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村のデザイン

ヤバい…はっきりと意識の覚醒した俺は冷や汗をかいていた。


目の前にはもじもじと顔を赤らめているメイが居る。

それも同じベッドの中でだ。言い訳なんて出来よう筈も無い。それでも俺は訳を話さねばと口を開いた。

「ごめん…!これには理由があって…決して俺がメイに何かしたなんてことは無いからッ…」


俺が慌ててそう言うと、メイも慌てたように口にした。

「いえ!ヴィヴィさまは何も悪くないんです!わたしこそご迷惑ばかりですみませんでした!!」


ん?なんだかよく分からないが変な誤解はされていないみたいだ。大丈夫なのか?

兎に角、メイが気にしていないなら藪蛇を突く事は無い。

俺は早急に話題を変える事にした。


「あー…お腹、空いてないかな?」

よく考えると昨日から何も食べていない。

魔族(・・)の身体でもお腹は空くらしい。それでも人間だった頃に比べたら遙かに燃費は良い気がする。

何も食べていないと思うからなんとなくお腹は空いてる気がするが、まだまだ余裕だ。多分お腹が空いた気がするのも、一日食べなければお腹が空いてる筈だという人間だった頃の残滓だろうと感じる。

やっぱり身体の造りが違うのだろう。

言うなれば蛇のような身体だ。ウチで飼っていた蛇は週一度の餌で飼育していた。…あぁ、実家に置いてきたボールパイソンたちは元気だろうか…モハベ…スパイダー…バター…アルビノ…

ただ、俺は平気でもメイは違う。彼女は正真正銘人間だ。

あれだけ過酷な一日を過ごした今、猛烈にお腹が空いてるだろう。

そんな俺にメイは恥ずかしそうに小さく答えた。

「…はい…すきました…」


「じゃあ、村長の家に行こうか。色々と話があるし、朝食を用意して待ってるって話だから」


「あの…わたしもご一緒で良いんでしょうか…?」


「うん。もちろんだよ。メイは俺の先生だからね。村長にもメイと一緒に行くと伝えてあるよ。」

そう言った俺にメイはとても嬉しそうに答えた。


「はいっ!!」

そういう訳で、俺たちは村長の家へと向かった。道案内はメイが喜んで引き受けてくれた。



□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



村長の家に着いた俺たちは早速朝食を頂きながら話を始めた。

話を始めたと言ってもさっきから村長にまるで仏像のように拝まれ続けているだけなのだが。

良い加減感謝されるのにも辟易してくる。余りに乱用されると有難いものでも有り難みが無くなる。

本当に感謝する時に使うから、使われる側も素直に受け取れるのだ。まあ、本当に感謝して拝み続けているんだろうけど…決して悪い人では無さそうなんだけどなぁ…

それにこの料理だ。殆ど塩っけのないスープに豆や野菜。それにパンだっていつ焼いたかわからないぐらいガチガチだ。流石に頂いているものだし、この村の状況を見るに文句は言うまいが、せめて俺が豆のスープを口に運ぶ毎に拝むのを止めて欲しい。うう…食欲が…

そんな俺を尻目にメイは次々と口に運んでいく。余程お腹が空いていたんだろう。食べかけで申し訳ないけど、俺の分も食べてもらえると助かる。と俺はメイに尋ねた。

「メイ、少し手をつけてしまっていて悪いんだけどこれも食べる?」


俺の言葉にメイは答える。

「え…でも!ヴィヴィさまの…宜しいんですか?!」

食べ掛けなんて嫌がるかと思ったが、メイは今にも飛び跳ねそうなぐらい嬉しそうに顔を赤らめた。

少々反応に違和感があったが、余程お腹が空いていたんだろうな。俺はメイの前にパンとスープを置いてやった。

「ッ!!ありがとうございます!」


そこに配膳を終えて一緒に席に着こうと、村長の奥さんがやって来た。

「あら、ヴィヴィアン様。すみません!お口に合いませんでしたでしょうか?」


「あぁ、いえ大変美味しかったですが、まだ昨日の疲れが残っていまして。すみません。」

大人には本音と建前が必要とされるからな。とかなんとか言って自分の中で正当化させる。

そもそも豊かな現代日本から来てこの食事は過酷すぎる。まだ精進料理の方がバリエーションも豊かで美味しいだろう。がんもどきだって元は肉に似せたものだし、鰻の蒲焼きに似せた料理すらあった筈だ。生臭が使えないからこそアイディアで対処する。制約の中でこそ、技術は進歩するからだ。そう考えるとこの料理をどれだけ美味しく出来るかも一つの課題だな。豆と野菜しかないからスープしか出来ないだなんて言い訳はさせない。伊達に万年独り暮らしはしていないからな。何を隠そう料理男子だ。


