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試合は順調に進んでいった。素人目に見てもリチャードともう一人のシード選手が強いのは明らかだった。
もう一人のシード選手は、ゴーン・ドレイクさん。
いつもリチャードやオルディスさんといる大柄な生徒だ。すばしっこいリチャードと違い、パワーで推していくタイプのようで、相手選手がドレイクさんの剣を受け止めきれずに吹っ飛ばされていく。
あっという間に準決勝の決着もついた。
「決勝は予想通りだな」
オルディスさんが呟いた。
「ゴーンがどこかでやらかせば、リチャードにもチャンスはあったけどな」
「え?」
「あいつは馬鹿だから知らない奴には侮られがちだけど」
オルディスさんはニヤリと笑った。
「この学年では一番の実力者だ。ゴーンが本気で当たったら、リチャードでも厳しいだろうな――いてっ!」
「ちょっとパトリック! 今日はアシュフォードさんを応援してよ!」
クレアがオルディスさんを小突いている。私は思いもかけなかった話に胸が苦しくなった。顔色の悪くなった私をクレアが抱き寄せてくれる。オルディスさんもしまったという顔をして、声を落とした。
「まあ……、リチャードはわかっていたさ。――それより問題はゴーンだな。よし!」
そう言うとオルディスさんはやおら立ち上がった。
「ゴーン!」
気がつくと、目の前にドレイクさんが立っていた。突然現れた彼に私は目を丸くしたが、ドレイクさん本人も驚いた顔で周りを見渡している。
「え? ここどこ?」
「おい、ゴーン」
どうやらオルディスさんが魔法で移動させたらしい。ドレイクさんもそれがわかったようで、困った顔をしている。
「パトリック、試合前に困るよ。早く控え室に戻してくれよ」
「試合前だからだよ」
オルディスさんは涼しい顔だ。だけど急に険しい顔つきになってドレイクさんに一歩近づいた。
「ゴーン、お前、わざと負けようと思ってないよな」
「え?」
私たちの声が重なった。驚いてドレイクさんを見ると目が泳いでいる。
「ええ? いやあ……。だって。俺優勝しても剣を捧げたい相手いないしさ……。リチャードにとっては大事な試合じゃん?――いででで!」
オルディスさんが、ドレイクさんの耳を引っ張っている。
「お前、リチャードを舐めてるだろ。お前が手を抜いてあいつが気付かないわけないだろ」
「いや……、うまくやるっ――いてて!」
「無理だな」
オルディスさんは、ドレイクさんの耳を離さない。
「お前が、そんな器用なことできるわけない」
なんだかオルディスさんが保護者のように見えてきた。
「いいか。本気で勝ちに行け。そうじゃなかったら、あいつは勝っても優勝を辞退すると思うぞ」
「――わかったよ」
渋々頷くドレイクさんの目を真剣な顔で覗き込んだオルディスさんは、やっとドレイクさんの耳を離した――と思ったら、ドレイクさんが目の前から消えた。
「ちょっと、パトリック!」
「控え室に戻しといた」
どうやら魔法で元いた場所に戻したらしい。満足したのかどうかわからないけれど、オルディスさんが相当な魔法の使い手だということと、――表現は独特だけど……、とても友人思いなのはわかった。
「決勝戦!」
しばらくして、司会の声が会場に響くと観客席はこれまでにないほど盛り上がった。
「今年は、本命通りの決勝戦だし、盛り上がってるな」
「アシュフォードさんだしね。ドレイクさんも有名だけれど」
「そうなの?」
「……ベルはそれでいいのよ」
クレアに残念な子を見るような顔で見られている横で、二人の名前が呼ばれ、上手からドレイクさんが、下手からリチャードが出てきた。
リチャードが眼光鋭く、ドレイクさんを睨みつけているけれど、ドレイクさんはいつも通りの様子で全く怯んだ様子はなかった。
「うん。下手な小細工はやめることにしたんだな」
そんなドレイクさんの様子を見て、オルディスさんが満足げに頷いた。
「あいつは嘘がつけない奴だから、わざと手を抜こうとしていたらもっとオドオドしているはずだ」
「なるほど……」
よくわかってらっしゃる。
「はじめ」
審判の声で試合が始まる。
まず仕掛けたのはリチャードだった。鋭くドレイクさんに切り込むけれど、ドレイクさんの剣に阻まれる。返す勢いでドレイクさんがリチャードに打ち込むけれど、リチャードはその力を横に逃して回転しながら避ける。ついた足を軸にもう一度切り込むが、今度は体ごと弾かれた。
「……っ!!」
思わず悲鳴が出そうになって、慌てて飲み込んだ。
リチャードは、すぐに体勢を立て直したけれど、ドレイクさんがその隙に間合いを詰めていて、何度も打ち込んでくる。それをどうにか受けながら、徐々にリチャードは壁際に追い詰められて行った。
「……やっぱり、ドレイクさんって強いのね」
クレアの声に、胸が嫌な音を立てる。私が見ても明らかに押されている。
しかし、次でいよいよ壁際に詰められると思った瞬間、一瞬の隙をついてリチャードは横に飛び出しドレイクさんの後ろをとった。
ドレイクさんの背中目掛けて勢いよく切り込む。
間一髪、ドレイクさんは振り返りざま、その剣を受けた。
「リチャードもなりふり構ってないな」
体勢を崩したゴーンさんに立て続けに打ち込むリチャードを見て、オルディスさんが呟いた。
ゴーンさんは、リチャードの剣を避けながら、体勢を立て直す。そうなるとまた、ゴーンさんが押し始めた。
これまでにない長い試合だった。
観客席は物凄い盛り上がりを見せている。
でも、私にはその音が徐々に小さくなっていった。剣のぶつかる高い音だけがやけに耳に響く。
ゴーンさんが優勢なのは変わらないけれど、いよいよ危ないというところまで来るとリチャードがうまく避けて、決定的な一打は出させない。
今もリチャードがうまく弾いてゴーンさんと距離を取った。そのまましばらく二人で睨み合う。
二人とも息が上がっていた。リチャードも見たことのないような険しい顔をしているし、ゴーンさんも、さっきわざと負けるようなことを言っていた時とは別人のような顔つきだ。
「息をして! ベル」
隣で囁くクレアに、自分が息を詰めて試合に見入っていたことに気づいた。でもハッと短くしか息ができない。クレアが私の手を握り、背中を撫でてくれる。
切り掛かったのはリチャードだった。
キーンと聞いたことのない音がして、光るものが宙を舞った。
ザンっという音と共に地面に突き刺さったのは、折れた剣先だった。
リチャードの剣が根本から折れていた。
「勝者! ゴーン・ドレイク!」
観客席がどっと沸いた。




