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果樹園の魔法使い~形のない宝石を求めて  作者: こんぎつね
8章 聖地カンザギアとゼルド国
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黒い衝撃

【前話までのあらすじ】


白い魔獣人ロレイスの口からリュキュエスと白い魔獣人の関係が語られた。それは異世界のアーロス国からの脱出と建国までの歴史であった。そして白い魔獣人ロレイスもまた『形のない宝石』が作り出した者であることがわかった。ロレイスは告げた。ゼルド国を狙う者から国を守れと。

◇◇◇

 氷に閉ざされた辺境の地ゼルド。


 もとは黒い魔獣ガレムの住処であった。


 ゼルドの地は聖地カンザギアが蓋の役目を果たし、他の地から魔獣が移り住むことがなかった。この地に住んでいた魔獣ガレムにとってもゼルドは聖地であったのだ。


 独占欲が強くハーレムを築くガレムにとってはこれほど理想の地は他にない。そしてガレムは独自の進化をし、魔獣人ガレムになった。


 そんな魔獣人ガレムの理想郷に足を踏み入れたのが、第2世界から流れ着いたアーロスの民であった。


 アーロスの戦士は強かった。魔獣人ガレムは自分たちの理想郷の一部を手放さざるを得なかった。


 やがて、魔法使いにより強固な結界が張り巡らされ、氷壁ができるとアーロスの移民はその地にゼルド国の旗を掲げた。


 魔獣人ガレムはおもしろくなかった。ただただ面白く無かった。


 魔獣人ガレムは幾度となくゼルド国に攻め入ろうとする。


 しかし、いつの頃か現れた白き魔獣人ロレイスがそれを許さなかった。


 魔獣人ガレムは白き魔獣人ロレイスを恐れていたのだ。


 一度でも牙を向けようものなら、白き魔獣人は一部の情けもなく、その白い身体を血の色に染めあげ、ハーレムごと潰しにかかるのがわかっていたからだ。


 魔獣人ガレムは、体に刻まれた爪痕がうずく度に、白い魔獣人への憎悪が増すばかりだった。恐怖を持ちながらも許せない気持ちは、歪んだ目的へと変わっていった。


 ―あの白い魔獣人が守ろうとするすべてを破壊してやる。


 ゼルド国を滅ぼしたあとの魔獣人ロレイスの悔しがる顔を想像すると魔獣人ガレムはいやらしい笑みを抑えることができなかった。


 ゼルドの民がいかに以前よりも弱体化していたとしても、戦闘スキルにいてはゼルドの民に敵わない。そこにおいても魔獣人ガレムは考えていた。圧倒的な物量攻撃でゼルド国を潰してしまえばいいと。だからこそ長い年月の間、魔獣人ガレムはひたすらハーレムで子作りに励んでいたのだ。


 そして白き魔獣人ロレイスの気配が消えた今、闘いの狼煙があげられたのだ。


 流氷が覆う海に振動が走る。それは魔獣人ガレムの唸り声であった。


 海が黒色に変わった。


 海中に潜む魔獣人ガレムの一族が一斉に浮上してきたのだ。


 人間の3倍はある魔獣人ガレムは、口から4本の大きな牙と飛び出たような黒い瞳、天狗のような鼻を唸らせる。


 「ギギギィ。この時を待っていました。さぁ、お前らワタクシのために働くのです」


 ゼルド国の氷壁周りが魔獣人ガレムの恋人グレニィで覆いつくされた。それは純白を侵食する深淵そのものだった。低いうなり声と地氷をかきむしる黒い爪音が、流氷の軋み音に紛れながら、天空の厚い雲を叩いていた。


 恋人グレニィの数、おおよそ1万匹。それは絶望的な数ほかならなかった。


― ゼルド国 氷壁内 ―


 まさか氷壁の外が恋人グレニィに囲まれているとも思わないゼルド国の中でも、ひとつだけそれを予見する変化があった。


 それは20戦士のひとり通信係オルファの突然死だ。


 オルファの能力は自分の分身を作り上げ、各地の出来事を伝える役目だ。


 分身が何体殺されようとも本体が無事ならオルファは死ぬことはない。彼は通信の重要性を理解し、身の安全を考え戦地へ行くことはないのだ。


―ゼルド国 統治者ルヴァーの屋敷―


 ライス、ビュルス、フレイディスに宝物庫の様子を伝えていたオルファが、「あっ」と驚きの声とともに消滅した。突然の沈黙が、ただならない不気味な余韻を奏でていた。

 

 「フレイディス、何があった? なぜオルファが消えたのだ」


 「わからない。 もしかしたら宝物庫で何かあったのかも!?」


 「でも、魔獣人ロレイスはギガウとリュキュエスと闘っている。オルファが襲われることなどないはず。それに近くにはアシリアやリジだっていたはずだよ」


 「 ..もしかしたら、本体であるオルファに何かあったのかも!?」


 「フレイディス、本当のオルファはいつもどこにいる?」


 「氷結の盾にある秘密の部屋に居ることが多いわ」


 その時、凄まじい衝撃音が国中に鳴り響く。空を割るような衝撃音は何度も何度も繰り返される。


 森の中の鳥たちは、一斉に飛び立ち、行く当てもなく空を飛びまわる。


 広場で遊んでいた子供たちはその恐ろしさに身をすくめた。母親は何かの脅威から守るように子供の肩を抱いた。


 老人たちも何事かと、もそもそと家から出てきた。そして強引に引き裂かれた雲の割れ目から漏れる薄日に目を細めた。


 その老人たちの中には、曇った瞳に眼光を取り戻し、何かを取りに家に引き返した者たちもいた。


 「何? この大きな音は?」


 「国全体に響く衝撃音.. 氷壁が攻撃されているのか!?」


 「そんな馬鹿な! 攻撃だなんて! まさか、黒い魔獣人が動き出したのか!? 」


 「黒い魔獣人って何?」


 「ライス、黒い魔獣人とは、かつてゼルドの地を支配していた魔獣人ガレムのことだ」


 その時、建物を揺らす衝撃波と冷たい突風がゼルド国を貫いた。


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