第17話 俺、これも日本語で書いたつもりなんだけど・・・
俺は机の上から、鋏について書いたメモを取った。
「これも、日本語で書いたつもりなんです。でも、ガルドさんには読めていましたよね」
「はい。こちらの文字も、言葉と同じように伝わるようになっています」
「書く方もですか?」
「ええ。ユウ様が書いたものは、私たちにはこちらの文字として読めます」
俺は紙を見直した。
――指を入れるところに、牙は不要。
どう見ても日本語だ。
「俺には日本語に見えるんですけど……セレスさん、ここには何と書いてあります?」
「『指を入れるところに、牙は不要』ですね」
「読めていますね」
「はい。ガルドさんにも先にお伝えしましたから」
あのとき、ガルドは冗談ではなく、大事な注文として受け取ってくれた。
おかげで、試している鋏に牙は一本もついていない。
「試しに、セレスさんも何か書いてもらえますか?」
俺は空いている紙と筆記具を差し出した。
セレスは少し考え、さらさらと書く。
「これで、どうでしょう」
紙には、こう書いてあった。
――今日の朝食は、ポタトの汁物。
「読めます。今日の朝食は、ポタトの汁物」
「合っています」
俺には日本語の文字に見える。だが、セレスはこの国の文字を書いたつもりなのだろう。
「俺の方も、こちらの文字を読めるようになっているんですね」
「はい。ですから、この国で書かれたものも読めますよ」
「市場に行けば、商品の名前や値段も?」
「読めると思います。ただ、先ほどのポタトのように、名前だけでは何かわからないものもあるでしょうけど」
「それは、実物を見れば覚えられそうです」
市場に行く楽しみが、また増えた。
名前を読んで、食材を見て、気になるものを買う。元の世界で買い物をしていたときと、同じようにできそうだ。
そこで、手元のメモに目が戻る。
「文字が読めても、セニングという名前だけでは、ガルドさんにはわからなかったんですよね」
「はい。鋏の絵を見せて、形や使い方を説明していただきました」
「俺の絵で、ですか」
「形はわかりましたよ」
「また、それですね」
セレスが笑う。
輪の大きさが左右で違うのは、わざとではなかった。あのことも、ガルドに説明する必要があった。
「言葉や文字は通じても、知らない道具は説明が必要なんですね」
「はい。でも、ユウ様が使い方を見せてくださったので、ガルドさんも鋏を調整できたのだと思います」
昨日、ガルドは俺の手の動きを何度も見ていた。
持ち方や、刃をどのくらい開くか。自分では当たり前だと思っていたことも、一つずつ伝えた。
「話ができなかったら、あそこまで相談するのも大変でしたね」
「絵だけで伝えるのは、難しそうです」
「そこは否定できません」
俺はメモをそろえて机に置いた。
話せるし、読めるし、書いたものも伝わる。
召魂の儀のおかげで、仕事の相談までできている。改めて考えると、本当にありがたい。
「セレスさん。教えてくれて、ありがとうございます」
「どういたしまして。暮らしの中でも、わからないことがあれば聞いてくださいね」
「そうですね。実は、ほかにも聞きたいことがあって」
セレスは、姿勢を正した。
「何でしょう?」
「まず、お風呂と洗濯についてなんですけど」




