蛾の繭
次回更新9月2日とお知らせしておりましたが、昨日「小説家になろう」サイトに回線混雑の為ログインする事が出来ず、本日の更新となってしまいました。
お待ち頂いていた方にはすみませんでした。
では、以下本編です。
翌日、目の覚めた俺はメイを起こさないようにベッドを抜け出し、台所へ向かった。
朝だし、簡単にサンドイッチでも作るか。
パンが硬いので、苦肉の策だが水でふやかし、竃で温め直す。その間に芋を茹で、干し魚を水で戻したもの(昨夜のガスパチョもどきを作る際に余分に漬けておいた)を細かくほぐし、茹でた芋と潰しながら混ぜ合わせる。そこに香草、オリーブオイルもどき、少量の塩、臓物の小瓶で味付けしたら温めたパンに挟んでマッシュポテトサンドの出来上がりだ。
うーん。こんなファンタジーな台所でサンドイッチなんて作ってるとまるでジ◯リ映画みたいだ。それだけで美味そうに見える。
本当ならトーストと目玉焼きだけでもいいんだが、肝心の卵が無い。
そのうち養鶏もしたいなぁ〜なんて考えていると、パンを焼く匂いにつられたのかメイが起きてきた。
「…ヴィヴィさま、おはようございます。なんだかいい匂いがしますー…」
「おはよう。メイ。ちょうど朝ごはんが出来たとこだ。食べたら村長の家に行こう。」
そういって俺はメイと一緒にご飯を食べた。
サンドイッチは美味しかったが、やはり味の決め手が臓物の小瓶だけだと、違う料理でも味が似通って来る。魚の風味と醤油のような発酵の風味で、日本人の俺としては魚醤があっただけでも有難いんだが、それでも保って三日だ。もう少し味付けにバリエーションが欲しい所だな。…あぁ…そろそろ純和食が食いたい…というか米が食いたい…この辺りでは麦が栽培されているのだから、日本のように肥沃で湿度の高い地域に行けば稲作をしている可能性だってある筈だ。今はその可能性を生きがいに頑張ろう。
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メイと揃って村長の家に来た俺たちは相変わらずの村長に出迎えられた。
相変わらずというのは俺を御本尊かなにかの様に拝む事だ。この村の人間は変な方向に信心深いんだろうか。
悪い新興宗教にでもハマらなければいいが。そうだな…例えばヴィヴィアン教とか。信徒は一人で手一杯だ。
「おはようございます。村長。昨日フランネルさんに聞いた虫の魔物を採りに行こうかと考えていますので、長ければ数日村を離れる事になるかと思います。その報告に来ました。」
「おぉ…そうでしたか。ヴィヴィアン様ならば問題ないかと思いますが、相手は相当に強い魔物だと聞き及びます。どうぞお気を付けて行ってらっしゃいませ。」
「それで…相談があるのですが、メイを…村長の家で数日預かって貰えないでしょうか?」
「なっ…ヴィヴィさま!メイは聞いておりませんっ!!」
うん。そうだろうね。言ってないから。
「うちは全く構いませんが…」
そう言いながらメイを見る村長。
「村長までっ!!何を言っているんですか!メイはどこまでもヴィヴィさまに付いて行きます!」
メイがそう言い出すのがわかったていたから俺は村長の家に来てから言ったのだ。
「でもね、メイ。フランネルさんも村長もその虫の魔物はとても強いって言っているんだ。だから数日とは言っても、とても危険な旅になる。」
「それでもっ!メイは付いて行きます!ヴィヴィさまにお邪魔だと言われても、仮に命を落とそうと後悔はいたしません!メイの知らないうちにヴィヴィさまに何かあったとしたらと思う方が余程後悔します!あの時ヴィヴィさまは仰って下さいました。目的が見つかれば何か出来るようになると。メイがなにか出来るようになるとしたら、それはヴィヴィさまと一緒に居られるからです。ヴィヴィさまがメイに無断で行かれるのならば、メイもヴィヴィさまの後を追って行きます。」
…ここまで言う以上はなにを言っても無駄だろう。こうなる事は予想してたけど、俺は実際のメイの気持ちと覚悟が知りたかったからこんな事を言ったのだ。というのも、この二日間少しメイを振り回し過ぎたと思った俺はメイの意思で俺といるのか少し心配になったのだ。
「わかった。メイがそこまで言うのなら俺はなにも言わないよ。俺もそんなことにならない様に絶対にメイを護ってみせるからね。ただ、本当に危ないと判断した時には逃げろって言うから俺の判断には従うこと。これは絶対だ。いいね?」
