修行僧の秘術
昨日は投稿出来ずに申し訳ありませんでした。それに加え、本日も日付け変更ギリギリになってしまいました。
重ねてお詫び申し上げます。
今回のお話はヴィヴィアンとラフィアの視点で交互に話が進みます。
読み辛いかもしれませんが、ご容赦頂けますと幸いです。
それでは以下本編です。
魔物のコロニーに入った俺は一先ず安心していた。
直径十メートルの大穴は垂直に下へと向かって過酷なロッククライミングを強いられるのかと覚悟したが、どうやらそんな事はなく、入り口からは緩やかにカーブを描いて横這いに巣は伸びているらしかった。
「ラフィア、入り口付近に居た魔物は大体倒したみたいだ。これから一番魔物が固まっている気配のする方へ向かう。相当数居るみたいだから気を付けて。」
倒した魔物を解体し終わったラフィアに声を掛ける。
「これほど分岐のある巣の中でもヴィヴィアンお姉さまは道がわかるんですか?」
この魔物の巣は蟻が作るそれとよく似た構造をしているようで、相当入り組んでいる。それでも、俺の有している狼の聴覚、嗅覚を駆使すれば魔物が蠢いている気配を感じる事は容易に出来た。
「あぁ、問題ないよ。このまま真っ直ぐ進んで右の路に入ったら広い空間に出るようだ。その場所に一番魔物が集まってなにかをしている気配がする。」
「凄い…!!そんな事までわかるなんて…お姉さまは見た感じ盗賊の能力を有しているように見えないのにどうやってそんな力を修めたんですかッ!?」
…確かに言われてみれば疑問に思うよな…俺は実はドッペルゲンガーで、倒した狼の能力が使えるのだよはっはっはーなんて絶対に口には出来ない…盗賊とやらの能力が有れば似たことを出来るみたいだけど、ない事はバレているし…どうしようっ!!
数巡悩んだ末俺が考えたのは誤魔化すことだった。
とりあえず大好きだった漫画の知識でもっともらしい事を言っておけば大丈夫かな…修行僧という存在も本物は人間社会で殆ど実在しないらしいし、適当な事を言っても確かめる術はないだろうからな。
「ラフィア、これは修行僧に伝わる秘中の術でな。身体に気を巡らすモノで名を「練」という。それを更に広範囲に拡げ自身の数メルトから数百メルトにまで知覚範囲を伸ばす高等術「円」を使用しているのだよ。現在の俺は木の葉の落ちる枚数まで把握している。」
思わずノリでいらん事まで言った上に口調が変になってしまったがまあいいか。巣の中じゃ落ちるような葉もあるわけ無いし何枚落ちたかなんてバカな事も聞かれることはないだろう。
あぁ、そういえばなかなか仕事をされない先生がようやく出した新刊を楽しみに取って置いたのに現状もう読めないだなんて…こんな事なら買って直ぐに読んでおくんだった…
俺が自責の念に囚われていると相変わらメイと同じ信徒の顔でラフィアは答えた。
「修行僧にはその様な秘技があるんですねッ!!!流石はヴィヴィアンお姉さまっ!お姉さまに比べたらその辺の男なんて一万人束になったって勝てません!」
「…アァ…ソウデスネ…」
ちょっとキツ目の顔はしてるけど、むしろそれがマニア受けしそうな程可愛い子なのに推定レズなんて…非常に勿体ない。
無為な思考に身を委ねて俺は目的の場所へと歩を進めた。
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「ゔぃ、ヴィヴィアンお姉さまっ!これはヤバいッ…ヤバすぎますよっ…に、逃げましょう!!!おれっ俺が盾になりますっ…!!」
ラフィアはひっくり返って音域の狂った声を絞り出して覚悟した。
其処にはラフィアの想像を絶する光景が広がっている。
いくら魔物が固まっているとは言っても精々が五匹程度、多くても十匹までだと考えていた。
それがなんでっ…ラフィアは絶望しか感じられなかった。
一匹でも自分たちのチームでは決して勝てなかったであろう魔物なのに、それよりも更に歪で巨大な魔物が広大な部屋の中にぎちぎちとひしめき合っている。
少なく見積もっても三、四十匹は居るだろう。それら全てが此方を睨み前腕を振りかざして威嚇している。
その最奥に一際異彩を放つ存在が居る。アレこそがこのコロニーの主であり、支配者なのだと考える前に理解させられた。あんなバケモノに勝てる人間が居るものかっ…その魔物はヴィヴィアンの強さを見た後でさえ其れが霞むような威圧を放っていた。
「ラフィア、落ち着いて。ゆっくり俺の背後に下がって。どうやらあの奥のヤツがフルグレインの言っていた女王みたいだね。」
ヴィヴィアンは散歩に行くような気軽さでラフィアに答えた。
あの女王も前衛の魔物たちも今まで倒したヤツらに比べると異様だ。巣の作り方や偵察隊が居ることから可能性としては考えていたが、どうやら蟻と酷似した形態を取っているようだ。さしずめこの前衛は兵隊蟻のような存在なのだろう。体躯はこれまでのヤツらの二倍程度もある。それに体色も真紅からよりトーンの暗いブラッドレッドといった感じだ。兵隊でもそれ程に異様なのに女王に至っては最早別の魔物だと言った方がしっくり来るぐらいだった。体躯の巨大さは比較にならない。軽く兵隊の五倍、道中で倒して来たヤツらからすると十倍以上はあるのだ。
見た目も、蟻で言う所の頭部、有翅体節、腹柄までは同じような造りになっているが腹部が決定的に違う。腹部だけがまるで蠢く百足蟲のように長大で、気持ち悪く蠕動しているのだ。体色も赤と形容しがたい程に赤黒く光っていた。
それでも俺は落ち着いて一歩を踏み出した。ラフィアの声にならない声の残滓を聴きながら。
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それからは何が起こったのか殆ど分からなかった。
ヴィヴィアンお姉さまが近づく度に兇悪な魔物が崩折れて逝く。そんなお姉さまに一斉に群がる魔物。その度にまた逝く。逝く。逝く。
気が付いたらアレだけ居た魔物は女王を残すのみだった。
圧倒的な体格差を以ってお姉さまに襲いかかる女王。それを受け止め、これまで魔物を屠ってきた時と同じように力を込めていないように見える攻撃を放つ。
これまで無数の魔物を一撃の元に葬ったお姉さまの攻撃も、女王には通る事は無かった。その光景に新たな絶望がもたげかけた俺が見たものは美しくも不思議な軌道を描く一閃だった。
その瞬間、何かで切断されたかのように女王の巨大な体躯は真っ二つに裂け、漆黒の体液が飛び散った。
キラキラと光る其れは、まるで夜空を彩る無数の星々の煌めきのようであった。
輝く星が降り注ぐ中、優しげな笑みを湛えゆっくりと歩いてくるお姉さまは物語に出てくる美しくも残酷な天の使いのようだと俺は思った。
「ラフィア、大丈夫?みんなの所に帰ろうか。」
優しげなヴィヴィアンお姉さまの声だけが夢の様に感じている俺の意識にこれが現実なんだと告げていた。




