結婚するの?
サクサクと進みます。
「おはようございます! おじゃまします」
いつものように挨拶を言って、家の人の返事を待たずに中に入る。
もうずっと子供の頃からのことだから、誰も気にしたりしない。
特に最近は拡ちゃんとの結婚の約束も皆が知ってるから“来たのね”ってくらいだとおもう。
「いらっしゃい。拡なら自分の部屋よ」
「はぁい」
だからおばさんはわざわざ奥の部屋から出て来ることもなく、私はそのまま階段を上がって拡ちゃんの部屋に直行する。
今日は日曜日で久しぶりに拡ちゃんとゆっくりできるから、朝早くから拡ちゃんに会いに来た。
「拡ちゃん、おはよう♪」
どうせ私が来たことはもうわかってると思うから、ノックもしないで拡ちゃんの部屋のドアを開ける。
ジーンズにシャツ姿の拡ちゃんがベッドに座ってた。
髪の毛はいつものようにシャキ! とはしてなくて、フワリと自然な感じだった。
“お休みの日の拡ちゃん”って感じで、私はこの拡ちゃんも好きだ。
「おはよう、颯子。朝から元気だな。やっぱ若さか」
「拡ちゃんだって若いでしょ」
「いや、三十路過ぎたし」
「仕事が忙しくて疲れてるだけだって」
今日の拡ちゃんはなぜかマイナス思考。
何かあったのかな?
寝起きのせいかな?
でも拡ちゃんは寝起きはいいはずなんだけど。
「はあ~~裏目に出るとはな」
「ん?」
「いや。ところで颯子、相談なんだが」
「相談?」
拡ちゃんが私に相談なんて珍しい。
一体どんな相談事なのかと、ちょっとだけ心臓がドキドキ。
「結婚式、早めないか」
「え?」
「颯子が仕事に慣れるまでって言ってたけど、式場おさえられたら早めたいんだけど」
「ええ!? どうしたの? 拡ちゃん!」
私は拡ちゃんのいきなりの提案にビックリ。
“颯子が仕事に慣れるまで待つ”って言ったの、拡ちゃんだったのに。
「そんなに驚くことないだろ。オレも早く颯子と一緒に暮らしたいって、前にも言ったと思うけど」
「そうだけど……」
ちょっと急すぎるような。
嬉しいけども、心の準備がね。
「嫌か? 仕事的に無理か?」
「え!? 別に嫌じゃないし、仕事も慣れたっていえば多少は慣れたし。そればっかりは時間が経たないとね」
「先に籍だけ入れてもいいよな。家は、最初くらいは2人で暮らしたいんだけど」
「え!? 家? あ! そっか……」
そうだよね。
一緒に暮らすとなると椙田家で、っていうのはちょっと難しいかな?
部屋も空いてないし、二世帯住宅ってわけじゃないし。
「まずは空いてる式場があるか探してみるか。颯子、どこかお薦めの所ある? “この式場がいい!”とか」
「そ、そんな急に言われても……よくわからないもん」
拡ちゃんは私が返事をしている間に、部屋の中央の置いてあるテーブルで自分のノートパソコンを立ち上げて検索し始めた。
私はそんな拡ちゃんの横に正座で座る。
「そうだよな。急に言われてもな……こっからあんまり遠いところでも困るし、来てくれる人が来やすいところのほうがいいよな。駅に近いとか、交通の便がいいとか……」
「…………」
拡ちゃんの顔が、眼差しが、お仕事モードになってるよ!
キーボードを叩く指の動きが半端ないんですけど!
早っ!
「何ヶ所か調べてはあるんだけどさ。颯子が気に入るといいんだけども」
「調べてくれてたの?」
「調べるのは慣れてるし」
「ありがとう」
私なんてまだ先の話だろうからってなんにも考えてなかったのに。
「クスッ」
拡ちゃんがパソコンの画面から目を離して、私を見て笑う。
「そんな顔するなよ。オレが急に言い出したことなんだから、颯子が申し訳なさそうな顔することないんだから」
「そうだけど……」
拡ちゃんが隣に座る私の頭を、気遣うように撫でてくれた。
久々に拡ちゃんに頭を撫でてもらった。
癒されるし、安心するし、いいことずくめ。
「さっき言った条件に合うのはこのあたりかな。颯子はどう思う」
「え?」
拡ちゃんがパソコンの画面からちょっとだけ身体をずらした。
「まずはここと、ここ。んで、駅からちょっと離れるけど、いい感じの式場がこことここ。ここは前に会社の奴が式を挙げてたとこで、けっこう良かったと思う」
「わあ~~」
拡ちゃんが次々と検索した式場のホームページを見せてくれた。
みんなどれも素敵な式場で目移りしちゃう。
「どこも素敵なところだね」
「じゃあ行ってみるか」
「え? 行くって?」
「式場。直接見て決めればいい。空いてるかどうかも聞けるし」
「え? 今日? これから?」
「“善は急げ”って言うだろう。タイミングがよければ、式場おさえられるかもしれないし」
「え……でも、私達だけで決めても平気? 皆もまだ先と思ってるだろうし」
「そうだな……ちょっと待ってろ。お袋に話してくる」
「え!?」
そう言うと拡ちゃんは素早く立ち上がって1階に降りて行った。
ボソボソと話してる声が聞こえる気がする。
5分くらいして拡ちゃんが戻ってきた。
「颯子の家にも聞いてもらった。颯子んちもうちも、式が早まってもOKだって」
「え!? うちにも聞いたの?」
「ああ、おばさんが家にいたから電話で確認した」
「素早い」
「というわけで、式が早まっても問題はないってっことで」
「拡ちゃん?」
「ほら、颯子支度してこい。式場に話を聞きに行くぞ!」
拡ちゃんがニカッと笑って、座って拡ちゃんを見上げてる私に手を差し出した。
そんな急展開があってから話はサクサクと進み、なんと今日は拡ちゃんと私の結婚式なの!
あの日4ヶ所ほど式場を回って話を聞いて、一番早く式が挙げられる式場に決めた。
別に日にちだけで決めたわけではなくて、式場の雰囲気とかドレスとかちゃんと比較して決めた。
結婚シーズンを外れてたから空きがあったのかその辺はわからないけど、式まで2ヶ月くらいしか時間がなかったからそれからは超ハードスケジュール!!
どうやら私との結婚が決まってから今まで以上に仕事を頑張った拡ちゃんに、出向の話が持ち上っちゃったらしく。
それを回避するためにも結婚式を早めたかったとか、あとから拡ちゃんが話してくれた。
頑張ったのが裏目に出たって。
どうにかそんな話は立ち消えて、拡ちゃんは今までと同じ職場で働いてる。
というわけで、無事に今日の佳き日を迎えることができました!!




