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となりの拡ちゃん☆【なろうVer.】  作者: yutaka
☆ 番外編・そのあとのふたり
12/15

颯子、社会人になりました。 01

こんな偶然が!?というお話。

喜多嶋(きたじま)さん、今日の2時からクライアントと打ち合わせがあるから、ちゃんと仕事の調整しておいてね」

「はい、わかりました」


子供のころから好きだった、可愛いほんわかしたキャラクターを自分で作ってみたくて、そういうものを扱ってる会社のキャラクターデザイン部門に就職してあっという間の半年。

毎日が慌ただしく過ぎていく。

デザインの専門学校に在学中に成人式を迎え、馬子にも衣裳の振り袖姿を(ひろむ)ちゃんにお披露目したあと、専門学校を卒業と同時に結納を交わした。


もともとがお隣同士で、色んなことを知り尽くしてる両家だったから改まっての結納は行わず、かといって最初で最後の結婚なんだからと拡ちゃんが言い張り、ホテルの結納コースというもので食事会という場を設けた。

今は昔みたいに堅苦しくなく行うみたい。

拡ちゃんからの婚約指輪と、私からは結婚の記念品として腕時計を交換した。

拡ちゃんの腕には私から贈った腕時計と、私の左手の薬指には拡ちゃんから贈られた婚約指輪がある。

結婚式は私が仕事に慣れてからということで、早くても2・3年後になるんじゃないだろうか。

拡ちゃんをそんなに待たせていいのかと思うけど、拡ちゃん曰く


『オレは颯子を10年も待たせたんだから、同じくらい待ってても大丈夫だぞ』


って、言ってくれた。

私は嬉しくて嬉しくて、毎日が夢のようだ。

仕事は、まだまだわからないことばかりだけど、先輩について仕事を教えてもらっている。

ときどき辛いこともあるけど、それ以上にやりたかった仕事に就けて毎日が楽しい。


それでも落ち込んだときは、拡ちゃんになぜかすぐにバレて慰めてくれる。

だからっていつも優しいわけじゃなくて、社会人の先輩として厳しいご指導もしてくれる。

そんなときは拡ちゃんの言葉に頷きながら不覚にも涙か零れちゃうんだけど、そんな私を拡ちゃんは膝に抱っこでギュッと抱きしめてくれる。

濡れてる睫毛をチュッと唇で触れられたら、もう私の涙はすぐに引っ込んでしまう。

クスッと笑いながら頭を撫でられ、背中を摩られれば身体から力が抜けて、クッタリと拡ちゃんに凭れかかってしまうのは仕方ないことだと思う。

大人な拡ちゃんにかかれば、二十歳も過ぎて社会人にまでなったのに私はいつまでたっても“お隣の可愛い颯子ちゃん”になってしまう。

いつもクスクスと笑われちゃうけど、まだまだ恋愛初心者から抜け出せない私である。

就職して、大人の仲間入りをしたことだし、もうそろそろ拡ちゃんとも大人のお付き合いを! と思ってるんだけど、当の拡ちゃんは


『ここまできたら、結婚するまで清い仲でもいいけど』


なんて言われてしまった。

やっぱりオムツの交換までした、子供ころの私を知ってるとなかなかそういう気持ちにはならないんだろうか?




「あれ、拡?」

「!」


―――― え?


