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05

本編最終話です。

泣きながらフラフラと歩く。

きっと周りの人から見たら、私ってばみっともない姿だろうな……グズグズ泣きながら歩いてるんだもん。


「お嬢さん♪」

「え?」


声をかけられたと同時に、肩を抱かれて立ち止まった。


「なにをそんなに泣いてるのかな? そんなに悲しいことがあったの?」

「…………」


見上げた先の潤んだ視界に映ったのは、カジュアルな恰好した見た目サッパリとした感じの男の人だった。


「少しどこかで話そうか? きっと落ち着くよ」

「………」


顔は拡ちゃんより格段に落ちるけど、もうどうでもいいかな。

だって拡ちゃん以外なんて、もう誰も同じだもん。


「…………」


無言で頷いた。


「じゃあ、ゆっくり話せる所に行こうか」


笑った顔も拡ちゃんのほうがずっと素敵だ。

ああ未練たらしい私。

上着の袖で涙を拭いた。


もう本当にどうでもいい。




「君、高校生? 大学生? 名前は?」


ああ、ウザイ……私が高校生だろうが、大学生だろうが、名前がなんだっていいじゃない!


「俺の家だと遠いから、どっか入ろうか?」

「…………」


さっきから、なに人に色々聞いてくるのよ。

さっさと自分で決めればいいじゃない!


「颯子!」

「!!」


拡ちゃん!?


「え?」


うしから名前を呼ばれて、私よりも一緒にいた男の人が返事をした。

拡ちゃんの声に、一瞬身体がピクリとなったから気づいたんだろうか?


「オレの連れだから」

「は?」


拡ちゃんが私と男の人の間に割って入って、私達を引き離した。


「なんだよ! 邪魔すんなよ!」

「オレの連れだっつってんだろうが! なんか文句あんのか?」

「!!」

「拡ちゃん……」


そんなセリフと睨みで相手を黙らせて、私の手首を掴むとそのままスタスタと歩き出した。


「拡ちゃん、なに?」

「…………」

「ねえ拡ちゃん! 痛いよ!」


ぎゅっと握られた手首が痛くて抗議の声を上げたのに、拡ちゃんは黙って歩き続ける。


「私なんて、かまわなくていいってば! 拡ちゃんなんて、彼女のところに行っちゃえ!! 拡ちゃんなんて、もう嫌いなんだから!! きゃっ!」


駅ビルの駐車場に連れて来られて、車の助手席に押し込められた。

これって拡ちゃんの車?

数えるほどしか乗ったことないけど、微かに見覚えがある。


「!!」


運転席に乗り込んだ拡ちゃんは私のほうに振り向くと、シートベルトに手を伸ばしてしっかりと締める。


「…………」

「…………」


なにを聞いても黙ってるから、私も黙る。

車が走り出してものの数分で、ある場所にたどり着いた。


「へ?」


たしかに駅前だから、こんな建物は多いかもしれないけど……私は思わず絶句!

だって……うそ? え? こ…ここは……う…噂に聞く『ラブホテル』ってやつですか?

私があまりの展開に驚いてる間に、拡ちゃんは運転席から降りて助手席のドアを開けて、今度は私を引っ張り出した。


「拡ちゃん!? ちょっと……」


また私の手首を掴んで、ズンズンと歩き出す。

あれよあれよという間に部屋にたどり着いてドアを閉めたあと、鍵までかけるとやっと掴んでた手首を離してくれた。


「座れ」

「…………」

「颯子!」


ソファもないから仕方なくベッドに腰掛けた。

それだけで、自分のベッドとは違うスプリングに驚く。

ふかふか……。


拡ちゃんは私の真っ正面の壁にもたれかかって、タバコを吸い出した。

その姿がまたカッコイイ♪ って本当、未練よね。


「ったく、一体なに考えてる!」


タバコの煙を吐き出しながら、拡ちゃんが怒鳴る。


「……なにも」


私はそんな声にも知らんぷりで、顔をプイッと逸らした。


「はあ?」

「だって……もうどうでもいいもん! 拡ちゃんだって早く彼女のところに戻りなよ! 私の相手なんてしてくれなくていいから! ベーーーだっ!! フン!!」


一瞬だけ拡ちゃんのほうに顔を向けて舌を出すと、またすぐに顔を逸らす。

もう知るもんか! どうせもう拡ちゃんとは終わってるんだし!!