「…はいっ!わかりました!!」
「そういう事ですので、村長、メイも連れて行こうと思います。因みにドワーフ王国国境付近の西の森とはここからどの程度で着きますか?」
「そうですな…ここからですと三日か四日程で着くかと思いますじゃ。」
「それは徒歩でですか?」
「はい。そうなります。」
ならば俺の狼の足で一日あれば余裕だろうな。三日もすれば帰って来れそうだ。
「では、俺には魔法がありますので、往復三日か四日もあれば帰って来れるかと思います。その間よろしくお願いします。」
「おぉ。流石ヴィヴィアン様ですな。わかりました。お任せ下さい。」
とりあえず魔法でなんとかなるという事で誤魔化せたみたいだ。俺はその事に安堵しながら、村長の家を出た。
しかし、この後すぐに村長の家へと戻って来る事になるとは、この時は露ほども思っていなかった。
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一度家へと戻ってきた俺は、メイと一緒に旅に出る準備を始めた。準備と言っても、食料品と鍋を俺のボロ袋に突っ込むだけだが。
元々、回復ポーションはあるし、食料もあるので問題は無いだろうけど、携帯食料だけでは味気ないので一応だ。
さて、準備も終えたし行くか。俺はメイに声をかける。
「じゃあ行こうか。忘れ物は無い?」
「はいっ!大丈夫です!」
こうして俺とメイは村を出た。
目的地へは、俺が狼になってメイを乗せて走るつもりだが、流石に村の中で狼に変身する訳にはいかないので、オニバカエデの大樹まではメイと連れ立って歩いて行くことにした。
大樹の根元についた俺は直ぐに辺りを確認してから狼へと変身した。
流石にメイももう恐怖には慣れたようで、ただ凄いものを見るような目つきで、興味深げに見つめていた。
そんなメイに近づき、俺は腹ばいでしゃがんでやる。
少々乗りづらそうだ。そのうち鞍でも付けてやるか。と思ったがお馬さんごっこをさせられているような気恥ずかしさが込み上げてくる。しかし、実際に見た目は狼なのだ。長時間乗るのなら鞍は無いと今後しんどいだろう。己の羞恥を我慢する方向で俺はなんとか意思を固めた。
「メイ。乗れたか?」
「はいっ!ヴィヴィさま!大丈夫です。乗りました。」
「よし、じゃあ行くからしっかり掴まっててね。」
そういった俺は静止状態から猛スピードで駆け出していた。
オニバカエデの大樹から五分くらい走っただろうか。
木の陰にポツポツと白い塊が見え始めてきた。俺は気になりながらも走っていると、急に上に乗っているメイから叫び声が聞こえた。
「…大変っ!!ヴィヴィさまっ!止まって下さい!!」
急停止も出来るが、いきなりこのスピードで止まるとメイが飛んで行ってしまいそうなので、ゆっくりと速度を落として停止した。
「どうした?メイ?もしかしてあの白いの?」
「はい!そうです。もうそんな時期だったんだ…」
なにか周期的なものなのだろうか。
「あれはなんなんだ?」
「あの白いものは繭です。」
「繭って蛾の繭か?」
それにしちゃでかいな。まあここで見たものは何でもでかかったから今更だが。
「はい。幻惑の蛾という蛾の魔物で、月に一度程度の周期で繁殖するんです。直接的に人間を襲うという事はしないんですが、名前の通り幻覚作用のある鱗粉を撒き散らして酩酊感や幸福感を感じる状態にさせます。その鱗粉には酷く中毒性がありますので一度その状態になると、自力での回復は困難なんです。仮にその状態で一人になってしまうと、さらなる鱗粉を求めて幻惑の蛾の元へとついて行ってしまいます。そうして獲物をおびき寄せて卵を産みつけるんです。そうなった獲物は幼虫に食べられながも多幸感を感じて死んでいくと言います。」
「……直接的に襲う事は無いって言ったけど、かなりヤバいやつみたいだね…」
そんな食い殺され方をするぐらいならまだ狼の方が可愛げがあるんじゃ無いだろうか。いや、まあ、どうせ死ぬなら痛みも感じず多幸感に浸って死ねる方が幸せなのか…?まあ、少なくとも俺はどっちも御免だな。
「はい。だから村の近くで繭が出来た場合は繭の内に村人総出で刈り取ってしまうんです。この魔物は繁殖力も凄いので、放っておくとそれこそ村が無くなってしまう事態もありえますから。…魔狼に村が襲われたせいですっかり繭の刈り取りを忘れてしまっていました。」