おっとつい不満から思考が逸れた。

閑話休題。本題に戻そう。


「それでは食べながらで結構ですので、この村の事や、この国、メルクローク王国の事、周辺国家の事情など、わかる範囲で教えて頂けますか?昨夜も申しました通り、俺は遠く異国の地より旅をして来ましたので、余り情報に詳しく無いのです。」

俺はそう言って村長に話を向けた。


昨夜俺は、村長になぜ此処に居たのかと聞かれた時、咄嗟に旅をしている魔法使いだと答えてしまったのだ。それは先ほどメイにも伝えておいたので、メイなら口裏を合わせてくれるだろう。

しかし、急だったとしてもなぜ魔法使いなんて答えてしまったのか…俺は魔法なんて使えないのに。

ただ、魔物を倒せる程の存在で、俺の正体を隠すとなると現状の知識では魔法使いと名乗る他なかった。

村長も俺のボロ袋(無限の胃袋)を見て、力のある魔法使いだと信じていたみたいだし、結果オーライなんだろうけど。…しかし、それ程のアイテムなら今後誰彼構わず見せるのは控えた方が良さそうだな。要らぬ火種になりそうだ。

…あぁ…結局の所、解決策は嘘を真にするしか無いのか…なんにせよ魔法の習得は必須条件になってきたな…先が思いやられる…


まあ、そんな俺の内心を知る由も無い村長は話を語りだしたのだった。

何故かメイも此処ぞとばかりに村長に張り合っていたのが不思議だったが。あぁ、俺が先生って言ったからか…



□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



…ふむ。周辺国家についてはざっくりと話を聞き終えた。

まあ、ざっくりとは言うものの、かなり情報が多くて面倒くさいことこの上ないが…言っても詮無いことだ。どうやらこの国の周りにはかなりの数の国があるようだった。


今俺の居るシルフィード村の所属しているメルクローク王国を中心と考えた場合、メルクローク王国の北西部を囲うように連なる山脈がある。その山脈は内部が開拓されており、亜人種であるドワーフが王国を作っているようだ。そして、そのドワーフ達の山脈を挟んで、グログラン帝国が存在する。そのグログラン帝国の更に北方の大森林には亜人種のエルフ族が大規模な集落を持っているそうだが、そこまでは遠すぎて事実かどうかはわからないらしい。


で、またメルクローク王国に戻って来て、次は南西部に移る。そこには商人達が集まって築いた、自由商業同盟という国があるそうだ。ここは初め、小さな地方都市に過ぎなかったのだが、商人が集まり、組合(ギルド)が発達するにつれ大きくなり、やがて自治権を勝ち取り、発言力を増した商人達が周辺国家に建国まで認めさせてしまったそうだ。その裏には、ドワーフ王国との取り引きがあり、それが決め手となったらしい。ドワーフ達が作る武具、工芸品、日曜日の数々はとても質が良く、素晴らしいが、ドワーフ自体とても頑固な考え方を持つ種族で、気に入った相手との個人レベルでの取り引きはあっても、国家レベルでの取り引きはされていなかったそうだ。それを初めて行ったのが自由商業同盟だったという訳だ。

その大規模取り引きによって、ドワーフ謹製の高品質武具を一式揃えた軍隊が事実上編成可能であるなど、周辺国家にとっては脅威に他ならない。自由商業同盟の建国に反対して、そんな脅威が自国に向く事を考えたら、建国を支援して、優先的にドワーフ謹製品を輸出して貰う方が遥かに賢い。そんな周辺国家の思惑もあり、自由商業同盟は無血建国を実現させたそうだ。

今ではドワーフ王国と隣接していても、なかなか安定供給されることのなかった、グログラン帝国やメルクローク王国にもドワーフ謹製品を輸出しているそうだ。ドワーフ王国や自由商業同盟がその微妙な均衡を維持してるからこそ、大きな戦争はここ暫く起こっていないらしい。


