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果樹園の魔法使い~形のない宝石を求めて  作者: こんぎつね
8章 聖地カンザギアとゼルド国
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贖罪の白い花

【前話までのあらすじ】


ゼルド国を出発して2日、ライスたちを乗せた馬車は不知の沼の先端に到着した。そこで待っていたのは山麓の守護人スワップであった。スワップはライスたちにこのまま素通りしてカンザギアから出て行って欲しいと言った。そしてスワップは自分の裏切り行為を告白するのであった。

◇◇◇

 「え? スワップ、何を言ってるの?」


 ライスには多くの人々の命を天秤に乗せた交換条件など、飲み込めるはずもなかった。


戸惑うライスからスワップはリジに話を向けなおした。


 「リジさん、あなたなら理解できますよね。ヴァン国の次期領主のあなたなら、この言葉の意味することが。私はリヴェヴァリオ国からの依頼を受けました。そしてこのカンザギアは守られたのです。 これは政治です。そして、私の任務はこの―」


 「黙れ! スワップ!! そんなものわかるものか! あんたが仕組んだんだ。ゼルド国が襲われたのも、ビュルスが秘想石になったのも、多くの国民が死んだのも、ライスが死にかけたのも、みんなお前のせいなのだな」


 「 ..はい、そのとおりです」


 激昂したリジの腕をつかんで停めたのはライスだった。


 「リジ、待って。も、もう一度、私にスワップと話をさせて」


 「ライス、こんな奴の話を聞くことないよ」


 「ううん、私たちには、どうしてもスワップの情報が必要なの」


 「ライス、リジの言う通りだ。こいつの話など聞く価値などない。本当か嘘かわからない情報など不要だ。それに、また俺たちを罠に嵌めようとしている可能性だってある」


 見かねたギガウがライスを諭そうとした。


 「きっと嘘じゃない。スワップはきっと嘘はつかない。私はそう思う」


 「なんでそんなことわかるんだ」


 「わからないよ。ただ、私はここを守ろうとするスワップの気持ちだけは嘘じゃないと思ってる。だから、自分が討たれることを覚悟で、私たちがカンザギアから出て行くことを願ったのよ。そんなスワップが嘘をつく必要はないんじゃないかって思った」

 

 「ライスさん..」


 「スワップ、全て話してくれる? ラザルト国とリヴェヴァリオ国についての真実。そしてなぜゼルド国の襲撃を企てたのかを」


 「わかりました。まず、ラザルト国はあなた方の敵ではありません。あなた方の敵はリヴェヴァリオ国です」


 「なぜ断言できるの?」


 「私にゼルド国の襲撃を命令したのはリヴェヴァリオ国王妃ミライヤ様だからです」


 「どうして? どうしてリヴェヴァリオ国王妃が私たちを敵とするのよ!?」


 「リジさん、それは違います。「私たち」ではありません。王妃が敵としているのはライスさんなのです。ミライヤ様はライスさんの命の終焉だけを望んでいたのです。残ったあなた方は、リヴェヴァリオ国に裁かれることになります」


 「そうか..ゼルド国の襲撃を俺たちパーティの仕業にしようとしているな。ゼルド国はラザルト国の領地。そこを襲撃することは親国リヴェヴァリオ国に弓弾くことと同じ。つまり俺たちは、まんまとお尋ね者となったわけだ」


 「でも、それだったら何でライスの命に執着する必要があるの?」


 「ミライヤ様はライスさんの何かを恐れているのでしょう。だからこそ魔法を封じられたゼルドの地でライスさんを始末しようとしたに違いありません。それと..おそらく、ロス・ルーラが関係していると思います」


 全員がスワップの顔を見た。ここにきてロス・ルーラの名前が出るとは思わなかったからだ。


 「どういうこと? ロスさんが何の関係があるの?」


 「それはわかりません。ただライスさんの名を出すと、ミライヤ様はこう言ったのです――」


――ミライヤの寝室――

 家具の少ない広い寝室の真ん中、ベッドに横たわり静養するミライヤがいた。


 「お久しぶりです。ミライヤ様」


 「スワップ、久しぶりね。本当に久しぶり。もう何年経つのかしら.. 今日はなんのためにわざわざリヴァーナ城に来たのですか?」


 ミライヤはベッドから上半身を起こすとベッドの縁に座ろうとした。


 「ミライヤ様、どうぞ、そのままで.. あなた様は果樹園パーティなるものをご存じでしょうか?」


 「..果樹園パーティ」


 「はい、魔法使いライス率いる冒険者パーティです」


 「魔法使いライス・レイシャ。あのロス・ルーラにたかった卑しい魔法使いね」


 ライスの名が出ると、ミライヤは眉間に皴を寄せ、吐き捨てるように言った。


 「 ..はい。そのライスの果樹園パーティが、今カンザギアにおります。単刀直入にお聞きいたします。果樹園パーティはリヴェヴァリオ国の敵となり得る存在なのでしょうか?」


