雨降らしの儀式
リラが男に連れられ出て行ったあと、龍美も牢から出された。
水がないので、一度、神殿に供えたという布で軽く身体を拭かれ、身を清められる。
女官たちがこの辺りでは作れないという透けるような軽く美しい布を龍美の身体に巻き付け、金の装身具をつけて、ドレスのように仕立ててくれる。
あれみたいだな、と龍美は思った。
着物屋さんで反物を巻きつけて、浴衣みたいにしてくれるやつ。
女官に手を引かれ、最初にこの世界に呼び出された神殿の間に行くと、みなが龍美に向かい、膝をついて頭を下げていた。
「偉大なる聖女様」
とみな、口々に言う。
あっ、なにそこそこいい格好して跪いてんですかっ、麻田さんっ。
リラは上等な布を巻きつけたらしき服を着て、あの男とともに、貴族たちが並ぶ場所に一緒に並んでいた。
この二、三日で、急に美味しいもの食べましたね。
肌も髪もつやつやじゃないですかっ、などと思っているうちに、聖女となる儀式が進む。
麻田さんのあのたくましさを見習いたいけど――。
私の場合、この状況で、どう見習ったら……。
龍美は聖女が雨降らしの儀式を行うという泉の前に連れて来られていた。
かつては緑に溢れていたのだろう森の中。
干上がった深い泉の底にはたくさんの骨が見える。
艶やかな長い黒髪の若き王は腰の剣を抜き、龍美の喉元に冷たい刃先を突きつける。
龍美を見下ろし言った。
「雨を降らせるか、生贄になるか。
どちらか選べ」
いやいやいやっ。
どっちも無理です~っ。
こんひんやりした刃先の感触。
斬られたら、リアルに死ぬな~と思いながら、座り込んでいた龍美は、すっと立ち上がる。
「無礼ですよ。
私は聖女。
あなた方に水を与える者です」
なんか言い切った~っという顔を離れて見ていたリラがする。
「儀式はすぐには行えません」
「……お前には儀式のやり方がわかっているのか」
……知りません。
「儀式を行うには、二十日……
いえ、半年……
三年くらいの準備期間が必要です」
いや、延ばしすぎっ。
私たちも干上がるでしょっ、とリラが目を見開く。
だが、王は素直に剣を下ろした。
「どうやら、お前はほんとうに聖女のようだな」
いや、なぜっ!?
とリラと二人、目を見開く。
「ここでやる正式な儀式には準備期間が必要なのだ。
今すぐできるとか言ったら、斬って捨てるところだった」
セーフ、セーフ、セーフッ、とリラと手を取り合わんばかりに目だけで喜び合う。
行きすぎた保身がいいように作用したようだ。
「だが、できるだけ急げ。
このままでは、みな死に絶え、国が滅びる」
王は剣をおさめてくれる。
リラがホッとした顔をしたのが人垣の向こうに見えた。




