表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/25

臓物の小瓶

お詫びとお知らせ


8月31日、9月1日は私用で外出しており、更新する事が出来ませんので、次回更新は9月2日となります。

読んで下さっている方はすみませんがよろしくお願い致します。


それでは以下本編です。

ブランシェット家へと帰った俺とメイは、二人揃って台所で料理を作っていた。


フラノ・フランネルの家で彼女の作った生地を見せて貰ったあと、村長に晩も是非我が家でと言われたが、丁重にお断りしたら、それならばとパンや食材なんかをくれたのだ。

メイの家も一昨日まで家族三人で暮らしていただけあって食材はあった。野菜や干し肉、干し魚などだ。この村では作った食材を持ち寄って分配するようなので、どの家庭でも置いてあるものは殆ど変わら無いそうだが。

そのため、村長から貰った食材も殆どは重複している。ちょうどパンだけは切らしていたようだったので、結果的には有り難かった。

しかし、いかんせん調味料が足りない。スパイス系が無いのはまだ我慢出来るが、塩は本当に少量しか無く、胡椒に至っては現物が村には無いのだという。味の決め手となる塩胡椒が無いというのはかなりキツい。

替わりに森で採ったり、畑の隅で育てた香草類は数種類あり、油もオリーブとグレープシードを混ぜた様な香りの物があった。あと、何やら焼き物の瓶に入った調味料があるがこれはなんだろうか。気になるので尋ねてみる。


「メイ、この瓶は何が入ってる?」

「あ、これはですね、"臓物の小瓶"です!」


……

…なんの小瓶だって?臓物?ということは生ゴミか…そんなもんを調味料と同じ場所に並べるなよ…

そんな事を考えつつも一応聞いておく。


「えと…じゃあこれはゴミを溜めてる瓶という事でいいのかな…?」

「あ、いえ!違いますよ。ちゃんとした調味料です。ヴィヴィさまはご存知無いのですよね。中身はそのままなんですけど、魚の内臓を発酵させて上澄みを濾した調味料です。とてもおいしいくて、とても貴重なものなんですよ!」


あぁ、なるほど。つまりは魚醤(ガルム)の様なものか。納得したけど、そのネーミングセンスはどうかと思うぞ。

でも塩が少ない理由もなんとなく分かったな。多分この調味料を作る際に村にある塩の殆どを消費するのだろう。川魚を干して保存食にする際に出る内臓類の有効活用か。お金も無く、資源も少ない村ではどんなものだって無駄には出来ないのだろう。

…あ、それで日中村を歩いていた時に一ヶ所異様な臭いがしてたのか。惨殺現場の残り香かと思って顔を顰めて通ったけど、あの場所は魚醤(ガルム)の生産所だったわけだ。


一人納得した俺はテキパキと料理に戻った。

因みにメイは素晴らしい手際で竃に火を起こしていた。

俺のボロ袋(無限の胃袋)の中にある[恒久の松明]でそのまま火を点けることも出来たが、あまりの手際の良さに声を掛け損ねたのだ。


そんな俺とメイの座った目の前のテーブルにはスープが一つずつ置いてある。パンすらない。

そうだ、今朝村長の家であれ程スープしか作れないだなんて言わせないと思っていた癖に、俺の作った料理はスープだけなのだ。だが言い訳を聴いて欲しい。このパンが全ての元凶だ。ガッチガチに俺の咀嚼を阻んでくるこのパンが!こいつを胃袋に収めようと思ったら何か汁に浸して食うしかない。その為に俺は泣く泣く忌み嫌っていたスープを作る事にしたのだ。…ご理解頂けたようでなにより。

ただ、味と量には自信がある。なんといっても男の料理だからな。


という訳で俺はメイに食べるよう勧めた。

メイはゆっくりと口元へと木で出来たスプーンを近づけていく。

やっぱり初めて食べる料理は怖いのだろう。恐る恐る口を開け……てないな…この表情はどう見ても恐る恐るには見えない…。その目は恍惚としていて肌は紅潮している。手に持つスプーンもぷるぷる震え、口はあわあわと痙攣してなにか呟いている様に見える…。


