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3分の一の報酬

魔物を倒し終えた俺は安堵していた。

勝てないとは思っていなかったが、女王に対して攻撃が通らなかった時は一瞬だけでもヒヤっとしたものが背筋を通った。

無論、全力を込めて殴ればまた違った結果が得られたかも知れないが一つの実験という意味も兼ねて能力(スキル)を使用したのだ。

俺の中身は《大爪狼》の状態になっていると言っても《大爪狼の右腕》使用時の専用能力(スキル)、《切り裂きジャックジャック・ザ・リッパー》が《擬態(ミメティック)》での偽装をしている今、使用出来るのかどうか使った事が無いため、確証がなかった。

その為の実験だったのだが、能力(スキル)はすんなりと発動し、《擬態(ミメティック)》使用下でも専用能力(スキル)が使えると解ったため、一層の有用性が実証されたのだった。


本当、想像以上に使い勝手のいい能力(スキル)だよな。もしこれが無かったら一々狼の姿になって戦うハメになる。そうなったら今後大きい街や国で活動する事になった時、相当困難になっていたんじゃないだろうか。


コロニーから出た俺とラフィアは三人の待つ洞窟へと向かった。勿論魔物の死骸はバラして回収して持っている。持っていると言っても例によってボロ袋(無限の胃袋)に突っ込んでいるだけだから重さなどは微塵も感じ無いが。


先導するラフィアはボーッとしていて、時折木にぶつかりそうになってハッとするといった事を繰り返している。やっぱり刺激が強過ぎたのだろうか。しかし俺の心配をよそに、目的地へは近づいているみたいだ。メイや他の二人の匂いがもう強い。こいつは大丈夫なんだろうかと思っている間に目的の洞窟へと辿り着いた。


「ヴィヴィさまっ!!ご無事でなによりです!!!」

「メイも無事みたいだね。魔物は出なかったか?」

「はいっ!なに事もありませんでした!」


俺はメイの後方にいるフルグレインとローデンに向き直った。

「メイの護衛ありがとうございました。」


「いや、オレらはなにもしちゃいないさ。ヴィヴィアンさんも無事でなによりだ。それより、行ってからそれ程時間も経っていないが魔物は何匹ぐらい倒せたんだ?ヴィヴィアンさんの事だから十匹くらいか?」


「フルグレイン。まだ数時間しか経っていませんよ。流石にヴィヴィアン様でも其処までは…それに一人であの魔物を十匹も狩るだなんて《金剛石(ダイヤモンド)》クラスの冒険者でも可能なんですか?そんなこと。」


「モチロン相性にもよるだろうが《金剛石(ダイヤモンド)》クラスなら可能だろ?アイツらこそ魔物以上のバケモノだ。といってもまあ、実際にはお目にかかった事すらねぇけどな。希少性で云うとこの魔物よりもアイツらの方が遥かに希少だ。」


「確かに。本当に存在するんでしょうかね。」

「さぁな〜噂でしか聴かねえからな。」


「…お前ら…覚悟しろよ…」

そんな会話をしている二人に向けたラフィアの呟きは誰にも聴こえることは無かった。


「では報告と、報酬の分配を始めましょうか。」

俺は三人の反応を想像し、少しわくわくしながら切り出した。




□■□■□■□■□■□■□■□■□■□




「あ、ありっ有りぇ…ねえっ!なんだよッ…これはッ…」


「み、見た事がないっ。なんですかこの素材はっ?!!漆黒赫の女王奇蟲?!コロニーの女王まで斃してきたと云うのですかっ!!?」


「いや…有りえねぇ…なんだこの数…殆ど見た事がねぇ素材ばっかだぞ…それがこの数って…有りえねぇ…」


なんだか凄いのだろうけどよく解っていない俺からすると有りえねぇを連呼してしまうほどの事なのかと思ってしまう。

メイも理解していないのだろうけど、周りの反応からか相変わらずキラキラとした瞳で俺を見ている。

ラフィアはと云うと驚愕を通り越して恐慌している二人を見て暗い笑みを浮かべていた。

…なんだかこの反応も以前メイが村長に対して見せたものと似ているな。この二人を見ていると、本当に姉妹なんじゃないかと疑いたくなる。


因みに今回コロニーに入って得た素材がこんな感じだ。


___________________


[漆黒赫の女王奇蟲の外骨格×1]