でだ、問題はこの次。メルクローク王国の東側に位置する神聖皇国。この国は言うなれば宗教国家だ。三柱神(トライデント)という存在を信仰の対象としている国で、王国内や帝国など、人間国家に無数に建てられている修道院や教会なども、この三柱神(トライデント)信仰に則っているそうだ。その総本山がこの神聖皇国であり、その国の分身である教会が、様々な国に根を張っている状態だ。そのため、教会を通してのネットワークは凄まじく、情報戦を強いられた場合、情報のスペシャリストである商人たち、自由商業同盟でさえ勝つ事が困難だと言われているという話だ。

それでなにが問題かと言うと、最近あまり良くない噂が流れているという。それは近々神聖皇国が戦争を起こすのではないかという噂で、それぞれの教会が多額のお布施を募っているということらしい。数十年に一度程度の間隔でこれまでにも大きな戦争を起こしていた神聖皇国がまた動き出したという事は戦争が近いのではないかと憶測が飛び交っているのだと。


そして、神聖皇国よりも東、はるか東方の地ではオークやゴブリン、トロルなどという亜人種の国家集落が乱立しており、さながら戦国時代の様相を呈しているそうだ。獣人という種の国もそちらの方にあるそうだが、比較的安定しているらしい。ここは知能の差によるそうだ。


その他諸々少数種族の集落や小さい国家などがあるらしいが、村長では殆どわからないという。

まあ、それもそうか。俺だって元の世界地図を見ても知らない国なんて山のようにある。


大体村長から聞いた周辺の状況はこんなところか。しかしいっぺんに聴いたせいで把握が困難だな。

兎に角、神聖皇国には気を付けておくという事ぐらい憶えておいたらとりあえずは困らないだろう。正に触らぬ神に祟りなし、だな。

あと、村長のソース(メイもだが)は偶にくる行商人から聞いた話が殆どだと言うから、一度自由商業同盟には行く必要がありそうだ。きっと色んな情報を集める事が出来るだろうな。しっかりと頭にメモを取っておく。


よし、じゃあ次はこの村だ。

兎に角今は足場を作ることが先決だろう。

この村が神聖皇国にあると言うのならばとっととお暇させてもらうが、話を聞くに、メルクローク王国に位置するこの村ならばそれ程問題も無さそうだ。

偶然だったが、恩も売っているしなにかと融通は利くだろう。


「ありがとうございます。参考になりました。では、この村の事を教えて貰えますか?」


「わかりました。この村はですな…」

「はいっ!この村はですね!」


……


いや、きっとこれは全部俺が悪いんだろうな…

メイを煽りすぎた。ただ、村の全体を把握しているという意味でもここは村長の方が適任だ。メイには一旦下がっていて貰おう…


「すまない、メイ。ここは村長に村を統括していた者として話を聞きたいんだ。譲って貰えないかな?メイの話は後でゆっくり聞かせて貰うから。ね?」


「…わかりました」

そういうと少し残念そうにメイは納得した。

それを見た村長が優位に立ったとばかりにメイに得意げな顔をし、それを悔しそうに睨むメイ。


…いや村長…お前は何歳だ。

なにが悲しくて俺は子供と老人の世話を焼かなきゃいけないのか…子供と義父の面倒を見る主婦の気持ちが少しだけわかった気がした。


「では、改めて。このシルフィード村はですな、113人の人間で暮して居りました。しかしヴィヴィアン様もご存知の通り昨日の魔物の襲撃により、その3分の一以上の42人もの人が犠牲になりました。正直に、いま村は働き手や仕事を失い、生きていく事もままならない状態です。ヴィヴィアン様には申し訳ありませんが、なにもお渡しする事が出来ない状態となっているのが現状です。なにとぞご容赦いただけますと…」


「あぁ、いえ。それはもちろん構いません。そうですか。それだけの犠牲が…」

かなり深刻な状況だな。働き手を失った分食い扶持も減っているから、すぐに飢えてという事は無いだろうけど、蓄えもどの程度あるのか。すぐに生産体制が回復すればいいが、中々難しいだろうな。


「では、元々この村ではどのような仕事に従事して、生活をしていたんですか?なにか街に卸すような特産品などは?」


「いえ、特に特産品と呼べるようなものは…偶にくる行商の方に村で作った麦を売っていたぐらいでして。仕事といいますと、殆どが農業をしておりまして、麦や野菜などを作っておりました。数人は近くの川で漁を。あとは村の外れの方で家畜を育てておった男が居りましたが、真っ先に家畜諸共無残に食べられ、既に…。ですので、また動物を新しく買うお金も無く…」