 「忌まわしきロス・ルーラにたかるハエは一掃すべき存在。スワップ、その者は今もカンザギアにいるのですね?」


 「今、果樹園パーティは魔獣討伐にゼルド国に行っております。しかし、やがてカンザギアに戻る予定です」


 「ゼルド国。これはちょうどいい。スワップ、あなたがやるのです。あの地には元々醜いセイウチの魔獣どもがいたはずです。あなたはその魔獣を操り、ライス・レイシャと目障りなゼルド国を滅ぼしてしまいなさい」


 「お断りいたします。ゼルド国も果樹園パーティもカンザギアには関係ないことです。それはリヴェヴァリオ国の兵に命令するなり、冒険者を雇うなりしてご自由に行ってください」


 「相変わらずはっきりと断るのね。しかし、お前の言うとおりにすれば、リヴェヴァリオ国の軍がカンザギアを通り、ゼルド国へ侵攻することになる。その時、もしかしたらカンザギアの地が荒れることになるかもしれない。スワップ、勘違いしないで。これはお願いではなくて、命令なのよ」


――


 「―忌まわしきロス・ルーラにたかるハエ。この言葉の真意がわかりますか。ミライヤ様はロス・ルーラにこそ憎悪の炎を燃やしているのです」


 「スワップ、それでお前は尻尾を丸めて帰って来たというのだな」


 「返す言葉もありません。しかし、あの時のミライヤ様の言葉には、慈悲的な感情は一切なかった。だから私はラザルト国へ向かわず、急いでゼルド国に向かいました。そして、ゼルドの僻地で暮らすことを選んだ魔獣人ガレムに、『ゼルド国を支配する』という目的を植え付けたのは私です」


 「 ..」


 「ライスさん、ラザルト国のラザルト司教に会ってください。もうあなたたちをカンザギアに置いておくわけにはいかないのです」


 「ふざけるな。お前の話にはうんざりだ。なぜお前の指示に従う必要がある。私たちの道は私たちが―」


 リジはうんざりとした顔をして剣をスワップに向けた。


 しかし、ライスはその腕に手をかけた。


 「ライス、あなた、こいつを許す気なの?」


 「ううん、許せない。あんなに人が死んだんだ。許せるわけがない。でも、私はスワップを討たないわ」


 「 ..私を討たないのですか?」


 「討たないわ」


 「だが、ライス。ラザルト国に行くにも難しいことになったぞ。ラザルト国はリヴェヴァリオ国の領地に囲まれているんだ。まるで目玉焼きのようにな」


 「それについては私が手を打っておきました。『王の帰還する森』に行けば、そこにリヴェヴァリオ国聖戒兵隊が待機しています。彼らはあなた方をラザルト国中央断罪所へ運ぶ目的を果たすはずです」


 スワップの紫の瞳が鈍く光っていた。


 「わかった。私たちはこのままカンザギアを抜けていく」


 「感謝いたします」


 「スワップ、あなた、はじめから自分の作戦が失敗に終わることがわかっていたのでしょ?」


 「..いいえ、私はリヴェヴァリオ国王妃の命令を実行しただけです。あなた方は強く作戦は失敗した。ただそれだけです」


 「スワップ、リライさんを守って。私があなたに望むのはそれだけ。約束してちょうだい」


 「はい、ライスさん。リライ様はこの命をかけてお守りいたします」


 スワップは膝をつき、ライスの約束を受けた。そこには今までの掴みどころがないスワップはいなかった。あのゼルド国を守り切ったビュルスと同じ目をしていた。


 スワップにはわかっていたのだ。この約束は、ライスが贖罪の機会を与えたものだったことを。


 そして.. 果樹園パーティがカンザギアの地を離れた後、ゼルド国のビュルスの門には、誰とも知らぬ手によって毎日かかさず一凛の白い花が手向けられるようになった。


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