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最強暗殺者、聖女に詰められ短足猫になる  作者:
第4部-駿馬の聖域滅亡
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壊滅-教育者の軍門に降る

 

 一夜にして、裏社会を震撼させた最強の暗殺者ギルド「駿馬の聖域」は、事実上の消滅を迎えた。

 国家転覆さえ容易いと謳われた六人の騎士たちは、今や戦場ではなく、街の至る所で「平和な日常」という名の地獄に叩き落とされている。


 リーダーのカバロは、その気高い魂ごと高貴なロシアンブルーへと変貌した。そして、彼を「団長」と仰いでいた残る五人の精鋭たちもまた、セダの「竹尺」とアイリスの「レッド・アイ」、そしてルンの「六法全書」という名の絶対零度のプレッシャーの前に、完膚なきまで叩き伏せられたのだ。


 街のあちこちで、かつての怪人たちが情けない姿を晒している。


「……ああ、光速で雑草を抜く日が来るとは。私の細剣は、庭園の景観を守るためにあったのか……」

 フォスは腰をさすりながら、光速の刺突をすべて「根こそぎの草むしり」へと転用させられていた。


「……シーツの殺菌が、これほど神経を使うとは……。加減を間違えれば布が消滅し、セダ様に再教育される……。これなら戦場の方がマシだわ……」


 かつて焦熱の騎士として世界を轟かせたテンプも自身の能力をこき使われていた。


-----


 数日後。かつて彼が蹂躙した南の大陸のメインストリートに、奇妙な光景があった。


 きらびやかな装飾を施された「大型犬・子供用のお散歩カート」。それを、見るからに強靭な肉体を持つ男——ソニクが、革製のハーネスを食い込ませて引いている。魔力を封じられた彼は、ただの「異常に力のある人間」に過ぎない。


「おい、見ろよ! あれが『轟音の騎士』ソニクだってさ!」

「へぇ、一万人殺した英雄様が、今じゃポメラニアンの送迎係か。お似合いじゃないか!」


 心ない嘲笑と、投げつけられる腐った果実。彼が震え上がらせた市民たちや小悪党たちが、今や彼の「馬車」に金を払い、鞭を振るう側になっている。


「くっ……、重い……! 足が、上がらない……!」


 魔力を封じられた状態で、1トンを超えるカートと乗員を引くのは、いくら鍛え上げた肉体でも限界がある。一歩踏み出すたびに、地面を蹴る大腿四頭筋が悲鳴を上げ、皮膚の下で筋肉が断裂しかける。だが、止まれば法秩序の鎖が心臓を突き刺す。彼は止まることすら許されず、笑いものになりながら、永遠とも思える街の周回を続けるのだった。


 彼らのプライドは、セダの竹尺によって文字通り粉々に粉砕され、今や街の便利屋、あるいは「お掃除要員」として再利用されていた。


-----


 孤児院の裏庭。昼下がりの穏やかな陽光が差し込むこの場所は、僕——ルウにとって、かつての栄光を忘れ、ただのマンチカンとしての日々を甘受するための、いわば「避難所」だった。


 フリル付きの苺ドレスという名の「呪いの衣装」からは一時的に解放されたものの、僕の身体は依然として、短足でモフモフしたマンチカンのままだ。かつて暗殺ギルド『白爪(ホワイトクロー)』のトップとして、その名を聞くだけで王族すら震え上がらせた僕が、今や縁側で日向ぼっこをする姿を、誰が想像できただろう。


「ルウちゃん、新しいお友達を連れてきましたよ。仲良くしてあげてくださいね」


 セダの涼やかな声と共に、一匹の猫が地面に降ろされた。

 ビロードのような輝きを持つ銀灰色の毛並み、そして深いエメラルド色の瞳。どこからどう見ても、一千万ルクは下らないであろう、最高級のロシアンブルーだ。


 僕は欠伸を噛み殺し、その「新入り」に視線を向けた。


「……君か。かつて『蒼穹の騎士』と呼ばれ、444人リストの頂点に君臨した男は」


 僕は猫語(思念波)で語りかけた。カバロは、自分のふかふかした前足と、地面に垂れ下がった自分の尻尾を信じられないものを見るような目で見つめていたが、僕の声にハッと顔を上げた。その瞳には、かつての騎士らしい気高さが微かに残っていたが、それ以上に深い哀愁と絶望が影を落としていた。


「……カバロか。君ほどの男が、まさかあの『教育係セダ』の毒牙にかかるとはね」


「……ルウ、か」


 カバロは、庭の隅で無邪気に蝶を追いかけている自分の影を噛み締めるように、低く「にゃあ」と鳴いた。それは、魂が抉られるような悲痛な響きだった。


「……かつて君が猫にされたという噂を聞いた時、私は心のどこかで君を嘲笑していたよ。『白爪ともあろう男が、女一人に不覚を取るとは』とな。だが、今は心から同情する。……あの女たちの前では、我々の重力も、光も、法も、ただの玩具に過ぎなかったのだな……」


 僕は鼻を鳴らし、自分の毛繕いを始めた。

「今さら気づいても遅いよ。あいつらは人間じゃない。……『平和』という名の絶対神の使いか何かだ。抗えば抗うほど、僕たちの人生は喜劇に書き換えられていくんだから」


 カバロは前足で顔を拭い、ふと思い出したように僕を見つめた。

「それと……ルウ、私の表の職——公爵家の嫡男としての地位や、調教師としての仕事はどうなったのだ?」


「自業自得だよ。僕も便利屋としての社会的地位を失い、今じゃ裏社会でも『アイリスに飼われている可愛いマスコット』として笑いものだ。君も今日、公職からすべて抹消された。セダさんの根回しだ。君はもう、この世のどこにも『蒼穹の騎士』としては存在しない。ただの『迷子のロシアンブルー』だ」


 カバロは深く項垂れ、地面に腹をつけた。

 重力を操る天才が、自らの毛並みの柔らかさに絶望し、喉をごろごろと鳴らしてしまうという本能に抗えないでいる。


「……これから、どうすればいい」


「とりあえず、アイリスさんが持ってくる『特製・お野菜入り猫缶』を完食することだね。残すとセダさんが竹定規を持ってやってくる。あれは……重力魔法よりも痛いぞ」


 二匹の没落した貴公子は、互いのモフモフした肩を寄せ合い、赤く沈む夕日を眺めながら、ただ沈黙した。

 遠くで、インルが鳩を肩に乗せて「人間銅像」をやっている姿が、街の喧騒の中に小さく見えた気がした。


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