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果樹園の魔法使い~形のない宝石を求めて  作者: こんぎつね
8章 聖地カンザギアとゼルド国
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裏切りの条件

【前話までのあらすじ】


みんなの祈りが通じて、昏睡から目覚めたライスは、ゼルドの国に大きな贈り物を残す。それは生命の樹サイフォージュだった。生命力溢れるサイフォージュの葉があれば、魔法の使えないゼルド国の役に立つであろう。そして、宝物庫から回収した『形のない宝石』を鞄にしまうと果樹園パーティはゼルドの地を去るのだった。

◇◇◇

 馬車の中でライスは遠のく『氷壁の盾』を見つめていた。その大きな氷塊の一部はライスの暴走により削り取られていた。


 「ライス、フレイディスさんが言ってたよ」


 ビュルスは、統治者となったばかりのルヴァーの立場を考え、ルヴァーと闘わず私を置いていった。


 あの時、私はビュルスと新しい希望を求める旅にでるべきだったのかもしれない。


 邪魔をしていたのは私のつまらないプライドだった。


 女だからという理由だけで統治者になれず、その上、逃げた男を追いかけるなんて、当時の私にはできなかった。


 そして私は自分の気持ちを言葉にせず、ビュルスの想いもわかろうともしないで蓋をしてしまった。


 だけど、ビュルスは私を変わらずに愛してくれていた。世界の何よりも大切に想ってくれていた。


 私はビュルスが目覚めるのを待つわ。


 それが何年、何十年になろうと、他人にどんなふうに言われようと、私は彼が再び目覚めることを信じて、このゼルド国を守りながら暮らすわ。


 だって、私はビュルスを誰よりも愛しているのだから。


 「フレイディスさんはライスに感謝していたよ。自分たちの愛を守ってくれてありがとう って」


 「そっか」


 その言葉にライスは涙をこぼさず、力強く微笑んだ。


 ・・・・・・

 ・・


 それから2日後、果樹園パーティの馬車は『不知の沼』の先端にたどり着いた。


 急激に冷えた晩秋の朝、沼には霧が立ち込めていた。


 気温の下がった馬車の中、ライスとリジは身を寄せ合いながら眠っていた。


 しかし、停止した馬車の揺れが目覚ましの合図となった。


 「ギガウ、どうしたの」


 リジが幌から顔を出し尋ねた。


 「早朝にわざわざお出迎えのようだよ」


 そこには山麓の守護人スワップの姿があった。


 「みなさん、無事に帰ってこられたようですね。とてもよかった」


 その言葉はどこか白々しさを感じる響きだった。


 「山麓の守護人がどういう用件だ」


 スワップは耳を直立させると、森の木の一点を見つめ言った。


 「アシリアさん、おはようございます。どうか、物騒なものを私に向けないでください」


 オレブラン(獣人)の超感覚を持つスワップは、アシリアの居場所をはっきりと認知していた。


 「もう一度言う、何の用だ、スワップ」


 「いえ、私は一応、カンザギアを守護する役を任されております。ですから馬車が来たら確かめる必要があるのですよ」


 「そうか。しかし、あまり俺たちを見くびるなよ。お前が『氷壁の盾』の上から俺たちを見ていたことはわかっているんだ。そしてお前はそれを承知した上、今ここで声をかけてきたのだ」


 「なぁるほど。ギガウさんは意外と策士ですね。もっと直情的に行動する方かと思いましたよ。カマをかけて来るとは。女神ララの像の破壊で『ララの領域』が弱まったとはいえ、気配を消した私を感知することは、ギガウさんにはできないはずです」


 「そうだな。精霊フラカの結界でも誰とまではわからなかった。しかし、そこまで気配を消したことが逆にお前を浮かび上がらせた。お前、何者だ?」


 上空にはルースの牢獄が待機していた。アシリアの意志ひとつで無限の矢がスワップを取り囲む。


 既にリジの聖剣「空の羽」も辺りに真空のトラップを作り上げている。触れた瞬間に空間ごと切り裂く斬撃が走る。俊敏なスワップでも避けることはできない。


 ライスは式紙を使い、黒炎を纏うイタチを召喚していた。スワップが身を隠しても、超感覚を持つイタチの追跡を逃れることは難しい。


 「どうやら、逃げようにも道が塞がれたようですね」


 「また嘘を言うのか。お前は最初から逃げるつもりなどなかっただろ。そうでなければ、わざわざ出てくるはずもない」


 「ギガウ、気を付けて。もしかしたら、こいつ『目的の交換』をするつもりかも」


 「はははは。ビュルスはそこまで話したのですか。ならば、知っているはずです。私がそれを出来るのは初見の者だけです」


 「そんなの信用できないわ」


 リジは目を細め、疑心に満ちた眼差しを突き刺した。


 「いいえ、本当です。私の能力が万能なら、私は今頃、世界の王になってますよ。もっとも、そんなことに興味はありませんがね」


 「ならば、何をしにお前はここに来たのだ」


 緊張が走る場でも、スワップは温和な表情を決して崩さなかった。そして、次に平然とこう言ったのだった。


 「いえ、あなたたちには、このまま出て行って欲しいと思いまして。リライ様の屋敷には寄ることなく、この道をそのまま進んでカンザギアから出て行ってもらうことはできませんか?」


 「それはできない。私たちはリライさんが集めたラザルト国とリヴェヴァリオ国の情報が必要だもの」


 ライスの言葉にスワップは改めてライスに向き直した。


 「ライスさん、その腕、驚異的な治癒力ですね。もう動かすこともできるとは。あなたは本当に驚異的です.. 安心してください。必要な情報なら私が全て教えます」


 「スワップ、あなた、何が目的なの。どうしてこんなことするの?」


 「目的? 私の目的は『このカンザギアを守ること』です。私はその為なら何でもするつもりです」


 「私たちはカンザギアに何もしないわ」


 「いいえ、あなた方が関わった時点でカンザギアは危機に陥っているのです。だから私は条件を飲んだのです。しかし、それが失敗したからには、あなた方にこれ以上このカンザギアに居てもらわれては困るのです」


 「何の話をしているの?」


 「カンザギアの平穏と引き換えに、リヴェヴァリオ国は、ゼルド国の滅亡とライスさんの死を、私に望まれたのです」


 その衝撃的な言葉に、ライスは下唇をかんだ。


 冷たく張り詰めた空気は、風に揺れる葉にさえ音を許さなかった。


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