心無き断罪
【前話までのあらすじ】
リラルゾ山脈の山道を出て、『王の帰還する森』に到着すると、そこにはスワップのおぜん立て通りラザルト聖戒兵隊の馬車が待ち構えていた。その不思議な神聖魔法で、存在感を消す彼らに、ライスたちは感心するばかりだった。そして、馬車はラザルト国へ出発するのだった。
◇◇◇
―リヴェヴァリオ国 中央都市ガイザン―
『おぇ! 何だ、ありゃ』
『うわぁ、こりゃ、ひでぇ』
リヴェヴァリオ国中央都市ガイザンには国が誇る美しきリヴァーナ川が流れている。その川の名は古の清き女神リヴァーナに由来する。
今、その河川敷には20人の首が、律儀なほど等間隔で並べられていた。一番左側の顔は驚きの中、絶命した顔をし、右に行くごとにその表情は恐怖に顔をゆがめた表情となっていた。美しく輝くリヴァーナ川が、より濃くその惨状を際立たせていた。
大橋のたもとに立てられた高札が川風にバタバタと音を鳴らしている。そこにはさらし首となった者たちの罪状が書かれていた。
『なになに? 《国家に対する反逆罪・国家間の紛争を企てた罪》だってよ』
『いったい何をしようとしたのかねぇ。おっかないねぇ』
クロッカの町でリキルスの民を救った後、王子ヴァレノールは、リヴェヴァリオ国領土を隈なく見回り任務を終えた。そして、母ミライヤに面会するため中央都市ガイザンを訪れていた。
ヴァレノールは城へ続く大橋の人だかりに足を止め、馬から降りた。
『これ、どけ、どけ』と近衛兵が民衆をかき分ける。
ヴァレノールは高札を読み終えると、河川敷にさらされた顔を見た。
「ラ、ランパチア!?」
・・・・・・
・・
―リヴァーナ城内―
ヴァレノールは城内を早足で歩いた。
向かった先は法相室だった。
「セドル! あれはどういうことだ!」
扉を開けるなり、ヴァレノールは強い口調で質問をした。
「おや、これはヴァレノール様、お帰りなさいませ。いかがなされましたか?」
「『いかがなされましたか』ではない。あの河川敷の首は何なのだ?」
「ああ、あれは遠征管理―」
「そんなことは知っている! なぜあのようなことになったと言っているのだ」
「ああ、それですか。それならば高札に書かれている通りです。あ奴らは遠征地の平和を管理する特命を与えられながら、国家に反逆するようなまねをいたしました」
「それも知っている。だが、あの高札は大げさだ。あいつらは紛争を画策したわけではない。リキルス国に対して不敬を働き、私利私欲のために力を使おうとしただけだ」
「お言葉をお返しいたしますが、ヴァレノール様。それはランパチアが行った行為でございます。その結果は、もしかしたらリキルス国との戦争になっていたかもしれません。そのような者を厳罰に処すのが、法相としての私の職務でございます」
「 ..ならば現場にいた私を待ってからでもいいであろう! あまりにも処罰が早すぎるではないか」
「はい、それはミライヤ様からのご命令でございます。結果が同じならば心優しいヴァレノール様がお帰りになられる前に処罰をしたほうが良いと」
「それをセドルは受け入れたのだな」
「はい。王家の決定は何よりも優先されます」
「私はセドルのことを聞いておるのだ。お前は私に法や正義の概念について教えてくれた。もう一度聞く。お前は受け入れたのか」
「 ..はい。聞き入れ、処刑の指令をだしたのは私でございます」
「では、あのような残酷な処遇もか」
「 はい、私が廃止された刑罰を復活させました。全て私の責任でございます」
「もう良い! 母気味に会って来る。母は御開眼なのだな」
「 はい、3日ほど前から」
ヴァレノールはセドルを責めるのをやめた。これ以上責めれば、人一倍責任感の強いセドルは職を辞してしまうかもしれないからだ。
セドルはリヴェヴァリオ国の中でも優秀な人材だ。同時にヴァレノールの相談役でもあったのだ。それは公務でも私生活においても。
ヴァレノールの熱い正義感はセドルの影響が大きいのだ。
―ミライヤ王妃の寝室―
「母上、失礼いたします」
「ああ、ヴァレノール。私の愛しい子が会いに来てくれた。さぁ、この腕の中に」
ミライヤはベッドから身を起こし、いつもの優しい笑顔で両腕を大きく広げた。
「は、母上。今はそのような状況ではありません」
「何を照れているの。誰も見ていないのだからいいじゃない」
ミライヤは少しすねた表情をした。
「あのですね、あれは何ですか?」
「あれ?」
「あの河川敷にさらされた遠征管理部隊のことです」
「ね、怖いわよね。あれこそ国家を転覆させようとする行為だわ。リキルスの賢者を煽って敵対させようとしたのでしょ。白状したわよ。あなたも見ていたのでしょ」
「見ていました。ですが、そこまでの考えがあったようには思えません」
「それは、あなたの感想でしょ? 」
「 ..ぐっ 、そうですが..」
「国家転覆を試みた者は、王家に小石を投げる程度の行為であろうと、または国家に戦争をしかける大罪であろうと、等しく極刑に処される。こんなこと法律に詳しいあなたなら知っているわよね。だから、処罰したの。それだけよ。それにその家族も終身刑ね」
「それはわかっていますが、少しことを急ぎすぎです。それに―」
「―心が無い―でしょ。優しいあなたの口癖だものね」
「それを教えたのは母上、あなたです」
「そうね..そうだったわ。わかった。『ごめんなさい』 これで許してくれるわね?」
「母上..」
「もうこの話は終わり。久しぶりの開眼期なんだから。ね、お願いよ」
「 ..わかりました」
返事を聞くとミライヤはまた両手を広げ、我が子ヴァレノールを抱擁するのだった。
かつて2週間に数時間しか開眼しなかった母ミライヤ。
その開眼時間が長くなるにつれ、母ミライヤの性格が変わっていく。
母・ミライヤの開眼期間が延びることは、息子として喜ばしいことだった。しかし、母の温もりをその身に感じるほど、ヴァレノールの心には母の変化に対する言いようのない不安と戸惑いが広がっていくのだった。