[漆黒赫の体液・純真×1]

[漆黒赫の体液×1]


[真紅赫の戦闘奇蟲の外骨格×47]

[真紅赫の体液・純真×47]

[真紅赫の体液×34]


[赤赫の奇蟲の外骨格×13]

[赤赫の体液・純真×14]

[赤赫の体液×8]


___________________



とりあえず得た素材だけを見せたらパニック状態になったフルグレインだったが、ハッと我に返って疑問を口にした。

「お、おいっ!ラフィアっ!それでッコロニーの中ではナニがあったんだっ…」

「そうです!この素材を見るだけでも大変な事があったのだと理解出来ますっ!!ラフィア!説明を。」


そうしてラフィアは事のあらましを三人に対して語った。

最後の女王と戦った辺りのくだりなどは、どこの神話のハナシだとツッコミを入れたのだが、然もありなんと三人はラフィアの語りを支持した様だった。


「ヴィヴィアンさん、アンタは…いやアナタは一体何モノなんですか…」

「…最早ヴィヴィアン様が伝説に謳われるドラゴンの化身だったとしても私は驚きません。」


フルグレインとローデンは口々にそんな事を宣った。

…この反応は非常に良くない。俺は早々に煙に巻いてしまう事にした。

「…いえ、本当にただの旅人ですよ。そんなことよりも、先の約束の通り、報酬をお渡ししたいと思います。確かコロニーで獲得した素材の3分の一という事でよろしかったですね?」

そう言った俺に対してフルグレインは先ほどより一層恐慌したように叫んだ。


「いえっ…!!!そんなっ!これ程の魔物の素材なんて貰えねぇっ!!いやっ貰えません!!」

「いや、でも3分の一という契約でしたから。メイもしっかりと護って下さっていた様ですし。」


困ったな。口約束とはいえ契約を一度でも破ると信用問題に関わる。今後なにがあるかもわからないしあまりそんな事はしたくないんだけどな…


「いやいやいやいや!!それでもコレは貰えないですよっ!!おいっ!ローデン!お前もなんとか言ってくれ!!」

「そうです!ヴィヴィアン様!!御気持ちは有難いですが、これ程までの数と質の素材だとは思っておりませんでしたので…それに持てる量にも限界がありますし…」


む…。確かにそうか。俺の持っているボロ袋(無限の胃袋)のようなアイテムがあれば良いが実際はないんだし、三人の持てる量に限りはある。


「そうですか。ではどうしましょう…」

「…ヴィヴィアンお姉さま。俺たちの依頼は[赤赫の体液・純真]を一つ納品する事でした。だから最初に貰った魔物で依頼は充分に達成できます。だからそれ以上は…」


「でもそれだと俺は最初の契約を反故にした事になる。俺の持ってきた素材が予想に反して多かったというのも理解できるけど、持てる範囲の報酬は遠慮せずに受け取って欲しい。それにそうしてもらった方が今後も良好な関係を築けるというものだ。…冒険者であるラフィアならわかるだろ?」


それでも尚葛藤している様子があったが俺の言葉にラフィアは一つ頷いた。

「ヴィヴィアンお姉さま…わかりました。それでは…一人に一つ[赤赫の体液・純真]と[赤赫の奇蟲の外骨格]を貰ってもいいでしょうか。」

「そうですね!それぐらいなら持てますし、私たちの予想していた3分の一程度の報酬に当たるかと思います!」

「そ、そうだな!それがイイ!」

ラフィアの言葉にローデンとフルグレインが同意する。


これぐらいが落とし所か。今後はあんまり調子に乗るなという教訓だな…まあこの世界の人たちとの常識が余りにもかけ離れてる所為でそれも難しいか。結局は同じように失敗するんだろうなあ…俺は自分自身に溜め息を吐きたくなるのを堪えつつ意識を切り替えた。


「わかりました。それでは一人に一つづつお渡しします。但し、素材は[真紅赫の体液・純真][真紅赫の戦闘奇蟲の外骨格]の方です。」


「なっ…そんな上位素材を…」

「ヴィヴィアンお姉さまっ!?」

「いや…それはッ!」


「そちらの意見を呑んだんですからこのくらいは聞いてください。それに、この外骨格が在れば今よりも強い防具にはなるでしょう?」


「まあ、それはそうだけど…な」


そういってなんとか納得させ、報酬の分配は終える事が出来たのだった。

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