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最強暗殺者、聖女に詰められ短足猫になる  作者:
第5部-冥静戦争開幕、三大組織の滅亡
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剣閃-1.灰の王と静寂の管理者


アバドンが墜落した跡地。周囲の木々は爆風と飛び散った要塞の破片の影響で火事が起きていた。

周囲の兵隊は20人から30人が倒れている。ただの動かないだけのオブジェのような骸の光景も俺の視界に入ってくるが、そんなものを気にする場合じゃない。

肺が焼ける。脇腹の傷口が、鼓動に合わせて熱い拍動を繰り返している。さらには骨にひびが入ったような感覚。自慢の脚力と、二刀流が完全に機能しなくなる前に急いで決着をつけねばなるまい。

空中要塞『アバドン』の心臓部を破壊し、崩落する瓦礫の雨を潜り抜けて、俺はようやくこの場所に辿り着いた。


視界の先、もうもうと立ち込める砂塵と火炎の奥に、二つの禍々しい影が揺れている。

一方は、全身を熱核の如き紅蓮に染め、王杓を杖代わりに突き立ててなお、世界を呪い続ける破壊神ベスパ。

一方は、色彩を失ったモノクロームの静寂を背負い、返り血さえも「汚れ」として冷徹に見下ろす管理者マンティ。

目の前にいるのは要塞が墜落した中で、血を流しながらも普通に生きた化け物たち。目の前にいる二人は倒すべき心が濁った巨悪。それでもなお憎悪と狂気が奴らの信念を上回り、死という恐怖を捨ててまで普通に立っている。


二人が再び地を蹴り、王杓と処刑鎌を振り上げる。落下の衝撃で鈍い感覚が残っている中、二人がすさまじい斬り合いを始めた。劣勢になりかけているとは言え、さすがは魔王や勇者すらも凌駕する超が付くほどの重要国際指名手配犯。この状況下でも普通の人間の感覚でありたいかのように動いている。


――この無意味な戦いは俺が終わらせる。ここまで来たなら、限界まで筋肉と神経を研ぎ澄ます。あの瞬発力で。

二人が互いの喉元を狙って最後の一撃を放とうとしたその刹那。

俺は、折れかけた白狼剣の柄を握り直し、時速400kmの「壁」を食い破った。


ドォォォォォン!!


爆炎と土煙を強引に切り裂き、俺は二人の怪物の間に、一筋の「白い閃光」となって割り込んだ。


「……そこまでだ、二人とも」


砂塵が晴れる。本来の暗殺者としての姿を晒し、白銀の小太刀を逆手に構えた俺は、左右から押し寄せる熱気と静寂を同時に受け止めた。

左からはベスパの放つ、皮膚を焦がすような憎悪の熱。

右からはマンティの放つ、心臓の鼓動を止めようとする絶対的な凍結。

俺は奴らより体格が小さかろうと、技術や力で押されようとも、自分の正義だけは絶対に揺らがない。

その両方を、俺は白狼剣から放つ「虚無の剣気」で押し返す。


「……かつて『最悪の終焉』と呼ばれた男、ルウか。往生際の悪い鼠め」

マンティが、感情を欠いた瞳で俺を射抜く。俺の解散したチーム白爪を完全に時代遅れだと見下した明らかになめ腐ったような表情もある。その双鎌『エデン・シザー』からは、未だに因果を断ち切る鋭利な殺意が漏れ出している。


「ハッ、最近噂の死に損ないの『家畜』が。飼い主の目を盗んで、また俺の邪魔をしに来たか!」

ベスパが、血の混じった唾を吐き捨てて嘲笑う。だが、その声には先ほどまでの余裕はない。要塞からの墜落とマンティとの死闘で、彼の肉体も既に限界を超えているはずだ。


「ベスパ、お前の『放棄』は止めた。各地の爆弾への信号は、俺たちが完全に断ったぞ」


俺は一歩、地を踏みしめる。


「それとマンティ、お前の『管理』もここまでにしてもらう。お前たちの歪んだ秩序も、身勝手な破壊も、これ以上この国を汚させはしない」


俺の瞳には、かつての復讐心を超えた、この絶望の連鎖に終止符を打つという強い決意が宿っていた。俺たちの「日常」を守る。ただそれだけのために、俺は再び死神の鎌を握ったんだ。

そのうえ、依頼者は南の大陸の領土の民衆たちだ。俺はアイリス姉さんの元で猫として散歩しているうちに、聞こえてくるんだ。

『みんな止めて』

『誰か助けてー!』

――このような叫び声をお前たちの命で責任を取る以外に何があるというんだ。


一人で二大ボスを同時に相手をしようとした瞬間、僕の鼻を清涼感のする香りがくすぐる。


「……ルウ、一人で美味しいところを持っていくのは、調香師として感心しませんね」


風に乗って、聞き慣れた、けれどどこか危険な香りが漂ってきた。

マゼンタ色の残光。荒野に似つかわしくない、鮮やかな蓮の花弁が舞い散る中、俺の隣に一人の女性が降り立った。


「カリスか。無事だったんだな」


「ええ。アストとははぐれてしまいましたが……。これほどの『毒』が戦場に満ちていては、眠ってなどいられませんわ」


カリスが、名刀『狂牙マゼンタ』を携えて静かに身を構える。彼女が踏み出した瞬間、マンティの支配していたモノクロームの世界に、鮮烈な紅蓮の色彩が侵食し始めた。

彼女もまた、アストと共にマンティと切り結び、重傷を負っている。服の至る所が切り裂かれ、その下から覗く肌には数知れない斬撃の跡があった。だが、その双眸に宿る「獲物を屠る獣の光」は、何一つ衰えていなかった。


「ちょうどいい、こいつらをまとめて『掃除』するぞ。カリス、いけるか?」


「ええ……。私の間合いに入った瞬間、彼らの魂をマゼンタの香気で包み込んで差し上げます」


カリスの目が鋭さを増す。

月下狂牙という6人の剣豪集団の小さな群れの長としての最後までの責務は、目の前にいる目の前にいる獲物を仕留めようとするジャッカルそのものだ。


俺は重心を低くし、白狼剣を構え直す。

かつてアイリス姉さんに救われ、猫として過ごした時間。

俺は8歳のときにアイリス姉さんに出会ってから彼女を守ると決めていたのに、猫にされるという奇想天外な邪魔をされた。

――それでも僕は守る側に守りたい。

俺が「守るべきもの」の重さを履き違えていたと思うな。だが、今この瞬間だけは、どうしてもやらせて欲しい。俺は慈悲深い飼い猫じゃない。

444人リストの首領たちを恐怖させた、白銀の暗殺者――「俺」だ。


「……フン。二匹に増えたところで、害獣に変わりはない」

マンティが双鎌を低く構える。彼の周囲の空気が、キリキリと音を立てて圧縮されていく。


「まとめて灰にしてやるよ! 俺を放棄しようとしたこの世界の全てをな!」

ベスパが王杓を高く掲げる。彼の背後に、墜落した要塞の残骸を燃料にして、巨大な火柱が立ち上がった。


三つ巴、いや、四つの絶望が衝突する。

満身創痍の体。動くたびに骨が軋み、筋肉が悲鳴を上げる。

それでも、俺の剣に迷いはない。それにまだ引き出しもある。

この一撃で、すべてを終わらせる。


「……行くぞ」


俺の呟きと同時に、戦場から音が消えた。

俺の超加速と、カリスの幻影、ベスパの爆炎、マンティの停滞。

これら全てが交差する、南の大陸史上最も美しく、最も醜い殺し合いの幕が、再び上がった。


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