「…ヴィヴィさまの手料理…あぁ…そんなッ…そんなものを戴いてしまってもよいのでしょうかッ…メイは…メイはッ…あぁ」

「…メイ…冷めないうちにお食べ…」

俺はそれぐらいしか言えなかった。


「はっ…そうですね!ではヴィヴィさま…いただきます…」

パクッと一口食べたメイは驚愕していた。

「おいしい…!ヴィヴィさますっごくおいしいですッ!!」

そのままパクパクと食べ続けたメイは一息に食べきってしまった。


良かった。どうやら口に合ったみたいだ。俺は一先ずホッとした。やっぱり初めての人に食べてもらうのは緊張するからな。まあ、村長の家の料理でも、パクパク食べていたメイならなんでも食べられそうな気はするが…俺はひとり苦笑した。

「まだまだあるから入れてこようか?」

「はいっ!ありがとうございます!」

「それにしてもスープにパンが入っているなんてびっくりしました!入れたとしてもミルクと一緒に煮るお粥くらいだったので」

「そっか。喜んで貰えたのなら良かったよ。」


そう。俺は細かくしたパンをスープと一緒に煮てガスパチョもどきを作っていた。まあ、ガスパチョと言っても冷やしてないからメイの言ったパン粥の方が近いかもしれないけど。

先ず細かく切った根菜類を炒めて干し魚をほぐしたものと一緒に煮る。その時に香草を入れる。そこにパンを加えてしばらく煮た後、味付けに少量の塩、臓物の小瓶(ガルムもどき)を加え、最後に香油をうえから掛ける。

シンプルだがまあ、素材の味がしてそこそこは美味しかった。それでもやはり調味料はもっと充実させていきたいと思う。

干し肉や干し魚にしても単に保存食として乾燥させただけだから味がついていない。今後作る時はビーフジャーキーのような物が作れると更にいいんだけどな。この辺りも要改善だな。そういえばタイムスリップものの料理漫画でビーフジャーキー(牛ではなかったが)を農民に教える料理人が居たな。恐怖の第六天魔王に仕える料理人の話。

当時は普通に読んでいたけど、なんとも親近感が湧く話だ。あとこれは余談だが、俺は独り暮らしだった為、料理漫画のレシピを実際に再現する事を趣味としていた。そんな俺の究極にして至高の目標は万里の長城で傾斜と太陽熱を利用したチャーハンを作る事と、空を飛ぶ彗星炒飯(コメットチャーハン)を作る事だった。まあ、何を言っているのかわからないだろうが、その野望をもう叶えられないかと思うと寂寞の想いが込み上げてくる。


そんな一味違った望郷の念に駆られていると、四杯目を食べ終わったメイがようやく一息ついた。

「おいしかった?」


「はいっ!すっごくおいしかったです!ヴィヴィさまはお料理もお上手なんですね!」


「ありがとう。どうやら記憶が無くなる前は一人で暮らしていたみたいだからね。それじゃあメイ、少し聞きたい事があるんだけどいいかな?」

そういう事にしておき、俺は早々に本題へと話を変えた。


「なんでも聞いて下さい!今日は村長に全て取られてしまいましたから…これからはメイがなんでも教えて差し上げますっ!」

余程村長とのやり取りを根に持ってるみたいだな。

勿論スルーしますが。

「ありがとう、メイ。じゃあ先ず聞きたいんだけど、"ステータス"って聞いた事あるかな?」


そう。俺の聞きたかった事とはステータス画面の事だ。これはこの地に於いては一般的なものなのだろうか?

