お姉さま
「え〜と…そんな大層なものじゃないと思います…よ?殴っただけですから…」
俺はフルグレインとローデンの言葉に対する否定を込めてこう答えた。
「いやいやいやいや!!スゲェよ!殴っただけって!」
「そうです!殴っただけであの高レベルな魔物をバラバラにしてしまうなど、それこそ修行僧でなければ為し得ない芸当です。」
俺の否定は全力を以って否定されてしまった。
こうなってしまうと修行僧なる情報も集めておかなければマズいんだろうなー…
内心どうしてこうなったのかと辟易しながらも尋ねる他なかった。
「他には魔物を肉体のみで倒す人間は居ないんですか?俺は遠い地より旅をしてまして、今はこの子の住んでいる小さな村でお世話になっているので大きな街での事は詳しく無いんですよ」
「そうか。それで納得がいったゼ!ヴィヴィアンさんは東方から旅をして来たんだろ?アタリか?」
東方…?なんだったかな…
俺は村長に聞いた世界地図を必死に思い出す。
確かゴブリンやトロルなどの化け物じみた亜人族の国家が乱立しているとか言ってた気がする。
どう関係があるんだろうか。なんにせよ勝手に勘違いしてるんだ。話を合わせておくのが得策だろうか。俺は肯定の意味で首を一つ振った。
「やっぱりそうか!」
「それならば私たちが驚いた理由が理解出来ないのも無理はありませんね。」
なんだろう。ますます以って意味がわからない。
「もう少し詳しく教えて貰えますか?」
「では私が」
大柄だが丁寧な物腰のローデンが説明を始めた。
「東方より来りしヴィヴィアン様ならば亜人族が修行僧という職業を得意としているのを見て来たのでしょう。ですが、我が王国ひいては帝国、神聖皇国などの人間国家では殆ど修行僧という職業は修得困難なのです。理由は簡単です。人間という種族では武器を持たない限り肉体が脆弱過ぎて高レベルの魔物だと素手では全く太刀打ち出来ないからです。ですから人間の中でも肉弾戦を得意としている者は手に拳装甲を着けて攻撃力を増したり、魔法使いと組んで肉体能力向上系魔法を掛けて貰う、または自身に魔法の資質があるのならば自ら魔法でバフを掛けて擬似的に修行僧の様に戦うといった方法になります。その為に本当の肉体と技術のみで戦う修行僧という職業は伝説の中にしか存在しないものだと思っておりましたが…まさかこの目で見る日が来ようとは。」
「うんうん!」
ローデンの言葉にフルグレインも大きく同意している。
あぁ〜…やってしまったな。つまりは身体能力の高いオークやトロルといった亜人族ならばそういう戦い方も出来るが、人間では基礎能力の差で殆ど実現不可能な職業だったというわけか…
…こうなったら苦しい言い訳をするしかないか。なんで毎回毎回こうも裏目に出るんだ…俺はため息をグッと堪え、半ば投げやりに答えた。
「そうなんですね。それは勉強になりました。どうやら俺は生まれつき身体能力が高かったみたいなんですよ。ですからこういった戦い方が自然と身に付いてしまって。」
自分でもなにを言っているんだろうと思いながら言い訳をする俺の横で、今まで大人しく話を聴いていたメイが「ヴィヴィさまは修行僧だったのですねッ!!」と目をキラキラさせているがとりあえず無視した。
ちげぇよ…咄嗟に思い付いた事を喋ったら修行僧になってたんだよ…なんて俺の心の声は当然四人には届かなかった。
俺の言葉にフルグレインとローデンがなにやら興奮気味に喋っているが、よく聴こえない。が、フルグレインの方はスゲェスゲェと連呼しているだけなので放っておいても問題ないだろう。
