ルイの想い、ローレイの願い。
【前話までのあらすじ】
白い魔獣人との闘いは山麓の守護人リュキュエスの参戦により、決着がついた。敗北した白い魔獣人の言葉がリュキュエスの隠された記憶を蘇らせる。そして、白い魔獣人を連れてルヴァーの待つ場所へ向ったが、ゼルドの20戦士は武器を手に取った。
◇◇◇
【前話までのあらすじ】
白い魔獣人との闘いは山麓の守護人リュキュエスの参戦により、決着がついた。敗北した白い魔獣人の言葉がリュキュエスの隠された記憶を蘇らせる。そして、白い魔獣人を連れてルヴァーの待つ場所へ向ったが、ゼルドの20戦士は武器を手に取った。
【本編】
氷の表面を削り取るように、粉雪が足元に吹き荒れる。油断していたら足元をすくわれかねない。
粉雪の大河の中をゆっくりと近づいてくるのは、ギガウ、アシリア、リジ、そしてリュキュエスを背に乗せた白い魔獣人ロレイスであった。
「止まってください、ギガウさん。これはいったいどういうことですか? 事と次第によっては―」
その言葉の通りルヴァーと20戦士は既に臨戦態勢となっていた。戦士の心の中では既に闘いが始まっていた。それが乾いた空気に静電気が光る自然現象として現れていた。
「ルヴァーさん、この白い魔獣人から話があるんだ。ほんの少しでいい。聞いてやってくれないだろうか」
「し、しかし、そいつは..」
「あんたら20戦士は腰抜けかよ。このロレイスは、あたしたちとの闘いで、やっと動いているんだ。それとも怖くて話も聞けないのか?」
「な、なんだと!」
言葉が過ぎると、リュキュエスはギガウに拳骨された。
「わかったわ。私があなた達の人質になる。もしも白い魔獣人やギガウがあなた達に敵意を見せたら、迷わず私の首をはねるといいわ」
リジはアシリアに剣を渡すと、単身でルヴァーに身を預けた。
「いいだろう。話すがいい」
白い魔獣人は人間のように深々と頭を下げた。
「感謝する。今からする話は約200年前の話だ―
――
私自身の記憶は忘れてしまったが、ゼルド国の王ルイセルトのことはよく覚えている。
私は彼のことを親しみを込めルイと呼んでいた。
ルイは人間の年齢でわずか7歳の幼子だった。本来ならば、親の腕の中に何の不安もなく甘えることができる年齢だ。しかし、ルイの運命はそれを許さなかった。第2世界での裏切りと逃亡。幼子であるにも関わらず、ルイは自分のことよりも、民や国の未来を案ずるような子になってしまった。
ゼルド国は知っての通り、異世界の国アーロスから流れ着いた人々だ。アーロス国では国王の急死後、王座と権力をめぐり争いが起きた。
母である王妃メグリも既に亡くなっていたため、ルイを中心に混乱を極めていた。
子を宿す側室の傀儡となった一部の重鎮たちが、幼いルイでは国の舵取りは無理と反対したのだ。
反対派の勢いは凄まじかったが、ルイを正統後継者と推す者たちに大きな味方が付いたのだ。
それが友好国エルアドルだ。
側室勢を牽制し、ルイ王政の基礎固めをするためにと、エルアドル国の王ランザンとその側近、そしてルイを守るためとエルアドルの戦士80名が国に入った。
しかしそれは側室リミラとランザンの策略だった。
リミラとランザンは異母兄妹であり、しかも男と女の関係を持っていた。
私はある夜、この関係に気づき、城を、いや国を脱出することを進言したのです。
衰退したアーロス国では、もはや、国に入ったエルアドルの戦士たちに対抗する術がなかったのです。
私たちは、何とか王の親族、側近、その近しき者たちの脱出を成功させました。
そして、エルアドル国と敵対するニールイム国に嘆願し、入国を許してもらったのです。
しかし、ニールイム国王ムグズも、既にリミラの蜜毒に骨抜きにされていました。ニールイム国に逃げ入った者は国家転覆罪として、アーロス国へ引き渡されてしまいました。
私の父ロザもそのひとりでした。
だけども、父の死は無駄ではありませんでした。
父は敢えて、先にニールイム国に入り、この危険を私たちに教えてくれたのです。
罠から回避したとはいえ、私たちには、魔獣の巣窟と言われる深い森で身を隠すしかありませんでした。
凶暴な魔獣の攻撃に耐え、わずかな食料、シトシトと降る冷たい雨が私たちの生命を削りました。
ある日、魔獣が捨てた洞窟に身を隠す私たちの前に、不思議な蝶の群れが現れました。
蝶の淡い光に包まれる私たちを魔獣たちは素通りしていきました。そして蝶は私たちをある場所へ導いてくれたのです。
その場所こそが『天にかける三脚』。
輝く蝶たちは夜空に咲く花々に停まると、私たちの足元を照らし続けてくれました。その先には、木目調の扉がひとつだけ存在していました。
私たちはその扉を開き、この世界に逃げることができたのです。