仕事の打ち合わせで相手の会社に向かう途中で、先輩の江草(えぐさ)さんが前から歩いてくる男の人に向かって声をかけた。

私も江草さんが呼びかけるまで気づかなかったけど、目の前にいるのは拡ちゃん本人。

内心ビックリしたけど声をかけれる感じじゃなくて、ただ江草さんの横で立ったままだった。

拡ちゃんも、ちょっと驚いてたみたい。

すぐ元に戻ったけど。


「やだ、久しぶり。大学の同窓会以来だから……5年? 4年ぶり?」

「久しぶり。そうかな? そのくらい会ってなかったか」

「そうよ~~今度また、皆で飲みましょうよ。色々話したいこともあるし」

「ああ、そうだな」

「ゴメン、これから打ち合わせで時間ないんだ。あとで連絡する」

「あ、ああ」

「じゃあね!」

「…………」


まさにすれ違い様にパパッと話して別れたって感じで、私が話かける隙なんてまったくなかった。

チラリと振り返ると、拡ちゃんがにこりと笑って小さく手を振ってくれていた。

まあ、仕方ないよね。

夜にでもゆっくりと話そう。

でも、偶然にもこんなところで拡ちゃんに会えたなんてラッキーだったかも。


「あ! 喜多島(きたじま)さんのこと紹介するの忘れちゃった。ゴメン」

「いえ……」


これはここで拡ちゃんが私のお隣さんで幼馴染みで、婚約者だって言ったほうがいいのかな?

でもなんか、なんとなく言い出しにくい。


「彼、大学の時一緒だったの。親しくなったのは4年の時なんだけど。確か、外食系の会社に入ったのよね。そろそろ本社勤務になるかも、って前会ったとき言ってたんだけど。どうなったかしら」


ちゃんと本社勤務になって実家に戻ってますよ。

それに2.3年後には、私と結婚が決まっております。

ーーーー なんて言えない。


「相変わらずこざっぱりしてて、モテてそうよね」

「あの……」

「ん?」

「大学時代、ひ……さっきの方はおモテになってたんですか?」


これは大学時代の拡ちゃんのことが聞けるってこと?

ちょっとドキドキするけど、知りたい気持ちもある。

知って後悔することがあったら嫌だと思うけど、それ以上に知りたい気持ちが勝ってしまった。


「そうね、1,2年の時は付き合ってた相手がいたみたいだけど、4年の時はいなかったかな。結構言い寄られてたと思うんだけどね」

「そうですか」


やっぱりモテてたのか……拡ちゃん。


「恋人未満がいたのかもね。でも拡とはよく泊りがけで出かけたりしたのよ。今じゃそんな時間もないけど」

「え?」


今、なんと?


「あ、時間! 喜多嶋さん急ぐわよ」

「え? あ、はい」


小走りになる江草さんの後ろ姿を追いかけながら、頭の中がグルグルと回る。


―――― よく泊りがけで出かけたりしたのよ


それって、江草さんが拡ちゃんの元カノってこと?

でも、お付き合いはしてなかったみたいだから……セフレ関係!? とか?

え? うそ!


そのあとの打ち合わせは、話に集中するのにかなりの精神力を使うことになった。

仕事とは違う疲れで、私は身も心もクタクタになってしまった。

結局、その日は拡ちゃんも仕事で帰りが遅くなるからって会うことができなかったし。

江草さんに拡ちゃんとの関係を聞くなんてできるワケなかったし。

胸の中が悶々とするまま、次の日を迎えることになった。



「あ、間違えた。はあ~~もう……」


PCの画面を見ながら、今日何度目かの間違いに溜息が出る。

今日出勤して江草さんを見るたびに、もしかして拡ちゃんと大人のお付き合いがあった人なのかな?