そういえばと最初に走って来たうるさい、もとい元気な女の方を見るが、魔物を倒してからやけに静かだ。そんなにショックを受けたのだろうか。
俺は一応心配になって声を掛けた。
「…ラフィアさん…でしたか?体調が悪いようなら薬草やポーションがありますけど使いますか?」
俺に呼ばれたラフィアはビクッと一度身体を強張らせ、そのあとわなわなと震え始めた。
そこで事態の異常に気付いたフルグレインとローデンが方やノーテンキに、方や心配そうに声を掛けた。
「オイ、なに大人しくしてんだ?ラフィアらしくもねぇ」
ケタケタと笑いながらフルグレインが。
「ラフィア、大丈夫ですか?確かに危うかったですが、ヴィヴィアン様のお陰もあって今はこうして三人無事なんです。一旦忘れましょう?」
ラフィアを覗きこむようにローデンが言った。
「……が…ん…でき…ぇ……」
「「「…?」」」
「あぁーーーーー!!!!!もう我慢出来ねぇッ!!!!!!!」
突然ラフィアは伏せていた頭を起こし叫び出した。
その身体は未だプルプルと震え、顔が真っ赤に紅潮している。
その場に居た誰もが(特にフルグレインとローデンだが)焦り、慌ててラフィアを止めようとした。
「オイッ!!待て待て待て!落ち着けラフィアッ!!」
「そうですよっ!ヴィヴィアン様は私達を助けてくれたんですよ!!感謝こそすれ、怒るのは筋違いです!」
二人が止めているにも関わらず、なお俺の方を紅潮した顔で睨み続けるラフィア。
流石にメイも不機嫌そうな顔でラフィアを睨んでいる。まだ吠える気なら次は私の番だとその顔が言っていた。
一体俺が何をしたと言うんだ…
俺がそう思った直後、一触即発の空気の中ラフィアが口を開いた。
「……ヴィヴィアンッ!!!…さま!…あっ…あのッ!!…お、お姉さまと呼んでも…いい…だろうか…?いえっ…いい…でしょう…か?」
「「「………はい?」」」
俺たちの気持ちは一致した。
「あのッ!だからッ!!…ヴィヴィアンお姉さまと…呼んでもいいでしょうか?……くぅっ!!!」
上目遣いで懇願するように告げたラフィアのその顔は先ほどの魔物の外骨格よりも赤いのではないかと思えた。
あれ?こいつから赤の染料を採ればいいんじゃないか?そんな考えがよぎった俺の脳は一瞬にして正常な思考を放棄していたようだった。余程熱暴走に弱いCPUを積んでるらしいな。そんな俺を尻目に部外者は一足早く状況を理解した。
「あっはっはっはッ!!あのガサツなラフィアがなぁッ!くっくく…」
「本当にッ…!ふふふ。ラフィアが人に気を遣って喋っている所なんて初めて見ました。組合長に呼ばれた時でさえ普段の喋り方でしたから。」
「なっ…お前らッ!!俺を舐めてんのかコラッ…!」
「そんな顔を真っ赤にしながら凄んでも恐くねぇゾ?ラフィアちゃん…くくッ」
「フルグレイン、悠長に構えやがって…お前は後で俺の刺突剣で万回突き殺してやる…」
「おぉ〜コエーコエー……ッ!!ちょっ!オマエ今ガチでアタマ狙っただろうがッ!冗談だよッ!!うわっヤメ…」
「駄目ですッ!!ヴィヴィさまはメイのお姉ちゃんなんです!!何処の馬の骨かもわからない人にはあげられませんッ!!!」
「なにッ!じゃあヴィヴィアンお姉さまの妹であるメイは俺の妹だな!」
「…なんでそうなるんですか!?違いますよ!!」
俺の混乱より早く立ち直り、ぎゃーぎゃーと騒ぎだした周りの言葉によって俺の意識は引き戻された。
なにがどうなっている?言いたい事は山のようにある筈だが、取り敢えず疲れ果てた俺は此れだけは言わねばと一言だけ叫んだ。
「俺はッ…!!!漢だぁーーーーーーーーーー!!!!!!!」




