身近にいる天才
「なあ…」
「んー?」
「『んー?』じゃねえよ。いったいいくつ回る気だ?もう五件目じゃねえか!」
俺はゆっくりと眺めていた棚から視線を上げて長い時間のショッピングのせいで疲れを浮かべた親友を見る。
そのついでに俺は両手に持った袋を持ち直した。
「いや…だってお前がまずは俺の好きなところ回っていいって言うから…」
「だからってアニメショップをこんなに回るなんて聞いてねえ!」
そう。俺たちは今某アニメショップに来ていた。
ここは良い。多くのキャラクターグッズ、ラノベ、漫画、同人誌……
気になったものがあったら籠に入れていく。
眺めるだけでも飽きることはない。
俺みたいな奴には……
「だいたいなんでそんなに同じ本を買うんだ?」
「店によって特典が違うんだよ。」
「特典って……やっぱりお前の考えてることは分からん……」
「お前みたいなリアルが充実してるやつに分かられてたまるものか。」
「いや、別に充実してるというわけじゃ…」
「充実してるやつに限って自分の置かれた状態の幸福に気付かないんだ!お前は恵まれている!何年も親友やってる俺が保証する!」
「お…おう…そうか…」
「よし…じゃあ、そろそろどこかで休もうぜ。もうそろそろ腕が限界だ。」
腕がプルプルしてきた。さすがに買い過ぎたかも。
ストレスが溜まると衝動買いしたくなるのって何でだろうな…
でも後悔はしてない!だって限定品が手に入ったから!
「そんなに買うからだろ……じゃ、約束通り奢れよな。」
「………」
まずい…
そういえばそう言うことになってたんだった。
すっかり忘れてた。
達也に気付かれないように後ろを向きすっかり軽くなった財布の中を見る。
全財産は二千二十三円。
今持っている商品の値段を引いて、その上帰りの電車賃のことを考えると使えるお金は……
「朝陽?」
こうなったら…
今までの経験からこの状況で達也に許してもらうための方法はただ一つ。
「ごめんなさーい!セットを買うお金は残ってないんです!セットは今度奢るから勘弁してください!」
人も結構いたので土下座こそしなかったものの限界まで腰を折って誠意を示す。
顔を上げられない。もしかしたら顔を上げた先には鬼の形相がなんてことが……
「はあ…」
なかった。
顔を上げた先には呆れ顔で溜息をつく達也。
「お前の買う量見てたらだいたいこうなるだろうなって予想はついてたよ。いいよ。別に今日じゃなくても。」
イ…イケメンだ……
俺が女だったら絶対惚れてる。
「まあ…俺は別にいいよ。奢らなくても。でも…」
「でも?」
「そこに隠れてる人はそうはいかないかもな。」
そう言い達也はキャラクターグッズの置いてある棚の端に視線を向ける。
その視線を追ってその場所を見るとビクッと一瞬で誰かが隠れた。
いや…正確には隠れられていない。
確かに体は隠れているがその人物は後ろを向いているのか髪が隠れていない。
やけに見覚えがある長いポニーテールが。
俺は無言でその人物に近づき痛くない程度にそのポニーテールを軽く引っ張る。
「うがっ…!」
ポニーテールの持ち主は変な声を上げて後ろに数歩下がる。そしてその全身を露わにした。
「こんなところで会うなんてすごい偶然ですね、葉音先輩。」
アニメ好きではない先輩がこんなところにいるとは考えにくいので恐らく偶然鉢合わせたということはないのだが……まあ、そういうことにしておく。
「いやー、ホント偶然だねえ。うんうん、偶然。お腹空いたからどこかに行こうと思ってぶらぶらしてたら朝陽くんを見つけてねー、ついて来ちゃったんだよね。」
先輩は腰に手を当て笑う。
「って!先輩!せっかく俺が気を遣ったのに!」
「まあ、いいじゃないか!それより今からどこか休みに行くんでしょ!せっかくだし作戦会議も兼ねて一緒に食べようよ!今日はあたしの奢りだあ!」
「えぇぇ!そんなの悪いですよ!」
「いいって、いいって!ちょうどバイト代も入ったし!」
葉音先輩バイトしてたの!?先輩が働いているところなんて全然想像出来ない。
「…ちなみにどういったバイトを?」
先輩のバイト…この性格なら接客業とかだろうか…
「国家機密に関わることを…」
「えぇぇぇ!」
「…したいと思ったけどさすがに無理だから普通に接客業。」
なんだよ!?びっくりしたじゃん!
一瞬先輩ならこのノリでやってそうだなって思ったよ!
「まあまあ、細かいことはいいじゃん。お腹空いたから行こうよ。そこのキミは…ええっと…」
達也に向き直って葉音先輩は首を捻る。
「ああ、自己紹介がまだでしたね。俺は丹波達也って言います。」
「ああ、丹波くんね。」
葉音先輩は手をポンと打つ。
知ってるのかな?そこそこ達也は有名人だし。
「先輩は達也のことを知ってるんですか?」
「ううん、全然。」
「じゃあ、なんで知っているような反応を!?」
「あはははっ、まあ、いいじゃないか。せっかくだし丹波君も奢ってあげるから行こう!」
そして葉音先輩は出口に向かって歩いて行く。
「なんか悪いな、うちの部長が。」
「いや、いいよ。それにしても…あの人が鈴暮葉音先輩か…」
「なに?達也葉音先輩のこと知ってんの?」
「え…?あの人超有名人じゃん。」
「有名?」
あのテンションの高さ故だろうか?
あんなに普段からテンションが高い人なんていないし。
「あの人入学してからずっと試験の度に学年トップを取る天才じゃん。それに校内だけじゃなくて全国でもトップクラスの成績らしいぜ?」
「はぁ!?トップ!あの人が!?」
「知らなかったのか。まあ、無理ないか。お前クラス交流もあまりしないし、入学してから桜ヶ岡先輩しか見てないし。」
「なんでお前がそんなことを知っている!?」
桜ヶ岡先輩のことは言ってないはずなのに!
「お前が入学式の日に桜ヶ岡先輩に一目ぼれしたことを知ってるからな。じゃあ、鈴暮先輩待たせてるし先に行くわ。」
「あ、おい!」
店を出ていく達也を追いかけようとしてまだ手に購入していない商品を持ったままでいることに気付き慌ててレジに持っていく。
葉音先輩…俺が知らないだけであの人は本当はすごい人らしい。




