デートプランは難航中
「今週の日曜日デートをしよう!」
場所は変わり有名な某ハンバーガーショップの店内にて。
注文した商品を受け取り席に着くや否や葉音先輩はそう宣言した。
「デートって誰と誰がですか?」
達也がそう聞くと葉音先輩は当たり前のように言う。
「もちろん、朝陽くんと一花!」
「えぇぇ!おい、朝陽。お前いつの間に桜ヶ岡先輩と…」
「いやいや、違うから!」
そういえば達也は俺が桜ヶ岡先輩の人見知りを直すことに協力していること言ってなかったっけ。
完全に勘違いされてる。
「なんなら丹波くんが代わりにデートしてもいいけど。」
「男なら誰でもいいってこと!?」
「いやいや、それは違うよ朝陽くん。後輩の、信じられる、男の子なら大丈夫ってこと。」
「だったら後輩の、信じられる、男の子なら誰でもいいってことじゃないですか!?」
別に俺じゃなくてもよかったってこと!?
すごい浮かれてた自分がバカみたいじゃないか!?
「せっかくのお誘いですが俺は遠慮しておきます。日曜日は練習試合が入ってるので。」
さすが達也。断り方もイケメンだ。
「そっか…忙しいなら仕方がないね…」
「なんか露骨に残念そうだ!?」
「まあまあ、それよりデートだ!」
「だからなんでデートだ!!」
俺は元々ツッコむ側ではなかったはずなのに葉音先輩相手になるとツッコミが止まらない。
つい年上であることを忘れて敬語を忘れてツッコむ。
店内だから声は抑えるけど。
「椎菜先輩がチケットくれたんだよ。商店街で当てたけどいらないからって。ほら。」
そう言い葉音先輩は鞄から二枚のチケットを取り出す。
「お、これって『自然動植物園』のペアチケットじゃないですか。」
達也がチケットを覗き込み声を上げる。
『自然動植物園』。
その名の通り、動物園と植物園が合わさっており、カップルや家族連れに人気のスポットだ。
多くの動物が飼育されていて、中には珍しい動物もいるらしい。
ここに最後に行ったのはもう何年も前だ。
小学校の頃、今ではもうろくに顔を合わせようともしない妹がまだ俺に懐いて後ろをついて回っていた頃に両親に連れられて行った。
それからは両親の仕事が忙しくなり編集部が用意した仕事部屋に泊まり込むようになったから俺が覚えている家族とどこかに行った記憶はそれくらいなのだが。
「ちなみにそのデート、桜ヶ岡先輩は了承してるんですか?」
「大丈夫!」
了承してるとははっきり言わずに言葉を濁す先輩。
これ絶対言ってないな。
「俺は行ってもいいですけど桜ヶ岡先輩にちゃんと了承を取ってくださいよ。じゃないと行きません。」
「えー…、もう細かいを気にするなぁ、朝陽くんは。確認すればいいんでしょ、確認すれば。」
投げやりな態度で葉音先輩は携帯電話を操作しながら外に出ていく。
食べかけのハンバーガーは置きっぱなしなので帰ったということはないだろうけど。
小さく息を吐きだす。
「お前も大変だな。」
「確かに毎日慌ただしくて大変ではあるけど…まあ、でもチャンスだとは思ってるな。」
「チャンス?」
「桜ヶ岡先輩との親密度を上げるための。」
「ホントお前はぶれないな!っていうか親密度って…ゲームじゃないんだから」
「別にいいだろ。現実はゲームと同じだ。親密度が上がれば仲良くなるし、秘密も共有したりする。でも現実はゲームみたいに単純じゃない。バグだらけだ。選択肢なんてものもないから俺が自分で考えないといけない。思い通りに事は進まない。だから俺が変わるしかないんだ。俺が変わればルートは絶対に変わる。」
もし俺が演劇部に入らなかったら今もずっと自分の部屋に籠ってたかもしれない。
桜ヶ岡先輩とも話せなくて理想としてただ遠目で見ていただけだけだったかもしれない。それに…こんなに人と話すことも一生なかったのかもしれない。達也以外の人とこんなところに来るなんてことも…多分なかった。
だから、俺は変わるんだ。
あの日決意した。いつか桜ヶ岡先輩の隣に立てるような存在になるって。
「ホントお前はぶれないな。」
達也は呆れることもなく穏やかに笑ってそう言った。
「いやー!待たせたね!二人とも!!」
数分が立った後葉音先輩はからっと笑みを浮かべながら戻ってきた。
「それで桜ヶ岡先輩は了承したんですか?」
「うん!それはばっちり!『日曜日暇だよね!』『う、うん。予定はないけど、どうしたの?』『朝陽くんとデートしない?』『えぇぇ!な…なんでぇ!?』『椎菜先輩の作戦だよ!チケットももうもらってるし、朝陽くんも行きたいって言ってるよ!断ったらせっかくチケットくれた先輩に悪いよ!!』『じゃあ、そういうことなら。』ってな感じで!!」
桜ヶ岡先輩のマネ上手いな!さすが演劇部の部長。
「途中の会話がだいぶ省略されてますけど…」
それに俺は行きたいだなんてはっきり言ってない!いや、行きたいけども。そんなに露骨に言葉にしてはない…はずだ!
「まあまあ、そういうことだからデートプランは考えてね。やっぱりこういうのは男の子がリードしないと!!」
「いやいやいや!!俺デートなんてしたことないですよ!!」
そもそも彼女がいたこともない。
「えー…、しッかたないなー、朝陽くんは。じゃあ、土曜日までにあたしと椎菜先輩で考えておくから…」
「やっぱり俺が自分で考えます!!いや、考えさせてください!!」
慌てて先輩の言葉を遮る。
先輩たちに任せたら絶対にとんでもないことになるのは分かりきっている。こうなったら意地でも自分で考えるしかない。
「そう?そんなに楽しみなんだー。じゃあ、とっておきのプランをよ・ろ・し・くね。」
線愛は顔の傍で人差し指を立て色っぽくウインクする。
日曜日まではあと四日。
それまでに当日どこをどう回るのか、昼食、先輩と距離を詰めるための方法、当日着る服、その他にも考えておかないといけないことはいろいろ……
そこで隣に座る達也の方に向き直り、その肩を掴む。
「な…なんだ?」
「俺と一緒にプランを考えて!!」
偽ることもなくストレートにそう言う。
こんな難易度の高いこと彼女いない歴十五年の俺一人では不可能だ!
「まあ、別にいいけど…俺もそういうのはあんま詳しくないぞ?」
「それでも一人で考えるよりマシだ!!」
「やっぱりあたしも考えようか?」
食べ終わったハンバーガーの包み紙を丁寧に畳みながら葉音先輩が言う。
「これは男同士の話なので!本当に大丈夫です!」
先輩の申し出は丁重にお断りする。
「あ、そういえば…」
そこで先輩は何かを思い出したように声を上げた。
「なんですか?」
「キミ達が付き合ってるって噂を聞いたんだけどホント?」
先輩は可愛い顔でとんでもない爆弾を放った。
「なんでそうなるんですかー!違いますよ!」
「でもさっきもあたしがいない間になにやらいい雰囲気に……」
「見てたんですか!?…っていい雰囲気じゃないですからーー!」
そんなやり取りは騒ぎを聞きつけた店員さんに注意されるまで続いた。




