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最強暗殺者、聖女に詰められ短足猫になる  作者:
第5部-冥静戦争開幕、三大組織の滅亡
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跡地-剪定された隠れぬ真実


朝日が昇ると同時に、僕――ルウは、仲間たちと共に「静寂の捕食者マンティ」第5支部の跡地へと足を踏み入れた。

今の僕はカリス、ルビ、フロス、フォルト、アストの5人の盟友とネールの支部に向かっていたが、もうアイリス姉さんが僕たちを追って来ようとしていることすら自分でも忘れている。

僕たちが向かった先にそこで僕たちの目を待ち受けていたのは、凄惨な戦場跡ですらなかった。


「……なんということだ。証拠が……何一つないだと?」


僕は呆然と立ち尽くした。

昨夜、遠く地平線の彼方まで夜空を白く染めたあの大爆発。マンティの精鋭と、ベスパという「巨悪」が真っ向から激突したはずのこの場所には、崩れた瓦礫と、熱核の残り香すら感じさせないほど冷え切った静寂だけが横たわっていた。


「あの先日の爆発音で、マンティの幹部が持っていたらしい証拠ごと、すべて隠滅されたというわけね……」


カリスが、マゼンタ色の瞳を鋭く光らせながら周囲を警戒する。彼女の鼻は、微かに残る塩素の臭いと、それ以上に不自然な「花の香り」を捉えていた。調香師としての経験か、彼女の嗅覚はこれが戦いの後だということを即座に悟った。


かつては天を衝く天文台だった場所は、今や巨大な窪地となり、その底には見たこともないような鮮やかな花々が、死を悼むように咲き乱れている。


「ベスパの野郎、やりやがったな。自分たちの痕跡もろとも、マンティの喉元を焼き切りやがった」


「……いや、フォルト。それだけじゃない。この場所の『因果』そのものが、誰かにハサミで切り取られたような違和感がある」


フォルトとアストが地脈を探るが、そこには本来あるべき「数千人の死の残響」すら存在しなかった。

僕たちは、決定的な機会を逃したことを悟った。ベスパの計画の全貌を、証拠ごと闇に葬られたのだ。


「ルウ、あれを見ろ!」


ルビが東の空を指差す。

その瞬間、空気が物理的な壁となって僕たちの鼓膜を震わせた。


ドォォォォン!!


一箇所ではない。東の主要都市、そして南の商業要塞。二箇所同時に、巨大な火柱が天を突いた。


僕はのちに知ることになるが、ベスパの「全都市放棄計画」が、ネールによるデータの拡散を受けて潜伏を止め、強行手段に切り替わったのだ。


「始まったか……。証拠を隠滅した直後に、これほど大規模な連鎖爆破を仕掛けるなんて。ヤツら、もう隠れるどころか、証拠を僕たちに見せつけているようなもんだな」


僕は唇を噛み締めた。時速400kmで駆け抜ける僕の足があっても、これほど離れた場所で同時に起きる惨劇をすべて止めることは不可能に近い。僕は瞬時に怒りが沸いた。


「証拠を出してくれてありがとう、なんて思っていられる場合か!」


僕はベスパの要塞のもとに向かう。タイムリミットが5日あったとしてもこればかりは見過ごしてはいられない。


-----


その頃、爆発に包まれた東の街の路地裏では、自称葬儀屋のソルが、返り血一つ浴びないまま無音の暗殺術を振るっていた。

足元には、逃げ惑うことも許されなかった衛兵たちが、文字通り「墓場」のような静寂の中で事切れている。


「構えろ!鎌ごときに怯むな!」


衛兵たちがソルを鉄砲で迎え撃とうとするが、ソルは冷たさを感じる青白い顔を浮かべて鎌で薙ぎ払う。

彼の陰から陰への移動はもはや神速。日光に当たるような場所ですら彼の影が見えない。


「俺をいじめるなど、ひどい奴らだ...」


ソルが眉を(ひそ)める。衛兵の行動は、ソルからすれば彼への琴線に触れる行為だ。だが、この状況でもソルの陰気臭い表情は変わらない。


「お前たち、救いはあの世だ...」


ソルの一撃必殺。彼の鎌は綺麗な曲線を描くと同時に、衛兵10人をまとめて首を断面状に切り落とす。

ソルの立ち振る舞いはもはや魔王を凌駕する死神。人間らしさを感じない瞳が魔王や勇者ですら死という道へ導かせているかのようだ。


「ベスパ様も、もうすぐあの最終兵器を起動なさる。その前に、間引くべき『不純物』の回収作業を終わらせるとするか……」


ソルは死神のような鎌を肩に担ぎ、燃え盛る街を見つめて冷酷に笑った。


「飼い主……とかいう得体の知れない連中も、あの空中要塞『アバドン』に避難してしまえば怖くはない。地上でどれだけ理を捏ねくり回そうと、天からの火には抗えまい。……もうすぐだ。誰も奪い合わず、誰も愛さない、理想の虚無の世界が訪れる。ベスパ様も俺の信念と共鳴したということか...」


彼にとって、この地獄絵図こそが唯一の「救済」の始まりだった。


ソルがおぞましい殺戮劇を広げていた最中、魔力に反応した通信石が震える。


-----


一方、上空数千メートルに浮遊する鋼鉄の魔城――空中要塞『アバドン』。

玉座に深く腰掛けたベスパは、水晶に映る各地の爆破映像を、感情の抜け落ちた瞳で眺めていた。


「……オイマは計画の一部に成功したが、戦線離脱か。不知火の剣を相手に生き残っただけでも、奴の忠誠心は評価に値する。……予定より早いが、全システムを起動しろ。ソル、ビル、エナガ。これより、この大陸の『剪定』を最終段階へ移行する」


傍らに控えるビルが、獰猛な笑みを浮かべて報告する。


「ベスパ様。戦線離脱したドラアの部下たちから、例の兵器の輸送完了の報が入っております。地上のネズミどもがどれだけ騒ごうと、準備は整いました」


「……待っていろ、マンティ。貴様の言う『完璧な管理』など、俺の煉獄ですべて灰にしてやる」


ベスパの掌の中で、あの半分焦げた木彫りの人形が砕け散る。

地上では、僕たち「義賊」が必死に命を繋ぎ止めようと足掻き、空中では「巨悪」がすべてを焼き尽くそうと牙を剥く。


-----


そして、その均衡を崩そうとする「もう一つの巨悪」、マンティの幹部たちもまた、独自の正義を掲げて動き出していた。


「……あっちで爆発、こっちで暗殺か。騒がしい連中だ」


東の街の広場で、巨大な裁断鋏を構えた男――ルードが、ソルの前に立ち塞がった。


「葬儀屋。貴様のような『略奪者』が我が庭を荒らすのは、見ていて非常に不愉快でね。その首、この鋏で切り落としてやろう」


暗殺者と処刑人。

ベスパの矛と、マンティの盾が、炎上する街で今、激突する。

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