もっと言えば、メイにもレベルや強さなどのステータスがあるのだろうかと俺は疑問に思った。

ただ村長に聞かなかったのは、それをいきなり村長に尋ねてあらぬ誤解を招きたくないと思ったからだ。例えばステータスの存在はあっても魔物のみに存在するというような場合だと「俺にはステータスがあって〜」などと言った瞬間、自ら墓穴を掘る事になる。その点メイは俺の事を知っている唯一の人物なので安心だからだ。


「…ステータス…ですか?すみません…聞いた事がありません…メイは…メイは役立たずです…」

俺になんでも教えてあげると意気込んで言ったメイは出鼻から消沈した。

「…すみません、どういったものかもう少し詳しく教えて頂けますか?」

流石にこのままメイに見切りを付けて村長に話を持って行くと後が怖いので(メイに暗殺されかねないと言う意味で。勿論村長が、だ)、もう少し噛み砕いて聞いてみる事にする。

「そうだね…強さって言ったらいいかな?自分が今どのくらいの強さで、何が出来るのか、具体的な数値としてみる事の出来る窓のようなものかな…?」

俺も言ってて説明出来ているのか不安になるが、メイはどうやら全くわからないわけでは無いようだ。

「どこかで…聞いた事がある気がします。えーと…多分ヴィヴィさまが仰っているのは"天命"の事ではないでしょうか?」

「天命…?」

聞きなれない言葉だ。いや意味はわかるがそれがステータスなのだろうか?

「はい。天命とはそのままの意味で、天の意思を伝えられた者だと言います。神聖皇国では、天とは即ち三柱神(トライデント)の事だとされ、神の意思を聴ける者とされているそうです。」

「うん。まだ良くわからないな。それが自分の強さがわかるという事なの?」

「そうです。自分の強さや出来る事がハッキリとわかるからこそ、それは天の意思であり、天が用意した自分の道であるという事だそうです。」

「じゃあ、その天命はメイには見える?」

「いえ!そんな…滅相もありません!そんな事が出来るのは天の意思を伝えられたごく選ばれた人間だけです。わたしなんかではとても…」


そうか。メイの話からでは確信は出来ないが、どうやら天命というものが俺の言うステータスのようだ。

しかもこの世界ではその天命を確認出来る者はごく限られているという。ただ、天命の説明を聞く限りでは自分の天命を見る事が出来る人間が少ないだけで、天命自体は各々存在するのだろう。


「じゃあどんな人が天命を識る事が出来るのかわかる?」

「えと…詳しい事はよくわかりません。少なくともこの村には天命を識る者は居ない筈です。ただ、魔法を使える人はみんな天命が見えるそうです。」


魔法が使える。か…何が条件なんだろうか?単純にステータス画面を開く魔法でもあるのだろうか。でもそれだと魔法使い以外の天命を識る事の出来る存在がいた場合、良くわからないことになるな。まあ、単純に才能だとかいう可能性もあるにはあるのか。それか本当に神からの意思なのだろうか。魔物がいて亜人もいる世界だと神様が居ても特には驚かないな。いや、まあ俺の前にいきなりでてきたらそりゃ驚くが。

とりあえずステータスの事は一旦保留だ。それらしい情報を得ただけでも充分だ。


「そうか、ありがとうメイ。勉強になったよ。じゃあ次の質問。…魔族(・・)って…知ってる?」

「魔族…ですか。いいえ…聞いた事はないです。すみません。」

「この世界には魔物がいるよね?魔族って種類は居ないの?」

「……いえ、やっぱり聞いたことがありません。この世界にいる種は人間種、亜人種、獣人種、魔物と、その他の動物の五種類だけです。あとは神聖皇国の三柱神(トライデント)という神さまや、物語に登場する神様、ドラゴン、伝説の魔物などは居ますが、お話ですし、その存在を確認した人はいないので…」


うーん。これに関しては手掛かりすら無しか。

まあ、知らないという情報だって立派な情報だ。そこから得られるものもある。今後は不用意に魔族という言葉も出さない方がいいという事を学べただけでいいだろう。


でだ。なんで俺がこんな話をメイに聞いたかと言うと、昨晩メイをベッドに寝かせた後だ。

自分の情報を理解する為にステータス画面を開いた俺は2ページ目がある事に気が付いたのだ。なんで気が付いたかと言うと、1ページ目にはレベルやステータス、耐性は載っていたが、能力(スキル)情報が無かったからだ。どうやって確認するのか調べていた俺は、俺の種族名である[ハイ・ドッペルゲンガー]という文字を三秒程眺めていた。するとステータス画面が2ページ目に切り替わったのだ。それが以下のページである。


