧を振り回してくる。


「マサル……お前は俺のことをいつも見下してた……女も出来ねえ、ヘタレ野郎だってな!」


「違げえよ! 俺はそんなこと思ってねえ!」


「言ってなくても俺にはわかってた。お前の態度に滲み出ていたんだ!」


賢治は涎を振りまきながら、マサルの首を狙って斧を振り回す。


「死ね! お前を地獄に突き落としてやる」


その時、マサルの目の前に、眩しい光が広がった。


ガン!


「ああっ!」


強烈な衝撃によって、賢治が吹き飛ばされた。


「賢治っ!?」


マサルが顔を上げて前を見ると、車の中から美希が顔を出した。


「マサル! 乗って!」


美希が熊岡の高級車で賢治を跳ね飛ばしたのだ。


「お前、さっさと逃げりゃいいのによ」


マサルは助手席に飛び乗った。


「文句なら後で言って! 行くよ!」


「ああ、ありがとよ!」


美希はアクセルをべた踏みする。


ギャギャギャ!


タイヤが空転し、車が横にスライドしていく。


「わわわわ! 美希! お前、運転!」


「うん、免許は持ってる!」


「あああ! 俺はお前に殺される!」


急に車がグリップを取り戻し、ロケットのように発車した。


「わあああ!」


真っ暗闇の中、ヘッドライトに照らされた木々が、目の前に迫ってくる。


「ああ! ぶつかる!」


「きゃあ!」


美希が急ブレーキを踏む。


「ああっ! なんで!」


マサルが美希の顔を見ると、顔面蒼白だ。また、車が急発進する。


「おい!美希!急にどうした!」


うなるエンジンに、マサルの顔が青ざめる。


「……体が言うことをきかないのよ……ああっ……」


「おい美希!」


美希の声がだんだんと遠くなっていく。美希は木に衝突しそうになる前に、かろうじてハンドルを切った。


「あ、危ないっ!」


美希のまぶたが重そうに落ちかけ、それでも必死にハンドルを握ろうとしていた。だが、やがてその手からすべての力が抜けた。


「美希どうした?!」


マサルが美希の肩を揺すると、彼女はグッタリしている。


「美希が気絶した!」


美希はシートベルトに固定されたまま、骨のない体のように揺れに翻弄されていた。


「どうなってるんだっ!」


マサルは助手席から腕を伸ばして、美希からハンドルを奪い取った。そしてサイドブレーキを引きながら、ハンドルを切る。


ギャギャギャ……!


車がドリフトしながら大木への衝突を回避する。激しい揺さぶりに、マサルはシートに体を押しつけられる。


「うおおおお! なんだこの挙動は!」


車は、暴れ馬のように制御不能となっていた。


「美希! おい! アクセルから足を離せ!」


だが、美希からの返事はない。しかもアクセルを踏んだままだ。ふと、窓の外を見ると、馬女が両手を広げ、手の平をこちらに向けながら睨んでいる。


「くそ……美希はあいつに操られているのか!」


マサルは必死でハンドルをさばくが、いつまでもこんな曲芸を続けられるはずがなかった。


「エンジンは? エンジンは切れないのか!!」


マサルはエンジン停止ボタンを押してみたが、エンジンが止まることは無かった。


「どうなってんだ……3回押すか、長押ししたら停まるはずだろ! あ! あー、危ねえ!」


目の前にまた、大木が現れた。マサルが急ハンドルを切ると車が横滑りする。そしてそのまま砂利道の斜面へと突入した。


「おおおお!」


2人を乗せた車は、砂利道の下り坂を猛スピードで走った。エンジン音が唸り声を上げる。


その時、車を停めようと牛女が飛び出してきた。


「ああああ! どけえ!」


すると牛女は、フロントガラスの前へ飛び上って来たのだ。


「ひいいいっ! なんのつもりだお前!」


車もエンジンは唸り声をあげ、猛スピードで砂利道を下っていく。左右の景色がとんでもない速さで流れていった。牛女が歯を剥きながらマサルの名を呼ぶ。マサルは悲痛な顔で助手席からハンドルを握った。


「あああっ! 止まってくれ!」


目の前の牛女が、右腕を振り上げてフロントガラスに振り下ろす。蜘蛛の巣状に、亀裂が走った。


「前が見えねえだろ、バカ!」


車は舗装路へと飛び出した。車のスピードが止まらない。


顔を上げると、牛女がまた、拳を振り上げてフロントガラスを叩いた。ガラスが拳の形に割れて、崩れたガラスの破片が座席へと零れ落ちてくる。牛女が黄色い歯を剥いて大きな口を開けた。


「おのれぇ! 逃がさんぞ!」


「うわわあああ!」


マサルは叫びながら、もう一度、サイドブレーキを引いた。その途端、車が左右に蛇行するように揺れ始め、そのままキュルキュルと回転した。


「あああーっ!」


車はガードレールの隙間へ頭から突っ込んで森の斜面へ転落し、そのまま大きな岩へ衝突した。


「ブモオオ!」


岩と車は激しく衝突し、牛女は岩と車に圧殺されて、木っ端みじんに破裂した。肉が千切れ飛び、血がフロントガラスを染めて、そのまま割れ飛んだ。すべてのエアバックが作動する。そして車は岩ごと斜面の下へ落下した。千切れ跳んだ牛女の首が、美希の腹へ落ちて、大きな口を開けて噛みつく。


マサルは牛女の首を掴んで引き剥がそうと腕を伸ばすと、牛女の首が血で濡れた目でマサルを睨みつけた。


「覚えておれ!」


その瞬間、車が地面へドン!と衝突した。


凄まじい衝撃とともに車は横転し、天地がひっくり返った。そして、気が付いた時にはもう、マサルも美希も、シートベルトによって宙吊りになっていた。


「あ痛っ!」


マサルはよろけながらシートベルトを外して、しぼんだエアバックを腕で押し退けた。車のボンネットから、猛烈な水蒸気が上がっている。チョロチョロと、何か液状のものが漏れ始めていた。


「ヤバい……爆発するんじゃねえだろうな……」


マサルは顔を青くしながら、美希の元へと這っていく。そして美希のシートベルトを外すと、彼女の体がマサルの腕の中へドサリと落ちてきた。


「うわっ!」


その時、牛女の生首が一緒に落ちて来たのだ。マサルはそれを後部座席へと投げ捨てた。そして気を失っている美希の体を抱きかかえると、そのまま窓から外へ押し出す。


マサルは全身が汗でびっしょりだった。


マサルは助手席側から這うように外へ出ると、運転席側へと回って、美希を引っ張り出した。


マサルは美希を抱きかかえるとそのまま森の大木まで運んで、そのまま倒れるようにしゃがみこんだ。


「はあ、はあ……」


目の前の車が水蒸気を上げている。


その蒸気の影から赤い着物を着た女が現れた。マサルは目を剥いてその女を見た。


「有佳子!」


すると有佳子は斧を引き摺りながら、マサルの前まで歩いてきた。


マサルは額の汗を袖口で拭った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。