「…すみませんがヴィヴィさま、そういう訳ですので、一度村の方へ戻って頂いてもよろしいですか…?折角ここまで来ましたのに…」
なんだろう。なにか引っかかる気がするな…
もやもやするが何かわからない。とりあえずメイに答える事にする。
「うん。それは全然構わないよ。寧ろ放って行く方が問題だからね。俺たちが帰って来た時に村がありませんでしたじゃあ笑えない。」
「では一度戻って村長に伝えましょう。伝えてさえおけば私たちはそのまま、また旅に戻れば問題ありませんから」
「ん?俺たちは手伝わなくても大丈夫なの?」
「はい。繭の時でしたら回収して処分するだけですし、ずっとやってきた作業ですので問題はないです。」
「そっか。じゃあそっちは村の人たちに任せておけば良さそうだね。だったらせめてこの辺にある繭だけでも回収して村に帰ろうか」
そう言って見える範囲にある繭を回収する。
ボロ袋に入れていければ一番いいのだが生物は入れられないので、中から布を取り出して繭を纏めて縛っておいた。繭は鋼鉄の様に固く、ビクともしないので、乱雑に詰めても潰れたりぐちゃぐちゃになったりする事も無かった。一つが三十センチメートル(この世界では三十セムメルトか)程度でかなりでかい。一つの布に十個程度で、もうぱんぱんだった。それを二つ作り、俺の背に括り付ける。さながら砂漠を征くラクダみたいな感じだ。
準備が終わり、俺たちはまた来た道を戻って村へと帰った。もちろんオニバカエデの大樹で人間の姿に戻って荷物は手で持ったが、繭は鋼鉄の様に硬い癖にとても軽かったので、嵩張るだけでそれ程苦労はしなかった。
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着いた村長の家でどうしたのかと問われた俺たちは事のあらましを説明した。
「なんと、もうそんな時期だったか…それはわざわざすみませんです…せっかくヴィヴィアン様が旅立たれたのに御手を煩わせてしまいました。」
「いえ、それは気にしないで下さい。それよりも手遅れにならずに済んで良かった。」
「ほんとうに。なんと御礼を申し上げてよいか…ありがとうございます。」
「それならばメイに言ってあげて下さい。気付いたのはこの子ですから。」
「そうじゃったか。メイジー。良く気付いてくれたな。感謝するぞ。」
「いえ!わたしは別になにも…」
「では今度こそ俺たちは村を出発しようかと思います。繭の件はお任せする事になって申し訳ないですが。」
「そんな。滅相もありません。ヴィヴィアン様がお気にされる事はありませんので。どうぞ儂等にお任せくだされ。」
「そうですか。あ!それと、これは単なる好奇心なんですが、あれ程硬い繭をどの様に処分するんですか?」
「あぁ、それでしたら問題ありません。あれ程硬い繭でも茹でてしまえば柔らかくなりますし、中の魔物も殺せるのです。その後は村の外れで埋めてしまいます。燃やそうとした事がありましたが、火には滅法強くて燃えないのですよ。」
「そうなんですか。勉強になりました。ありがとうございま…す…」
………!
わかった。さっきのなにか引っかかるようなもやもや感が。そうか。それなら全て上手くいくかもしれない!!
「村長、その繭ですが、茹でた後捨てずに全て保管しておいて貰えますか?」
「?保管…ですか。問題はありませんが…」
「ではお願いします。理由はまた俺が帰ってから詳しくお話ししますので。」
「わかりました。では茹でて殺した後は保管しておく事に致します。」
「ありがとうございます。では出来るだけ多くの繭を傷つけない様に丁寧にお願いします。」
「はい。ヴィヴィアン様がそう仰るのでしたらその通りに致します。」
「よろしくお願いします。じゃあメイ、俺たちは向かおうか。」
「はい!わかりました。参りましょうヴィヴィさま!」
こうして改めて俺とメイは村を出発したのだった。
以下後書きです。
今更ではありますが、作中に登場します、スキル名、モンスター名などは英単語での読みが頻繁に出てきますが、音の響きや語呂を重要視しておりますので、英語としては間違ったものが殆どだと思われます。
因みに今回出てきましたドラッグスケールスですが、鱗粉という意味でスケールスという読みを用いました。
カタカナ表記ですので、どうしても齟齬や語弊が出てくるかとは思いますが、そちらの方もご理解頂けますと幸いです。
長々と駄文を失礼しました。改めて此処まで読んで頂きましてありがとうございました。