終わってるもなにも、始まってもいないけど……うーーー情けない。


「さっきのは、彼女じゃない」

「……え!? ああ、婚約者だよね」


ったく! こんなときに、なに細かいこと言ってるんだか。


「違う……大学の同期。颯子に会う前に何人かで集まる用事があったから、そのままくっついてきただけだ」

「腕、組んでた!」


組んでたじゃない! あんな堂々と!!


「気に入られてるのは知ってた。でも、オレはなんとも思ってない」


ふーん……そうですか!!


「でも……結婚するんでしょ」

「誰と誰が」


なに今さら、すっ呆けてんのよ!!


「知らないよ! 拡ちゃんと誰か知らない人! どうせ私にはなにも教えてくれないもんね! 引っ越すときだって、私にはなにも教えてくれなかった!」

「会ったら辛いと思ったからだよ。颯子、絶対泣いただろ? 泣かれたら困る」

「…………」

「まったく……なんで他の奴、好きにならないんだよ……」

「え?」


拡ちゃんがボソリと呟くように、そんなことを言ったのが聞えた。


「散々、他の奴を好きになれって言ったのに……他の奴に行くように、ワザと避けてたってのに……」

「拡ちゃん?」


拡ちゃんの独り言のような呟きが、ずっと続いてる。


「オレってそんなにイイ男だったか?」


急に拡ちゃんが顔を上げて私を見つめながらそんなことを言うから、私はちょっとびっくりしちゃった。


「え? あ……うん」


そんなの、当たり前じゃない!


「そっか……颯子の気持ちを甘く見てたわけじゃないんだが……予想の範囲を越えてたか」


また独り言のように呟いてる。


「拡ちゃん?」

「…………」


咥えタバコで目を瞑って、頭をガシガシと掻いてる。


「約束……颯子は守ってほしいか?」

「え? あの拡ちゃんがひとりだったら、私と付き合ってくれる約束?」

「ああ」

「え!? だって拡ちゃん結婚する相手がいるんでしょ? おばさん言ってたし、拡ちゃんだって否定しなかったじゃん」


なんか急に話しの流れが変わってきてる気がするのは……私の気のせい?


「颯子がそれでオレを諦めるならと思ったからな」

「諦めるって……卒業まで半年しかなかったじゃん!」

「半年も! あっただ。オレが結婚するってなれば、諦めると思った」

「そんなに私に諦めさせたかったの?」


私はちょっと怒ってる。

だって……そうでしょ?

私がどれだけ拡ちゃんのことが好きで、どれだけ私が今日という日を待ってたかなんて……拡ちゃんだってわかってるはずじゃない?


「生まれたときから、颯子はオレしか見てないんだぞ。もしかして、他に運命的な出会いをする相手がいるかもしれないじゃないか」

「私には、拡ちゃんが運命の人だもん!」


間髪入れず、すぐに拡ちゃんの言葉を否定する。


「歳だって大分離れてるし、他の奴と思って告られてんの黙って見てれば襲われそうになってるし! あのときオレが助けに入らなかったら、強引にキスされてたんだぞ! 大体お前、オレに犯罪者になれってか?」

「え?」

「中学生で幼稚園児で、高校生で小学校の低学年で、ハタチで10歳で……挙げればキリがない。世間的にはそんな恋愛関係は犯罪だっつーの」

「なんで? 好きなんだから関係ないでしょ?」

「そういうもんじゃない! オレだって悩んだんだからな!」

「なにを?」

「……自分が……ロリコンなんじゃないかとか……な」

「へ?」

「…………」


拡ちゃんが、バツの悪そうな照れたような顔で視線を私から逸らす。


「ぷっ!」


我慢できずに、思わず吹き出しちゃった。


「笑うな! なのにお前ときたら、無邪気にもオレにキスなんてしやがって……」

「キス?」


え? キスなんてしたっけ??


「なんだよ、憶えてないのか? 小2のときオレが試験勉強してたらご褒美になにが欲しいって聞いて、先走ってオレにキスしただろ」

「んーー? ああ! そんなこともあったかもしれない」


なんとなく憶えてる。

でも小学校2年生のときでしょ?

