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第二章‐2

 その夜、篤志はチッピィと、テスト終了のささやかな打ち上げを行った。と言っても、チッピィは例の『ご馳走』の缶詰、篤志はいつものコンビニ弁当に生クリームの乗ったプリンをデザートに付けただけという、本当にささやかなものだったが。

 セレストラル星系連邦陸軍辺境警備隊所属、エリカ=デ・ラ・メア=ブラウスパーダ少尉から念話が掛かってきたのは、その食事が終わり、今は請け負っているアルバイトがないので、この後は久しぶりにゲームでもしようか、などとぼんやり考えていたときだった。

(アッシュ。今、お時間よろしいですか?)

 彼女たち、異星からの訪問者は、彼のことを『アッシュ』と呼ぶ。

 寛いでいた篤志は、今回は驚くことなく対応することが出来た。

(ああ、エリカ。構わないよ。どうした? 先日の海賊の件でなにか進展でもあったのか?)

(はい、そんなところです。貴方には、きちんとご説明しておこうと思いまして)

 エリカが答える。篤志は昼間の学校での会話を思い出した。

(海賊の件といえば、例の情報操作は上手くいってるみたいだな)

(えぇ。サーニャが頑張ってくれました)

(俺からもサーニャに、お疲れさんって伝えておいてくれ)

(ありがとうございます)

 当のサーニャ=ストラビニスカヤ伍長の念話が割り込んでくる。

(うぉ! びっくりした。サーニャ、聞いてたのか)

(はい。基本的に小隊長からあなたへの通信は、隊内全員に中継されています)

(……そうだったのか)

 今まで特におかしなことは言っていないよな、と自分の言動を振り返ってみる篤志。確信はないが、多分大丈夫だろう、と思う。エリカが話を戻してきた。

(あの、アッシュ、それで、本題のほうなのですけれど――)

 その言葉に、篤志は頭を切り替える。

(ああ。なにがどうなった?)

(実は、この地方の辺境宙域を周遊している豪華客船マリクレール=アントワーヌが、二日後にこの恒星系に到着して観光をする予定なのですが、それを狙って海賊船タビー・トリスが襲撃する準備をしている、という匿名の通報が入ったんです)

 そのエリカの報告に、篤志は眉をしかめた。

(匿名の通報? なんか怪しいな……。それで、どうするんだ? そのマリクレールとかいう船の運航を取り止めるのか?)

(いえ。情報の信憑性が低いですし、そのマリクレール=アントワーヌの航海には、政財界の要人が数多く乗船しているらしくて、スケジュールの変更は難しいそうなんです。――貴方には不愉快な話かもしれませんが、この星を含むこの方面の辺境宙域の視察というのが裏の目的にあるようでして)

 異星人の上から目線には、もう今更、腹も立たない。

(まぁ、それは別にいいんだけどさ。――にしても、それじゃ、話が逆じゃないか? そんなセレブな乗客が多いんじゃ、ますます危ないだろ?)

(えぇ。それで、上のほうで色々とありまして、結局、軍のほうから護衛を付けることになったのですが……、その、先日も申し上げたように、この辺境宙域の警護を担当する海軍第七艦隊は、現在正常に機能しているとは言い難い状態なもので、そんな信憑性の低い情報で戦力を割くわけにはいかないと主張しているんです)

(おいおい……。勝手な理屈だな)

 エリカの説明に、篤志は呆れた。実際のところは、責任者不在の状態で多数の要人の護衛などという重い責任を伴う作戦行動を取りたくない、というのが本音だろう。その程度、彼にも推測出来る。

(ですが、実際、この情報が陽動である可能性も少なからずあるんです。それに備えて艦隊を待機させておきたいという意見もわかります。それで、私ども陸軍の、この辺境地域を担当する第六辺境警備師団第二連隊第一大隊にお鉢が回ってきたんです。私どもの大隊がマリクレール=アントワーヌを護衛し、そこにタビー・トリスが現れればよし。また、これが陽動で、他の宙域の船が襲撃されるようであれば、待機している第七艦隊が急行する、という手筈です)

(ん? でも、エリカたちは陸軍だろ? 航宙船なんか持ってないんじゃないのか?)

 確か、彼女たちは航宙船を所持していないという話だったはずだ。それにエリカが答える。

(確かに小隊単位では所持していませんが、大隊では軽巡洋艦を一隻保有しています。これで護衛に当たる予定です)

(そうなのか。それで、そのタビー・トリスとかいう海賊船は、どの程度の戦力なんだ?)

