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あっという間に剣術大会の日はやってきた。これまでもクラスの友人に誘われて覗きにきたことはあったけれど、今回は勝手が違う。なぜならクレアとオルディスさんのおかげで、普通は私の立場では入れない貴賓席で観覧するからだ。
そんな席には高位貴族しかいないだろうと思ったけれど、生徒たちは友人同士で来るから、高位の貴族ばかりということはないとオルディスさんが説明してくれた。
恐る恐る案内された席に着くと、なるほど自分と同じように明らかに貴賓席には友人と来ただけという面子も多かった。これなら目立つことはないだろうと思いほっとする。三年生のトーナメントはまだまだ前哨戦で、メインイベントである高学年の試合は明日以降ということもあって、観客も選手の関係者がほとんどのようだった。
選手はまだ会場には現れていない。リチャードは、まあまあ強くて、一回戦は免除となっているらしいので、登場はだいぶ先になりそうだ。
「早いわね」
一人キョロキョロしていると、オルディスさんにエスコートされたクレアがやってきた。オルディスさんは真ん中の席をクレアに譲り、私とは反対側の席に座った。
「リチャードが出てくるまでは、まだかなりあるけど大丈夫? 一旦席を外してもいいんだよ」
「ありがとうございます。……でも、大丈夫です」
そう言った私に眉を下げてオルディスさんは給仕を呼んでくれた。程なくして、軽食と飲み物が運ばれてくる。さすが王立学園闘技場の貴賓席だ。
勧められた飲み物を一気に飲んで、実は喉がカラカラだったことに気がついた。オルディスさんが笑って、もう一杯取り寄せてくれた。
そう――。
私は今日、ものすごく緊張している。
リチャードが優勝するのか、一試合一試合勝ち進めるのか、怪我はしないのか、私に勝利を捧げるってどういうことか――。
何に緊張しているのかすでにわからない。
おそらく高級な料理だと思われる軽食を、クレアが手ずから食べさせてくれたが、味はよくわからなかった。
「ベルったら、そんなに無表情でよく物が食べられるわね」
「うん」
「美味しい?」
「うん」
「今、何を食べてる?」
「うん」
「……クレア。まあ、今はそっとしておこう」
「ふふふ。そうね」
仲良し婚約者同士は笑い合っていたが、私には何を笑っているのかわからなかった。
程なくして大会が始まった。三年生は剣術大会に出られる一番下の学年だ。飛び級をして上の学年の試合には出られても下の学年のそれには出られないので、トーナメント表には三年生の名前しかない。といっても私にはわからないので、オルディスさんからの情報だけど。
総勢十四名が決勝に進んだとのことだったが、リチャードは二回戦からなので、六試合が先に行われる。
最初の試合、さすが騎士科の中でも本戦に出られるだけあって、二人ともしっかりした体格をしていた。開始!の合図と共に二人が勢いよくぶつかった。剣と剣がぶつかる音が思いの外大きく、思わずびくりと体を揺らしてしまった。その後も二人はものすごい速さで打ち合ってく。
私はいつの間にか汗に濡れた手を握りしめていたけれど、オルディスさんはのんびりと呟いた
「この程度なら、リチャードの敵ではないいな」
私は驚いてオルディスさんへ振り返った。信じられない。リチャードは、故郷にいた頃も仲間内では剣術に優れていたが、ここまでではなかった。遠慮していたのか、ここの来てからの鍛錬か。おそらく両方なのだろう。
しばらくして、片方の生徒が膝をついた。
「そこまで!」
オルディスさんによるとこの試合の勝者がリチャードの次の相手だという。
その後も試合は続いた。
拮抗した試合が多くて、私は緊張して見ていたけれど、オルディスさんは終始のんびりした様子で、その様子を信頼しているのか、クレアも軽食をつまみながら時々笑顔も見せている。
いよいよ、リチャードの試合になった。
「二回戦第一試合、上手、リチャード・アシュフォード! 」
司会者の声に盛大な歓声が上がる。さすが騎士科の王子様だ。
入り口から入ってきたリチャードは、その歓声には反応せず、真っ直ぐ前を見ていた。でも、位置に着く直前、ふっと顔を上げた。
距離はあったけれど、確かに目が合った気がした。
でもそれは一瞬で、すぐ前に向き直る。
「集中してるな。――いいぞ」
オルディスさんが呟いた。
隣のクレアがそっと手を握ってくれた。
心臓が音を立てているのがわかる。
「はじめ!」
その声と共に、キーンと高く金属のぶつかり合う音が響く。
――と光るものが宙に舞った。
ザンっと音を立てて地面に刺さったそれは、対戦相手の剣だった。
「勝者! アシュフォード!」
静まり返った会場に審判の声が響く。その声をきっかけに会場は割れんばかりの歓声に包まれた。
「いやあ、一瞬だったなあ」
のんびりとしたオルディスさんの声には、それでも少し安堵の色が混じっていた。
「やったわね!」
クレアが私に抱きついてくる。私はクレアに揺さぶられながらもリチャードから目が離せなかった。
退場するリチャードともう一度目が合った気がした。




