会合-『白爪』全員集結
数日後。
街の喧騒から数里、険しい断崖を越えた先にある、地図に載らない山奥の洞窟アジト。
外見はただの岩肌だが、そこには僕が独学で完成させた、魔王の探知魔術すらも遮断する「虚無の結界」が幾重にも張り巡らされている。
重厚な石の扉が、僕の魔力に反応して音もなく開いた。
「――リーダー、遅いよ。待ちくたびれて骨が折れそうだ」
アジトの奥。円卓を囲むようにして、世界を震撼させる11人の怪物が揃っていた。
退屈そうに指先でメスを回す医師のボーン。氷のような冷気を纏って佇むニヴェ。編み物をしながら猛毒の酸を弄ぶアルム。
彼ら一人ひとりが、一国を一夜で機能不全に追い込む、生ける災厄。
そこへ、軽やかな足取りで入ってきたのは――。
「ごめんごめん、みんな久しぶりだね。孤児院の買い出しのついでだから、あまり時間は取れないんだけど」
茶色のエプロンをつけたまま、ネギやパンが飛び出した買い物袋を両手に下げた「便利屋のルウくん」だった。
殺気に満ちたアジトの空気が、僕が入った瞬間に一気に「おっとり」としたものに書き換えられる。
「リーダー……その格好、なんとかならないのか? 威厳がないぞ」
巨大な鉄槌を杖代わりにしていたライが、苦笑いを浮かべる。
「いいじゃないか。これが今の僕の正装なんだから。さあ、始めようか」
僕は買い物袋を高級な黒檀の机に無造作に置くと、丸椅子を引いて座った。
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僕が懐から一冊の古い手帳を取り出した瞬間、アジトの温度が数度下がった。
エプロン姿はそのままだが、僕の瞳から「僕」という甘さが削ぎ落とされ、研ぎ澄まされたリーダーの顔が覗く。
「さて、今回の悪徳領主バルトロの件で、『白爪』による累計執行件数は1218件目だ」
淡々と語る僕の声に、11人の怪物が一斉に背筋を正す。
「今回の作戦での民間人、及び無関係な兵士の犠牲者はゼロ。標的の完全抹消と、証拠の徹底隠滅を確認した。死体はボーンの術式で分解、記憶はヌーベの霧で処理。……完璧だね?」
「当然ですよ、リーダー。あの男の骨の一片、細胞のひとつまでこの世から『退場』させました」
ボーンが不敵に笑う。
「塩屋の仕事も完璧だ。屋敷の金庫室に残された魔力の残滓も、僕の塩で完全に中和して砂に変えてきた」
「よし。これで一人の老人の無念は晴らされた」
手帳を閉じ、僕は深く息を吐いた。
この1218という数字は、僕たちが闇から救ってきた、あるいは闇へ葬ってきた歴史そのものだ。
法の手が届かない場所に巣食う癌細胞を、僕たちは「死神」という名のメスで切り取ってきた。
「リーダー。次は隣国の魔導師団の不穏な動きについてだけど……」
「ああ、それについては――」
会議が佳境に入った、その時だった。