なんて思いながら仕事をしていたら、ミスばかり連発していた。

何をしていても頭の中に拡ちゃんと江草さんの“あのシーン”や場面や、二人が交わしたかもしれない会話なんかの妄想が次から次へと思い浮かんで仕事にならない。

こんなんじゃいけないと思うのに、チラリと盗み見る江草さんはとても魅力的な女性で、色気のない私とは違って大人の女性らしい身体つきをしている。

出るところは出て、引き締まるところは引き締まってるというやつだ。

私と付き合う前のことだから気にしちゃいけと思うけど、相手を知ってしまうと気にするなと言われても無理だよね。

しかも、同じ会社の一緒に仕事をしてる人だなんて。

気まずさと、あとは拡ちゃんと“そういう関係”になったことがある人に対しての嫉妬心。

胸の中がモヤモヤし続けてる。

江草さんに拡ちゃんとの関係を聞ければいいのかもしれないけれどさすがに聞けなくて、聞くならやっぱり拡ちゃんにだろうと思うから。

未だに拡ちゃんと話すことができていないから、このモヤモヤは拡ちゃんに話を聞けるまで続くんだろう。


「喜多嶋さん」

「は、はい!」


そんな悶々としながら仕事をこなしていると、江草さんに名前を呼ばれてしまった。

内心焦りまくりの私。


「午後の会議に間に合いそう?」

「は、はい。大丈夫です、すみません」


抱えている仕事はひとつじゃない。

昨日とは違うデザインのサンプルを仕上げなくちゃいけないのに、色の配色を間違えてやり直している最中だった。


『どうしたの? なんだか集中できてない? 具合が悪いの?』


なんて江草さんに心配される始末。

これじゃいけない。

仕事とプライベートはちゃんと分けなくちゃ。

大きく深呼吸をして、気持ちを切り替えてPCに向かった。



『江草が颯子(そうこ)と同じ会社だったとは知らなかったよ』

「大学の同期だったんだってね」


拡ちゃんと江草さんが同じ大学だったとわかった二日後の夜、やっと拡ちゃんと話すことができた。

電話でだけど。


『4年の時だったかな』

「そうだってね」

『しばらく会ってなかったけど、まさか颯子の上司とはな』

「世の中狭いよね」

『ごめんな』

「え? 何が?」

『最近忙しくて、ゆっくり颯子と会えなくて』

「あ、ああ。そんなの気にしなくていいよ。仕事が忙しいんだから仕方ないよ」


びっくりした。

江草さんのことを謝られたのかと思っちゃった。

もう、気にしすぎだよね。

でも……


「拡ちゃん……」

『ん?』

「…………」

『颯子?』

「あんまり無理しないでね。ちゃんとご飯も食べなくちゃダメなんだから」

『わかってる。颯子』

「なに?」

『仕事が落ち着いたら、どこか出かけような。行きたいところ、考えといて』

「いいの?」

『ああ。ちょっと先になるとは思うけど、約束する』

「わかった、考えとく。拡ちゃんも考えといてね」

『ああ、わかった。じゃあ、もう切るぞ。夜更かししないで早く寝ろよ』

「もう! 子供じゃないんだから、大丈夫」

『そうか。颯子も仕事頑張れよ』

「うん」

『おやすみ。颯子』

「おやすみなさい。拡ちゃん」


通話が切れた携帯を見つめて息を吐く。

結局拡ちゃんに江草さんのことを聞けなかった。

気になってるのに……



それから数日間、悶々としたまま過ごした。

拡ちゃんは相変わらず仕事が忙しくて帰りが遅い。

江草さんは当然といえば当然で、いつもと変わらない。

私ひとりだけが落ち着かない。


「え? 拡にも連絡ついたの? そう、大丈夫だって? よかった。うん、うん。じゃあ予定どおり今夜ね。はい、は~~い」

「…………」

「あ、ごめんなさい。食事中に」

「いえ」


クライアントとの打ち合わせの帰りに、外でランチを食べている時に江草さんにかかってきた電話で、拡ちゃんの名前が出てフォークを持つ手が止まる。


「この前言ってた大学の仲間で飲もうっていう話が、やっと皆都合がついて集まれることになったの」

「そうなんですか」

「本当に久しぶりなの。楽しみだわ」

「よかったですね」


その日、江草さんは早々に仕事を切り上げて帰っていった。



「うう~~気になるぅ」


時刻は夜の8時過ぎ。

夕飯も食べてお風呂にも入って、自分の部屋のベッドの上でクッションを抱きながら悶々としている。

ベッドの上に置かれている携帯は鳴りもしない。

今頃拡ちゃんは江草さん達と飲んでるんだろうか。

救いは拡ちゃんと江草さんが二人っきりではないということだろうか。


今日のことは拡ちゃんからは何も連絡はない。

忙しいのがわかってるから、最近では寝る頃にお休みの連絡が来るくらいだったし。


「拡ちゃん、遅いのかな~~」


会いたいな。

拡ちゃんに会ったのは、何日前だろう。


「…………」


ワガママを言ってしまおうか。

拡ちゃんを疑ってるわけじゃない。

でも、気になるのは本当で。


「会いたいの。拡ちゃん」


私は鳴らない携帯をジッと見つめてた。






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