「…そうですか。この村がどのような状況にあるのか概要は理解しました。」

う〜ん…この村を足掛かりに。と思ったけど、これだけの状況を俺なんかが打開出来るものだろうか…

俺だけならとっとと見切りを付けて大きな街を拠点にしても一向に問題ない。しかしここに来る前にメイに対して村の復興を手伝うと大見得切ってしまっている。俺のプライドにかけて。なんて更々言う気もないし、そんなプライドなど持ち合わせていないが、メイやこの村の人を裏切る気にはならない。なんとか村全体に仕事とお金が行き渡るような方法を模索するしかないだろうな。

それにしても、異世界(仮)で町興しならぬ村興しか。字面だけ見るとワクワクするが俺には荷が重い。それも当然だ。実際の人間の生活、生き死にが掛かっているのだから。重くて当然。俺が遊び半分で失敗なんかした日には村人全員で首を括るしかない。でも、だからと言って俺に何もしないという選択肢はあるのだろうか。

それに荷が重いのは確かだが、村興しだってソーシャルデザインという立派なデザインの一領域だ。別にカッコいい見た目のモノを作ることだけがデザインじゃない。しばしば、デザインが良い、デザインが悪いなどという言い方をされる為勘違いしてしまうのだと思うが、見た目の良し悪しはデザインというものを一方向から見た一面に過ぎない。デザインの本質は"物事を円滑に進める為の構造体"だと俺は考える。

だから、デザインの領域は違えど同じ考え方のプロセスで問題を解決出来ると思う。


簡単に挙げると、1・誰の服を作ろうとしているのか(ターゲットの明確化、ここでは町の問題点の把握)、2・客はなにを求めているのか(ここでの客とは村、村人)、3・アイディア出し(把握した問題を解決し得るプランの提示)、4・試作(考えたプランの実施)、5・完成(問題の解決。上手くいかなかった場合は3へ戻り繰り返す)


この村の復興もデザインの領域である以上、俺は自分の力で出来得る限りの最善を尽そうと思う。

そうと決まると、村長にはそれとなく伝えた方がいいな。

まだ具体的なプランは決まっていないからなんとも言えないが、いざという時に協力して貰えるという言質は欲しい。


「では俺も出来得る限り、村の復興になるようなプランを考えていきたいと思います。実際に行動を起こす時には村長、それから村の方にもお手伝いをお願いするかと思いますが協力いただけますか?」


「おお!本当ですか。そのようなお考えがおありで。ヴィヴィアン様には村を救って頂き、そのうえ村の復興まで手助けして頂けるとは。全く、感謝してもしきれるものではありません…勿論、その時には村人一丸となってご協力させて頂く事をお約束しましょう!」


良し。これで村長の言質は取った。なにか具体案が見つかった時にはある程度、仕事を失った村人などを回して貰えるだろう。


「いえ、俺も一応はこの村の住民となったつもりです。魔物が出てきた時には対処させてもらいますが、非常時以外では俺は農作業などの仕事が出来ません。ですから、その分知恵をお貸しする事で仕事とさせて頂きたいと思います。」


取り敢えずの方針としてはこんな感じか。

村長にはまだまだ聞きたい事はあるが、慌てて一遍に聞く必要も無いだろう。おいおい状況を見ながらまた質問をしよう。

それでは、先ず問題点の把握だな。ざっくりと村長には聞いたが、実際に自分の目で見て確認するのが一番だ。他の村人の話も聞いておきたいしな。

そういう訳で俺はフィールドワークに出掛ける事にした。


「では村長、俺はこの後村を見て回ってきたいと思います。実際に問題点や被害状況を把握しておきたいですから。ですので今日はこれで失礼します。メイ、行こうか?」


「はいッ!!」

そう言って席を立った俺に向けて、メイはいつもより五割り増し程もキラキラと熱量のこもった目を向けて答えたが、俺は視線に気づかなかった事にしてスルーし、村長の家を発った。

以下後書きです。


ようやく主人公がデザインをすべく動き出しました。

しかし私も予想外な事に、服作りを始めるかと思いきやヴィヴィアンはソーシャルデザインを始めてしまいました。

この辺りは私の行き当たりばったりで書き始めてしまった弊害でございます。

よろしければ作者、主人公諸共、生暖かい目で見守って頂ければ幸いです。

ただ、村興しというソーシャルデザインの基柱としてファッションデザインをメインに据えていきますので、ご理解よろしくお願いします。

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