申し訳ないけどイマイチ記憶に……。


「なに? お前にとったらそんなもんなの? オレなんてアレでドキドキして、“自分がロリコンなのかも”なんて悩んだんだぞ!」

「だって……あれは本当に深い意味はなかったし……挨拶みたいな気持ちで……ごめんなさい」


多分、本当にそんな気持ちのこもったものじゃなかったんじゃないかと。

一大決心でしたのなら、記憶に残るはずだし。


「はあ~~ったく。あれから、なるべく颯子には近づかないほうがいいと思って、オレは距離を取り始めたんだぞ」


拡ちゃんはいきなり疲労感を露わにして、ガックリしたように見えた。


「え? そうなの?」

「こんな年上なんて相手にしないで、歳相応の相手がいいんじゃないか?」


また拡ちゃんが、変なことを言い出す。


「や…やだよ……拡ちゃんがいい」


私は急に不安になる。


「そうか? だってオレ、色んな女と付き合ったぞ。嫌じゃないのか?」

「い…今はひとりなんでしょ?」

「もう、28のおじさんだぞ」

「拡ちゃんは歳よりずっと若く見えるし、カッコいいから大丈夫だよ! 私が保証する!!」

「エロいぞ? 颯子は幻滅するかもしれない」

「な…慣れるから! 大丈夫だもん!!」


次から次へと投げ掛けてくる拡ちゃんの問いかけに、私は自信をもって答え続けた。


「仕事で、あんまりかまってやれないかもしれないぞ」

「彼氏と彼女で繋がってればいいよ! 会えなくてもふたりが付き合ってるって、恋人同士だって思えれば我慢できるもん! 10年待ったんだから!! 拡ちゃんが……呆れ…る…くらい……待ったん……だからぁ…ぐずっ…」

「颯子……」


拡ちゃんが吸ってたタバコを灰皿に押し潰して消した。

身体を私のほうに向けて、手を広げる……そして……


「颯子」


私の名前を優しく呼んだ。

それは……ずっと昔からのふたりだけの約束で、拡ちゃんが私を抱っこしてくれる合図。

さすがにこの図体じゃ昔みたいに飛びついて、抱っこしてもらうわけにもいかなかったけど。

でも、ぎゅっと拡ちゃんに抱きしめられて、久しぶりの拡ちゃんの感触で胸がドキドキのワクワクの……

嬉しいっ!!


「ずっと待ってたよ……拡ちゃん……この日をずっと待ってたの……」


言いながら、拡ちゃんの首に自分の頬っぺたを押しつける。


「ああ……知ってた」


優しい拡ちゃんの声が耳に届く。


「辛いことだって……い……一杯あったんだからね……」


もう嬉しさで涙が込み上げてきて、言葉に詰まってしまう。


「知ってる……悪かった」

「私のこと……好きで……いてくれた?」

「ああ」

「本当……に?」

「生まれたときから好きだった」

「……え?」

「颯子、本当に後悔しないか?」

「拡ちゃん」


私はうずめてた拡ちゃんの首から顔を上げた。


「今まで颯子の気持ちを散々無視してた男だぞ?」

「だって……それは私のためでもあったんでしょ?」

「それでも、颯子を傷つけてたのにはかわりないからな」

「拡ちゃん……」


拡ちゃんが、私が小さかったころと変わらない笑顔で私を見下ろしてる。


「そんなの……許せちゃうくらい拡ちゃんのことが……好きだもん……」

「そっか、ならこれからは今までの10年分上乗せして颯子を可愛がってやる」

「可愛がるの?」

「ああ、可愛がってやる」

「?」


どうして拡ちゃんが意味ありげにニッコリと笑ったのかわからないけど、私は今の気持ちを素直に表現する。


「うん! 嬉しい♪」

「!!」


拡ちゃんが、私を抱きしめたまま急に顔だけ横を向いた。


「拡ちゃん?」

「まったく……」

「?」


視線だけで見つめられて……


「拡ちゃん? どうし……ンッ!」


いきなり抱きしめられてた拡ちゃんの腕にグッと力が入ると、拡ちゃんの唇が押しつけられた。

これって…これって……キス!?