(タビー・トリスは、前回拿捕したときのデータによると、軍から払い下げられた中古の駆逐艦を改造したもののようですね)

(……済まん。軽巡洋艦と駆逐艦って、どっちが強いんだ?)

 篤志は軍事マニアではないので、よくわからない。エリカが少し思案している気配がする。

(足は駆逐艦のほうが速いでしょうか……? 打撃力や防御力なら軽巡洋艦のほうが上ではないかと思います)

(つまり、護衛だけで追い掛けっこをしないんなら、こっちが有利って認識でいいのか?)

(一概には言えませんが……、まぁ、そう……なのでしょうか?)

 エリカの声も自信なさげだ。考えてみれば、彼女も陸軍。軍艦について、それほど詳しいわけではないだろう。篤志はひとまず納得することにする。

(まぁ、とにかく、その軽巡洋艦で客船を護衛する任務に就くってわけだな? 二日後だったな。ちょうど土曜日か。出発は何時だ?)

(十六時頃、この先の洋上に大気圏内往還船(シャトル)が迎えに来ることになっています。――え? いえいえ、貴方はいらっしゃる必要はありませんよ? 私たちが留守にするということをお伝えしたかっただけです)

 エリカが慌てて言った。だが、そのつもりで話しているだろうということは、彼にも最初からわかっている。それを承知で、敢えて篤志は頼み込んだ。

(迷惑じゃなければ、連れて行ってくれないか? この前も言ったろ? ただで報酬をもらうのは肩身が狭いんだ。仕事をさせてくれ)

 言っていることも嘘ではないが、より本心に近い思いを口にすることは控える。現在のこの状況を作った要因の一つは、間違いなく自分にあるだろう。なにが出来るかはわからないが、責任を取りたい。それが自己満足だとしても、なにかしら動いていたかったのだ。

 それに、これは非常に不謹慎な考えだが、『宇宙海賊』などという浪漫溢れる存在をこの目で見てみたい、という気持ちもあるにはある。

(はーろっくみたいなかっこいいのじゃないよぉ?)

 突然、アリーセ=フィアリス軍曹の念話が割り込んできた。

(うぉ! なんで俺の考えてることがわかった!?)

 アリーセが、にははといつものように笑っている気配がする。

(はーろっく? なんの話です?)

 エリカが不思議そうに尋ねてきた。篤志は慌てて誤魔化す。

(いや、なんでもない。それより、どうなんだ? 連れて行ってもらえるのか?)

 篤志の問いに、エリカは暫く思案していたようだったが、結局は許可してくれた。

(わかりました。ご同行をお願いしましょう。戦力は多いに越したことはないでしょうし)

(ありがとう。――あ、帰りはいつになる?)

(マリクレール=アントワーヌがこの恒星系に滞在するのは一日ほどです。ですから、翌日の夜、遅くとも夜明け前には帰ってこられるでしょう)

(そうか。よかった)

 それならば、なんとか月曜の学校に間に合う。そうそう頻繁に欠席するわけにもいかない。言い訳もすぐ底を尽いてしまうだろう。無駄に、親族を亡くなったことにするのも心苦しい。

(じゃあ、土曜日に。――海上じゃ待ち合わせしようにも目印もなにもないな。いったんエリカたちの基地のほうへ行くよ。昼過ぎには着くようにする)

(わかりました。お待ちしています。それでは――)

 エリカが話を打ち切ろうとしているところへ、またアリーセが割り込んできた。

(アッシュぅ。こないだの約束、ちゃぁんと覚えてるぅ?)

(約束?)

(ケーキです)

 今度は、サーニャまで割り込んでくる。それで、先日、セレストラル星系第三惑星セレストでテロに巻き込まれていた最中に、二人と約束したことを思い出した。危ないところを救ってもらった礼に、ケーキを買ってやる、と言ったのだ。

(ああ、あれな。大丈夫、覚えてるよ)

 また、アリーセが、にははと笑っている気配がした。

(二人とも、はしたないですよ)

 エリカが二人を窘める。

(はぁい)

 アリーセの返事だけで、サーニャの返事は聞こえなかった。おそらく、いつものように無言で頷いているのだろう。

 エリカが、今度こそ話を終わらせようとする。

(それでは、これで失礼致します。おやすみなさい)

(ああ、おやすみ。また土曜日に)

 念話が切れた。篤志は少し考えて、魔装具を右手に装着すると、魔装機の操作端末を開く。そういうことならば、手持ちの魔法を出来るだけ調整しておくべきだろう。

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