___________________


[種族:ハイ・ドッペルゲンガー]


[魔族:魔力元素率100%]

___________________

種族能力(トライブスキル)

___________________


擬態(ミメティック)


部分変身(コピー)

大爪狼の右腕リッパーウルブズアーム


変身(メタモルフォーゼ)

大爪狼(リッパーウルフ)


___________________

専用能力(スキル)

___________________


切り裂きジャックジャック・ザ・リッパー

(条件付き)

___________________


首尾よく能力(スキル)が載ったページを見つけたまではいいが、また新しい情報をその中に見つけたのだ。


それが[魔族]であり、[魔力元素率100%]という表記だった。


俺の予想では(予想などと言えるものでも無いが)魔族という種がこの世界には普通に存在しているのだろうと当たりを付けていたんだが、どうやらそうでは無いようだ。

まあ、この周辺は人間国家が多いようだからメイの知ら無い辺境に住んでいる可能性もある。

じゃあ次の魔力元素とはなんだろうか。これも一応聞いてみることにする。


「じゃあメイ。これが最後の質問なんだけど、魔力元素っていう言葉は聞いたことある?」

「そんなっ!ヴィヴィさま!これで最後だなんて仰らないでください!!」


……

どうも迂闊にメイと喋れなくなってきたな。

ただ、いちいち反応もフォローも入れられない。今後は凡てスルーする事にしよう。俺はこれからの方向性を強く決意した。


「えっと…聞いた事ある?」

「あぁ…ヴィヴィさま酷いです!メイの訴えを聞いてくださらないなんて…」

「……」

「…………すみませんヴィヴィさま…魔力元素という言葉は聞いた事がありません…うぅ…これでヴィヴィさまとの会話が終わってしまうのですね…」


そうか。知らないか。ただ、これはなんとなく知らないだろうなと思っていたからそれ程気落ちはしていない。

今後どこかで天命を見る事が出来る人間を見つけて聞けばいい。


「質問が最後だっただけさ。ありがとうメイ。今日は勉強になったよ。」

「いえっ!…そんな…ありがとうだなんて…メイにできる事ならなんでも仰ってください!精一杯頑張りますから!」

「うん。じゃあ明日はフランネルさんの言っていた虫の魔物を採りに行くから今日はもう寝ようか。」

「はいっ!」

「……それで…あの…」

「うん?どうした?」

「あの…今日も一緒に寝て頂けない…でしょうか?」

「……」

あー…そういえばそうだった。昨日は一緒に寝たんだったな。ただ、昨夜はベッドに寝かしたメイが俺の服を握って離さなかったのだ。だから仕方なく一緒にベッドに入った俺は頃合いを見て出るつもりが、ステータス画面を見ている時に疲れのせいか寝落ちしてしまっていた。

「だめ…でしょうか…?」

「…」

メイの家のベッドは広い。もしかしたらいつも母親や父親と寝ていたのかもしれない。そんな子が両親を魔物に殺されてからまだ二日すら経っていないのだ。

だから昨日だって俺の服を握って離さなかったのでは無いだろうか。メイはとても元気に明るく振舞ってはいるが、表面的な事しか俺にはわからない。内心では辛くて寂しくて不安なのだろう。

そう考えると、一緒に寝てあげる事で少しでもメイが気を紛らわせるのならば、それくらいはと思う。

不安そうに上目遣いで此方を見るメイに対して俺は。


「いいよ。わかった。但し、一緒に寝るだけだからね?」

メイの表情は一転し、パァァァアアっと笑顔になった。

「…本当ですかっ!ありがとうございます!!勿論!メイはヴィヴィさまと一緒に寝られるだけで幸せです!」


そんなメイに思わず苦笑し、食器を片付けた俺たちはそのまま寝室へと向かい明日に向けて眠りについたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