しかし、この世界にまでエルアドルの凄腕の戦士20名が追ってきたのです。
疲弊しきったアーロス国の戦士では、女、子供を守りながらエルアドルの精鋭部隊と闘うことはできません。
多くの血が流れ、戦士が散りました。
しかし、そこに血吹雪と共に闘神が現れたのです。
闘神は足技だけで、エルアドルの精鋭部隊を蹴散らしてしまったのです。
その後、私たちは聖国ラザルトへ辿り着くと司教さまの慈悲にすがり、聖地カンザギアの先にあるゼルドで暮らすことを許されたのです。
皆で一丸となりこの氷の地で、いつか自分の世界に帰れる日を夢見て頑張りました。
ルイ様はいつか王の秘宝を身に着け、このゼルド国をアーロスを凌ぐ誇り高き国にしてみせる とおっしゃられていました。
しかし、過酷な旅、さらには厳しい環境の氷の地で、幼いルイ様は力を失くされ、病にかかってしまったのです。
そして、ルイ様は亡くなる時、私の腕に抱かれながら願ったのです。
「どうか、僕が生まれ変わる時.. 必ず戻るから、この秘宝を守って..」と。
私はそんなルイ様に言いました。
「わかりました。この乳母である私が必ず、必ず守ってみせます」
――
「ちょっと待て、ロレイス、お前、何を言っているのだ? それではまるでお前が..」
いつの間にか一人称で話し始めた白い魔獣人にギガウが声をかけた。
白い魔獣人と呼ばれた大きな獅子の瞳から大粒の涙がこぼれると、それが黄金の光を放ち始めた。
その光の中から純白の衣服に身を包んだ、淡い水色の髪を持つ若き女性が現れた。
「思い出しました。そうでした.. 生まれ変わったルイ様が戻られる日がいつになろうと、それが何百年、何千年後であっても、ルイ様の想いを守ろうと願ったのは私でした。例えこの身が変わり果て、恐ろしい魔獣になろうとも、それが私の願いの代償であり、王への揺るぎない誓いの証だったのです」
女性はリュキュエスを抱きしめると言った。
「お待ちしておりました、ゼルド国の王ルイセント様。今こそあなたが秘宝を身に着ける時なのです」
リュキュエスの金色の髪が白く変化するとリュキュエスの顔つきが変わった。
「今までありがとう、ローレイ」
そう告げるとリュキュエスはルヴァーのもとまで歩いてきた。
リュキュエスは王の覇気をルヴァーと20戦士に向けて放った。
ルヴァーをはじめ20戦士は、膝をつくと、ゼルド国の秘宝をリュキュエスに差し出した。
箱の中にある銀色の秘宝を拳にはめると、リュキュエスの右腕が輝いた。銀色の秘宝がリュキュエスの腕に宿ったのだ。
リュキュエスが拳を天に突き上げると、荒々しい拳圧が雲を割いた。
同時にルヴァーをはじめ20戦士の身体に力がみなぎった。
「ル、ルイ..様」
力が抜けるように乳母ローレイは膝をついた。
「ローレイ!」
「私はあなたのその姿を見ることができて幸せでした。天にいる父もきっと笑っております。で、ですが.. お急ぎください。白い魔獣人がいなくなることで動き出す者たちがいます。もともとこの地にいた黒い魔獣人です。あいつらはゼルド国を狙っております。この地にいる自分たち以外の者に敵意を向ける連中です。お急ぎください」
「な、ならばお前も一緒に来い!」
「私は長く生きすぎました。ですから、いいのです。もう私の命は尽きます」
「で、でも..」
「未来をお見つめになってください!! ルイ様、いいえリュキュエス様、私には私のすべきことがあるのです。だからあなたもあなたのすべきことを..」
「わ、わかった。ローレイ! 私はお前に恥じない生き方をする。そしてゼルド国を誇り高き国にしてみせる」
そう言うとリュキュエスは20戦士と共にゼルド国へ向かった。
「ローレイ、本当にいいのか?」
残ったギガウ、アシリア、リジはローレイを囲んだ。
「いいのです。私の命は尽きます。それよりもギガウさん、あなたはあの宝石のことを知っていますね。私の願いを叶えた宝石です」
「ああ」
「やはり、そうでしたか。宝石が私の瞳から落ちた時、あなた方の顔つきが変わったのを見ました。あの宝石は素晴らしいものですが危険です。無意識に願いを叶えてしまいます」
「知っているよ」
ギガウはキャスリン国のアアルク王を思い出していた。
「私の願いは全て叶いました。ですから、私がこの宝石を宝物庫まで運び入れます。そして、いつかあなた方が回収してください。正しき心を持つあなた方が..」
「ああ、わかった、ローレイ」
ギガウの返事にローレイは微笑んだ。
「さぁ、あなた方も急いでください。そして、どうかゼルド国を守ってください」
ギガウ、リジ、アシリアはソリに乗った。
最後、ギガウが振り返ると、そこには宝物庫へ向かう白い獅子の後ろ姿があった。