うそ!! 嬉しいーーーー!! 嬉しすぎるーーーー!!


「あん…ン……」


唇が触れるだけの、軽いキスなんかじゃない。

これが……大人の恋人同士がする“ディープ・キス”なんだぁ~~~!!


拡ちゃんの舌が私のつたない動きの舌を誘うように絡めて、誘導するみたいに動く。


「は…ふ……」


拡ちゃんのキスはどんどん激しく濃厚になって、抱きしめられてた身体はいつの間にか頭のうしろをがっちりと拡ちゃんの片手で押さえられてた。

ちょっとタバコの味がして苦かったけど……クラクラクラクラ……


拡ちゃん、好きーーー♪♪


「はあ……拡…ちゃん……」


やっと離れた拡ちゃんを、浅い息をしながら見つめて名前を呼んだ。

数時間前には、拡ちゃんとこんなことになるなんて思ってもみなくて……嬉しくて嬉しくて。


「颯子」

「ん♪」


ちゅっちゅっと、触れるだけのキスがオデコに瞼に頬にハナに何度もされる。

最後に唇に何度かすると、拡ちゃんが呟いた。


「ヤベェ……颯子、出るぞ」

「ふにゃあ……へ?」


グン! と腕が引っ張られて、物凄い勢いで部屋を出ると、あっという間に車に乗ってホテルを出た。

ホテルにいた時間なんて、多分30分くらい?

なんだか勿体ない気分。

しばらく走って信号で止まると、拡ちゃんがガックリとハンドルに項垂れる。


「拡ちゃん?」


どうしたのかと心配して拡ちゃんを覗き込むと……


「はあ~~あのままいたら、ヤバかった……」


なんて、頭を振りながら呟いてた。


「これからちょっとずつ可愛がってやるよ」


拡ちゃんはハンドルに頭を預けたまま顔だけ私を見て、伸ばした手で私の頭を撫でながらそんなことを言った。


「うん♪」


私にはちょっと意味不明だったけど、拡ちゃんが可愛がってくれるんなら嬉しいから頷いた。

そのあと家に帰ると、拡ちゃんは両方の家族の前で結婚前提のお付き合い宣言をして、皆と私を驚かせた。

そう、私も驚いたのよ!!

お兄ちゃんとしげる君はあんまり驚かなかったけど、おじさんとおばさんとウチの親は本当に驚いてた。

でも、お互いどれだけ真剣か話したら納得してくれて、一番は拡ちゃんが立派に働いてるのと私よりもしっかりした大人と言うことが安心できたみたいだった。


まあ拡ちゃんだっていうのが一番なのかな?

私が小さいころ、面倒を見てくれてたし私も懐いてたし。



18歳の誕生日が、こんなにも嬉しすぎていいのかしら?

私は拡ちゃんの部屋のベッドの上で、拡ちゃんの肩に頭を凭れかからせてウットリとしてた。

だって……傍にいれるだけで……一緒にいれるだけで、とっても幸せなんだもん♪


「これからは10年分上乗せだから、しっかりオレの愛を受け取れよ」


そう言って拡ちゃんが、またニッコリと笑う。


「うん♪」


拡ちゃんはことあるごとに「10年分」って言ってくれる。

もしかして、拡ちゃんも10年間ずっと我慢してたのかな?

でも、今の私にはそんなことどうでもいいの。

だってこれからは、堂々と昔みたいに拡ちゃんの傍でずっと一緒にいられるから。


「まずはオレに慣れろ」

「へ?」


そう言って拡ちゃんは私の頬に手を添えると、ゆっくりと近づいてそっと触れるだけのキスをしてくれた。

私はそれだけでも嬉しくて……涙が零れそうだった。

そんな私の瞼にも、拡ちゃんが触れるだけのキスをしてくれた。


そのあとは、慣れない私を拡ちゃんが慣れるまで教えてくれるんだよね。

これから過ごすふたりの時間で、今までの10年を取り戻して重ねていきたいと思った。


ううん……拡ちゃんとなら、きっとできるよね?


拡ちゃん♪ 大好きーーーー♪♪





次回からは番外編になります。

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